曇天に哭く修羅
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第二部
執念
前書き
_〆(。。)
紫闇はひたすら自身と格闘しているレックスに対して感嘆としていた。
(すげぇ……)
レックス本人から聞いている。
普遍的な魔術師より体術を学んだと。
(冗談じゃねぇ)
謙遜するレベルではない。
紫闇は黒鋼の組み手で骨折や内臓破裂など、一定以上のダメージを受けると即座に回復させられながら延々と体術漬けの日々を繰り返してきた。
それを乗り越え並み居る魔術師達に体術をベースにした戦い方で圧倒できる体術の専門家と化した紫闇とまともに張り合えるのがレックスだ。
レックスは【特質型】ではあるが、【独立型】の性質を有しているため身体強化は不向きの魔術師でありながら、黒鋼のような【練氣術】も無しで紫闇と対等。
どれだけ努力を重ねたのか。
どれだけ修練を積んだのか。
(頭が下がる思いだ)
もうすぐ決着が付く。両者がそれを解っている。外から見るクリスや向子、狂伯も同じくそれを察していた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
レックスが大振りのストレートパンチ。
彼の性格なら先ずやらない。
フォームが乱れている。
(レックスの奴、誘ってんのか? それとも息切れして雑になってきたか? 通常のコイツなら間違いなく『釣り』だが)
紫闇は一瞬迷った。
が、直後に腹を決める。
師である《黒鋼焔》とその祖父《黒鋼弥以覇》から教わったことを実戦する為に。
『危険を恐れて逃げるより、それを楽しむ為に飛び込んでいけ。黒鋼は生まれながらに鬼の気質を持つ一族であり根っからの闘技者。その弟子として認められた者も然り。[勝ち]は重視するけど[負け]を許さないわけじゃない。安心して楽しんでいけ』
紫闇はストレートパンチを回避。
レックスの腕に自分の腕を絡ませる。
「黒鋼流体術・喰牙」
骨がへし折られた。
更に地面へ引き倒す。
止めに後頭部へ踵落とし。
「駄目ですかね。これは……。悔しいな。この結果を予想していたのは私自身であると自負していたんですが……」
レックスは歯軋りした。
「立華紫闇。私は貴方に嫉妬していた。貴方が戦っている所を見て確信したんです。貴方には『運命』を変える力が有ると」
なぜ紫闇なのか。
なぜ自分ではないのか。
同じような生き方をしたはずなのに。
「貴方みたいになりたかった」
レックスが魔晄防壁を消す。
紫闇も防壁を消した。
(油断しましたね)
レックスの上半身が起きる。
紫闇の虚を突いて。
左腕が跳ねた。
袖から拳銃が飛び出す。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
魔術師は素の治癒力こそ普通の人間より高いが魔晄による防壁や身体強化が無ければ肉体は一般人と変わらない程度の防御力しかない。
レックスの奇襲したタイミングはと言うと、時間が足りないので再び魔晄防壁を纏うことが不可能と言って良いものである。
しかし別に受ける必要は無い。
紫闇は弾丸が発射される前に銃口の前から移動して難なく弾丸を外させレックスの左手に有る拳銃を蹴り弾く。
「信じてたよレックス。あんたは本質的に俺と同じだ。勝敗が確定するその時まで絶対に諦めないってね。だから対応できたのさ」
紫闇には確信が有った。
レックスは今も自分を殺そうと考えている上に、まだ打つ手が残っているのではないかと。そしてその手を必ず決める策を練り続けている。
「あんたは俺よりも凄い。俺より上の存在になれる。貴族の運命から解放されて、【古代旧神】の支配から抜け出せるだろうよ」
紫闇は本気で思う。
この男は自身と戦っている最中に一度として絶望する気配が無かった。
しかし紫闇は違う。
彼の心は何度も折れかかったのだ。
レックスは紫闇を倒すという一念を持ち続けたまま最後まで頭を働かせていたのだから天晴れというしかない。
本当に『負けるはずが無い』、『絶対に勝つ』といった思想が他の思考を凌駕していなければ出来ないことだ。
「俺は諦念を受け入れない強い気持ちこそが運命を変える力なんだと思うし信じている。だから、あんたにはやり直してほしい」
レックスは体を震わせ空を見上げた。
一筋の涙を流しながら。
後書き
第二部もあと少しで終わりです。
_〆(。。)
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