Fate/WizarDragonknight
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"撃槍 ガングニール"
「変身!」
『フレイム プリーズ』
赤い魔法陣がハルトの体を貫通し、火のウィザードとなる。
ソードガンを引っ張り出し、ハルトはファントムに斬りかかり、大きく退避させる。
「響ちゃん、それに二人とも! 逃げて!」
「逃がしませんよ。グールたち!」
ファントムの掛け声とともに、無数のグールたちが湧き出てくる。それらはカズマとアクアの逃げ道を塞ぐように聳え立つ。
「折角儚い夢からの落差で絶望させようと考えましたのに。邪魔してくれますね」
「ファントムの邪魔をするのが魔法使いだから。行くよ!」
『フレイム シューティングストライク』
ウィザードはジャンプで、カズマたちの頭上を取る。
そのまま炎の銃弾で、カズマたちを取り囲んでいたグールたちを灰塵に化す。
そのまま二人の前に着地した。その時、カズマが「おおっ! これだよこれ‼ 俺はこういうヒーローになりたかったんだ!」と言っているが、無視した。
ウィザードはそのまま、ファントムへ発砲。
「無駄ですよ」
無数の銀の銃弾の変則的な軌道へ、ファントムが吐き捨てる。そしてそれらはファントムに命中することなく、ウィザードに命中した。
「なに……?」
ウィザードは、ルビーのプロテクターに打ち込まれた銃弾に驚愕する。疑いもなく、ソードガンから発射された銃弾だった。
「どうして……?」
「私に飛び道具は通じませんよ」
「そうかい。なら……」
ウィザードはソードガンを剣にして、接近。斬りかかる。
「ふん! なかなかの手際ですね。ですが、当たらなければ全く意味ありませんね」
ファントムは簡単によけながら嗤う。ウィザードは仮面の下で苛立ちながら、ガムシャラにソードガンを振る。
「このっ!」
斬ではなく突き。それは今度こそファントムの胸元へ届く。
が、それは命中する寸前で、発生した空間の渦に呑まれる。
その渦の出口は、すぐ隣。コネクトと同じようなものが、ウィザードの肩へ直撃した。
「がっ!」
思わぬ反撃に、ウィザードは後ずさりする。ケラケラと笑うファントムは余裕そうに手を叩いた。
「私に近接攻撃もまた通じませんよ」
「じゃあどうしろってんだ……?」
ウィザードは、別の指輪を取り付ける。
『バインド プリーズ』
地面に出現した魔法陣より、鎖がファントムへ向かう。だがそれは、同じように空間の渦の中に消失。逆に、ウィザードを縛るように現れた。
「嘘だろ……?」
「ふふふ。他のファントムから、指輪の魔法使いのことは聞いていましたが、大したことありませんね。グールたち!」
「っ!」
バインドを解除したウィザードへ群がるグールたち。もう敵わないと分かっていながら、彼らは肉壁となりウィザードを阻んでいた。
「さてさて。ゲートのお嬢さん」
ファントムのターゲットは、アクアのようだった。ファントムは彼女へじりじりと迫っていく。ビッグで払おうがライトで目つぶししようが、グールたちは執念のごとく壁となる。
「カカカ、カズマさああああああん! 助けて助けて助けて! 嫌よ、私まだ死にたくない!」
「アクア!」
カズマもまた、グールに囲まれて動けないでいた。
もうだめだ、と誰もが思った時。
「生きるのを諦めないでッ!」
アクアの前に立った人物が、ファントムを殴り飛ばした。
「……なんですか? 貴女は」
ファントムは苛立ったように、その人物を睨む。
アクアを守った人物____立花響は、どこかのカンフー映画のような構えをしながら、ファントムを見据えていた。
「……人を襲うの、止めてはもらえませんか?」
静かに、だけどはっきりと、響は尋ねた。彼女の声はとても落ち着いており、ラビットハウスでともに騒いだ人物とは思えなかった。
ファントムはケラケラと肩を震わせ、
「御冗談でしょう? 私たちはゲートを絶望させてファントムを増やすのが目的。人を襲うなというのは不可能です」
「私たちは、互いに話し合える! 手をつなぐことだって……」
「笑止。我々ファントムが人間ごときと? ふざけてます。邪魔をするなら、貴女もゲートとともに、絶望して死になさい!」
「……そう」
響は、どこか悲しそうな目浮かべた。やがて首から下げているペンダントを両手で握る。
そして。
響は___歌った___
『Balwisyall nescell gungnir tron』
黄色の光。それが、ファントムやアクアたち。そして、ウィザードの目を奪う。
白く伸びたマフラーがグールたちをなぎ倒し、大ジャンプして現れた響。
「あれは……⁉」
ウィザードは目を、そして耳を疑った。
彼女から鳴り響くメロディは、公園内で常に響き渡っていた。
その音を聞くと、だんだんそれが分かってきた。
ハイテンポのイントロ。それは、一瞬で導き出せた。
「歌……だと?」
さっきまでラフな服装だった彼女は、今や白と黄の武装をした姿となっていた。白いマフラーをたなびかせ、両手に大きなガントレットを装備し、丸いめは吊り上がっていた。
「な、なんなんですか貴女は⁉ その姿は……この歌は……⁉」
「この歌もッ! この拳もッ‼ シンフォギアだアアアアアアアアアアアアッ‼」
彼女は、そのままファントムへ殴りかかる。
___絶対に離さないこの繋いだ手は___
「私に物理攻撃など通じませんよ!」
ファントムは、またしても空間を彎曲させ、響のパンチを彼女へ跳ね返す。
___こんなにほら、暖かいんだ ヒトの作る温もりは___
響はそれでも、拳を止めない。歪んだ空間により、彼女の拳は全て響自身に跳ね返る。
「ハハハ! そんなものでなにができる? 無駄な抵抗はお止しなさい」
___難しい言葉なんて いらないよ___
響はそのまま飛び退き、上空へ跳び上がる。着地した彼女のもとには、無数のグールたちが群がっていく。
___今わかる 共鳴する Brave minds___
だが響は、当然のごとく、マフラーを振り回してグールの接近を許さない。
「響ちゃん……?」
ようやく周囲のグールを片付けたウィザードは、響の豹変ぶりに言葉を失う。
響はさらに、グールを足場にしてジャンプ。腰と背中のブースターで加速、拳でクレーターを作る。
___ぐっとぐっとみなぎってく 止めどなくあふれていく___
「すごい……」
ランドに匹敵する力と、ハリケーンにも迫る機動力。
響のその姿に、ウィザードは、茫然とするしかなかった。
___紡ぎ合いたい魂 100万の気持ち…さぁ___
グールたちを蹴散らした響は、ファントムを再戦に持ち込む。
___ぶっ飛べこのエナジーよ___
やはり響の拳は、ファントムの作り出す渦により、響本人に跳ね返る。
「無駄です! そんな手腕では、私には届きません! 私の能力は空間を歪める力! 貴女では、私に触れることすらできないのです!」
「言ってること、ぜんっぜん分かりません!」
___解放全開! イっちゃえHeartのゼンブで___
響は体を回転させる。上空で殴りかかる体勢となった響の腰とガントレットに、ブースターが噴射される。
___進む事以外 答えなんて あるわけがない___
加速した響は、そのまま拳を突きだした状態でファントムへ滑空していく。円状に回転させながら、黄色の光はファントムへ迫る。
___見つけたんだよ 心の帰る場所Yes!___
当然、ファントムはウィザードを苦しめた能力を用いて、響の攻撃を躱そうと試みる。
だが。否。
___届け! 全身全霊この想いよ___
響の拳が、またしてもファントムの術中に陥る。
しかし、響の拳は、ファントムへ届く前に、ガシンガシンと音を立てて変形、巨大な筒となる。
___響け! 胸の鼓動! 未来の……___
「先へええええええええええええ‼」
歌の最後の一節はそのまま響の叫びとなり、ファントムへの拳となる。
「無駄です! むしろ威力を増大させた分、跳ね返る貴女がダメージを受けるだけ! 愚かなことを……は?」
だが、その瞬間、ファントムは顔を歪めた。
その光景は、ウィザードからも確認できた。
巨大な拳は、そのまま渦へ取り込まれ、響へ反逆する矛と化す。
だが、その前に、やがて渦そのものが荒波を立てていく。やがて耐えられなくなった渦は、空間ごと消滅していったのだった。
「バカなああああああああああああああ⁉」
盾を失ったファントムを響から守るものはもうない。
そのまま白と黄の鋼鉄は、ファントムを圧し潰し、爆散___はさせなかった。
あくまで尻餅をつかせるだけで、響はそれ以上進めなかった。
「な……なぜ?」
「貴方たちのことはよくわかりません。でも、私たちには、語り合う言葉がある。きっと、分かり合えるよ!」
「ふざけるのも大概にしてください。我々ファントムと人間は、決して分かり合えない。絶望を糧とするファントムと、希望を胸にする人間が、ともに生きる術などないのです」
「だとしても! それで諦めたら、きっと後悔する! 私たちの手は、傷つけることの他にも、繋ぐことだってできるはずだよ!」
響の言葉に、ウィザードは静かに呟いた。
「ファントムとの和解か……考えたこともなかったな……」
ウィザードは、無意識に指輪を見下ろす。赤いルビーの指輪。人々を守ってきたその指輪がもつ、ファントムにとっての絶望の象徴の面など、思いもしなかった。
だがファントムは、首を振って吐き捨てる。
「何て甘い! そんな絵空事など、聞く必要などありません!」
手から放たれた光弾が、響を突き飛ばす。
「絶望により、ファントムを増やす! 我々の目的は他にありません! それを邪魔するものは……」
突如。ファントムの言葉は消えた。何があったのかと、ウィザードと響は彼へ視線を凝らした。
やがてファントムは、胸元から突き出ている銀の刃に驚愕する。
「……こ……れ……は___
その答えを、ファントム、ベルゼバブが知ることはなかった。
刃からファントムの体へ走る、黒い文字列。それがファントムの体を、首を絞めつけたとき、その眼から光が消えた。
爆発ではない、ファントムの死。ウィザードも初めて見るそれは、灰化による消滅だった。
十秒にも満たない消滅。そして、ファントムを背後から突き刺した人物が、その姿を見せる。
「……なるほど」
可奈美と同じく、日本刀を携えた女性。
黒い服と黒く長い髪。血のように深紅の眼差しと、それに込められた殺意が特徴だった。
彼女は日本刀を降ろし、ウィザードと響へ視線を当てた。
「この気配は……マスターと、サーヴァント……」
彼女は静かに呟いた。
その瞬間、ウィザードの体に電撃が走る。
マスター。普通の人が容易くは発言しないその言葉に、彼女が聖杯戦争の参加者であると理解できる。
そしてサーヴァント。この場で、その言葉に当てはまる人物は一人しかいない。
「サーヴァントって……もしかして響ちゃん?」
ウィザードが響へ向かい合う。同時に彼女も同じ結論に至ったのだろう。ウィザードのマスクを凝視している。
「ハルトさんが……マスター?」
響も驚きを隠せないのは明白だった。
だがその隙を、黒髪の女性は見逃すはずもなかった。
「葬る!」
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