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戦国異伝供書

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第九十一話 会心の夜襲その十四

「そのことはな」
「しかとですな」
「言っておく、茶は贅沢じゃ」
「贅沢は、ですな」
「出来ぬ」 
 到底という言葉だった。
「それはな」
「贅沢する余裕があれば」
「政や戦に使いたい」
 その余裕の分の力をというのだ。
「やはりな」
「それが妥当ですな」
「今の我等はな、しかしな」
「しかしといいますと」
「贅沢も時によって変わる」
 こうもだ、元就は志道に話した。
「かつて味噌は昔は今より贅沢なものであった」
「ですな、それは」
「今も贅沢なものであるが」
「かつてはですな」
「今よりもさらにじゃ」
「贅沢なもので」
「誰もがそうそう口に出来るものではなかった」
 徒然草、かつて読んだこの書で味噌を肴にして飲む場面を思い出しつつ話した。
「残りものでも贅沢であった」
「そこも変わりましたな」
「左様、だからな」
「茶もですな」
「やがては贅沢なものでなくなるかも知れぬ」
 こう言うのだった。
「だからな」
「その時は、ですな」
「わしも茶を飲む」
「そうされますか」
「しかし今はな」
「水をですな」
「飲むとしよう」
 こう言ってまた水を飲む、そしてこう言うのだった。
「水は水で美味いではないか」
「ですな、では」
「水を飲もうぞ。これは身体を冷やし潤いを与えるいいものじゃ」
「だからですな」
「酒よりこちらを飲もう」 
 こう言って水を飲む元就だった、彼は酒ではなくそちらを飲みそのうえで茶も今はよしとして先を見て動いていた。


第九十一話   完


                 2020・3・23
 
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