DQ3 そして現実へ… (リュカ伝その2)
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父らしく、父らしくなく
<海上>
辺りが闇に包まれ、甲板では夜番の水夫数名のみが作業している中、ティミーが漆黒の海を見つめ物思いに耽っている。
「よう、我が息子!悩む姿が板に付いてるな!」
そこに陽気な声でリュカが現れた…手にはワインと、2つのグラスを持って。
「い、いえ…悩んでいる訳では…」
生真面目に返答するティミー…彼らしいと言えば彼らしい。
そんな息子を見て苦笑しながらグラスを渡すリュカ。
「と、父さん!お酒は………」
自らのグラスにワインを注ぎ、軽く一口飲むリュカ。
「まぁ付き合えよ…僕の父さんは息子と酒を飲み交わすことなく他界したんだ………僕だって、何時ベットを共にした女性に刺し殺されるか分からないんだからさ」
「ふふふっ…そうですね」
二人とも笑いながらワインを少しずつ飲み、甲板の手摺りにもたれ海を見つめてる。
「……アルルは…良い娘だ。僕は彼女のお陰で救われた…」
「救われた!?」
「うん…バハラタ東の洞窟でカンダタに再会し、アイツが命乞いをした時に…僕はアイツを憎み、殺してやりたい気持ちでいっぱいだった!シャンパニーの塔でアイツ等盗賊団の悪行を目の当たりにして、許せなくなっていたんだ…」
「そんなに酷かったんですか………改心するなんて言葉、信じられるわけないですよね…」
「いやティミー…それは違うんだ。もし何らかの確証があり、カンダタが改心する事が確実であっても…僕はあの時殺してやりたかったんだ!」
「父さん………」
「今なら自分でも分かる。あの時、自身の欲求の為にアイツを殺そうとしたんだ!…誰の為でもなく…」
珍しく苦しそうに語るリュカに、ティミーは言葉を掛けられない…
「だからお前がアルルの事を好きになったと知った時、嬉しかった…自分の事の様にってのは言い過ぎかもしれないけど、本当に嬉しかったんだ」
先程とは一転して明るい表情になるリュカ…しかし直ぐに眉間にシワを寄せ悩み出す。
「でもねティミー…ある思考に達したら、喜んでられなくなったんだ!」
「え!?何ですか急に!?…まさか身分の壁とか言わないですよね!?」
「あ゛!?ぶっ飛ばすぞコノヤロー!身分とかそう言うの、考えた事も無い!」
ビアンカを巻き込み、この世界へ連れてきた事に激怒した時と同じ口調で怒るリュカ。
「す、済みません…」
「ふぅ…そうじゃなくてさ!お前の性格の事なんだよ…」
「はぁ?…僕の…ですか?」
「うん。お前は『バカ』が付く程真面目な性格だから、互いの住む世界が違うと言って、諦めちゃうんじゃないかなって…」
「住む世界って…やっぱり身分の事じゃ「じゃなくて!」
リュカは思わずティミーをヘッドロックする…が、力はそれ程入れてない。
「物理的に違う世界に住んでいるだろ!此処は僕等の住んでいた世界じゃないんだ!元の世界に帰ろうとしているだろ…まぁ、帰れなくても良いかなって思ってはいるけど」
「あぁ…そう言う意味ですか…済みません…」
「はぁ…お前、本当に頭堅いね……まぁいい!そこで考えた…息子の為に何が出来るか…」
リュカは其処で言葉を句切り、グラスのワインを飲み干す。
「最終的な決断はお前とアルルに任せるが、この世界に留まるも良し…元の世界に連れて帰るも良し…二人で相談して決めろ!」
「?」
ティミーはどうやらリュカの言葉を理解しきれてない様だ。
「察し悪いヤツだな…つまり、お前が自分の気持ちをアルルに伝えようとした時に、住んでいる世界が違うからと諦めないで良いように、二人同じ世界に住めば良いと言ってるんだ!」
「………はぁ………そりゃ同じ世界に住みますけど………」
ガックリと項垂れるリュカ…珍しい光景だ。
「…お前さぁ…希望はともかく、王位を継がなきゃいけないと思ってるんじゃない?」
「えぇまぁ…分かっている限りで、父さんの息子は僕だけですから…」
「じゃぁさ、アルルがグランバニアへは行きたくないって言ったら、どうするの?」
「え!?そりゃ無理強いは出来ませんよ!」
「(イラッ!)お前バカなの?」
普段とは反対で、リュカがティミーに苛ついている。
「父さんにバカって言われたくないなぁ…」
「お前がアルルに思いを告げて結婚するとしよう!」
「あ…はい…」
「グランバニアへ帰らないと王位は継げないよな!?でもアルルはアリアハンで暮らしたいって言ったらどうする!?結婚だけして、離れ離れで暮らすのか!?それともどうせ結ばれぬ運命と諦め、思いを告げずグランバニアへ帰るのか!?」
「………あ!イヤですよ!僕はアルルの事が好きなんです!諦めたくないし、離れたくもない!」
「やっと理解してくれたか…疲れた…」
リュカはワインをグラスへ注ぎ、煽るように飲み干す。
「だからさ…無理に王位を継がないでも良いって言ってるの!」
「でも…グランバニアはどうするんですか!?」
「僕個人の希望を言えば…アルルと共にグランバニアへ帰り、ティミーに王位を継いでもらいたいよ!…でも父として、息子の幸せを優先する!…僕もビアンカもまだ若いし、頑張って跡取り息子を造るのも手段の一つだし…娘の誰かを女王にするのもありだよ…何だったら、血筋なんか気にせず、やりたいヤツにやらせるのも手だと思うね!」
「そんな無責任な…」
「確かに無責任だが、お前が気にする必要は無いって事だよティミー!」
リュカは優しく微笑み、ティミーのグラスへワインを注ぐ。
「お前は自分の幸せを掴むんだ!何としてもアルルをモノにしろ!!」
「が、頑張ります!!」
顔を真っ赤に染めて決意を語るティミー。
「まぁ…告白が成功したらの話だけどね!振られるなよティミー…『ごめんねティミー!私、貴方の事は眼中に無いの!』とか言われたりして!」
「や、やめて下さいよ!…そうならない様に、その道の達人としてアドバイスはありませんか?」
「えー…僕のは参考にならないと思うけどなぁ…」
「………自覚は…あるんですね…」
「「ふふふっ……あはははは!」」
思わず笑い合う親子…
リュカは、まだ8割残っているワインボトルをティミーに渡し、船室へと戻って行く。
「ちょ、父さん…僕、こんなにいらないですよ!」
「酔っ払った振りして押し倒しちゃえよ!もしくは酔わせて押し倒しちゃえよ!」
「出来るわけないでしょ、そんな事!」
酒の恐怖を身に染みて分かっているティミー…
アルルに飲ませるなんて恐ろしくて出来ないだろう!
この晩の語らいは、ティミーの心に残る事になる。
父と初めて酒を飲み交わし、恋の助言をしてもらった事を…
父が、父らしくない事をしてくれた事を…
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