戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~
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第29節「英雄故事」
前書き
遂にやってきてしまいました、司令が唄う特訓回!
あの特訓シーンを文字に起こすの、地味に大変でしたw
そして明日はお休みします。
22時からツイキャスでプレゼンやるので、興味ある皆さんは是非、Twitterのフォローをよろしくお願いします。
ちなみにプレゼンするものは「Stay At Home With ULTRAMAN を初見でも楽しく見れる予備知識」という名のダイマですw
『明日のエースは君だ』、『小さな英雄』、『第三番惑星の奇跡』、『青い火の女』のあらすじと、各シリーズの特色を語りますので、ウルトラシリーズ大好きな皆さんはご期待ください。
推奨BGMは『英雄故事』、特にYouTubeにある初音ミクのやつをお勧めします。日本語訳と発音の両方載ってますのでw
都内某所のファミレス『イルズベイル』。
【おいしさの虜、一度入ると抜け出せない……】をキャッチコピーにしたその店の角席で、クリスは溜息を吐いた。
「はぁ……。結局、話せずじまいか……」
食後の珈琲に口をつける。
腹を割って話そうと翼を呼び出したまではいいもの、彼女は大分苛立っており、話せずじまいで終わってしまったのだ。
「どうして翼さんの名前、呼んであげないんだい?」
「ほわぁああッ!? ジュンくんいたのかよッ!?」
隣の席から話しかけてきた声に飛び退くと、そこには純が座っていた。
「そっち行ってもいいよね?」
「あ、ああ……」
純はクリスの向かいに座ると、翼が手を付けずに置いていったお冷を呷る。
「……あたし、あいつに色々ひでぇことしたしよ……」
「翼さんは気にしてないだろうし、クリスちゃんの気が済まないんだったら、謝ればいいんじゃないのかい?」
「そりゃあ、そうなんだけどよ……」
「やっぱり、恥ずかしいのかい?」
「……」
クリスは黙り込むと、ただコクリと頷いた。
「立花さんはいいのにかい?」
「ほ、ほら、あの人は……その……あ、あたしより年上だしよ……」
「ああ、なるほど……。つまりクリスちゃんにとって、翼さんは初めての先輩って事になるのか」
「……ッ!」
その一言で、クリスの顔は一気に赤くなった。
クリスが恥ずかしがるのを分かっていて、純は敢えて言葉にする。
恥ずかしかったとしても、ここでそれを認めなければクリスが前に進めない。
素直じゃない彼女の性格を分かっているからこそ、本音を暴いて言葉にする。
そうやってクリスが一歩を踏み出すのを手助けするのも、自分の役目だと自負しているからだ。
「その気持ち、翼さんにちゃんと伝えた方がいいと思うよ」
「でもよ……」
「別に、今すぐじゃなくてもいい。でも、出来るだけ早い方がいいと思うよ。来年の3月には翼さん、リディアンを卒業して、イギリスに行っちゃうんだからさ」
「うっ……」
クリスはしばらく目を泳がせ、俯き、暫く唸ると、溜息を一つ吐いた。
「わかったよ……頑張ってみる。何も言えないまま別れるなんて、もう嫌だもんな……」
「うん」
窓の外を見つめるクリスの眼差しが揺れる。
別れも感謝も告げられぬまま、会えなくなってしまった人がいる。
そんな人達の事を思い出しているのだろう。純はそれ以上は何も言わなかった。
「……このパフェ、注文しちゃっていいかな?」
「ジュンくんもパフェとか食べるんだな」
「まあね」
ff
翌日早朝、二課仮説本部発令所。
「これは……」
響は弦十郎から渡された通信機に首を傾げる。
「スカイタワーから少し離れた地点より回収された、未来くんの通信機だ」
「……ッ!」
「発信記録を追跡した結果、破損されるまでの数分間、ほぼ一定の速度で移動していたことが判明した」
「……え」
モニターに発信機のGPS記録が表示され、響は顔を上げる。
「未来くんは死んじゃいない。何者かによって連れ出だされ、拉致されたと見るのが妥当なとこだが……」
「師匠! それってつまり……ッ!」
「こんなところで呆けてる場合じゃないってことだろうよッ!」
「響ッ!」
「うんッ!」
響と翔が顔を見合わせ、翼とクリス、純が胸を撫で下ろす。
純の予想通り、未来は生きていたのだ。
「さて、気分転換に身体でも動かすか?」
「──はい!!」
弦十郎に頭を撫でられながら、響は元気よく返事した。
(そうだ……俯いてちゃダメだ。わたしが、わたし達が未来を助けるんだッ!)
数分後、ジャージに着替えた響達は、弦十郎と共に基礎訓練のランニングを始めていた。
……弦十郎が古いカセット式のウォークマンで再生しながら口ずさむ、昔のアクション映画の主題歌と共に。
「憑自我 硬漢子 挨出一身痴──」
「何でおっさんが歌ってんだよ! ってか、そもそもコレ何の歌だ? 大丈夫か?」
「英雄故事。ジャッキーチェン主演、ポリス・ストーリーでジャッキーが歌った主題歌だ。ちなみに意味は……」
「いや、そこまで聞いてねぇよ!」
100パーセント弦十郎の趣味な選曲に加え、翔の長くなりそうな解説に、ダルそうに走っていたクリスは思わずツッコミを入れる。
「翔、これ歌えるの?」
「日本語訳もいけるぞ?」
そう言って翔は合いの手を挟むように、歌詞に日本語訳をねじ込み始めた。
「生命 作賭注 留下了 英雄故事」
「命をかける、それがヒーローだ!」
「ったく、慣れたもんだな……」
「まあまあ、いいじゃないか。体鍛えながら中国語勉強できると思えば、一石二鳥だろう?」
「ジュンくん、それ流石に厳しい」
仲間たちと共にランニングする中で、響の気持ちが前を向いていく。
(そうだ。うつむいてちゃダメだ。私が未来を助けるんだ!)
「憂患 見骨氣「「昂歩顧分似醒獅」」
「俺の魂は獅子のように強いッ!」
弦十郎のテノールに、響の声も加わる。
更に翔が合いの手の如くねじ込んでくる日本語訳は、もはや師弟が一体となって奏でる一つのシンフォニーと言えるのではないだろうか?
「「跨歩上 雲上我要去寫……」」
「前を向け! 天に届く夢を持てッ!」
「「「──名字ッ!」」」
師弟三人による英雄故事に盛り上げられ、ランニングの後も修行は丸一日かけて続いた。
「よ……ッ! ほ……ッ!」
棒にぶら下がりながら、下に置かれた二つの水瓶それぞれに入った水を、両手に持った猪口に汲んで上体を起こし、戻す際に水を汲み替える修行。
「はッ! ……はッ!」
「これもまた、剣としての──ッ!」
縄跳び。空気椅子(膝、肩、頭に水入りの茶碗)、肉屋の冷凍倉庫で凍った生肉をサンドバッグにしてのスパーリング。
「あ……これ、美味いな!?」
「どうしてミルクセーキ?」
「昔は生卵をジョッキで飲んでたんだけど、あれ健康的にはあまりよろしくないらしくて……。だから牛乳加えて加熱したミルクセーキの方が飲みやすいしいいんじゃないかって、叔父さんに提案してからは、俺が作ってるってわけ」
「おかわりーッ!」
日本アルプスを登り、翔特性のミルクセーキをジョッキで飲み干し……。
訓練の締めに、一同は頂上のロッジの前で夕日を眺めていた。
「ふぅ……」
「どうだ? たまには初心に返って基礎訓練をするのもいいものだろう」
「やっぱり叔父さんとの修行は身になるなぁ~」
「ありがとうございます、師匠ッ!」
「うむッ!」
翔と響はこの修行を心から楽しんでいたらしく、夕日に向かってガッツポーズしている。
「……未来、待ってて。今度は必ず、わたしが未来を助けるからッ!」
「そこは“わたしが”じゃなくて、“わたし達が”だろ?」
「うん、そうだねッ! わたし達で、未来を助けるんだッ!」
一方、純とクリスはと言うと……。
「はぁ、はぁ……やってられねぇ」
「おつかれ、クリスちゃん……。いや、これ、思ってた以上にキツイな……。翔や翼さんは慣れてるみたいだったけど……」
クリスは地面に大の字で寝転がり、純はその隣に腰を下ろして夕日を眺めていた。
「でも結構効いてる実感はあるんだよね……。ジム通いよりは練度上がりそう……」
「定期的にこれ全部やるのはごめんだけどな……」
そして、翼はというと……。
(……翔も、立花も、雪音も爽々波も、誰も彼もが笑っていて、温かいこの場所。……でも、わたしはみんなを……この国を護るには、余りにも弱すぎる……。やっぱりわたし一人じゃ……奏……)
沈みゆく夕日に、あの日を思い出しては瞳を曇らせていた。
剣としての毅然とした顔の裏に隠した弱さを、翼は誰にも見せられない。
何故なら彼女は……この国を護る兵、防人なのだから。
ff
「りんごは浮かんだ お空に りんごは落っこちた 地べたに──」
エアキャリア内、格納庫。
破損したセレナのペンダントを見ながら、マリアはAppleを口ずさむ。
「星が生まれて う──……どうしたの?」
視線を感じて顔を上げると、檻の中から未来がこちらを見つめていた。
「いえ……。……ありがとうございました」
響が落下していった直後、未来の前に現れたのは、ガングニールで天井を突き破って進んできたマリアだった。
「……ッ!」
見つめ合う二人。
またタワーが大きく揺れる。
「ッ! お前……」
上がってきたツェルトが驚いていると、マリアは未来へと手を伸ばした。
「死にたくなければ来いッ!」
「…………──ッ!」
未来は一瞬躊躇ったものの、マリアの手を取る。
マリアは未来とナスターシャ教授を抱えてタワーから脱出する。
ツェルトもそれに続き、タワーを飛び降りた。
直後、タワーの展望デッキは爆発。
響達は気付いていなかったが、落下している間に未来は助け出されていたのである。
「……どうして、私を助けてくれたのですか?」
「さぁ……逆巻く炎にセレナを思い出したからかもね」
「セレナ?」
首を傾げる未来。
そこへ……。
「マリアの死んだ妹ですよ」
「……ドクター」
ウェル博士がやって来た。
「この子を助けたのは私だけれど、ここまで連行する事を指示したのはあなたよ。一体何のために?」
「もちろん、今後の計画遂行の一環ですよ」
そう言ってウェルは、檻の前へとしゃがむ。
「そんなに警戒しないで下さい。少しお話でもしませんか? きっとあなたの力になってあげられますよ……ふふ……」
未来に視線を合わせたウェルは、いかにも人のよさそうな笑みを浮かべた。
「私の……力?」
「そう……。あなたの求めるものを手に入れる力です」
「……あの野郎、今度は何企んでやがる……」
格納庫の扉に耳を当て、ツェルトは苦虫を噛み潰したような顔で呟いた。
(マリアが、フィーネでないのなら、きっとあたしの中に──怖いデスよ……)
洗濯物を干しながら、あの瞬間を思い出す。
誰にも打ち明けられず、アタシの心の中で、恐怖は日に日に膨らんでいった。
「マリア……どうしちゃったんだろう」
「……え?」
隣を振り向くと、調も俯いている。
理由はきっと、昨日のマリアの言葉。
ドクターに賛同する。そう宣言したマリアの言葉を、アタシ達は未だに受け入れられていなかった。
「わたしは、マリアだからお手伝いがしたかった。フィーネだからじゃないよ……」
「う、うん……そうデスとも」
「身寄りが無くて、泣いてばかりのわたしたちに優しくしてくれたマリア……。弱い人たちの味方だったマリア……なのに──」
力をもって貫かなければ、正義を成す事など出来やしない。
その言葉がマリアの本心でないことくらい、二人とも分かっている。
あのツェルトが最後まで認めなかったんデス。
間違いなくマリアは、自分の心に嘘ついてるデス。
それでも……それは、マムが諦めてしまった人類の救済を実現させるため。
それが分かっているからこそ……歯痒いデスよ……。
「……調は怖くないデスか?」
「え……?」
今度は調がアタシの方を向いた。
「マリアがフィーネでないのなら、その魂の器として集められたあたしたちがフィーネになってしまうかもしれないんデスよ……」
「よく……わからないよ」
「……それだけッ!?」
「どうしたの?」
「──ッ」
これ以上は、調に隠し事をしているとバレてしまう。
アタシは洗濯物を置いて、その場から逃げるように走り去る。
「切ちゃん!」
後ろの方で調が呼んでいたデスが、アタシは立ち止まらずに走った。
部屋へ戻ると、膝を抱えて座り込む。
「アタシがアタシでいられなくなったら……アタシは、調に忘れられちゃうデスか……?」
想像するだけで、震えが止まらない。
もしもアタシが消えてなくなって、世界も滅びてしまったら……アタシが生きていた証は何処にも残らなくなってしまうデス……。
「……だったら……せめて、そうなる前に……」
机に向かって座ると、適当な大きさの紙に握ったペンを走らせる。
これからきっと、戦いはどんどん激しくなる。
あの力まで使えるようになっていたという事は、アタシの中のフィーネは近いうちに必ず目覚めるはずデス……。
だったら、そうなる前に──
【はいけい、みなサマへ……】
皆への感謝を、書いて残しておかなくちゃ。
それがきっと、アタシが生きた証になるのデスから……。
そう、みんなに内緒の……お手紙デス。
後書き
ピーカンな空にシュワシュワな噴水のシャワー……(ボソッ)
メンチッ!といいこれといい、今回はシリアスあるのにネタでもある回になってしまったなぁ(笑)
翔くんの合いの手は、節と節の間にねじ込むように入れてください。
あとミルクセーキの降り、生卵を飲むメリットで検索したところ、サルモネラ菌やら細菌類がお腹で暴れる可能性、そして卵白は加熱しないと卵黄の栄養の吸収を阻害してしまうとかで、健康にはあまり宜しくないらしく、加えてクリスが飲めずにジョッキを落とす程の飲みにくさを鑑みると、翔くんなら絶対ひと工夫してくるなと判断しての描写にしました。
次回で新章かな。多分アドルフ博士がまた株を上げてしまう。何だこの人(汗)
アドルフ博士、XDでの評価を覆したどころか最近なんか原作出演ヅラし始めてません?w
シンフォギアまだハマったばかりの読者さん、この人スマホゲーのイベ限シナリオにしか出てこないゲームオリジナルキャラの人だからね!?
アニメには1ミリも出てこない人だからね!?
立場的にこの辺で出番増えるのは必然だったけど、思った以上に人気出たのも理由かも……。
多分九皐叔父さんや凪先生も、皆の声次第で出番増えますねこれw
それでは次回もお楽しみに。
閃光……始マル世界……うっ、頭が……()
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