神機楼戦記オクトメディウム
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第3話 現れる敵
前書き
敵幹部第一号の名前は元ネタの名前が今のご時世だと完全にアウトなので大幅に変更しました。
どうしてもその元ネタのキャラの名前を知りたい場合は、植田佳奈氏の神無月の巫女の出演キャラクターを調べて下さい。あまりオススメはしませんが。
『穂村宮高校』。それが千影と姫子達の通う高校の名称であった。
そう、彼女達は今でも抜かりなく高校へと通っていたのであった。──このような邪の化身が襲撃してくる現状であっても、である。
確かに彼女達は巫女として化け物から人々を護っているという事実は周知なのだ。しかし悲しいかな、それが学業を疎かにしてもいいという免罪の役割にはならないのだ。
それに加えて、これは千影達の意思でもあるのだった。例え平和の為に戦いに身を投じようとも、それを言い訳にして学生生活を蔑ろにしたくはないという想いからであった。
彼女達とて、将来の為に高校を卒業して、そこから自分達の選んだ進路へと目指したいのである。
願わくば、千影と姫子は大学へも一緒に行きたいという野心があるのであった。
だが、これは難しくなるだろう。大学受験は高校よりも難易度が高くなるだろうし、ここから先は将来の自分にあったスキルを身に着ける為のものなのである。故に大学まで二人が通うという事はそれを考えれば懸命ではないのである。
そのような問題を抱えつつも、今は彼女達はすべからく高校生活を満喫するだけだろう。故に、彼女達は今日も変わりなく穂村宮高校での学業に精を出していたのであった。
そして、午前の授業は終わり、食事を取り、午後へ向けた精気を養う為の時間たる、昼休みへと突入していたのである。
その中で二人は仲良く『屋上で』食事を摂っていたのであった。
これは、『学校の昼食といえば屋上でしょう』という中二病の抜け切らない姫子が漫画等に影響を受けての発案であったのである。
しかし、これが理に適っていたのであった。外の空気を吸いながら食事を摂るというのは、健康的な嗜好であったのだ。無論、冬場はきついので避ける算段ではあるが。
そんな意外な効能のあった屋上での食事の最中、姫子は口を開くのであった。
「……千影ちゃんはどう思う?」
と、このように思わせぶりな言い回しで話を切り出してきたのである。
そして、千影は『やはりその話題になるだろうな』と思いながら、暫し思案したかと思うとこう返すのであった。
「和希さんが言うのだから本当でしょう。『大邪』が『人間を媒介として戦力にしている』というのは……私も信じたくはないけどね」
それが、今彼女達が取り扱うべき内容であるのだ。
今までは敵は怪肢というそれ自身が意思を持って動く機械生命体を繰り出してきたのである。
しかし、それは『様子見』であるというのだ。敵が本格的に動くとなれば、邪神が媒体にした人間に機体を操らせて襲撃してくるというのが和希が教えた内容なのだ。
その事実を噛み締めながら千影は思案していたが、意を決してこう結論付けるのであった。
「でも、私達は戦うしかないでしょう? ……勿論、その媒体になった人を助け出す事は忘れていないわ……」
そう最後の言葉を付け加えるのを千影は忘れなかったのであった。彼女は小学校からの付き合いで、姫子がそういう心優しい子である事を重々承知であるからだ。
「千影ちゃん……」
そして、姫子の方も千影のその配慮が嬉しかったのであった。だから姫子は千影の事を愛おしく感じているのである。
最後に姫子は締めくくる。
「でも、それは戦いの時になってからの話だよね。今は腹ごしらえをちゃんとして、戦いに備えないとね」
先人は「腹が減っては……」等と言ったが、それは見事に的を得ているなと姫子は肌で感じながら、千影と憩いの昼食の一時を送るのであった。
◇ ◇ ◇
そして、食物を胃に押し込める儀式を経るばかりに血液を胃に送られて睡魔との戦いになる午後の授業も無事に終えて、時は放課後となるのであった。
千影は既に下校しており、校内に残るのは姫子となっていた。
彼女は今『射撃部』なる部活動に精を出している所である。
そう、そのような珍妙な部活がこの穂村宮高校には存在していたのであった。
無論、射撃のプロフェッショナルかつ運動音痴な姫子には渡りに舟な話であり、迷う事なくその部活動へと入部して今に至るのであった。
そして、そこで姫子はその腕を存分に振るい、射撃部期待のホープとすら謳われる事となっていたのである。
そのような事が背景にある中で、今も姫子は離れた場所の的を狙い、そして引き金を引くのであった。
刹那、彼女が手に持つ部で配布されるエアガンから弾が発射され、気付けば的としていた風船は派手な炸裂音を撒き散らしながらその身を散らしたのである。
今日の射撃の腕もまずまずだと思いながら、一仕事終えた姫子は「ふぅ」と息をつくのであった。
そんな姫子へと話掛けてくる人物がいた。
「さすがは姫子さんだね。今日も射撃の腕は鈍っていないって感じだね」
「ありがとうございます、キャプテン」
そう姫子は射撃部の部長へと労われた事に対するお礼の言葉を返すのであった。そして、部長へと追従するように側にいた部員も声を掛けてくる。
「やっぱり『蒼月の巫女』となると一味も二味も違うって事なんだろうねぇ♪」
しみじみとその部員はうんうんと頷くのであった。
そう、姫子の巫女として怪肢と戦う様のイメージは、この射撃部にも伝わっているのだった。故に、部員や部長はそんな姫子が誇りでもあるのだった。
しかし、やはり姫子はそう言われると複雑な心持ちとなってしまう。
「う~ん、でも私が『蒼月の巫女』だからってのは関係ない気もするんだよね……」
「あ、ごめん」
姫子にそう返されて、その部員は軽率な事を言ってしまった自分を恥じるのであった。
それは、姫子が巫女として化け物から人々を護るのは、彼女が元来想定していた流れではないからである。
要は、自分の射撃の腕と、人々を護る役職に就いているのは別々の問題のような気がしてならないからなのだ。
それに加えて、姫子は自分が人々を護っている事は断じて鼻に掛けたくはないというのが、今しがた巫女としての称賛を断った一番の理由であるのだった。
そんな複雑な心情を持ってしまった姫子であるが、これにて今日の射撃部の活動は終わりを迎える事となったのである。その事を部長は皆に伝える。
「ともあれ、今日の射撃部の活動はここまでです。皆さん、ありがとうございました」
「ありがとうございました」
部長の言葉に皆も同じように返し、これで晴れて皆はそれぞれの憩いの我が家へと帰って行くのである。
◇ ◇ ◇
「今日も一日頑張ったなぁ~♪」
姫子はそのように充実した今日の学園生活を終えて、目一杯背伸びをしてその余韻を噛み締める所であるのだった。
今日は悪気はないものの部員とのやり取りで複雑な気持ちになってしまったものの、それでも姫子がこの射撃部を愛している事に変わりは無かったのであった。
何故なら、運動音痴の自分でも、自分の得意分野で活躍する事が出来るからだ。人は誰しも自分の持ち味を活かしている時が最も充実している時の一つなのだから。
そんな充実した学園生活に感謝の意を抱きながら、姫子もいよいよ自宅へと帰るべく意識を向ける。
彼女の自宅。それは普通の女の子として過ごしたい姫子には少々手に余るような場所であるのだった。
しかし、決して嫌いではない『そこ』へと、今日も何事もなく彼女は帰っていくのである。
そう思われていた矢先であった。
辺りに突然激しい衝撃が走る事となる。
「うわー!!」
「きゃー!!」
そして、当然辺りは混乱する生徒で溢れかえり、騒然とするのであった。
「みんな、落ち着いて行動しなさい」
しかし、幸いにもこの学校の教師達は優秀であるようだった。こういう時にこそ冷静に生徒達を誘導して避難させるのであった。
そして、教師達はこの場を落ち着かせる決定打となる一言を口にする。
「この学校には『蒼月の巫女』である稲田姫子さんがいます。彼女がいる限り皆さんは安心です」
そう言いながらも教師は複雑な気持ちになる。
何故なら、彼等にとっても姫子は大切な生徒の一人であるからだ。そんな彼女をこの場を落ち着かせるのに利用する形を取らざるを得ない事に自分達に憤りを覚えてしまう所なのであった。
だが、当の姫子はそんな教師達の対応を賢明な判断だと思うのであった。最善を尽くすには頼れるものには積極的に頼るのが妥当であるからだ。
そして、姫子は自分がそういう『頼られる』立場にある事を自覚すると、懐から例の勾玉を取り出すのであった。
その勾玉を手にした瞬間、姫子は目映い光に体を包まれる。その光が止んだ後には、姫子は白い小袖、そして風変わりな青い袴の姿にその身を包んでいたのであった。
そう、姫子はこうして一瞬の内に『戦闘服』に身を包んだのである。
学生である姫子は、普段から巫女装束で過ごしている訳にはいかないだろう。まず、学校には指定された制服があるからだ。
加えて、学校にいない時でも可愛い私服でお洒落したいのが女の子というものであろう。確かに巫女装束は『萌え』の要素が詰まった、その手の人には堪らない一品ではあるが、普段からはあまり着ようとは思わないだろう。
そんな女子高生の要望を、結果としてだが『神機楼』は答えてくれる仕様であるのだった。
それは、神機楼の力を発動する為の媒体を起動させれば、自動的にそれに相応しい出で立ちへと持ち主を着飾ってくれるという、何とも都合のいいシステムであったのだ。
だが、利用出来るものは利用すべきだろう。なので姫子もその神機楼の仕様をありがたく利用し、可愛い制服や私服を楽しみつつ、巫女としての常務もこなす事が出来るのだ。
そして、戦場へ赴く為のコスチュームに身を包んだ姫子は、そのまま混乱のただ中にある現場へと飛んでいくのであった。
◇ ◇ ◇
そこに行けば、やはり学校の周囲には例の蜘蛛型機械生命体たる怪肢が暴れ回っていたのである。
それを見た姫子は、迷わず行動に出る。
「出でよ、ヤサカニノマガタマ!」
その掛け声と共に姫子は手に持った勾玉を天に掲げる。すると先日と同じように西洋風のマントを携えた青い鎧の武者の形をした巨体が彼女の前に出現したのであった。
その後も同じであった。例の如く姫子は光の塊になると、彼の胸部にあるコックピットへと飛び上がり吸い込まれていったのだ。
こうして、姫子の戦闘準備は整ったのであった。
それが済むと、姫子は少々ここで今の現状に嘆く思いとなる。
それは無論、最高のパートナーである千影がこの場にいない事である。
その理由は、彼女が午後の授業を終えた後すぐ、ファミリーレストランへとアルバイトへ行った事にあるのだった。
実は、千影の家は貧乏であったりするのだ。故に、両親はお小遣いを満足に与える事が出来ないでいるのだった。
だが、根が真面目な千影はその事で両親を責める事なく、自分の小遣いは自分で稼ぐと意気込んでアルバイトを行うに至っているのである。
高校でアルバイトを許可している場所は少ないのだが、幸いこの穂村宮高校では完全には禁止されてはいなかったのであった。
しかし、高校生の身でありながらアルバイトをこなすのは負担が掛かりすぎるものであるから、常時には許可してはおらず、その場合は学校へと要相談なのであった。
そして、アルバイトをする真っ当な理由が千影にはあったのである。
それは、現代から廃れつつある忍者という存在を世に知らしめるという目的があるのだ。その為の資金を今から集めているという事なのであった。
幸い、千影は忍者としての修行により、来る客来る客の相手をこなしていかないといけないが故に忙しい時には些か軍隊染みた洗礼を受ける事になるファミレスの仕事もテキパキとこなす活躍ぶりを見せおり、彼女自身も仕事を楽しんで出来ていたのは幸いである。
そして、彼女のその生ける芸術的な容姿も相まって、千影は他の従業員からもそして客からも人気の的となっていたのであった。
だから、そんな『目標』の邪魔を極力してはいけないと姫子は思い、千影を呼ぶのは最後の手段にしようと心に誓う所なのだ。
「ここは……私だけで何とかしなきゃ、ね」
そう離れた所で精を出す千影に囁くかのように、はたまた自分に言い聞かせるように姫子は独りごち、決意を新たにする。
──今回襲撃してきた怪肢は計三体。これなら運動音痴な自分だけでもどうにかなるだろう。
そして、頼れる機械の巨人と共に戦場に降り立った姫子は、ざっと敵の様子を黙視して判断する。
──よし、今敵はいい感じに密集している。それなら、『あれ』を使うのが最善だろう。
そう思い至った姫子は、早速それを行動に移す。彼女は例の如く弾神に銃器を取り出させるのであった。
だが、その銃が今までとは違うものであったのだ。それは精密で複雑な構造をした代物であった。
どうやら、それは『機関銃』とおぼしき銃器であるようだ。
そして、その武骨な武器を持たせながら姫子は高らかに言う。
「いっけえー! 『散散ヒナアラレ』!」
その掛け声と共に姫子は機関銃の引き金を弾神に引かせると、その銃口から無数の弾丸がばら蒔かれたのであった。
そう、その様は正に『ひなあられ』の如く、だった。
そして、敵の機械蜘蛛達はその甘くないひなあられの洗礼を一気に受け、瞬く間に蜂の巣にされていったのだ。
しかし、そんな激しい火力の攻撃を繰り出したにも関わらず、街の周囲には被害は全く及んではいないようだ。
それは、怪肢に近代兵器が通用しないのと同じ理由であったのだ。それなら逆に神機楼が邪神が生み出す敵機以外への損傷を生み出さないように出来るだろう、そう1200年前の者達は考えてその技術を発展させたのであった。
それを今姫子は利用したという訳だ。今役に立つ要素は、例え仕組みが理解出来なくてもどんどん使っていくべきだろう。
そして、ものの見事な『一斉射撃』により刹那のうちにスクラップと化した機械蜘蛛達は、これまた一斉に爆散したのであった。
そんな光景を人目の付かない所で傍観していた──オレンジ色のツインテールの少女は独りごちる。
「やっぱり怪肢じゃ巫女には力不足って事みたいだね~」
そう言い切ると、少女はそのあどけない容姿には似つかわしくないような歪な三日月の如き笑みを一人浮かべながら締め括る。
「ここは、この大邪衆のアイドルたる『夕陽かぐら』が直々に出なくちゃダメって訳だよね♪」
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