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誰が恐れるか

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第四章

「これは本気だ」
「同志を暗殺する」
「そう電報で言ってきましたが」
「はったりではない」
「本気ですか」
「あいつはそうした男だ」
 チトー、彼はというのだ。
「私がこれ以上刺客を送るならだ」
「逆にですか」
「刺客を送ってきますか」
「そうしてきますか」
「確実にな、ならだ」
 それならとだ、スターリンは苦い顔で言った。
「もういい」
「チトーについては」
「刺客を送らないですか」
「諦めますか」
「そうだ、ユーゴスラビアもだ」
 この国自体もというのだ。
「もういい、手を出さない」
「そうされますか」
「ではコミンテルンから排除し」
「それで終わらせますか」
「今の状況で」
「あの男は只者ではない」
 チトー、彼はというのだ。
「ならだ」
「もうですか」
「彼のいるユーゴスラビアには手を出さず」
「放っておきますか」
「そうする、仕方がない」
 こう言ってだった、スターリンはチトーに刺客を送ることを止めた。そして以後ユーゴスラビアに何かをすることもなくなった。
 チトーはソ連と縁を切ってから独自の政策を進めていった、その中で彼はスターリンについてこう言った。
「この国を治めることを考えればあの男なぞだ」
「恐れない」
「そうなのですね」
「そうだ、スターリンが何だ」
 こう言うのだった。
「あの男が怖くてこの国を治められるものか」
「この複雑な国を」
「血生臭い過去のある国を」
「そう思うとですか」
「スターリンも」
「何でもない、私はこの国を平和な国にする」
 ユーゴスラビア、この国をというのだ。
「その為には万難を排していくぞ」
「わかりました」
「ではですね」
「各民族の動きに目を光らせ」
「この国を治めていきますね」
「そうしていく」
 こう言ってだった、チトーはユーゴスラビアを治めていった。彼がいる間この国が乱れることはなかった。
 チトーはヒトラーと戦いスターリンも退けユーゴスラビアという国を守り抜いた、そして非情に複雑なこの国もまとめていた、そのことは歴史にある通りだ。それは彼の偉大な業績として伝えられている。恐ろしい独裁者さえ恐れなかった人物としても。


誰が恐れるか   完


                2020・1・17 
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