戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~
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第4楽章~フロンティア、浮上~
第34節「デスティニーアーク」
前書き
原作も残すところ今回含めあと3話。長いと思っていましたが、もう終わりが見え始めてますね……。
残るイベントはきりしらの大喧嘩に、クリスvs翼さん、ウェルを取り押さえて装者全員で力を合わせてネフィリム倒すだけですね!……イベント多いわ!
取り敢えず今回はタイトルの回収ですね。
ってか今回と次回で間違いなくウェルへのヘイトが最高潮に高まるな……(確信)
え?予告と章タイトルが違うって?
いや~、ずっと頭に引っかかってたタイトルだったんですけど、これ別の作家さんが書いてるSSのサブタイですわ。センス良すぎて頭に残ってたっていう……。
自分のセンスで付けたタイトルに変更したら、なんだか「使徒、襲来」みたいになっちゃいましたけど、それはそれで覚えやすいのでw
BGMはご自由に。
それではお楽しみください!
本部の一部屋、そのベッドの縁に、緒川は両腕を手錠で拘束された調を座らせる。
「すみませんが、これは預からせていただきますね」
そう言って緒川は、調のペンダントを没収する。
だが、俯いた調から飛び出した言葉は意外なものだった。
「お願い……皆を止めて……」
「っ!?」
「助けて……」
その頃、発令所では……。
「映像回します!」
モニターに海底から浮上したフロンティアが映し出されていた。
「これがF.I.S.の求めていたフロンティア!?」
「海面に出ているのは、全体から見てごく一部。新天地と呼ばれるだけのことはありますね……」
現在視認できているのは、あくまでも氷山の一角。
F資料と、計測した海底からのデータを参考にして作成された、フロンティアのほぼ正確な全体想定図がモニターに表示される。
大陸のような形であり、宇宙船でもあるフロンティア。
全長は船首から縦に30000m、横14000m、高さ5000mもの巨大構造物。
未だ多くが海底に沈むその全容に、二課の面々は驚愕する。
その時、警報が鳴り響く。
「新たな米国所属の艦隊が接近しています」
「第二陣か……」
そこへ、斯波田事務次官と九皐の通信が入った。
『ずるる……まさか、アンクル・サムは落下する月を避ける為、フロンティアに移住する腹じゃあるめえな?』
「ええ、どうもそうらしいわ。F.I.S.はそれに納得できなかったからこそ、テロリストの汚名を被る道を選んだみたい」
『自衛隊に手を出すなって言ってきたのはそういうわけか。だが、米軍の装備程度でどうにかなるもんじゃなさそうだが?』
「どう見ても手に余るでしょ? 返り討ちに遭って余計な被害が増えるのがオチよ」
了子は呆れたように溜息を吐き、渋い表情をする。
「我々も急行します」
弦十郎の指示で、ネオ・ノーチラスはフロンティアへと向かって進んでいった。
一方、メディカルルーム。
ベッドの上の未来を見るなり、響は彼女へと抱き着いた。
翔も響と共に、彼女の傍へと駆け寄る。
「未来ッ!」
「小日向ッ!」
「あ……」
「小日向さんの容態は?」
「LiNKERも洗浄。ギア強制装着の後遺症も見られないわ」
友里の言葉に、純はホッと息を吐く。
その頭には白い包帯が巻かれており、クリスに肩を預けている。
「良かった……本当に、良かった……ッ!」
「響、翔くん、その怪我……」
「うん」
響と翔の頬や額に貼られたガーゼを見て、未来は顔を伏せる。
間違いなく、自分がつけた傷だ。響と翔を守るつもりで傷つけてしまった事実に、自分で自分が恨めしい。
「わたしの……わたしのせいだよね……」
両目から涙を零す未来。
だが、響は屈託のない笑みを浮かべながらこう言った。
「うん、未来のおかげだよ」
「──え……ッ?」
「ありがとう、未来」
「響……?」
訳が分からない、といった顔で困惑する未来。
それを見て翔はただ、笑っていた。
「私が未来を助けたんじゃない。未来が私を助けてくれたんだよッ!」
「小日向、これを見てくれ」
そう言って翔は、自分と響の最新のレントゲン結果を見せる。
「これ……響? こっちは翔くんの?」
「あのギアが放つ輝きには、聖遺物由来の力を分解し、無力化する効果があったの。その結果、二人のギアのみならず、翔くんと響ちゃんの身体を蝕んでいた生弓矢とガングニールの欠片も、除去されたのよ」
「え……?」
「お前の強い想いが、死に向かって疾走する響を救ったんだよ……未来」
クリスはいつになく穏やかな表情で、未来を見つめながらそう言った。
「私が本当に困った時、やっぱり未来は私を助けてくれた。ありがとう」
「私が……響と翔くんを?」
「ああ。小日向は俺達の命の恩人だ。ありがとう」
二人から感謝の言葉をかけられ、未来は涙を拭く。
「ううん……。あの時、わたしを呼び戻してくれたのは響の声だし、落下していくわたしと響を抱えて飛んでくれたのは翔くんだから……」
「つまり、翔と立花さん、小日向さんの友情が呼んだ奇跡……ってことかな?」
「そうともいえるのかも……?」
「わたし達三人で起こした奇跡、かぁ……」
「言い得て妙、かもしれないな」
純からの「奇跡」という言葉に微笑む響と翔。
(でも、それって……)
だが、胸の聖遺物の消失が何を意味しているのか……知らない未来ではない。
響と翔の笑顔を見ながら、彼女は俯いた。
「えへへへ」
「だけど、F.I.S.はついにフロンティアを浮上させたわ。本当の戦いはこれからよ」
「あいつらの企みなんて、あたしら二人で払ってみせるさ。心配すんな」
「二人? そういえば……翼さんは?」
クリスの一言に、周囲を見回す未来。
確かに、翼の姿だけが見当たらない。
翔と響が危機的状況を脱したのだ。一番喜ぶであろう彼女がいないのは不自然だ。
そして、顔を曇らせる響と顔を逸らすクリス。
純は頭に巻かれた包帯を抑え、翔は俯きながら呟いた。
「どうしちまったんだよ……姉さん……」
ff
同じ頃、F.I.S.の一行はフロンティアへ上陸していた。
「このようなものが、海中に眠っていたとは……」
「僕達に協力してくれるなんて、感謝が尽きませんよ」
「世辞はいい。それよりも、あの言葉に嘘はないんだな?」
「ええ。フロンティアとは関係のない生弓矢まで手に入れたのは、その為なのですから」
フロンティアの中心、外から見る限りは石造りの巨大遺跡にしか見えない巨大構造物を見上げながら、翼は純を不意打ちした瞬間を思い出す。
『仲間を裏切って、あたしたちにつくと言うのデスか?』
『これが前金替わりだ』
いきなり現れ、仲間であるはずの純を一撃で沈ませた翼に、切歌は困惑する。
『しかしデスね……』
『私にこの話を持ち掛けたのは、ウェル博士だ。無論、ある条件をつけてな。私としても、無駄に散る命は一つでも少なくしたい。それに……』
『……?』
『いや、何でもない……』
立ち去った直後、クリスが倒れた純を見つけたのは、言うまでもない。
遺跡内部に入るF.I.S.一行。
こちらも石造りにしか見えない通路を、ライトで照らしながら進んでいく。
「信用されないのも無理はない。気に入らなければ鉄火場の最前線で戦う私を後ろから撃てばいい」
「もちろん、そのつもりですよ。ツェルトくんが抜けてしまった分の穴埋めとは言え、あなたは元々、二課の装者なのですからね」
ツェルトは組織を裏切り、調の後を追って投降した。
フロンティア起動直後、ウェル博士からそう知らされたマリアは、顔を曇らせた。
(あのツェルトが……? でも、絶対にないとは言いきれない……。彼は真面目だから、きっと耐えきれなかったのね)
真実は違うのだが、彼が二課と通じていたのは事実だ。
その意味では、マリアの解釈もあながち間違いとは言いきれない。
(でも、これでよかったのかもしれない……。これ以上、あなたの心をすり減らさなくてもいいのだから。私がフィーネではない事を知りながらも黙っててくれたあなたに、これ以上の迷惑はかけられないわ……)
「着きました。ここがジェネレータールームです」
ナスターシャ教授に言われて見上げると、そこは機械類の見当たらない大きな部屋だった。
F.I.S.の面々が立っている通路は一本橋のようになっており、だだっ広い空間の中心部……道の先には、幾何学模様が刻まれた謎の球体と、それを取り囲んで部屋の上下へと延びる螺旋状の結晶構造体が存在するのみだ。
「なんデスか? あれは……」
「フロンティアのジェネレーターですよ。まあ、見ててください」
そう言ってウェル博士が進み出る。
ケースに仕舞っていたネフィリムの心臓を取り出すと、ウェル博士はそれを……。
「ふ……」
その奇妙な装置に押し付ける。
すると、ネフィリムの心臓から蔓のような物が伸び、ジェネレーターが起動した。
球体が光り輝き、黄金の粒子を散らせながらエネルギーが伝わっていく。
結晶構造体はエネルギーをフロンティアに行き渡らせるパイプの役割も担っているらしく、エネルギーが中を通ると、その光を反射してきらきらと輝いた。
「ネフィリムの心臓が……」
「心臓だけとなっても、聖遺物を喰らい取り込む性質はそのままだなんて、卑しいですねぇ……。ふふ、ひひひ……」
エネルギーが供給された影響か、フロンティア地表には草木が生え始める。
新天地と言う名前は、比喩でも何でもない。この異端技術の結晶そのものを言い表すに相応しいコードネームと言えるだろう。
「エネルギーがフロンティアに行き渡ったようですね」
「さて、僕はブリッジに向かうとしましょうか。ナスターシャ先生は、制御室にてフロンティアの面倒をお願いしますよ」
そう言ってウェル博士はマリアと翼を伴い、ジェネレータールームを後にした。
「……」
眩しいくらいに光り輝く、フロンティアのジェネレーター。
切歌はそれを見上げながら、調の言葉を思い出す。
『ドクターのやり方では、弱い人達を救えないッ!』
「そうじゃないデス……フロンティアの力でないと誰も助けられないんデス……。調だって助けられないんデス……」
現実に翻弄され、正義を為す事も悪を貫く事も果たせぬまま懊悩するマリア。
フィーネとして目覚め、自らの存在が消えてしまう遠くない未来に怯える切歌。
希望を失った少女達は今、心を捩じ伏せ、フロンティア計画を拠り所にする事でしか、己を保つことができないでいた……。
ff
「助けて欲しい? そう言ったのか?」
発令所にて、調の様子をカメラで監視しながら、緒川からの報告を受ける弦十郎。
受け取ったペンダントは、了子へと渡された。
「はい。目的を見失って暴走する仲間たちを止めてほしいと……」
「ふむ……」
「あの……」
そこへ響達が入室してくる。
私服に着替えた未来も一緒だ。
「まだ安静にしてなきゃいけないじゃないかッ!」
「ごめんなさい……でも、いても立ってもいられなくて……」
「姉さんが居なくなったと聞いたら、どうしてもと……」
「確かに翔と響くん、その上翼までもが抜けたことは、作戦遂行大きく影を落としているのだが……」
そう言って弦十郎は、頭を掻く。
「でも、純くんに大事がなくて本当によかった」
「翼さんにも考えがあるんでしょう。やり方はもう少しどうにかして欲しかったですけど……」
額の包帯に手を当てる純。クリスは溜息を吐いた。
「敵を欺くにはまず味方から、ってか?ったく、こういうのはあたしの役回りだろうが……」
「でも、あの姉さんがこんな真似するなんて……。防人としての誇りを重んじていた姉さんが、ここまでする理由はいったい……?」
「弟のお前に分かんねぇ事があたしらに分かるかよ。だけど……」
間を置くクリスに、翔は首を傾げる。
「もしも、無駄に散った命が沢山あって、その責任を自分に感じていたとしたら……あたしも同じ事をすると思う。自分の過ちにケジメを付けるために……」
「クリスちゃん……」
クリスを見つめる純。その時、藤尭が報告する。
「フロンティアへの接近は、もう間もなくですッ!」
モニターを見る。
フロンティアは遂に目の前に……。
そして同じ頃、医務室では──
「っ……助かった……のか……?」
3人目の伴装者、最後の希望が目を覚ましていた。
ff
フロンティア中枢、ブリッジルームへとやって来たウェルとマリア。
「ふふん……」
「それは……?」
ウェルが取り出した無針注射器を見て、マリアは訝しむ。
「LiNKERですよ。聖遺物を取り込む、ネフィリムの細胞サンプルから精製したLiNKERです……ッ!」
フロンティア浮上の目処が立った昨夜から精製を始めていた特注のLiNKERを、自分の左腕に注入するウェル博士。
注入が終わった次の瞬間、ウェル博士の左腕が変貌する。
左腕の肘から先は焦茶に染まり、筋肉が膨張する。
肥大化したその左腕には、ネフィリムと同じ赤い模様が、そして手の甲に沿って三本の棘が生えていた。
「ッ!?」
「くくく……ッ!」
ウェルは満足気に異形の左手を握り、開いて感触を確かめると、ジェネレータールームにあったものとよく似たコンソールらしき物に触れる。
すると、触れた箇所から真っ赤な蔓のような物が伸び、フロンティアを起動させた。
「くくく……早く動かしたいなあ……ちょっとくらい動かしてもいいと思いませんか? ねえ、マリア──」
「──ッ」
「ウヘヘ……」
モニターに映し出された米国艦隊を見て、ウェルはほくそ笑んだ。
その頃、フロンティアのエネルギー制御室。
ナスターシャ教授は、フロンティアの端末内に存在するデータの中から、あるものを探していた。
(フロンティアが先史文明期に飛来したカストディアンの遺産ならば、それは異端技術の集積体。月の落下に対抗する手段もきっと……)
「ッ! これは……ッ!?」
『どうやら、のっぴきならない状況のようですよ』
ブリッジのウェルからの通信と共に映し出された米国艦隊。
フロンティアの制圧を命じられた第二陣は、果敢にも……或いは無謀にもフロンティアへと向かって進んでいる。
『一つに繋がることでフロンティアのエネルギー状況が伝わってくる。これだけあれば十分に熱り立つゥ……』
「早すぎます! ドクター!」
『さあ! 行けぇぇぇッ!』
フロンティアの中心部、一番高い石塔のような場所から、3本の光が放たれる。
3本の光は、螺旋を描きながら上空へ。
やがて空を超え、大気圏を突破し、そのまま地球を飛び出して……そして三本の光が螺旋を描きながら一つになる。
その光は、まるで巨大な手のような形となって月に迫って行き──
そして、光の巨掌は月を掴んだ。
「どっこいしょおおおおおおッ!!」
月を掴んだ巨大な手は、次の瞬間霧散する。
直後、フロンティアが海を震わせ更なる浮上を始めた。
「加速するドクターの欲望ッ! 手遅れになる前に私の信じた異端技術で阻止してみせるッ!」
強者に見捨てられる人々を救う為、果たそうとした正義。
しかし、たとえそれが高潔な正しさであっても、徹せない正義が悪と堕落する現実世界の只中にあって、夢想と潰えようとしていたナスターシャ教授の理想。
それでも彼女は一縷の望みを握り締め、フロンティアのデータベースへとアクセスする。
信奉する異端技術を以て現実を覆す為に。
残り僅かな命を人類の救済へと賭けて……。
フロンティアの浮上が巻き起こした波に飲まれるネオ・ノーチラス。
艦内は大きく揺れ、響や未来が悲鳴を上げる。
「うわあああッ!?」
「きゃああああッ!?」
「いったい、何が──」
「広範囲に渡って海底が隆起──我々の直下でも押し迫ってきますッ!」
海底に激突するノーチラス。一際揺れる潜水艦内。
そして、浮上していくフロンティア。
遂に海底より、フロンティアはその全容を顕現させ、空へと浮遊する。
それはさながら、巨大遺跡を中心とした空中大陸と言った様相であった……。
ff
「作戦本部より入電ですッ!制圧せよ、と……」
海兵隊員からの報告に、艦長は目を剥いた。
「あんなのとは聞いていないぞ……ッ!?」
フロンティアを砲撃する米国艦隊。
しかし、フロンティアは全くダメージを受けていない。
当然だ。大陸の大地を攻撃するなど無意味なのだから……。
「楽しすぎてメガネがずり落ちてしまいそうだぁ……ッ!」
ウェルがネフィリムの左腕を通じて新たなコマンドを送ると、フロンティアの大陸直下から伸びる移籍の一部が光り輝き、何やら波動を飛ばす。
次の瞬間、米国艦隊がどんどん海面から浮かび上がっていくではないか。
そして浮かび上がった戦艦は3秒と経たないうちに、まるで紙屑を丸めるようにクシャクシャに潰されていき、一隻ずつ爆発していった。
「ふうん、制御できる重力はこれくらいが限度のようですねぇ……くくくく……ッ!くくくく……はははは、くはははははは……ッ!」
ウェルの目元や頬には血管が浮かび、彼の狂気はここで極限へと至る。
(果たしてこれが……人類を救済する力なのか?)
これまでで一番と言えるほどの笑みと共に高笑いするウェルに、マリアは表情を歪めた。
そして──ウェルは眼鏡を外し、最高潮に達した狂気を顔一面に広げて、まるで新しい玩具を手に入れた子供のような笑いと共に身体を仰け反らせながら宣言した。
「手に入れたぞ、蹂躙する力──これで僕も英雄になれるう……この星のラストアクションヒーローだあ……ッ! あはははッ、はははははは、やったああああーーーッ!!」
後書き
フロンティア、ついに浮上!
そしてここに来て、いよいよウェル博士の狂気も限界突破。眼鏡外した途端に顔芸がハッキリ見えるようになったと言っていいのかな()
原作から見事に逆転した翼さんとクリスの立ち位置。
原作での立場を匂わせつつ、「逆だったかもしれねぇ……」な風味に仕上げてみました。
書くにあたって調べたところ、『アンクル・サム』とはアメリカ合衆国の擬人化であり、合衆国そのものを指す言葉らしいですね。
日本に例えると「ジャップども!」みたいな?
さて、次回はアレかー……マリアさん号泣シーン&ウェル博士のヘイトが最高潮に達したあのシーン。
目を覚ましたツェルトがどうするのかも見所です。
次回もお楽しみに!
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