魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~
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無印編
第36話:明かされる秘密
前書き
読んでくださる方達に最大限の感謝を。
クリスが振るった鎖鞭が、ライドスクレイパーで飛ぶメイジ3人の内1人に振り下ろされる。
標的とされたメイジはそれをローリングで回避しつつ接近し、スクラッチネイルで彼女を切り裂こうとした
回避された鎖鞭をクリスが引き寄せるが、彼女が次の攻撃に移る前にメイジの攻撃が放たれる方が早い。
「甘いんだよッ!!」
だがこの時、既にクリスの次の攻撃は行われていた。出し抜けにメイジは背中に強い衝撃を受け、飛行の為のコントロールを失いビルの屋上に落下した。
「ぐぁっ?! な、何が――?」
今一体何が起こったのか? 落下したメイジが仮面の奥で苦痛に顔を歪めながら上空のクリスに目を向けると、彼女が鎖の先に巻き付けていた何処かの看板を別のメイジに向けて投げつけているのが見えた。
そう……先程の攻撃は回避されたのではなく、最初からあの看板を狙っていたのだ。それを引き寄せ、無防備なメイジの背をぶっ叩いたのである。
1人を叩き落してそのまま看板を他のメイジにぶん投げたクリスだが、流石にそれは大振りだった為か簡単に回避された。外れた看板はそのまま何処かのビルに直撃する。
反撃に残りのメイジ2人から魔法の矢が飛んでくるのを、クリスはネフシュタンの飛翔能力で回避した。背後のビルの外壁が吹き飛んで道路に落下し路上駐車されている車を押し潰す。
街中で派手に戦闘を繰り広げるクリスとメイジ達だったが、人的被害は見た目よりは少ない。
戦闘開始時、メイジが街への被害を考えず魔法をぶっ放した事で街に緊急事態を知らせる警報が鳴り響き、街の人々が避難した為だ。
「くそっ!?」
余計な人的被害が発生しなくなったこと自体はありがたいのだが、それでも無暗に街が破壊される事はクリスは勿論、途中で逸れてこの場に居ない透にとっても避けたい事であった。
そう言う訳でクリスは戦いながら、可能な限り被害が少ない方に向けて移動していた。向かうは近くにある自然公園だ。透もきっとそこへ向かっている筈だった。
「お前らの相手してる場合じゃないってのに――!?」
クリスが焦るのも無理はない。響の確保をしなければならないからと言うのもあるが、何よりも透と逸れてしまっている事がクリスの焦燥感を掻き立てていた。
透はまだ不調なのだ。しかも襲い掛かったメイジの人数は、透に向かっていった方が多い。パッと見ただけでも5人は居た。透の事は信じているが、それでも不調を抱えたままではもしもと言う事もあり得る。
焦りがクリスの攻撃から正確さを奪っていくが、それでも透と共に切磋琢磨して得た実力は伊達ではなかった。
少々苦戦を強いられはしたが、それでも目的の自然公園には到着する事が出来た。
「こいつらの相手でもしてろッ!!」
自然公園に到着すると、クリスはソロモンの杖を取り出しノイズを召喚してメイジ達に嗾けた。一体一体は大した事なくとも、数は揃えばそれだけで力となる。案の定メイジ2人はノイズに阻まれ、クリスに攻撃するだけの余裕を失った。
「へっ! そいつらと遊んでな!」
ノイズに翻弄されるメイジ達を尻目に、クリスは透との合流を目指した。耳を澄ませる必要も無く何処からか激しい戦闘音が聞こえるから、彼はそこに居る筈だ。
飛翔して戦闘が行われている所へ向かおうとするクリスだったが、そんな彼女の前に立ち塞がる新たなメイジ。その仮面の色は白だった。
「ッ!? 透……じゃ、ねえなテメェッ!!」
[NIRVANA GEDON]
一瞬透が合流してきたかと思ったが、別の場所での戦闘が未だ続いている事に加え明らかに敵意を向けてきたので即座に別人だと気付いた。こいつはこのメイジ達を率いている幹部候補だ。
すぐさま先手必勝と攻撃を仕掛けるクリス。放ったエネルギー球を白メイジは魔法で防御するが、その際に発生した爆炎で視界が遮られる。
その隙に背後に回り、鎖鞭を片方の腕に巻き付けた。
そのまま引き寄せて蹴りでも食らわせようとするクリスだったが――――
「舐めるなッ!!」
「えっ!?」
白メイジは逆にクリスに向けて加速した。突然の行動にクリスが動きを止めると、白メイジは加速の勢いを利用して逆に鎖鞭を引っ張り、そのまま空中でハンマー投げの様に振り回して地面に向けて放り投げた。
「がはっ?!」
「ひっ!?」
クリスは制動する間もなく地面に叩き付けられるが、鎧のお陰かダメージ自体は大した事も無くすぐに立ち上がれた。
だがその際新たな問題が発生した。落下の瞬間、クリスの耳は聞きなれない第三者の小さな悲鳴を耳にしていた。
「え、なっ!?」
まさかと思い声のした方を見ると、そこには学校帰りだろう制服を着た1人の少女――未来が怯えた目をクリスに向けているのが見えた。
その姿を目にし驚愕した直後、白メイジがクリスの前に降り立った。しかも最悪な事に、先程ノイズを嗾けて足止めしておいた琥珀メイジ2人も合流している。
存外役に立たなかったノイズに心の中で悪態を吐きつつ、クリスは何時攻撃されても良いように身構えていた。勿論、未来の事は巻き込まないように気を遣う事を忘れない。
それが仇となった。未来に気を付けるつもりでそちらにチラチラと視線を向けていると、クリスが彼女を気に掛けている事が白メイジにバレてしまった。
「……そいつだ!」
白メイジが琥珀メイジの1人に命令すると、そいつはクリスを無視して未来に飛び掛かり一瞬で取り押さえ首筋にスクラッチネイルを突き付けた。
「きゃあっ!?」
「おいっ!? そいつは無関係だろ!?」
「だがお前はその女の事を気にしているようじゃないか。ならば利用させてもらう」
「この……下衆野郎!?」
「何とでも言え。さて、この後の事は言わなくても分かるな?」
言外に『抵抗すれば未来の命は無い』と脅す白メイジを睨み、未来の様子を伺う。突然巻き込まれた事に多少混乱しつつも、自身の命が危険に晒されている事を理解し恐怖に涙を浮かべ震えていた。
その様子を見てしまえば、抵抗しようと言う気も無くなってしまう。
しかし、このままむざむざと捕まる訳にはいかない。こいつらの魂胆は、クリスを人質にして透を始末する事なのだ。それが分かるから、クリスはまだネフシュタンの鎧を解除していない。
尤も、鎧があろうがなかろうが魔法使いには関係なかったが。
〈チェイン、ナーウ〉
「くっ!?」
魔法の鎖で縛られるクリス。ただの鎖ではない為、普通に力技で引き千切ろうとしてもクリスの力では不可能だった。
白メイジは拘束したクリスを掴み、足を払うと地面に押し付けた。
「ぐぅっ?!」
「手古摺らせてくれたな。行くぞ。裏切り者はすぐ近くだ」
「くぅ……」
悔しそうに歯噛みするクリスだったが、この状態では満足に身動きできないし下手に抵抗すれば未来に危害が及ぶ。流石に目の前で自分が原因で人質に取られた無関係な者を、切り捨てる程クリスも人間を捨ててはいなかった。
そこに、更なる乱入者が現れた。
「み、未来ッ!?」
「響ッ!?」
「お前は――!?」
今正にクリスが連れ去られようとしていた時、姿を現したのは颯人・奏・響だった。クリスが戦闘を始め、更にノイズまで召喚した事でクリス達の戦闘は二課の知るところとなり、3人にも騒動の場所が知らされたのだ。
現場に到着すると、未来がメイジに人質に取られている事に響は驚愕し動きを止める。
一方、奏はギアペンダントに手を掛け颯人は予め出しておいたガンモードのウィザーソードガンを構える。狙うは未来を捕らえているメイジだ。あれを何とかしない事にはどうにもならない。
「未来を放してッ!?」
「放せと言われて人質を解放する奴が居るか。お前たちも動くなよ?」
「(奏、俺があのメイジ撃って怯ませる。その隙にあの子を頼む)」
「(よっしゃ!)」
響が必死に未来の解放を叫ぶ中、颯人と奏は小声で話し合い未来を助け出す算段を立てる。白メイジは油断ならないが、琥珀メイジならやりようはあった。
未来を解放し、ついでにクリスからも意識を逸らせてしまえば形勢を逆転させる事が出来る可能性はある。
「何をこそこそ話している、ウィザード! 早くその武器を捨てろ!」
「へ~いへい」
何時までも銃口を向けている颯人に焦れたのか、白メイジが脅すように声を上げる。颯人は言われた通りに捨てる為手を離す。
一見すると大人しく手放したように見えるが、当然ながらそんな事はない。
パッと見た感じ分かり辛いが、ウィザーソードガンと颯人の手は極細で透明なワイヤーで繋がっていた。彼が少し手を動かせば、落下中のウィザーソードガンは一瞬で彼の手の中に戻る仕組みだ。加えてこの銃の弾は、彼の意思で自由に軌道を変えられるし狙ったところに当てられる。
颯人は頭の中で未来を助け出す算段を立てながら、タイミングを見計らう為に重力に引かれ落下するウィザーソードガンをチラリと見やった。
その時、木々の向こうから二本の剣が弧を描いて飛んできた。
クリスはそれにいち早く気付くと、顔に喜色を浮かべた。彼女はそれが何であるかを知っているからだ。
「ん?」
クリスの表情の変化に颯人が気付き、彼女が見ている方に目を向けるがその時には弧を描いて飛んできた二本の剣がそれぞれ白メイジと未来を掴んでいる琥珀メイジに命中する。
「ぐあっ?!」
「がぁっ?!」
「きゃぁっ!?」
「未来ッ!?」
弧を描いて飛んできた剣……カリヴァイオリンは見事にメイジだけを切り裂き、クリスと未来から引き剥がした。
突然自由になった事で投げ出された未来に、響が素早く近付き抱き起す。その際まだ無傷のメイジが響の邪魔をしようとしたが、それは素早くウィザーソードガンを手元に引き寄せた颯人の銃撃で防がれた。
「未来、大丈夫!?」
「う、うん。響、これ一体何なの?」
「これは、その……」
困惑しながらも投げ掛けられた問いに、響は何と答えようかと言い淀む。
だが状況は、彼女にゆっくりと答えを考える時間を与えてはくれなかった。
メイジを切り裂いたカリヴァイオリンは再び弧を描いて飛んできた方に戻っていく。戻ってきた二本の剣を、木々の向こうから飛び出してきた新たな白メイジ――透が掴み取った。
その向こうからは更に琥珀メイジが3人姿を現す。
「おいおい颯人、なんだか状況が面倒臭くなってきてないか?」
「奏、ポジティブに考えようぜ」
「どんな風に?」
「……退屈しなくて済む」
〈ドライバーオン、プリーズ〉
「全人類がそんな風に考えられると良いね」
颯人の答えに嘆息し、次の瞬間には意識を切り替えた奏は颯人の変身に合わせて聖詠を口にした。
〈シャバドゥビタッチ、ヘンシーン!〉
「変身!」
〈フレイム、プリーズ。ヒー、ヒー、ヒーヒーヒー!〉
「Croitzal ronzell gungnir zizzl」
颯人がウィザードに変身し、奏がガングニールを纏って…………とりあえず、確実に敵と分かっている琥珀メイジに攻撃を仕掛ける。未だ拘束されているクリスと、ジェネシスと敵対していると思しき透は後回しだ。
颯人と奏が加わった事で、戦闘は激しさを増す。
その様子を見て震え上がる未来を、響は必死に宥めた。
「あ、あぁ――!?」
「未来、大丈夫! もう大丈夫だから!」
「でも……あぁっ!?」
突然悲鳴のような声を上げた未来。何事かと響がそちらを見れば、クリスを抑えつけていた白メイジが2人に襲い掛かろうとしていた。
「ま、まだだ! そいつを使えば!」
「未来には手を出させない!!」
白メイジの前に立ち塞がる響。親友がその身を賭して自分を助けようとしている事に、未来は悲鳴のような声を上げて響を引き留めた。
「な、何言ってるの響!? 逃げよう、早く!?」
自らの手を引く未来に、響は後ろ髪を引かれる。出来ることなら、このまま未来と共に逃げてしまえば或いは物事は丸く収まるのかもしれない。少なくとも、未来の前では何の力も持たないただの立花 響のままで居られる。
だが、それでは駄目だ。目の前に居る白メイジは2人を絶対に逃がすことはない。逃げたければ……未来を守りたければ、戦わなくてはならなかった。
響は覚悟を決めた。
「……大丈夫」
「――え?」
「未来は、私が守るから」
何を言っているのかと未来が訊ねる前に、響は聖詠を口にした。
「Balwisyall nescell gungnir tron」
未来の目の前でシンフォギアを纏う響。未来はその様子を信じられないと言った様子で見つめていた。
「ひ、響?」
目の前で親友が見たことも無い装備に身を包み、拳を握り締めて白メイジと対峙する響の後姿。
響の事情を何も知らない未来は、彼女の背を呆然と見つめるしか出来ずにいるのだった。
後書き
という訳で第36話でした。
ここら辺、響と未来の仲違い部分に関してはちょいとばかし独自の展開になります。原作とは少しばかり違う方向に流れますが、どうかご了承ください。
執筆の糧となりますので、感想その他お気に入り登録や評価など受け付けておりますのでよろしくお願いします。
次回の更新もお楽しみに! それでは。
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