嫌わない人達

　　　　　　　　　　　　　　　嫌わない人達
　屋敷拓哉は公園の子供達に彼等の後ろから声をかけた。
「お前等何やってるんだよ」
「猫追い払ってるんだよ」
「汚い猫だからな」
「それだけだよ」
「猫？」
　子供達の声を聞いてだった、彼等の前を見ると。
　公園の木の下に茶色の子猫がいた、足首と尻尾そして耳の先それに口元がやや白い。酷く痩せていてボロボロで。
　しかも左目が潰れている、随分な姿だった。
　その猫を見て拓哉は子供達にあらためて言った。
「お前等この猫どうするんだよ」
「だから追い払ってるんだよ」
「汚いからな」
「だからな」
「そう言うお前等こそ泥や砂だからけで汚いぞ」
　拓哉はその子供達に言い返した、金髪を鬣の様に伸ばしていて前を随分開けた七センチのハイカラーに前ボタンは七つ袖ボタンは五つの黒の長ランとボンタンという恰好だ。背は一七八程でしっかりした身体つきだ。
「猫のこと言えるのかよ」
「そんなに汚いか？」
「これ位普通だろ」
「遊んでるんだからな」
「それでも汚いだろ、猫のこと言えない位にな」
　こう言うのだった。
「それにあっち行けとかお前等だって言われたくないだろ」
「それはな」
「そうだけれどな」
「けれどこの猫汚いしな」
「汚かったら風呂に入れたらいいんだよ」
　それだけだとだ、拓哉はまた言った。
「服だって洗濯してな」
「それで終わりかよ」
「そう言うのかよ不良の兄ちゃん」
「それだけだって」
「ああ、だからな」　
　それでというのだ。
「そんな風にするな、あと猫な」
「どうするんだよ、この猫」
「汚いうえにかなり弱ってるけれどな」
「もう今にも死にそうだけれどな」
「仕方ねえな」　
　その猫を見つつ言った。
「家に連れて行くな」
「兄ちゃんが買うのかよ」
「そうするのかよ」
「まだそれはわからねえけれどな」
　それでもというのだ。
「放っておけないしな、俺が連れて行くな」
「保健所に連れて行くなよ」
「ちゃんと面倒見ろよ」
「ああお袋いいか？」
　携帯を出してだった。
　拓哉は猫のことを母に話した、すると母はうちで飼うと言ってきた。それでだった。
　拓哉はその猫を保護した、見れば。
　茶色の毛で左目が十字に切られた感じで潰れている、口の周りと足首と尻尾に耳の先がやや白い、そしてだった。
　全身傷だらけだ、拓哉はその猫をよく見てから母にまた話した。
「この猫一旦病院に連れて行くな」
「そうするの」
「ああ、あちこち傷だらけでかなり弱ってるんだよ」
「危ないの」
「そうかもな、だからな」
　それでというのだ。
「家に連れて行く前にな」
「獣医さんのところに連れて行くのね」
「そうしていいよな」
「危ないならね」
　それならとだ、母は電話の向こうで答えた。
「いいわよ」
「それじゃあな」
　こうして猫は一旦病院に連れて行かれた、そして一週間程そこで入院してから家に来た。両親はその猫を見て拓哉に言った。