曇天に哭く修羅
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第二部
Wake Up
前書き
_〆(。。)
親善試合に乱入したテロリストの粗方を始末し終えた3名が《レックス・ディヴァイザー》と《立華紫闇》の戦う会場に駆け付ける。
龍帝の1年生で紫闇の幼馴染み《的場聖持》と副会長で3年生の《春日桜花/かすがおうか》、日本に亡命してきたイギリスの【魔神】《イリアス・ヴァシレウス・グラディエ》だ。
「レックスは今頃混乱してるだろうな」
イリアスは幼馴染みの姿を眺めながら複雑な表情で今後のことを考えている。
一度向こうへ帰らねばならないと。
「そろそろ終わりそうだね」
桜花はレックスの心情を見透かす。
彼はわざと負けようとしていると。
「攻撃を食らってやるつもりか。その後は目の前で自害でもするかな? 紫闇に心の傷を残すならそういう方法で来る可能性が有る」
しかし聖持は思う。
そう簡単には死ねない。
鍵を握るのは。
目を向けたのはレックスが最も執着している《クリス・ネバーエンド》
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「馬鹿なこと考えてんじゃないわよッ!」
クリスの叫びがレックスの耳に入ると負けるつもりだった彼の体は咄嗟に紫闇の攻撃を回避し反撃してしまう。
(何をしてるんだ私は)
しかしそれよりも重要なことが有った。
レックスの意図を読んだのだろうクリスが自分に対して声を挙げたことだ。
負けた方が良いはずなのに。
「レックスが私を襲ったのは何でか、どういうつもりだったのか。色々事情は有るんでしょうがそんなことはどうだって良いッ!!」
彼女にとって自分が命を狙ったことはちっぽけなことだと言いたいのだろうか。
「そんなわけがないでしょうッ! どうやっても償えないですよッ! 貴女が死んでいないだけで取り返しのつかないことの筈だッ!」
「だから死ぬつもりだった? ふざけんな! あんたの積み重ねた努力はそんなざまになる為だったとでもッ!?」
レックスが頑張ってきた理由。
それは強くなり、周りの人間に自身のことを認めてもらいたかったから。
(しかし何よりも貴女と───)
おかしい。自分の意に反して体が動く。紫闇に対して積極的に攻撃を仕掛けていく。
負けて死ぬ。
そのつもりだったはず。
まさかクリスの影響か。
しかしもう遅い。
今の自分には───
「そんな資格は無いって? 安心なさい。全て許すし忘れる。でもあんたが積み重ねてきた努力と貫いてきた想いをあんたが裏切ることは許さないッッ!!」
かつてのレックスが地獄のような修練を己に課し、乗り越えられた理由それは。
「最後まで私の隣を歩きなさい、歩き続けるのよッ! いや、歩き続けろレックス・ディヴァイザァァァァァァァァァッッッッ!!!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(ああそうか……。そうだった……。私が努力した一番の理由はクリスと肩を並べて歩き、共に進みたかったからだ……)
心に熱が生まれ体に力が漲る。
かつてのことを思い出す。
(クリスが褒めてくれれば苦痛なんか全て吹き飛んでいった。私が初めて試合で勝てた時は最高だった。泣いて喜んでくれたんだ。まるで我が事のように)
レックスは師に言われた。
人は[強さ]を求めていくと何時かは必ず道を踏み外してしまう。
そして『人』から『鬼』になると。
しかしレックスはそれを選んだ。
他に方法が無かったから。
例え人では無くなってしまうとしても辿り着きたい場所が在り、欲しいものが有った。
(クリスと対等になりたかった。彼女に相応しい男に。でももう後戻りすることは)
「クリスの想いや俺の想いがまだ解かんねぇのか!? 俺達が許せないことが有るのなら今みたいな生き方をしてることだッ!! 早いとこ戻ってきやがれッ!!!」
紫闇はレックスが好きでしょうがない。本気で殺されても良いと思っている。
レックスが納得するというのならとことん、それこそ死ぬまで自分が付き合ってやるという想いを抱いているのだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
レックスは戻っていた。
あの頃の熱さが。
紫闇とクリスの熱に当てられたせいで心身ともに滾っている。
もう負けるつもりなど無い。
そんなことは頭から消えていた。
諦念や己への失望。
それらレックスの歩みを止めていたものは情熱で燃え上がり灰と化していく。
(こいつには、この男には、立華紫闇だけには負けたくない……!!)
レックスから久しく遠退いていた勝利への執念と渇望が息を吹き返す。
勝ちたいのだ。
クリスの弟分で在る為に。
何より純粋に闘技者として思う。
この凄まじい好敵手を倒したいと。
(敗北する運命だとしても今回だけは諦めたくない。諦められない。そんなことを出来はしない。紫闇が相手だから)
「絶対に……勝つッ!!」
レックスが帰ってきた。
凡才しか持たず、最弱の異能を抱え、自分の外装すら満足に扱えなかった落ちこぼれ。
そんな状態から諦念を捩じ伏せ、地獄を乗り越え、数多の敵を倒し、大英帝国で魔神に次ぐ国内最強の地位にまで登り詰めた不屈の魔術師が。
後書き
_〆(。。)
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