ペルソナ3 困惑の鏡像(彼が私で・・・)
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後編
前書き
この話の最初の方針は「⓵ 女性主人公が男性主人公と入れ替わって、自分の知らない男性主人公側のコミュキャラと関わっていく。⓶ 無頓着な行動でバレそうになるが、気にせず強引に乗り切っていく。」でした。また最初はアイギスと一緒に行動する予定でしたが、思うように話が進みませんでした。ところが、アイギスから ゆかり に変えて、「⓷ 男性主人公と ゆかり が既に恋人同士になっている。」を入れたら一気にラストまで来ましたね。ゆかり 愛のなせる業ですかねえ。因みに、私が書いてきたペルソナ3短編もこれで10作目となるのですが、ゆかり の出演率は異常に高い気がします。
夕刻のポロニアンモールは、買い物客で賑わっている。
そのポロニアンモールの一角に、いつも通り、ベルベットルームに続くドアは有った。
このドアは私だけにしか見えていない。このドアを開けて中に入ると、体はそのままに、精神だけが夢と現実の狭間にあるという、その部屋に行ける。
気が急いていた私は、速足で一直線に歩み寄ると、ドアの取っ手をつかんで引き込まれるように中に入っていった。
いきなり景色が変わる。
そこはいつもの見慣れた部屋・・・ではなかった。
「えっ、なにこれ・・・車?」
部屋・・・というか・・・やけに広くて豪華な、リムジンのような車の中にいたのだ。
向かいの席に座った女性が驚いた表情を浮かべている。銀髪のものすごい美女だった。青い制服を身に着け、大きな本を抱えている。
その出で立ちはテオドアを連想させた。
「あの・・・」
私は戸惑って、女性に声をかける。
「失礼・・・ようこそベルベットルームへ。」
女性は不意を突かれたような様子だったが、気を取り直したように身を正してから改めて語り掛けてきた。
「・・・ところで、あなたはどちらからいらしたのかしら?」
「その・・・私は、テオに用があって・・・」
「テオドア・・・? ああ、あの子のお客人でしたか。」
合点がいったらしく、女性がうなずいた。
「私はマーガレット。テオドアの姉です。」
「テオのお姉さん!」
私は改めて名を名乗って、頭を下げる。
「でもおかしいわね。本来、他の客人の部屋に入って来ることなどありえないのだけど・・・。ましてや、この部屋はまだ準備中。人が入れるようにはなっていないはずなのに・・・。」
「ああ、なんだか、夕べの事故でいろいろおかしくなってるみたいですね。」
私の言葉に、マーガレットさんは改めてうなずくと「確かにそうね。」と言った。
それから私の後ろに視線をやり、「それでそちらの方は?」と訊いてきた。
「へ?」
問われて振り向き、そして私は口をぽかんと開けた。
そこには困ったような顔の ゆかり が立っていたのだ。
「えっ・・・ゆかり? ・・・なんでここに?」
「・・・私の事知ってるの? あなたは誰?」
ゆかり が不思議そうに聞き返してくる。
「何言ってるの。私は・・・。」
そこまで言って気が付いた。
「あれ・・・女に戻ってる。」
ゆかり が私に対して、全く初対面のような顔をしているわけだ。私は元の姿に戻っていたのだ。月光館の制服姿だった。そして、女の私は、こちらの ゆかり にしてみれば初対面なのだ。
「肉体はこの部屋には入ってこれませんから、ここではあなたの本来あるべき姿になります。」
マーガレットさんが解説してくれた。
「そういうことか。でも良かった。これでようやく元の体に戻れるんだね。」
私はひと安心すると、ゆかり に向き直った。
「それで、ゆかり はなぜここにいるの。」
「その・・・私は、知り合いの後をついてきたんだけど、ポロニアンモールを歩いてたはずなのに、いつの間にかこの場所に来てしまって・・・。ここはいったいどういうところなの? 車の中?」
困ったように周りを見回す。かなり困惑している様子だ。まあ、突然にこんな非常識なところに連れてこられたらしょうがないよね。
なぜだか知らないが、ゆかり は私の後をつけてきたらしい。そして、私がベルベットルームに入るときに巻き込まれてしまったようなのだ。
これもベルベットルームが不安定な状態にあるせいなのか。
「本来は入ってこられないはずの方まで入って来てしまうなんて・・・。状況は、相当に混乱しているようね。」
マーガレットさんは目を閉じ、ため息をつきながら首を左右に振った。
「あの、私の前に高校生の男の子が入ってきませんでした?」
ゆかり が不安そうに聞いて来る。
(ああ、ごめん。それは私のこと・・・。でも説明難しい・・・。)
私がそう思っていると、
「ええ、彼なら来ているわ。でも、話がややこしくなるから、ひとまずこうしましょう。」
とマーガレットさんが答えて、そこで何かを操作したようだ。
とたんに周りの景色がぐるんと回って全く別の空間に入れ替わった。一瞬の出来事だった。
「なにこれ!」
ゆかり が驚きの声を上げる。
そこは見慣れたエレベーターの中。私の知っている、いつものベルベットルームだった。
事故で停止していたようだったが、今はまた上昇を続けている。歌声とピアノの音色もいつも通りだ。
そこには3人の男女がいた。テオと銀髪ショートカットの美女。
そして前髪の長い男子高校生。さっきまで私が体に入っていた、私の同位存在の『彼』。
「おや、姉上。そちらの方々は?」
銀髪ショートカットの美女が尋ねてきた。
「テオのお客人とそのご友人のようね。こちらはエリザベス。私の妹です。」
「エリザベスと申します。いつも愚弟がお世話になっております。」
マーガレットさんの紹介で、エリザベスさんが丁寧にお辞儀をしてきた。
「いつもテオにはお世話になってます。」
私も慌てて名乗って頭を下げた。
「ご無事で良かった。それにしても、マーガレット姉上の部屋に行ってしまうとは、まだ接続に問題があるようですね。」
テオが笑顔でこちらに歩み寄ってくる。
その一方で、『彼』が ゆかり に声をかけた。
「岳羽・・・。」
ゆかり が駆け寄る。
「あっ、よかったー。こんなとこにいたんだ。なんかいきなり変な場所に出ちゃって、不安だったんだよ。」
彼女はうれしそうに声を上げた。
「どうして岳羽がここに?」
『彼』が不思議そうに声を漏らす。
「ごめん。君の様子がおかしかったもんだから・・・。どこで誰に合うのかが気になっちゃって、こっそりついてきちゃったんだ。本当にごめんなさい。」
ゆかり が申し訳なさそうに『彼』に頭を下げる。
彼が問いかけるように私の顔を見てきた。
「ごめんねー。君のふりして学校に行ったんだけど・・・やっぱり親しい人はごまかせなかったみたいで・・・。」
私が手を合わせて言うと、
「なんとなくわかった。」
と、彼は表情を変えることなくうなずき、小さくため息をついた。
(あっ、こういうキャラか!)
私はようやく合点がいった。
「まったく・・・お客人以外の人まで入って来てしまうなんて・・・。テオ、直し方が甘いのではないですか?」
こちらでは、エリザベスさんが厳しい口調でテオに詰め寄っている。
「だから、お客人を元の体に戻すための、最低限の処置だと申し上げているじゃないですか。細かい調整はまだまだこれからです。そもそも事の発端は、姉上が癇癪をおこして暴れたりするから・・・。」
テオが必死に言い返す。
「それはマーガレット姉上が先に手を出してきたから、私としては身を守るために反撃しただけで・・・。」
エリザベスさんがそう言うと、今度はマーガレットさんが兄弟喧嘩に加わった。
「待ちなさい、エリザベス。私の責任だと言うの? もとはと言えばあなたが私のベルベットルームにケチをつけてきたからでしょう。」
「ケチなどつけていません。普通の人には理解のしがたい部屋だと申し上げただけです。」
「それでは、この部屋は普通の人に理解できる部屋だというの?」
マーガレットさんが両手で周囲を示した。
「待ってください、姉上方。ここで喧嘩などして、またお客人たちにご迷惑をお掛けしては・・・。」
慌てて、テオが仲裁に入る。
「お黙りなさい、テオ。」とマーガレットさん。
「そうですよ。テオのくせに生意気です。」とエリザベスさん。
二人の姉ににらまれて、テオドアがびくっとして後ずさる。
その時だった。
「これ、マーガレット。エリザベス。いい加減にしなさい。お客人の前で何を騒いでいる。これ以上ご迷惑をお掛けするでない。」
いつ現れたのか、イゴールが厳しい口調で言った
マーガレットさんとエリザベスさんが慌てて身を正し、直立する。
「そ、そうですね。エリザベス。お客人に迷惑をお掛けしてはいけない。テオはともかく、ここは主の顔を立てて、和解としましょう。」
マーガレットさんが取り繕うようにささやく。
「そうですわね。テオはともかく。」
エリザベスさんも同様に返した。
その横でテオが「そんなあ。」と情けない声を上げる。
しばらく様子を見守っていた ゆかり が困惑した表情で聞いてきた。
「・・・それで、結局、ここはどういう場所なの?」
「うーん。どう言ったらいいかな。」
訊かれた『彼』も説明に困ってこちらを見てくる。
「えーと、ここはベルベットルーム。常識と非常識の狭間にあるという・・・。」
私が説明しかけると、「夢と現実。精神と物質の狭間です。」とテオが慌てて訂正してきた。
「あ~、ごめん、ごめん。なんだか、さっきのやり取りを見てたらつい・・・。」
「あれ?その話し方。」
ゆかり が私を見ていて、ふいに何かに気づいたようだ。
「まさかと思うけど、さっきまでの『彼』は・・・。」
「あ、わかった? さすがだね、ゆかり。実は、さっきまで彼の体にいたのは私だったんだよ。」
「えっ、どういうこと・・・。」
私と『彼』は手短に状況の説明をした。
ゆかり は信じられないと言った表情で、あっけに取られて聞いていた。
「まさか、そんなことがあったなんて。どおりで朝から様子がおかしかったわけだ。」
ゆかり は ふーっと大きく息を吐き、それから安心したように『彼』を見つめた。
「うん、でも、君はやっぱりこっちのほうがいい。」
目を潤ませて『彼』に言う。
ゆかり にこんな表情をさせるなんて・・・なんだか理解しがたいやつだなあ。
そう思っていると、それまで無表情だった彼が、微笑みを浮かべ「ありがとう」と ゆかり に優しくささやいた。
「さて・・・。」とイゴールさんが口を開いた。
みんなが黙って、注目する。
「今回のイレギュラーな事態。こちらの不手際でご迷惑をお掛けしてしまい、大変申し訳ありませんでした。
本来、この部屋を訪れるお客人同士が出会ってしまうなど、有ってはならないこと。勝手ながら、今回のことは本当に『夢』、ということで皆さんにはお忘れいただく必要がございます。」
「そうやって、まずいことがあるたびに忘れさせているんじゃないでしょうね。」
『彼』がぼそりと言った。
「ギクリ!」とエリザベスさんが口にする。
「何、その『ギクリ!』っていうのは!」と私が突っ込むと
「いえ、単に『お約束』・・・というものでございます。」とエリザベスさんはすまして答えた。
「いやはや、今回は何を言われましても弁解のしようがございません。二度とこのような失態がないよう気を引き締めてまいります。是非ともご容赦を。」
イゴールさんが深々と頭を下げ、かえって申し訳ない気がしてきた。
「まあ、いつもお世話になってるし、そんなに気にしないでください。それなりに面白かったし・・・。」
私は明るく声をかける。
『彼』も黙ってうなずく。
「ありがとうございます。それでは、そろそろご自分の現実にお戻りいただきましょう。」
イゴールさんはそう言ってテオに合図した。
「せっかく会えたのに、ほとんど話もできなかったね。」
私が『彼』に声をかけると
「まあ、お互い同じような体験をしているらしいし、どうでもいいよ。」と返してきた。
(ほんとに「どうでもいい」とか言うんだ~。なぜこれがモテる? わかんないな~。)
私はそのすました顔を見て、ちょっとからかってみたくなった。
「いやあ、同じ体験っていうけどさ。それでもなかなか面白かったよ。まさか君が ゆかり と付き合ってるとはねー。しかも、他にも何人か怪しい人が・・・」
「それは・・・」
そこで『彼』が初めて動揺を見せた。
(あっ・・赤くなってる。なんだ、可愛いとこあるじゃん。じゃあ、この辺で勘弁してあげるか。)
「ま、ゆかり は私の親友なんだから大事にしてあげてよ。私は自分の現実で、こっちの ゆかり と女同士仲良くしとくよ。」
私はニカッと笑って、そう言った。
「そう・・・親友なんだ。」
話を聞いていた ゆかり が私に向かって語り掛けてきた。
「そうだね。私、あなたのこと嫌いじゃないよ。なんか気が合いそう。一緒にいたらきっと仲良くなれたと思う。
『彼』がいない世界なんて、今の私にはもう考えられないけど、でもそこにも私がいるのなら、そっちの私をよろしくね。」
「言ったでしょ。親友だよ!」
二人で顔を見合わせて笑った。
「それじゃ、行こうか。」
『彼』に促されて、二人はドアから彼らの現実へと帰っていった。
続いて私も自分の現実に向かってベルベットルームを後にした。
「こら、いないの? 開けなさいよ。」
ドアをたたく音に目が覚めた。なんだかすごくよく寝ていた気がする。
起き上がってドアを開けると ゆかり が立っていた。
「寝てたの? どうしたの学校にも来ないで、具合でも悪いの?」
ゆかり が心配そうに聞いてきた。
「別に、具合は大丈夫だけど・・・学校?・・・えーと、今何時?」
私は、状況が良くわからずに聞いた。
「もう夜だっつーの。」
「ええっ! 私、学校行かないで1日中寝てた?」
「あきれた。」
ゆかり がため息をついた。
「よくそんなに眠れるわね。」
「なんだろう。なんかずっと変な夢を見てた気がする。」
私は何か思い出しかけて、考え込んだ。
「変な夢?」
「私が男になって、ゆかり と付き合ってる夢。」
「何よそれ。」
ゆかり が笑いだした。
「それで、今夜は、タルタロスどうするの。」
「行くよ。もう十分寝たし・・・あ、でもお腹空いた。」
1日中寝ていたなら、今日は何も食べていないことになる。空腹なわけだ。
「私の作った手抜き料理で良ければ食べさせてあげるから。」
「わーい。ゆかり 愛してる~。」
「馬鹿言ってないで、着替えてきなさい。みんな心配しているよ。」
そう言って、ゆかり は部屋から出て行った。
着替えて鏡を覗き込んだとき、ふっと誰か・・・男の人の顔が浮かんだが、それが誰かもわからないまま消えてしまった。
私はちょっと首をかしげて、それから部屋を出て行った。
後書き
既に書きました通り、これが私の書いたペルソナ3短編の第10作になります。大体 4ヶ月くらいで10作まで来ました。2週間に1作(2~3話)くらいのペースで書いてきたことになります。だんだんネタが苦しくなってきてペースが落ちてきているので、これで一区切りかなと思っています。でもまた何か思いつけば、新しいものを書いてみたいですね。
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