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ペルソナ3 幻影少女

作者:hastymouse
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後編

 
前書き
後編です。美紀に関する話の決着と、毎度お約束のバトルとなります。真田主人公の話なので、荒垣にも少し活躍してもらいました。真×ハムっぽい展開になってますが、私自身は本当は荒×ハム派です。荒垣というキャラはあまりに可哀そうすぎるので、少しはいい思いをさせてあげたいんです。
さて、最後にペルソナ3のゲームをやってからずいぶん経つので、孤児院の火災や美紀の話がゲームと合っているかどうか自信が無いのですが、その辺は勘弁してください。 

 
ここが火事になるというのなら、ともかく早く外に出なくてはならない。しかし、それは美紀も一緒にだ。真田は美紀の手を強引に引いて、薄暗い廊下を玄関へと足早に向かった。
他の子供たちにも知らせようとしたが、建物には先ほどからまるで人気がない。この孤児院は無人のようだ。いるのは真田と美紀の二人だけらしい。
(この茶番に、他の人間は必要ないってことか。)
そんなことにも何者かの悪意を強く感じる。
(しかし、こんなことを仕組むやつから俺は美紀を守れるだろうか。たかだか小学4年生の非力な俺が・・・。)
また何もできずに美紀を失ってしまうことが、ただただ恐ろしかった。
(自分がもっと強ければ・・・。)
力が欲しかった。美紀を守れる特別な力があれば・・・。
『アキ!』
玄関の手前まで来たところで、ふいに荒垣の呼ぶ声が聞こえた。
「シンジか?どこにいる。」
真田は周りを見回して声を上げた。しかし、やはり誰もいない。建物は相変わらず静まり返っている。
気のせいかと思って、改めて進もうとすると、
「ああ、呼んでるね。シンちゃん。」と、美紀が耳を澄ますようなしぐさをした。
「私のことも呼んでる・・・。自分もここに来るんだって・・・。しょうがないなあ。」
少し困ったような表情を浮かべて、美紀はくすくすと笑った。
真田は、わけが分からずに美紀を見守った。
「でも、やっぱりお兄ちゃんはシンちゃんと一緒にいないとね。」
美紀がそう言った瞬間、入り口のドアを突き破って突然に荒垣が現われた。
「なんだここは。」
面食らったように辺りを見回して、荒垣が声を洩らす。
そして真田と美紀に目を止めて硬直した。
一方、その荒垣の姿に、真田も目を見張りぽかんと口を開けた。。
「アキ、お前なんだその恰好は。」
「えっ・・・」
小学4年生の真田は逆に荒垣の姿に驚いていた。
赤いコートに帽子、手にバス停を抱えた荒垣の力強い姿。そして真田は我に返った。
(そうだ。俺は小学4年生じゃない。シンジと同じ高校三年生。ボクシングチャンピオンで、特別課外活動部のペルソナ使いだ。)
その途端、荒垣の目の前で、真田はあっという間に高校生の姿に戻った。赤いベストにグローブをはめたいつもの姿に・・・。
「おおっ!」荒垣が驚きの声を上げる。
真田は自分の体を見回した。急速に頭がはっきりしてくる。
「ああ、戻っちゃった。・・・まあ、シンちゃんが来たら、そうなるよね。」
美紀の声は、不思議と楽しそうだった。
「お前、・・・美紀。」
事態を飲み込めずに、荒垣が声を洩らす。
「美紀、結局お前はなんなんだ。」
真田は振り返ると、美紀に改めて問いかけた。
「言ったでしょ。私はお兄ちゃんのイメージ。お兄ちゃんがさっきまで自分を小学4年生だって思いこんで、子供の姿になってたのと同じ。『美紀』という人間に対するお兄ちゃんのイメージが具現化されたのがこの私。そして私を作り出したやつは、私が火事で焼け死ぬところを見せて、お兄ちゃんの心をゆさぶり、自分の思い通りにお兄ちゃんを利用しようとしているの。」
美紀は自分の胸に手をやり、微笑んだ。
「でもね。なんだかお兄ちゃんの中で、私に他の人のイメージが混ざっちゃってるみたいなの。」
「他の人・・・。」
「お兄ちゃんが妹みたいに思っている人。お兄ちゃんが守りたいと思っている人。しかもその人が私の中でどんどん大きくなっているの。こうしている間にも・・・。」
その時、美紀の背後が赤く燃え上がった。

いきなり荒垣の姿が消えた。音もなく風船が割れたような消え方だった。まるでそこにある、見えない空間の裂け目に吸い込まれたかのように・・
「あっ荒垣さん?」天田があっけにとられて声をもらした。
「荒垣さんの反応は、この歪みの中に消えました。」
アイギスが胸の高さほどの空中の一点を指さしてそう告げる。
『彼女』が息を飲んだ。
(間違いない。荒垣さんはそこから真田さんのところに行ったんだ。)
荒垣がいたはずの場所を見つめ、『彼女』はそう確信した。
(強い絆があれば道は開ける。)
テオドアの言葉が頭に浮かぶ。ひょっとして、テオドアが何か手助けしてくれたのか。
『彼女』は思わず大声で叫んだ。
「真田さん!私も・・・私もそっちに行く。私も一緒に戦う!」

みるみる炎が広がっていく。あっという間に周りじゅうから炎が噴き出してきた。
「火事だ。」驚いて荒垣が叫ぶ。
「美紀、こっちに来い。逃げるぞ。」真田が手を伸ばした。
しかし、美紀は首を振って後ずさる。
「私に混ざっているその人は、私と違ってとっても強い人。守ろうと思っても、大人しく守られているような人じゃない。誰かが利用しようと思ったって、大人しく利用されたりしない。だから私も・・・。」
美紀の背後の燃え盛る炎の中から、あの強敵シャドウが現れた。
美紀に覆いかぶさるように立ちはだかる。
「美紀!」真田が必死に叫ぶ。
「行って、お兄ちゃん。この場所ではお兄ちゃんたちに勝ち目はない。シンちゃん、お兄ちゃんを外に連れ出して。」
美紀はそう言うと、シャドウに向き直った。
もう、辺り一面 火の海だ。肌がチリチリする。着ている服まで燃えだしそうだ。
「ここは私が食い止める。」
そう叫ぶと、真田と荒垣の目の前で、美紀の姿がみるみる成長していく。そしてついには、月光館学園の制服を身にまとい、薙刀《なぎなた》を構えた凛々しい姿へと変貌した。
「早く行って!」
美紀だったはずの少女は、そう叫ぶと手に持った薙刀《なぎなた》を旋回させ、シャドウに切りつけた。
「行くぞアキ。」
荒垣が真田の後ろ襟をつかんで引きずる。
激しい熱気に呼吸ができない。
「待てシンジ。」
それでも真田は美紀に手を伸ばした。
「うるせい。来い!」
荒垣は背後から手をまわして真田の体を抱え込むと、力任せに引っ張ってドアから飛び出した。
「美紀!」
炎の中でシャドウと激しく戦う姿がかすんでいき・・・・・
そして、二人はタルタロスの地面に倒れこんだ。

「先輩!」
「真田さん!」
『彼女』と天田の声がかぶる。
起き上がった荒垣が周りを見回す。タルタロスの元の場所だった。
(帰ってきた。真田さんもいっしょに・・・。)
二人の姿を確認し、『彼女』の眼に涙が込み上げてくる。
しかし無事な姿に安堵する間もなく、二人が飛び出してきた空間から、いきなり炎が噴出した。
「来ます!」
アイギスが叫ぶ。
噴き出した炎の中から、まず『彼女』と瓜二つの姿をした美紀が飛び出してきた。そしてそれを追うように強敵シャドウの禍々しい姿が現れる。
「美紀!」真田が叫ぶ。
「ごめん、私じゃ止めきれなかった。」美紀が答えた。
『彼女』に背を向けて立ちはだかった美紀は、「あなたの力をかして!」と声を上げてシャドウから距離をとるかのように後ろに飛び去る。そして、そこに立っていた『彼女』と重なり、そのまま二人は一体となった。
何が起きたのかもわからないまま、『彼女』はいきなり全身に力がみなぎるのを感じた。そしてそれを抑えきれず、薙刀《なぎなた》を振り上げると、「ええい!」とシャドウに切りつける。
あれだけしぶとかったシャドウがその一撃で、驚くほどダメージを受けて後退した。
続けてアイギスが機銃掃射で牽制。
真田がポリデュークスを、荒垣がカストールを呼び出す。二人の同時攻撃がさく裂する。
「ペンテシレア!」
さらにそこに氷結攻撃がシャドウに放たれた。別チームが美鶴を先頭に駆けつけてきたのだ。2チームが合流し9体1の戦いとなった。
休みなく繰り出される息の合った波状攻撃に、さしもの強敵シャドウも完全に劣勢に回った。
一方的に攻撃を受け、シャドウの動きが鈍ってくる。
「総攻撃チャーンス!」
ゆかり が上げた声に合わせるかのように、全員一斉の総攻撃。
そしてついに、真田のアッパーを食らってシャドウが体勢を崩した。
「これでとどめ!」
『彼女』の必殺の一撃がシャドウの仮面をたたき割る。
雄叫びをあげ、シャドウは黒い塵となり崩れ去った。

勝った!

一同は歓声を上げた。
「明彦!」
「真田さん!良かった!」
みんなが真田に駆け寄り、声をかける。
『彼女』も真田を振り返り、にかっと笑ってみせた。
薙刀《なぎなた》を片手に仁王立ちのその姿を見つめて、真田はふっと笑った。
(守りたいと思っても、大人しく守られているような奴じゃないか・・・まったくだ。)
それから軽く首を振ると、ようやく仲間達に向き直って礼を言った。

その後、やはり真田と荒垣は異空間にひきずり込まれていた間のことが、はっきりとは思い出せなくなっていた。前回同様、その「敵」に関することを記憶にとどめておくことはできないらしい。
シャドウと一緒に飛び出してきた『彼女』そっくりの少女の正体も、とうとうわからずじまいとなった。
「お前の体と重なって消えたように見えたが、体に異常はないのか。」
帰り道、真田が心配そうに尋ねてきた。
「全然。むしろ調子良くて、体に力が余ってるくらいです。お腹もすいてきました。」
『彼女』のあっけらかんとした答えに、真田が笑った。荒垣も苦笑する。
「真田さん、明日『はがくれ』に行きましょうよ。」
「お前、今日も行ったじゃねえか。」
荒垣があきれたように言う。
「いいじゃないですか。真田さんと一緒に行く約束なんですから。」
「そんな約束したか?」
真田が訊き返す。
「あれ、してませんでしたっけ?」
『彼女』は首をかしげた。
真田は、ふと何かを思い出しかけたが、それは形にならなかった。ただ暖かく懐かしい気持ちだけが残った。
「まあ、いい。すっかり心配かけたからな。『はがくれ丼』をおごってやる。」
彼はうれしそうに笑いながらそう言った。  
 

 
後書き
テオはどんな手助けをしたのか。実は実体化したイメージである美紀にハッキングをかけて、美紀に交じっている『彼女』のジメージをどんどん増幅させてます。でも書く余地がありませんでした。
さて今回の話では、「謎の敵」自体は現れないままとなりました。これまでに書いてきた「夢幻の鏡像」と「ファタ・モルガーナの島」にも登場しているオリジナルの敵「苦悩の神 オイジュス」がその黒幕です。タルタロスでないところを舞台にするとき、理由付けするのに使い勝手がいいんで、つい使いまわしてしまいますね。書き続けているとそのうち「オイジュス」シリーズみたいになるかもしれません。
それでは、また何か思いつたら別の話を書きたいと思います。 
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