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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜

作者:波羅月
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第83話『肝試し』

 
前書き
前回の話から、班員の数を5人に修正しました。
1クラス30人男子15人の予定なのに、班員男子6人はおかしいですので。 

 
辺りはすっかり暗くなり、ひぐらしの声が森の中を木霊する。唯一懐中電灯の微かな灯りだけが、この闇夜を照らしていた。何だか不気味な雰囲気が漂っているが、今からの行事を考えると当然と言える。


「それでは皆さん、班ごとに集まってください。今から肝試しを始めます」


そう、今から始まるのは肝試し。嫌な思い出がフラッシュバックするが、今回は正真正銘普通の肝試し…のはずである。これぞ夏の風物詩。


「それではルールを説明します。今から皆さんには、班ごとにこの森を抜けて貰います。私たちが今居る場所がスタートで、この森を抜けた先がゴールということです。肝試しなので、当然道中は様々な仕掛けが施されています」

「まぁ、ありきたりなルールだな」

「そうだね」


山本の説明を聞きながら、伸太郎がポツリと呟く。確かに、これまでの内容は至って普通の肝試しのそれだ。
いや、別に特殊なものを期待している訳ではないのだが、この学校のことだからどうしても疑ってしまう。


「ただし、この森は一本道ではありません。いくつもの分かれ道が存在しています」

「…ん?」


何だろう、雲行きが怪しくなってきた。もしかして聞き間違えただろうか。分かれ道って…?


「皆さん、迷わないでゴールに辿り着いて下さいね」

「「「えぇぇぇぇ!!!???」」」


今日一番の大声が森中に響き渡る。
なんてこった、やっぱりとんでもない。道が決まってない肝試しなんて、肝だけでなく運まで試されているじゃないか。よくこんな企画が成立したな。


「どう思う? 暁君」

「まぁ迷路にホラー要素が加わったって感じだな。迷えば迷うほど、余計に驚かされる的な」


なるほど、伸太郎の要約はわかりやすい。
しかし、過去の肝試しの経験やお化け屋敷を思い出しても、迷路形式になっていたことはなかったように思われる。これは気を引き締めないといけなそうだ。


「うぅ…怖いな…」

「柊君は肝試し苦手?」

「あんまり経験無いから…」

「そ、そっか…」


やけに怯えている狐太郎にそう訊いてみると、返答に困る答えが返ってきた。ダメだ、彼には何を訊いても墓穴を掘ってしまう気がする。あまりツッコまないようにしようか。


「まぁ今回は色んな意味で怖いかもな…」


晴登は肝試しが苦手という訳ではないが、こればかりは嫌な予感しかしなかった。






いよいよ肝試しが始まった。
まずは女子が先にスタートするようで、晴登たちは不安になりながら順番を待っていたのだが、


「「きゃああああ!!!」」


先程から森の中からの黄色い叫び声が絶えない。一体どんな仕掛けがされていたのだろうか。
というか、どちらかと言うとこの叫び声の方が怖く感じる。聴こえる度に肩がビクついてしまうのだ。


「結構レベル高そうだな…」

「実は本物呼んでたりして」

「ちょっと止めてよ!」

「ごめんごめん」


伸太郎の言葉に、気を紛らわそうと冗談を言ったつもりだったが、狐太郎にビビられてしまう。
しかし晴登も内心かなりビビっているので、軽口でも叩いていないとやってられない。


「それじゃ次は、いよいよ男子の番ですね」

「「!!」」


山本の言葉に、男子たちは押し黙る。どうやら女子の班は全て出発してしまったようだ。ついに恐怖の肝試しが始まってしまう。


「これちゃんと女子はゴールしてるのかな」

「全員迷ったらシャレにならねぇぞ」


晴登と伸太郎は未だに不安が拭えない。ここは森だ、迷ったと遭難したは紙一重。しかし、もう逃げることは許されないのだ。


「それでは1組から順番にスタートしましょうか。それでは班の順番に」


やはりそう来るか。これはもう腹を括るしかない。
1組は班が3つあり、晴登たちは3班。すなわち、出発するのは一応1組の最後ということにはなる。1番目よりは些か気分は楽だが・・・


「まぁ、正直関係ないよね」

「順番通りにゴールできるとは限らなそうだし」


晴登は大きく深呼吸。スタートは前の組がスタートしてから1分後だ。もう猶予は無い。


「それじゃ、行ってくるよ晴登」

「気をつけてな、大地」


手を振りながら、大地率いる1班がスタートしていった。彼は肝試しに強いから、特に心配は必要ないだろう・・・ない…よな? 何だろう、この違和感は。気のせいだといいのだが。


「なーに辛気臭い顔してんだ三浦! まさかビビってんのか?」

「ビビってない訳じゃないけど…」

「深く考えんなよ。これは肝試しだ、所詮茶番なんだよ」


班員の男子の言うことも一理ある。確かに学校行事で人が遭難しようものなら、それは学校側の責任だ。そんなリスクを安易に負うはずはない。


「…そうだね。少し心配しすぎだったかも」

「おう! 気楽に行こうぜ!」


随分と元気な人だ。こういう人が居るとムードが暗くならないから、班長としてはとてもありがたい。それに、少し憧れちゃうな。


「そろそろだぞ、三浦」

「そうだね。柊君、大丈夫?」

「う、うん、たぶん…」


口では平静を保とうとしている狐太郎だが、既にその右手は晴登の服の裾を掴んでいる。やはり恐怖は拭えないのだろう。
これを見て、晴登まで情けなく怯えている訳にはいかない。


「それじゃ、3班スタート」

「「はい!」」


勢いよく返事をして、晴登たちは暗黒の森の中へと足を踏み入れた。






場所は森の中。もう夜も更け、普段であれば静寂の中に僅かに虫の音色が響くだけである。しかし、今宵は違った。


「「うわぁぁぁぁ!!!!!」」


絶叫しながら道を駆けるのは晴登一行。出発前の気概はどこへやら、今は一目散にゴールを目指している。
ナメていた。所詮、学校行事だと侮っていた。これは肝試しなんかじゃない。もはや地獄巡りだ。こんなに怖い肝試しは、生まれて初めてである。


「おい、三浦っ、待ってくれ…!」

「暁君、頑張って走って! 止まってる暇はない!」

「無茶言うな…!」


晴登は振り返りながら、遅れて走っている伸太郎に声をかける。
ここで止まれない理由は、彼の後ろをついてくる存在のせいだ。その数は何十にも達し、見た目はゾンビとゾンビを足して2で割った様な、いわばキメラゾンビといったところか。スタートしてから初めの分かれ道を曲がった辺りで、いつの間にか後ろから迫られていたのだ。シンプルで、それでいて純粋な恐怖。もう逃げることしか考えられない。


「くそっ、こうなったらコイツら全員燃やして・・・」

「それはダメだって暁君! 代わりにこれあげるから!」

「うおっ!? …サンキュ、助かった!」


最終手段をとろうとした伸太郎に、晴登はすかさず"風の加護"を彼に付与した。これでしばらくは彼のスピードも何とかなる。
しかし、いつになったら奴らを撒けるのか。追いつきはしないが、置いてかれもしない。絶妙なスピードでこちらについてくる。ついでに不気味な呻き声を上げているため、気色悪いことこの上ない。

隣を見やると、耳を塞いでいるのか、フードを抑える狐太郎の姿が見える。確かに、彼にはこのホラーは刺激が強すぎるかもしれない。


「三浦、また分かれ道だ! どっちに行く?!」

「え!? えっと・・・」


突如、班員の男子からそう呼びかけられた。晴登は班長なのだから、意見を仰がれるのは至極当然。だが咄嗟に言われて的確に返せるほど、晴登は有能ではない。


「右! とにかく右!」

「「了解!」」


だからとりあえず、「迷ったら右」という先人の教えを踏襲することにする。

そして、全員が分かれ道を曲がり終わった時だった。


「…あれ、ゾンビ達は?」

「いなくなったな。助かったのか…?」


呻き声が突然止んだので振り返ってみると、そこにはもう奴らはいなかった。まるで幻でも見せられていたのかと思うほど、綺麗さっぱり姿を消している。こんなに必死で走ってきたのに、肩透かしを喰らった気分だ。


「ったく、とんでもねぇなこれ…」

「死ぬかと思った…」

「もう走れねぇ…」

「あうあうあうあう…」

「だ、大丈夫? 柊君…」


伸太郎たちは口々に愚痴を零し、縮こまってガクガクと震える狐太郎を晴登は慰める。ひとまず、危機は逃れたようだ。


「何だったんだろうな、アイツら」

「分かれ道ごとにあんな仕掛けがされてるってことなのかな?」

「なんて大掛かりで、はた迷惑な仕掛けだよ」


道に立ち止まり、息を整えながら現状を整理する。もはや肝試しというよりは、脱出ゲームに近い。この謎の多い森の中から、一体どうやって脱出するのか・・・


「…なぁ三浦」

「どうしたの? 暁君」

「俺達、友達だよな…?」

「え、いきなりどうしたの? 当たり前じゃん」


突然、伸太郎が場違いなことを言ってくる。急にどうしたのだろうか。


「…だったら俺の足元を見てくれないか」

「足元? 足元に何が──」


視線を下に下ろした刹那、晴登の表情が凍りついた。それは他のメンバーも同様で、皆一様に青ざめた顔をしている。


「友達なんだから、さすがに俺を置いて行ったりは──」

「「出たぁぁぁぁ!!!!」」

「あぁぁぁ待ってくれぇぇぇぇ!!!!」


疲れも忘れて全速力でその場から逃げる晴登たちと、その場を動けずに置いていかれる伸太郎。

──それもそのはず、伸太郎の足首を、青白い手ががっしりと掴んでいたからだ。






大量のゾンビの次は、地面から手が無秩序に生えてくる。この仕掛けを考えた人は、相当性格がひん曲がっているのだろう。
もし掴まれた場合の拘束時間は短かったのだが、そもそも掴まれた時点で心臓まで握られたような気分だ。


「…もうお前らなんて大嫌いだ」

「ごめんって。謝るからさ、そんなに拗ねないで? 手はすぐ放してくれたし…」

「うるせぇ掘り返すな! もう思い出したくもねぇ!」

「う、うん、ごめん…」


涙目になりながら、3つ目の分かれ道の真ん中に体育座りで座り込む伸太郎。よほど、さっき置いていかれたことがトラウマになったようだ。いや、あれは見ている側も相当怖かったので、逃げたのは許して欲しい。不可抗力だ。


「にしても大発見だな。分岐点の所だけは仕掛けが無いなんて」

「ここまで手がボコボコ出てきたら、心臓が保たねぇよ」


班員の男子たちの言う通り、分岐点にはギミックが存在しない。すなわち、安全地帯という訳だ。ここまで二度も全力で走り抜けているので、こういうエリアはとてもありがたい。


「ただ、また次の仕掛けが待ってるんだよな…」

「もう帰りたい…」


伸太郎だけでなく、狐太郎まで絶望に打ちひしがれている様子だ。このままだと、彼らの人格が崩壊しかねない。


「…こうなったら、次はとにかく突っ切ろう。走るだけだから薄目でもいいし、また安全地帯はあるはずだよ」


これは自分でもナイスアイデアだと思う。というか、これが最善策としか思えない。要は仕掛けを認知しなければいいのだ。本来の肝試しなら邪道も邪道だが、四の五の言ってはいられない。


「みんな、走る準備はいい?」

「おうとも」

「いつでも行けるぜ」

「わかった…」

「三浦、また頼むぞ…」


2名ほど心が折れている者が居るが、反対はしないようだ。であれば、後は進むのみ。


「いくよ! せーのっ!」


その合図をきっかけに、一行は全速力で駆け出した。






荒い呼吸を繰り返しながら、森の中を突っ切る。薄目で見た限り、空中が光っているような気がするが、そんなことを気にしてはいられない。ただゴールまで、ひたすらに走り続ける。そして、


「着いた〜!」

「寿命が10年くらい縮んだぜ…」


走り始めて早1分、晴登たちの視界が突然開けた。そう、念願のゴールに辿り着いたのだ。そこには草原が広がっており、先にゴールしていた女子たちの姿が見える。

ここだけの話、実はスタートしてからまだ15分も経っていない。体感では1時間くらいに感じたのだが。


「お疲れ、ハルト〜」

「あ、結月。全く、災難だったよ…」

「だね。まさか生首が飛んでくるなんて…」

「え、何それ怖っ」

「あれ、違った?」


結月が首を傾げるのを見て、晴登は1人で納得した。そうだ、きっと分かれ道ごとに仕掛けが異なるのだろう。随分と凝ってるじゃないか…。


「あれ、大地の班は?」

「まだ着いてないみたいだね。分かれ道によって時間のかかり方が違うらしいから」

「そりゃそうか・・・って、ん? 迷うんじゃないの?」

「たぶんだけど、どの道を行ってもここには着くんだと思うよ。ほら」


晴登が結月の指さす方向を見ると、森の中から男子の班が出てきた。あれは1組2班だ。
さらに見回してみると、晴登たちが森から出てきた道以外にも、多くの道が森に繋がっている。つまり、最初から迷うことなんてなかった訳だ。道理で誰も引き返して来なかったのか。


「まぁ道中は必死すぎて、迷路ってこと忘れてたけど…」


分かれ道をどちらに進むかは、早く仕掛けから逃れたいという思いで選んできたから、正しいルートを模索する暇も無かった。ゴールした時も、ようやく終わったって感じだったし。


「でもそういうことなら、大地もすぐに着くか」

「そうだね。それじゃ向こうで待っていようよ。リナも居るから」

「オッケー」


晴登は結月に連れられ、莉奈の元へと向かう。
しかしこの時、後にあんな恐ろしい事件が起こるとは、誰も夢にも思っていなかった。






「さすがに遅すぎないか…?」

「そ、そうだね…」

「おかしいなぁ…」


結月と莉奈と待つこと20分。もう男子の最後の班がゴールに着いたというのに、未だに大地の班だけが辿り着いていないのだ。
他のクラスの先生が点呼を始めようとしているのを見ると、やはり異様に遅い気がする。


「もしかして迷ったとか…?」

「ま、まさか…」


先程結月から聞いた仮説が間違っているとは思えない。ただ、もしも本当に迷うルートがあるのだとしたら。
…いや、大地が居るのだ。もしそうなっても、すぐに引き返す選択肢を取るだろう。普段おちゃらけてはいるが、あれでも成績優秀なエリートだ。まぁ唯一の欠点が──


「あぁぁぁぁぁ!!!!!」

「うるさっ! ちょっと、いきなりどうしたの晴登?!」

「肝心なことを忘れてた! 莉奈、大地の欠点と言えば!」

「え? そりゃ──あっ」


晴登の言わんとすることに彼女も気づいたようだ。そうか、これが肝試しが始まる前に感じた違和感の正体だったのか。だとすれば、事態はかなり深刻である。


「なになに!? 2人してどうしたの?!」

「あ、そうか、結月はまだ知らないんだったな。実は大地は──方向音痴なんだ」

「……へ?」


真面目な顔で言った晴登とは対称的に、結月はマヌケな声を上げたのだった。
 
 

 
後書き
久々というか、まだ2回目な気がする大地の方向音痴設定。べ、別に忘れてた訳じゃないんだからね! …正直に言うと、普通に出番が無かっただけです。

さて、早速 いや〜な展開になってきた訳ですけれども、本当に晴登たちは肝試しに縁が無いですね。可哀想ったらありゃしない。まぁ逆に、肝試しに良い思い出があるってのも変な話ですけども。吊り橋効果とか?(適当)

次回の内容は言うまでもないですね。はてさて、彼らはどこへ行ってしまったのか。まさか異世界…!?(おい)
そんな雑な展開にはならないことを祈りつつ、書いていくとしましょう。
今回も読んで頂きありがとうございました! 次回もお楽しみに! では! 
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