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戦国異伝供書

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第八十八話 初陣その十一

「これだけしかおらん」
「普通に考えますと」
「戦にならん」
「兵の数が違うので」
「左様、しかしな」
 元就は強い声で述べた。
「わしの考えは変わらん」
「そこをあえてですな」
「攻める、ここで武田家の軍勢を討たねばな」
「有田城を攻められて」
「攻め落とされてな」
 そうしてというのだ。
「猿渡城に迫られる」
「だからですな」
「ここはな」
「今より戦い」
「勝ち」
 そしてというのだ。
「この戦自体を終わらせる」
「その様にしますな」
「寡兵でも勝てる」
 元就の声の調子も変わらない、強いままだ。
「これより攻めるぞ」
「敵はもう守りを固めておりまするな」
「我等に対して」
「やはり攻めてくるとですか」
「そう考えていますな」 
 ここで志道以外の家臣の者達が言ってきた。
「城の方にもですが」
「こちらにもですな」
「柵をもうけております」
「そして堀も掘っております」
「よい、あの程度なら抜けられる」 
 その柵や堀を見ての言葉だ。
「何でもない」
「だからですか」
「このままですか」
「敵を攻めますか」
「そうしますか」
「うむ、そしてな」
 元就は敵兵達の中に一人の大男を見た、先程の戦で彼がしかと見た者だ。その者は誰であるかというと。
「熊谷もおるわ」
「ですな」 
 元網もその男を見て言う。
「あれは」
「こちらに戻ってきてな」
「将の一人として采配を振るっておりますな」
「流石よ」
 元就は思わず感嘆の言葉を漏らした。
「祖先の名に恥じぬわ」
「あの熊谷殿の」
「うむ」
 まさにというのだ。
「それに相応しい」
「祖先の名を背負うだけの御仁ですな」
「間違いなくな、だがな」
「その熊谷殿もですな」
「討ち取る」
 元就は強い声で言った。
「そうするとしよう」
「これより」
「そしてな」
「武田家にもですな」
「当主殿ご自身が出陣されておる」
 その武田家のというのだ。
「それだけにな」
「この度の戦は」
「何としてもな」
 まさにというのだ。
「勝つ、よいな」
「ご当主殿が出陣している相手に勝つ」
「このことは大きい」
「確かに。では」
「これよりじゃ」
 まさにというのだ。
「全軍で攻めると」
「わかり申した」
「お主にもじゃ」
 元網にも言うのだった。
「来てもらうぞ」
「それでは」
「ここは一気に攻める」
 まさにというのだ。
「兵の数を勢いで押し返す」
「そうしますな」
「だから止まればな」
「そこで終わりですな」
「左様、そこは心得よ」
「わかり申した」
「では」
 志道も言ってきた。
「行きましょうぞ」
「これよりな」
 元就は馬を進ませた、それに他の者達も続く。元就の初陣はいよいよ正念場を迎えようとしていた。


第八十八話   完


                    2020・3・1 
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