ソードアート・オンライン~漆黒の剣聖~
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アインクラッド編~頂に立つ存在~
第二十七話 全てを穿つ必殺を持つ狼の槍
「どこだよ、ここ」
扉をくぐったシリウスの第一声がそれだった。周りを見渡すと、円状のフロアが広がり、石でできた壁が天高く聳え立っていた。ためしに壁を殴ってみるが、【Immortal Object】と表示され壊せないようであった。どうするか迷っていると、あたり一帯に地響きが響き渡ってきた。
「・・・なんだ?」
その疑問に答えるように石でできた壁の一部が崩れ、その崩れたところから石の台座に乗った獣らしきものが現れた。その異様な姿にシリウスは眉をひそめる。
「また、珍妙な奴が出てきたものだな」
出てきた獣に眼をやると、キメラだといってもいいような形をしていた。下半身はカバ、鬣と尾と上半身は獅子、頭は鰐と言った形をしている。大きさは目測だが五十メートルくらいだろう、とシリウスは勝手に結論づける。そのキメラらしきものにカーソルを合わせ名前とHPゲージを確認したところ、HPゲージは全部で十個ほど、名前の欄にはこう記されていた。
≪The Ammit≫
アメミットという名のキメラはシリウスの姿を見つけると前足を大きく振りかぶり、勢いよく叩きつけてきた。振りが大きく、見切りやすかったので簡単に回避できたが、アメミットの腕が地面を叩いた時、予想以上の衝撃波が響き渡った。しかも、それだけではなく、その衝撃波にも攻撃判定があるらしくシリウス話すすべなく喰らってしまう。衝撃波のダメージを食らいながらもアメミットの足元にもぐり込み攻撃を行っていくが、簡単に弾かれてしまう。HPは一ドットも削れておらず、弾かれたところにアメミットの攻撃が飛んできたため、急いでシリウスは後方へ退避する。
「ある意味で厄介だな・・・。たくっ、しゃぁねぇか・・・」
言葉が言い終えるのと同時にずどどどどど、などという音が聞こえてきそうなほど激しい攻撃がアミメットに繰り出していく。嵐のように繰り出されるその攻撃の勢いは疾風怒濤と言って間違いではなかったが、しかし・・・。
「おいおい、丈夫すぎるにもほどがあるだろ・・・・・」
槍で攻撃を与えながら、シリウスは呆れるしかなかった。なぜなら、怒涛の攻撃を与えているにもかかわらず、アメミットのHPは数ドットしか削れていないのだ。しかもそれだけではなかった。
「ちっ・・・」
舌打ちをしながら攻撃を中断し、回避行動に移り今いる場所を離れるシリウス。その直後、シリウスがいた場所に巨大な獅子の前足が叩きつけられた。その時に起こった余波を受けながらも体勢を崩すことなくアミメットを見据えている。防御力と攻撃力は高いが行動パターンは単調。通常、このような相手には数にものを言わせて攻略するのが当たり前なのであるが、残念ながら、今それはかなわない。
「無いものねだりしても仕方ないんだけどなぁ・・・・・」
心の内を呟きながら再び攻撃を仕掛けていく。八方塞という訳でもないが、このままでは埒が明かないと思い、怒涛の攻撃を仕掛けながらも何か打開策がないか考える。しかし、たいした案は思い浮かばなかった。いや、一つだけ可能性があるのだが、それを実行するのは少しばかりためらわれた。
「あれしかないんだろうが、あんま使いたくないんだよなぁ・・・」
うんざりしたように呟くシリウス。そんなことを言っている間にも、アメミットの単調な攻撃は続いていく。シンプル・イズ・ベストとは違うが単調な攻撃も時と場合によっては厄介極まるものだ。
「貧乏くじだな、こりゃ。誰だよ、残り物には福がある、とか言った奴は・・・」
見ず知らずの他人に理不尽極まりない言葉を述べるシリウス。実際には、残り物には福があるということわざは慰めの言葉であって、言葉通りの意味ではないのだ。しかし、そんなことをわかっていながら文句を飛ばしてしまうのは現状を見れば仕方ないものだろう。
「仕方ねぇ、か・・・」
溜息をつきメニューウインドウを開いてスキル設定画面を表示させものすごい速さで操作を行っていく。あまりにもその無防備な姿にアメミットは攻撃を仕掛けて行くが、腕を大きく振りかぶったところでシリウスのウインドウ操作が終了した。攻撃を振りかざすという、無防備な状態をさらしているアメミット。しかし、次の瞬間、先ほどよりも数段速い速度で腕が振り下されたが、シリウスは動じることなく、攻撃圏外へと退避する。そのためアメミットの攻撃を回避することはできたが、距離が開いてしまいこちらの攻撃が届かない。だが、今のシリウスにそんなことは些細な問題だった。間合いを詰めようとすれば、アメミットの攻撃がシリウスに放たれる。それを回避してアメミットとの距離を詰めていく。当然のごとく攻撃がやむことはない。
「おらっ、よっとぉ」
アメミットの攻撃をかいくぐり、足元で攻撃を行うと先ほどまで与えていたダメージが嘘のようにダメージが通った。それを見たシリウスは得心がいったというように頷いた。
「≪神槍≫が弱点、という訳でもないみたいだが、有効的ではあるみたいだな」
ユニークスキル≪神槍≫。その効果は武器ダメージと相手の相性の無効化である。わかりやすく例えると、防御力の高く、外面が固いタートルタイプのMobに対して有効なのはハンマーなどの打撃武器である。それを、刀などの斬撃武器で攻撃したとしてもたいしたダメージを与えることはできない。
固いものには打撃を、柔らかいものには斬撃を。それはどのゲームタイトルだって同じである。
だが、≪神槍≫というユニークスキルは、その武器の攻撃特性と相手の防御特性を無視して攻撃を通すことができるということ。つまり相性を一切無視してダメージを与えることができるという訳である(所謂、ポケッターリでモンスターリなゲームのドラゴンの怒りである)。
しかし、もちろんというべきかデメリットも存在する。それは、弱点をついてもボーナスダメージがつかないということである。基本的に弱点をつけば通常よりダメージが加算されるのが常ではあるが、≪神槍≫にそれはない。それを致命的と解釈するかは個人によって違いが出てくるが、こういう状況では≪神槍≫というユニークスキルの効果は絶大だろう。
「さて、と。めんどくさいが、本気で行くことにしよう。いくぞ、≪天狼ウルファウス≫」
愛槍に一言声をかけ、槍を構えるシリウス。その瞳には獲物を狙う狼のような鋭さがあった。
◆
そこからの戦いは一方的というべきだった。アメミットの攻撃はシリウスに届くこともなければ掠ることさえなく、≪神槍≫の効果により問題なくダメージを与えられるようになったシリウスは再び疾風怒濤の攻撃を繰り出していく。もはやそこはシリウスの独壇場だった。
「こうしてみると、案外呆気ないもんだな」
アメミットのHPゲージが残り一本になったのを確認したシリウスはボソッと呟いた。しかし、≪神槍≫を使っているからこそここまで圧倒できるのであって、ユニークスキルを持たないプレイヤーが攻略するとなるとそれこそ何十時間と戦うことになるだろう。それを思うとシリウスは≪神槍≫に感謝してもしきれない。
「まぁ、何はともあれあと少しで終わりだな」
相手のHPゲージは残り一本。例え、変則的な攻撃を仕掛けてこようともシリウスは対処して見せるだろう。するとアミメットは頭を大きく振りかぶった瞬間、ミサイルの如き速さで大口を開けながらシリウスに迫っていく。たかが鰐の口が大口開けて突っ込んでくるだけではシリウスの脅威にはならない。ギリギリで避けてカウンターを食らわそう、と考えるシリウス。だが、シリウスはあまりにも神話に無知だった。もし、ソレイユがここにいたのならば、最初に教えられていただろう。アメミットという幻獣について。
アミメットとは、古エジプトの死者の書と言うものに描かれている幻獣である。エジプトでは人が死ぬとオシリス神の法廷に出廷して裁きを受けるとされる。死者の心臓は抜き出されて天秤の皿に置かれ、死者が行った証言が真実かどうか判断される。天秤が傾くと、その心臓はそばに控えているアメミットに与えられ、アメミットは大口でこれを喰らう。心臓を喰われた死者は、もう二度と復活できないとされている。
故にあの口には何かしらの仕掛けがあるはずだ、とソレイユなら注意しただろう。だが、生憎とソレイユはこの場にはいない。
「・・・ん?」
シリウスがそれに気が付いたのはアメミットの攻撃範囲外に回避しようとして行動を起こす直前だった。自分のHPを見ると明らかに減っている。否、現在進行形で少しずつ減少しているのだ。即座にその意味を理解したシリウスは急いでその場を離れた。
「・・・くそっ!こんな攻撃アリかよ!」
走りながら悪態をついてしまうシリウス。ようやく、HPの減少が止まったところで足を止め、アメミットの方を見据える。とうのアメミットは口を地面から抜き、ギョロッと爬虫類の目がシリウスを捉える。
「・・・・・最後の最後でめんどくさいことになったなぁ」
どうするか、と考えるシリウス。現状の手立ては二つ。一つ目先ほど考えたギリギリで回避してカウンターを喰らわせる方法。ただ、この方法を取るとアメミットのわけもわからない攻撃?でHPが減少してしまう。そのため、それを覚悟でやらなければならない。二つ目は最初のころと同じく胴体を攻撃する方法。≪神槍≫の効果があればダメージは通るので二つ目を採用したいところである。
しかし、そうは問屋が卸さなかった。体の周りをよく見ると黒い霧らしきものが漂っている。
「正直、あれには触れたくないんだよなぁ・・・」
シリウスの直感が告げていた。あれは危険だ、と。よってシリウスが採用できる攻撃手段は一つ目以外有り得なかった。
「・・・・・・しょうがねぇ、めんどくせぇから一発勝負といきますか」
そういいながらウインドウを開き、操作していくシリウス。今度は先ほどよりも早く操作が終了した。しかし、アメミットの攻撃ははじまっていた。頭を大きく振りかぶり、次の瞬間大口を開けて迫ってくる。もうその時点でHPの減少は始まっていたが、シリウスは攻撃圏外に退避しようとせず、大口を開けて迫ってくるアメミットをじっと見据えていた。
ある程度距離が詰まると、シリウスは即座に攻撃圏外に移動する。ある程度距離を置いた直後、先ほどまでシリウスがいた場所にアミメットの口が突き刺さった。砂埃が舞う中シリウスは投槍の構えを取り、アミメットの方をただじっと見据えている。砂埃が晴れ、アメミットの姿を捉えると、顔面にめがけて投げた。投げられた槍は何の障害に阻まれることなく、その眼球に突き刺さった。
【――――――――っ!?】
わけのわからない悲鳴を上げポリゴン片となって消えていくアメミット。完全にアミメットが消滅すると、一本の槍は地面に突き刺さった。
「おつかれ、ウルファウス」
愛槍に労いの言葉をかけ地面から抜くと、出口だというように出現した扉をくぐっていった。
後書き
そんなわけで、シリウス対アミメットの勝負はシリウスの勝ちでした!
なんか、いろいろ規格外だな・・・ホントに・・・
ソレイユ「そういうふうに作ったのはおまえだろ?」
まぁ、そうなんだけどね・・・
そして、露わになった神槍の能力と天狼ウルファウス!
ウルファウスの解説は以下の通りとなっておりますので、よかったらお読みください!!
さて、次はだれの戦いなのか・・・次回をこうご期待!!
ソレイユ「期待してくれる人がいるといいな・・・」
武器解説
≪天狼ウルファウス≫
レジェンド・クエストの一つ【ヴァナルガンドの決闘】というクエストから手に入る素材で作った武器を強化していったもの。
その特殊効果は相手の弱点を正確につければ、ボーナスダメージの加算が行われる代わりに一撃必殺のが可能になる、と言うものであった。しかし、少しでも外れるとその効果は発動しない。言うは易しとはよく言ったものである。
つまり、ボーナスダメージの加算が行われる状況でなければこの効果は発動しない。≪神槍≫をセットしたままこの効果を使おうとしても発動しないのである。だから、この効果を使う直前、シリウスはウインドウを操作して≪神槍≫をスキルスロットから外したのである。
因みに、なぜこんな効果が発動したのかというと、
『ヴァナルガンドっていうのは北欧で有名な神殺しの狼の別称だ。だから、そんな能力が付いたんだろうぜ』
というのがソレイユのお言葉である。
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