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戦国異伝供書

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第九十話 尼子家の謀その四

「よいな」
「それがしに仕掛けようとしていたのは謀反を唆す為ですな」
「間違いなくな、お主と渡辺家、坂家を煽ってな」
「兄上に対して謀反を起こさせ」
「そして互いに争わせ」 
 そしてというのだ。
「当家を弱めるつもりであったのじゃ」
「我等が共に争えば」
 家を二つに割ってとだ、元網は剣呑な顔になって述べた。
「その場合は」
「家は確実に弱まるな」
「はい、大いに」
「そうさせることが狙いであった」
「まことに危うかったですな」
「わしはお主を切るつもりはない」
 一切とだ、元就は弟に答えた。
「それは断じてじゃ」
「それがしもです、兄上に刃を向けるなぞ」
 その顔を蒼白にさせてだった、元網は兄に答えた。
「とんでもないことです」
「左様じゃな」
「ですから」
「わしのしたことは正しいと思うな」
「流石は兄上です」
 強い言葉でだ、元網は答えた。
「その知恵、お見事です」
「策は事前によく見てな」
「そしてですな」
「封じて逆にじゃ」
「仕掛けてそうして」
「手を打つのじゃ」
 自分がした様にとだ、元就は述べた。
「よいな、そして攻めてくると思えば」
「備える」
「そうする、ではよいな」
「はい、それがしも備えまする」
「お主の武勇使わせてもらう」
 元網の勇敢さと武芸、その二つをというのだ。
「よいな」
「畏まりました」
 元網は二つ返事で答えた。
「それでは」
「この度の戦も必ず勝つ、敗れれば終わる」
「毛利家が」
「尼子家は大きい」
「今や大内家と張り合うまでに」
「そこまでの家になっておるからな」
 だからだというのだ。
「その尼子家に敗れるとな」
「そのまま踏み潰されますな」
「そうなってしまう、だからじゃ」
 そうなるからだというのだ。
「ここは防ぐぞ」
「わかり申した」
「それに先程話に出したが大内家もじゃ」 
 この家のことも話した。
「安芸に攻め込むやも知れぬ、むしろ今はな」
「大内家の方がですか」
「尼子家に先に安芸を取られるよりもじゃ」
「その前に自分達のものとする」
「そうした考えで、ですな」
「それで攻めてくるやもな」
「だからな、それでじゃ」
「大内家にもですか」
「備える、しかしのう」
 元就は難しい顔になった、その顔でこうも言った。
「大内家に尼子家とな」
「当家には敵が多いですな」
「戦っておらずともな」
「敵ですな」
「うむ、我等に脅威ということを考えればな」
 それだけでというのだ。
「やはりな」
「当家にとって敵ですな」
「左様、だからな」
 それ故にというのだ。 
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