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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Saga6-B遭遇~Huckebein 1~

 
前書き
原作においてはなのは達魔導師や騎士に対して魔導殺しとして強者感を出していたフッケバイン。
そんな彼らの視点から、天敵であるシャル達特騎隊の恐ろしさを確認するために考えていた今話でしたが、文字数の関係で戦闘は次話に持ち越しです。 

 
自称フッケバイン一家(ファミリー)。その存在は10年も前から確認されており、数々の殺人や強盗などの罪を犯し続ける非道な犯罪集団として広域指名手配されている。管理局が現在確認しているフッケバイン関連での情報は以下の通りとなっている。

・フッケバインのメンバーは体のどこかに羽のような刺青をしており、sのことからメンバーの凶暴・凶悪性などから通称“凶鳥”とも称されている。

・次元間航行も可能とする航空艦船、飛翔戦艇“フッケバイン”を本拠地として移動し続けているため、その足取りを掴むことが困難である。さらに管理世界間の政治的理由や条約、フッケバインと取引をしている管理外世界との軋轢などの事情、フッケバインの戦力などが理由となり逮捕を難しくしている。

・飛翔戦艇“フッケバイン”は、現行の最新鋭管理局艦船をも凌駕する性能を誇り、管理局艦船に搭載される兵装の中でも屈指の殲滅力を有する“アルカンシェル”すらも防ぐことが可能な防御力を有する。

・古代ベルカ戦乱時代にて存在していたエクリプスウイルスなるものに、フッケバインのメンバーは感染している。

・エクリプスウイルスの感染者は、感染→発症→適合→病化というプロセスを辿る。病化とはすなわち肉体の兵器化を指す。

・ディバイダーと呼ばれる質量兵器を所有している。ディバイダーが稼働中、感染者の周囲にはAMFに似たような領域が出来、魔力結合分断によって魔法効果を無力化することが出来る。それゆえに魔導殺しと称される。

・適合以降の感染者は、個人差はあるが肉体が損傷・欠損したとしても元通りに修復・再生されるという症状が出る。ウイルスが感染者――宿主を何としても生き残らせるために肉体を変異、兵器化させた副次効果とされる。

・感染者は高速再生や硬質化など、それぞれの病化特性を有する。

・病化の傾向によっては感染者は一般的な攻撃に対しては不死身となる。

・感染者を殺害する手段は現状では判明しておらず、脳か心臓を物理的に破壊すればいいのでは?という仮説しかない

・現状では感染者を治す術はない。

そんなフッケバインは今、“フッケバイン”で第7管理外世界ダーハへとやって来ていた。ダーハの文明レベルはさほど高くなく、農業・林業・漁業、牧畜などで暮らす人々の世界である。魔法の文化はあるが、第1世界ミッドチルダを始めとした先進世界には格段に後れを取っている。そんなダーハやって来たのには理由があった。

少し時間を遡って半日前。
“フッケバイン”の居住区の一画、壺や絵画などの調度品が飾られたリビングルームに、1人の幼女がトテトテと入ってきた。フッケバインのメンバーの証である羽根の刺青は、エプロンのポケットに刺繍として描かれている。

「おや、そんなに慌ててどうしました、ステラ?」

幼女をステラと呼んだ青年に、ステラは手振り身振りで何かを伝えようとする。相槌を打っていた青年は「そうですか」と1つ頷いた後、リビングのソファで寛いでいる少女の方を見て、「アル、アルナージ、ちょっと・・・」と呆れた声色で名前を口にした。

「んぁ? んだよ、フォルティス。この肉はあたしんだ、やんねぇぞ」

少女アルナージは2つの骨付き肉を両手に持って交互に食べていた。彼女は青年フォルティスとステラの視線を受けて、持っていた肉や脚の短いテーブルの上に載っている料理を両腕で囲おうとした。

「それです、アル。ステラが言うには残りの食料が心許なく、そろそろ補給が必要そうだと」

「お前が食い過ぎなんだよアホ」

「ヴェイロン、あなたもお酒を飲み過ぎです」

「ほらー! ヴェイ兄だって飲みっぱなしじゃん! あたしだけが悪いわけじゃねぇ!」

「お前よりかはマシだ」

テーブルを挟んだもう1脚のソファに座って缶酒を呷るガラの悪い男ヴェイロンに、アルナージも言い返した。そんな彼らの様子を部屋の片隅でのんびりワインを嗜んでいた褐色肌の女性が「近くに補給できる世界はあるのか?」と尋ねた。

「ええ。第7管理外世界ダーハが近くにあります。魔法文化はありますが文明レベルは高くないので、こちらに損害はまず出ないでしょう。が、最も文明が栄えているネツァッハ首長国は人語を解すドラゴンが統治しているそうですよ。その強さもなかなかのものだとか。何年か前に管理局が管理世界入りを進言したそうですが、それを断ったことで今なお管理外世界の1つですね」

「ドラゴン? そいつはまた殺し甲斐がありそうじゃねぇか。最近は雑魚ばかりしか殺ってねぇからな、そろそろ楽しめる殺しがしたかったんだ」

「よせ、ヴェイ。わざわざケンカを売る必要はない」

「サイファーの言う通りですよ。僕らが殺しをするのは依頼や報酬があるとき、武器を向けられたとき、僕らの目的の障害となるとき、僕ら感染者が生きるのに必要なとき、そうでしたよね? まぁ強奪の邪魔をする住民くらいなら殺しても構いませんが」

女性サイファーとフォルティスから窘められたヴェイロンは舌打ちし、「わぁってる。で? 誰が奪いに行くんだ?」と新しい缶のプルタブを開け、ぐいっと酒を呷った。

「そうですね~。最近、殺戮衝動が辛いという人はいますか? エクリプスウイルスに感染している以上、殺戮衝動からは逃れられませんからね」

フォルティスの口から出た殺戮衝動。それは管理局もまだ掴んでいない情報の1つだ。エクリプスウイルスに感染すると、感染者は肉体的・精神的な苦痛を伴うようになる。まともな精神と生命を正気に保つためには、人を殺し続けるしかないという副作用がある。フッケバインが殺人を行っている理由がソレだった。

「俺はこの前、ケンカを売ってきた馬鹿どもを殺った」

「あたしもナンパ達が鬱陶しかったからシメた」

「僕もこの前の食料調達で結構殺しましたしね」

「私もフォルティスと共に斬った」

ヴェイロン、アルナージ、フォルティス、サイファーと続き、フッケバイン最年少のステラは手振りで殺戮衝動に陥っていないことを伝えた。今すぐにでも殺人を行わないといけないレベルのメンバーは居らず、誰が強奪に行くかを決める方法は話し合いへ・・・。

「そういやさ、ビル兄は? いつもの筋トレ中?」

アルナージが誰にとも言わずに聞くと、「ええ、確か。ドゥビルはそう言えば最近、艦を降りていないですし、少しお願いしてみましょう」とフォルティスが通信を開く。

『どうした?』

空間モニターに映し出されたのは筋骨隆々とした半裸の男ドゥビル。フォルティスは彼に殺戮衝動が起きていないかを尋ねると、『今のところは問題はない』とドゥビルは答え、そして突然の問い掛けに疑問を持ち、何故そんな質問をしたのかと聞き返した。

「アルとヴェイロンが食料やお酒を消費しすぎたので、その補給を誰に頼もうかという話で」

『そうか。なら俺が行こう』

「助かります。・・・ヴェイロン、サイファー。君たち2人もお願いします」

「別に文句はねぇけど、なんで原因のアルが残るんだよ」

「アルのディバイダーは派手ですからね。下手に暴れて増援を呼ばれ、時間を掛けるのもバカバカしいですから」

「そういうわけで! ヴェイ兄、ビル兄、サイ姉! よろしく!」

アルナージの陽気な態度にヴェイロンは「チッ、しゃあねぇ」と頭をガシガシ掻いて、サイファーは「フッ」と小さく笑い、ドゥビルは無言のままで小さく頷いた。

「では僕はこの事をカレンに伝えておきますので、3人は準備を済ませておいでください。ステラは艦をダーハへ進ませてください。カレンも、食料調達となれば艦の移動も許してくれるでしょう」

フォルティスに敬礼してリビングを飛び出していくステラに続いて、ヴェイロンとサイファーもリビングを後にし、ドゥビルも通信を切った。残されたアルナージは食事を続け、その様子に苦笑いするフォルティスは、今は別行動中のカレンというメンバーに通信を繋げ始めた。

『はいはーい! 一家(みんな)のお姉ちゃん、フッケバイン一家首領カレン・フッケバインです!』

モニターに映るのは露出の激しい若い女性カレン・フッケバイン。彼女が言っているようにフッケバイン一家のリーダーである。カレンの背後にはさらに4人が居り、何やら話し合っている様子だ。

「おお! ライ兄、カイ兄、グラン兄、ロン姉も一緒なのか! おーい!」

アルナージがカレンの後ろの4人に手を振ると、4人が反応するより先にカレンが『あれー? アル~? お姉ちゃんへの挨拶は~?』と、ニコニコと笑顔を浮かべた。

「お、おう・・・。カレン姉、ちょっとぶり!」

『はい、よく出来ました♪ ライカン、カイロン、ロンシャン、グランダム! 挨拶!』

『『カレン姉さん。そんな昨日今日会ったばかりの関係じゃないんだから、きっちりとした挨拶なんて要らないんじゃないか?』』

声がシンクロしたのはライカン、カイロンの20代後半くらいの双子兄弟。兄ライカンは金髪ロングヘア、真っ白なシャツとスーツ姿。フッケバインの刺青は右手の甲。弟カイロンはロングの金髪をポニーテールにしていて、サメの歯が描かれた防塵マスク、真っ赤なシャツとスーツ姿。刺青は左手の甲。

『まあまあ。ちょっとぶり、アル。相変わらず暴飲暴食な生活してるの? 女の子なんだからちょっとは気を付けなさいよ?』

妹扱いしているアルナージにそう注意したのは、20代前半くらいの女性ロンシャン。キャミソール、ショール、ロングスカートという格好をし、刺青は胸元にある。アルナージはロンシャンの言葉に対して『いいじゃねぇか、あたしゃ太らないんだしさ!』と細い腹をパンパンと叩いた。

『・・・帰ったらその腹を摘まむ』

普段からスタイルに気を付けているロンシャンにとっては許せないセリフだったことで、こめかみを若干ひくつかせた。

『おい! そこにヴェイロンは居るか!? あの野郎、俺の部屋から盗んで勝手に飲んだ秘蔵の酒をちゃんと調達し直しただろうな! カレン達と一緒にこれから帰るから、調達してなかったらぶっ殺すって伝えとけ!』

挨拶ではなくヴェイロンへの怒りを爆発させるのは、ドゥビルと同じくらいに筋骨隆々とした30代前半くらいの男グランダム。フッケバインの刺青が彫られたスキンヘッドにサングラス、インナーは着ずに龍が刺繍されたTシャツ、虎が刺繍されたハーフパンツにサンダルというラフな恰好だ。

「お、おう・・・グラン兄、ヴェイ兄は今ちょっと出かける用意してんだけど・・・」

『かぁー! 出かけるってどこだよ!』

『グラン、ちょっと待って。出かけるってなに? そもそも今回の通信はどういった理由?』

「それは僕から話します。実は・・・――」

食料の備蓄が少なくなってきたことで、最寄の管理外世界に赴いて調達するために“フッケバイン”の移動および行動の許可をもらおうとしたことを伝えたフォルティス。カレンは『あはは! そろそろそんな頃になると思ってたよ!』と大笑いした後、食料調達の許可を出した。

『私たちもダーハに向かうから、そっちで合流しようか!』

「判りました。ヴェイ達に伝えておきます」

『あぁ、あとネツァッハ首長のドラゴンが出張ってくるような面倒を起こさないように言っておいて。管理外世界だからね。いずれ取引相手になるかもしれないしね』

通信はそれで終わり、フォルティスは「さて。僕はステラの側に付きます。アルは食べかけを処理してください」とだけ告げ、リビングより出ていった。

・―・―・―・―・

第7管理外世界ダーハの地へと降り立ったヴェイロン、サイファー、ドゥビルは、“フッケバイン”から持ち出した移動用のバイクを駆り、首都アガダーの側の平原にやって来た。城壁都市であるが、ヴェイロン達であれば守衛を殺して無理やり入ることが出来、城壁に穴を空けることも飛び越えることも可能だ。

「で? どうする? 適当に殺し回って奪うか?」

「いや。この文明レベルならば、馬車で移動する隊商が街と街の間を移動するだろう。街に入る前に潰してしまえばいい」

「馬はどうする? 俺は乗れんぞ」

「馬肉はアルが喜ぶだろう。殺して持って帰ろう」

「かったりぃな。・・・ま、姉貴が面倒を起こすなって言ってんだから従うけどよ」

バイクのシートに跨ったまま、首都と他の街を繋げる街道を双眼鏡で見張る。そう時間も空けずに大きな荷台を持つ馬車3台が、首都に向かって駆けているのを見つけ、バイクを走らせた。
馬車の御者台に座って馬の手綱を握っている男は、見えてきた首都にホッと一息ついた。
守銭奴であるため護衛を雇う出費を嫌がり、自分が護衛を兼任すればいいと騎士に弟子入りしたこともある彼だったが、実戦の経験がないため緊張しっぱなしだった。しかし盗賊に襲われることなく無事に首都の目の前にまでやって来られたことで、気が緩んだ。

「ん?・・・おい、誰だ、道の真ん中で突っ立って。文句言ってやらねぇとな」

手綱を引いて馬の足を止めると、子飼いの弟子が操る後ろの馬車も止まった。弟子たちが「どうしました!?」と男に駆け寄ってきた。男は剣を携えると弟子たちも剣を携えて、道の真ん中に突っ立っている3人、ヴェイロン、サイファー、ドゥビルの元に「おい、邪魔だ! さっさと退け! さもなくば斬るぞ」と文句を言いに行った。

「はっ! やってみろクソカス!」

ヴェイロンの右手に、“928”と刻印された刃の付いた上下二連の散弾銃が出現した。それこそが魔導師に対する絶対的なアドバンテージとなる“ディバイダー”と呼ばれる武装だ。
突然出現した武器に驚く男と弟子たちだったが、銃という物を見たことがないため刃にだけ注意を向けて、「へ、へへ! そんな変な剣で戦えると?」と剣を構えた。

「言ってろ」

――バードショット・シェル――

ヴェイロンは銃口を男たちに向けて“ディバイダー928”のトリガーを引くと、銃身部の周囲に生み出したエネルギー弾を散弾として発射。男たちは自分たちがどんな攻撃を受けたかも理解できず、バラバラに吹っ飛んで絶命した。それと同時、銃声と爆発音と衝撃によって馬たちが興奮状態になって一斉に走り出した。

「チッ!」

「待て、ヴェイ。お前のディバイダーでは食べる部分も粉々になる。私が処理しよう」

サイファーが携えているのは一振りの刀。鞘から解き放たれた刀には“944”という刻印が刻まれていることから、ソレも“ディバイダー”であることが判る。サイファーは突進してくる荒れ狂う馬を真っすぐ見据え、“ディバイダー944”を一閃。馬は一瞬で4本の脚と首を切り落とされ、馬車はこの中で最も力のあるドゥビルが押し止めた。サイファーはさらに他の2頭も同じように処理し、2台の馬車もドゥビルが止めた。

「中身は・・・ほう、肉と野菜と魚介類か。わざわざ氷結魔法で鮮度を保つようにしているな。ヴェイ、ディバイダー起動中に触れるなよ」

「わぁってる。・・・だがこれだけじゃ足んねぇな。もうちょい殺るか」

男たちの死体はヴェイロンの散弾で消し飛ばして処理。馬の死骸は食用として荷台の御者台に乗せられた。ヴェイロン達はバイクで馬車を牽引して一度現場を離れた。そして“フッケバイン”から転送された森の中に荷台を置き・・・

『では馬車をこちらに転送します。引き続き食糧調達に励んでください』

荷台の転送を見届けたことで再び街道の見張りに戻ったヴェイロン達は、そこからさらに2つの隊商を襲撃し、計48人を殺害。奪った馬車は17台。食料も十分調達できたことで、ヴェイロン達も「次で最後にするか」と考えていた。その最後の標的となる3台の馬車が首都に向かっているのを発見。早速バイクを走らせ、隊商の行く手に停車させた。

「な、何者だ貴様ら!」

「賊だ! 客人と荷を護れ!」

ヴェイロン達を轢かないように停車した先頭の馬車の御者台に座るのは男2人。身形の良い男はヴェイロン達の素性を問い質し、手綱を握っているもう1人は革製の鎧を着た男は、荷台の幕に向かって叫んだ。すると荷台から武装した男たちがわらわらと降りてきて、ヴェイロン達と相対した。

「わけのわかんねぇ格好しやがって!」

「どこの国のモンだ、あ゛あ゛っ!?」

「痛い目に遭う前に道を開けろ!」

「聞いてんのかコラ!」

血の気の多い隊商の護衛を務める傭兵たちは、涼しい顔で無視をしているヴェイロン達の態度に「もういい! 殺せ!」と武器を構えた。対するヴェイロンも“ディバイダー928”を、サイファーも“ディバイダー944”を、そしてドゥビルも片手斧の“ディバイダー695”を構えた。

「待ってください!」

ヴェイロンが今まさにトリガーを引くかどうかというところで、女性の声で静止が掛かった。声の出どころは2台目の荷台の中。3台の御者台に座る馬車の持ち主たちや傭兵たちがそちらに目を向け、ヴェイロン達も攻撃することなくその様子を見ている。

「いけません、神官様方! あの者ども、妙な服装や武器を持っております!」

「問題ありません」

「我らヴァラール教の主、それに・・・」

「ネツァッハ首長国の竜王様のご加護が守ってくれます」

荷台の後ろから聞こえてくる女性神官2人、男性神官1人の“主”や“竜王”という単語に、ヴェイロンは「能天気すぎんだろ」と鼻で笑い、サイファーは呆れの溜息、ドゥビルは「くだらん」と断じた。

「私たちが彼らを抑え込みますので、皆さんは先に首都へ向かってください」

「しかし! 我々傭兵は、積み荷だけでなく神官様たちの護衛も仕事として・・・!」

「私たちは、相乗りをお願いした身。どうかお気になさらず」

「傭兵団の皆さんは本来のお仕事に戻ってください。首都はもう目と鼻の先なので、ここからは歩いていきます」

「ですが! 神官様方を置き去りにするなんて! 傭兵である前にヴァラール教の信者としても出来ません!」

そんな問答にとうとうしびれを切らしたヴェイロンは「おい!」と怒鳴った。それで相対している傭兵たちはバッと武器を構えなおした。再び一触即発になるが、「ごめんなさい。わたし達3人の方が、皆さんより強いので」と、傭兵団にとっては身も蓋もないことを言った女性神官の言葉を詰まらせる傭兵のリーダー。

「高神官様の神の御業ですね。・・・判りました。首都でまたお会いしましょう。お前ら、荷台に乗れ! 馬車の護衛に戻るぞ」

リーダーにそう言われては傭兵たちも黙って従うしかなく、武器を下ろして踵を返した。もちろん、それを黙って見逃すほど優しくはないヴェイロンは「積み荷と命は置いてけ」と“ディバイダー928”のトリガーを引こうとした。

――閃駆――

その瞬間、ヴェイロンの目の前に祭服を身に纏った女性神官が現れた。そして鞘に収められたままの刀を振り上げ、“ディバイダー928”を空に向かって弾き飛ばした。

「んだあ!?」

「でりゃあああ!」

女性神官は振り上げていた鞘をヴェイロンに向かって全力で降り下ろし、「ぐごぉ!?」地面に叩き伏せた。とここで、サイファーとドゥビルも女性神官へ“ディバイダー”を振るおうとしたが・・・。

――鉄兵風馳――

額から翠色に輝く結晶角を生やした女性がドゥビルの前に出現し、暴風を纏わせた拳による拳打、「風塵拳殴!!」を彼の腹に打ち込んで「ぐはっ!?」十数mと殴り飛ばした。

――屈服させよ汝の恐怖(コード・イロウエル)――

「な゛っ!?」

遠くに離れたままの男性神官がサイファーに左の人差し指を向けた直後、彼女の足元にサファイアブルーの円陣が描かれた。円から白銀のレンガで組まれた拳が突き出してきて、サイファーを空高くにまで殴り飛ばした。

「さあ! 今のうちに!」

男性神官の合図を受けて3台の馬車は駆け出し、御者台の男たちや傭兵団が「首都で待っています! ご武運を!」と、片方の手の甲に十字を切ってから祈るように指を組んだ。馬車を見送った神官たちは、咳き込みながらも立ち上がろうとしているヴェイロン、空から落ちてきてはいたがしっかり着地したサイファー、こちらに向かって歩いて戻って来ているドゥビルをそれぞれ一瞥。

「数字が刻印された武器・・・。あなた達、フッケバイン一家ってことでいいんだよね?」

鞘の先端をヴェイロンに突き付けた女性神官がそう尋ねると、ヴェイロンは「てめぇ、この世界の人間じゃねぇな・・・!」と睨みつけた。その問いに女性神官が答えるより早く、サイファーが「その顔、見覚えがあるぞ」と言い、ドゥビルも「俺もだ。・・・管理局の人間だな」と続いた。

「時空管理局本局、脅威対策室直属特務零課――特騎隊隊長、イリス・ド・シャルロッテ・フライハイト」

「同じく、副隊長ルシリオン・セインテスト」

「同じく! ミヤビ・キジョウ!」

祭服から騎士甲冑へと変身した神官、イリスとルシリオンとミヤビ。管理局最強とされる剣士イリスと相見えたサイファーは嬉しそうに「ほう!」とほくそ笑み、ヴェイロンは「おもしれぇ!」と歓喜の声を上げ、ドゥビルは「ここは管理外世界だぞ」と疑問を口にし、それぞれ“ディバイダー”を構えた。 
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