戦国異伝供書
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第八十八話 初陣その八
「また進ませるのじゃ」
「そうするのですな」
「ただ速く進むだけでなく」
「休ませることもさせるのですな」
「しっかりと」
「そうすればよい、だからこそここまで皆ついて来られた」
兵達は誰もついて来れなくなることなく、というのだ。元就は家臣達に会心の笑みを浮かべて語った。
「これからはこうしていく」
「速く進もうともですな」
「しっかりと休み飯も食う」
「水も飲ませる」
「そうしていくのですな」
「そうすれば誰も落ちぬし」
元就は兵達の顔を見た、それで今度はこう言った。
「満足に戦える、皆よい顔をしておろう」
「はい、確かに」
「元気ですな」
「英気のある顔をしております」
「誰一人疲れた顔をしておりませぬ」
「これはよく戦えますな」
「疲れた兵では戦えぬ」
到底とだ、元就は語った。
「ましてや餓えているとな」
「余計にですな」
「戦えませぬな」
「そうなっては」
「到底」
「だからな」
それでというのだ。
「我等はな」
「これよりですな」
「敵の後ろに回り込み」
「そうして攻めますな」
「そうしますな」
「うむ、行くぞ」
元就は強い声で軍勢を率いてまずは多治比方面に百五十の兵を率いて向かった、そうしつつ言うのだった。
「これより民達を救う」
「といいますと」
「何かありましたか」
「一体」
「あの場に武田家の兵六百が向かい城下に火を点けて回って民達が逃げ惑っておる」
「そうしていますか」
「そうなのですか」
「今からそちらに向かってな」
そしてというのだ。
「民達を救う」
「そうしますか」
「これより」
「そうしますか」
「うむ、そうする」
こう言うが家臣達はどうかという顔になって口々に言った。
「しかしそれは」
「ここで兵を分けますと」
「どうも」
「有田の方が不安になりますが」
「それでもですか」
「行かれますか」
「民達を苦しませぬ」
元就は強い声で告げた。
「だからな」
「これよりですか」
「そちらに向かわれますか」
「そうされますか」
「是非な、すぐに戻る」
こう言ってだった、元就はまずは多治比つまり彼の領地に向かいそこで狼藉を働く者達を攻めにかかった。
その途中で彼は忍の者達から話を聞いた。
「あの熊谷家の者もか」
「はい、おられます」
「あちらには」
「あの熊谷殿のご子孫が」
「そうか、武田家の重臣である」
その熊谷家はというのだ。
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