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戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~

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第15節「夢の中で逢った、ような……」

 
前書き
当初の予定からは遅れてしまいましたが、第15節……学祭編の中編です。

え?そのサブタイパクリだろって?
やだなぁ人聞きの悪い!パロディですよパロディw

それとも某大ヒットアニメ映画のタイトルにした方がよかったですかね?←

まあ、サブタイに関しては置いといて、今回は前回入りきらなかったきりしらパートとなります。
ちなみにこのエピソードには元ネタがありまして、実はXDUの剛敵イベントのストーリーシナリオを参考にしております。
学祭編の内容に詰まっていた所、このシナリオの存在を教えてくれたサワグチさん、本当にありがとうございました!

それでは、きりしら大好きな皆さんは期待に胸を高鳴らせながらお楽しみください! 

 
日本某所、エアキャリア内。

「マム……」
「まったく、こんな時に役に立たないオバハンは……」
「……ドクター」

億劫そうな表情のウェル博士を、腕組みしたまま壁にもたれるマリアが睨む。

「そう睨まないでくださいよ。はいはい、分かってますって。ナスターシャ教授の治療でしょう? 手は抜きませんから安心してください」
「……ならいいわ」
「まあ、この僕でないと、ちゃんとした医療は施せませんからねぇ……感謝して欲しいものです」
「……ああ、その通りだ。だが、もしマムに何かあったらその時は――」
「おお怖ッ! 全く、躾けもなってないんですから。狂犬ですか、君は」

同じくウェル博士を睨みながら、しかしこちらはマリアとは違うものを瞳に宿した視線を向けるツェルトが、苦虫を嚙み潰したような表情でそう言った。

「マムがもう長くはないからと、薬に毒を仕込むくらいはやりかねないお前の首を狙うのは当然だろ」
「人聞きが悪いですねぇ! 医療で人を殺すなんて科学者の風上にも置けない真似、この僕がするはずがないでしょう!」

大真面目な顔でウェル博士は反論した。

「僕は天ッ才生化学者としての才能に誇りを持っているんです。その名前に泥を塗るような真似だけは、決してするつもりはありませんよ」
「さて、どうだか……」
「オーケー、ツェルト。そこまでにして」

今にも掴み合いになりかねない二人を、マリアは溜め息混じりに仲裁する。

「まったく……。さて、それでは僕は失礼しますよ」
「ええ。任せるわ」

ウェル博士は襟を正しつつ、そのまま医務室へと移動していった。

「まったく……どうしてあんな胡散臭い男に、マムの命を預けなくちゃならんのか……」
「いけ好かない男だけど、マムの治療には必要な人材よ。彼の生化学の知識は折り紙付きなんだから」

生化学者であり、F.I.S.内でも天才と称されていた彼は、ネフィリムの起動実験にも関わった程だ。
マリア達が使用しているLiNKERを調合しているのも彼であり、機関の中では櫻井了子に次いでシンフォギアの真理に深く分け入っている存在であったとも言えるだろう。

性格に難はあるが、その腕と頭脳は確かなものだ。彼もまた、『フィーネ』には必須の人材なのである。

(マム……早く良くなって……)

マリアは壁から離れると、部屋を出ていこうとする。

「マリィ、何処へ?」
「ちょっとシミュレーターで運動してくるわ。どう取り繕っても、私達は所詮、時限式の偽物装者。だからとて、いつまでも小細工にばかり頼っては居られないでしょう?」

呼び止めたツェルトにそう答えると、マリアはシミュレータールームへと向かって行った。



(私はあの子たちに無理をさせているのかもしれない……。ツェルトにさえ嘘を吐いて、この役割を()()()()()いる……。けれど、この道を選んだ以上、立ち止まることは許されない。わたしはもっと……もっと強くならなければ……)

ポケットの中に仕舞った、罅の入ったペンダントを握りしめる。

浮かんでくるのは、炎の中に佇むあの日のセレナ。

命を燃やして皆を護った妹の強さと、何もできなかった自分の弱さを痛感した、あの日の光景だ。

(私は強くあらねばならない……。マムのため、調と切歌のため。ツェルトのため。そして私を救ってくれた、セレナの為に……)
「……セレナ」

無意識に呟いた、最愛の妹の名前。
彼女は今でも、氷の中で眠りについたままだ。

(あの時、皆を護ったセレナ……。……私はあの子のように強くなれるの? あの子のように、マムを、調を、切歌を、ツェルトを護れるの……?)

自問自答し、迷いを振り払うように首を振って、そして自分に言い聞かせるようにマリアは呟く。

「ダメね、余計な事を考えてる場合じゃないわ。今は少しでも強くなるため、この槍を振るわなきゃ……」

シミュレータールームへと入ったマリアは訓練用プログラムを起動させ、無針注射器を首筋に当てて緑色の液体を注入すると、聖詠を口ずさむ。

“溢れはじめる秘めた熱情”と……。

ff

マリアが訓練を続けている頃、ツェルトはエアキャリアのとある一室へとやって来ていた。

医務室のすぐ隣にあるその部屋は、多くの機械が並ぶ。
それらは部屋の中心に存在する、円筒状のカプセルに繋がれていた。

カプセルの内側は冷気で満ちており、その中に眠る少女をあの頃の姿のままで留め、生き永らえさせてくれている。

()()()……今日もお見舞いに来たぞ」

ツェルトはカプセルの前に立つと、微笑みながら声をかけた。

そう。カプセルの中に眠るのはセレナ……6年前、暴走するネフィリムを食い止めるため絶唱を口にし、燃え盛る施設の崩落に巻き込まれたマリアの妹だ。

ツェルトやマリア、調、切歌も、日に一度はこの部屋に来ては、カプセルの中にいる彼女へと言葉をかける。

特にマリアとツェルトに至っては、一人で二時間近く籠っていることもある程だ。

かける言葉は各々様々だ。

その日一日の出来事を語ったり、初めて食べた美味しかったものを自慢したり。

時には、他の誰にも言えない弱音を吐き出すことも……。

「……今日はな、切歌と調がネフィリムの餌を取りに行ってくれているんだ。それで、日本の装者達が通っている学校に潜り込みに行ってるんだが……今、向こうは学園祭の真っ最中らしい。ちょっと羨ましいよな。任務とはいえ、日本の学校のイベントだ。きっと二人も、任務の事は一旦置いて楽しんでるんじゃないかと思う。……まったく、とんだ役得だな」

当然ながら、答えが返ってくる筈もない。

いつもの事だ。だが、これくらいの気休めでもしなければ、彼女がまだ生きていると信じられなくなりそうで……皆、怖いのだ。

あの日……落下してきた瓦礫に押しつぶされる寸前、セレナはツェルトに突き飛ばされた。

瓦礫による圧死をなんとか免れ、彼女は死から免れたかに思われていたが……運命は残酷だった。

セレナが突き飛ばされた先には、赤々と燃え広がる炎の海。
ツェルトが気付いた時には既に遅く、セレナはその真っただ中へと落ちていき……。

結果、セレナは絶唱のバックファイアによる出血と全身を覆う大火傷が重なってしまい、それぞれの症状を同時に治療しなければ死に至る状態へと陥ってしまったのだ。

それがツェルトが右腕を失った理由であり、セレナがこの中で眠る経緯。

腕を潰してでもセレナを救おうとして、報われなかった彼の過去である。

「……実はさ、最近迷ってるんだ……」

ぽつり、と。ツェルトは切り出した。

「融合症例第二号に会ってから、ずっとそうだ……。……あいつ、姉さんのライブを台無しにされたって……そう言ってた。俺達にとっては計画の一環でも、あいつにとっては大切な姉さんの晴れ舞台だったんだ……」

俯きながら、ツェルトは掌の皮を爪が切り裂くほどに握りしめる。

彼を苛んでいるのは迷いだけではない。翔を始めとした多くの人の心を踏み躙ってしまったという自覚が生まれたからこその、自責の念だ。
踏み躙られる痛みを知りながら、誰かの想いを踏み躙ってしまった自分への怒りだ。

いくら世間から悪と誹られようと、正義の為に悪を貫く……それだけが最善の道だ。
茨の道ではあるものの、自分達にはこれしかないのだ。

そう信じて、進んできたはずなのに……。

敵であるはずの少年の言葉が、どうして胸に刺さり離れないのか。
それが彼には分からない。……いや、納得してしまえば、自分たちが信じてきた正義を否定することになるのを理解しているのだ。

それが酷く恐ろしい。

何より、そう在ると決めた一人の乙女を裏切れない。

悩めば悩むほどどん底で、何が正しいのかさえ分からなくなっていく。

消え入りそうな声で、ツェルトは絞り出すように呟いた……。

「教えてくれ、セレナ……。俺はどうすればいい?」

ff

「はわーッ!? こ、これは……ッ!」

リディアン新校舎、その校門をくぐり校庭へと足を踏み入れた切歌と調。

そこには、二人にとっては夢のような光景が広がっていた。

「屋台がこんなに出ているなんて……」
「すごいデス……なんデスか、ここはッ!?」
「恐るべし学園祭だね」
「とりあえず調、回ってみるデスよッ!」

任務を一旦忘れ、二人は校庭の出店を見て回り始めた。

「たこ焼きに磯辺焼き……チョコバナナにりんご飴……」
「ベビーカステラ、わたあめ、かき氷……あっちはえっと……」
「食べたことのないものばかりデスッ!」

潜入美人捜査官メガネの奥で、ぱっちりおめめをキラキラさせながら、少女達はどんどん歩を進めていく。
しばらく進んだ頃、ある店の前で切歌が足を止めた。

「あわわッ、デ、デースッ!? 調……見てくださいッ!」
「どうしたの?」
「角にあるクレープ屋さん……100円って書いてあるデスッ!」
「クレープが……100円? びっくりな価格破壊……」
「こ、ここは……天国デスか? 天国なのデスかッ!? とにかく近づいてみるデスよ。本当かどうか確かめるデスッ!」
「うん、行こう切ちゃんッ!」

仲良く手を繋いで、二人はクレープ屋へと近づいていった。

そして数分後……。

「もぐもぐもぐ……チョコバナナ……もぐ……」
「あむ……はむ……カスタードいちご……あむ」
「あああ……美味しいデス~」
「うん、幸せだね……」

購入したクレープを、二人はニコニコ笑顔で頬張っていた。

食べ終わったクレープの包みをゴミ箱に入れ、校門付近で配布されていたマップを握りながら切歌は叫んだ。

「最早ここに来たのは運命ッ! こうなったら、うまいもんマップを完成させるしかッ! まだ見ぬ美味しいものがアタシたちを待っているのデェェェスッ!」
「じー……」
「な、なんデスか、調?」

調は切歌をジト目で見ながら答える。

「……目的を忘れないでね、切ちゃん。わたしたちはペンダントを奪取しに来たってこと。食べ歩きばかりしてないで、早くあの人たちを探さなきゃ」
「も、もちろん覚えてるデスよ~……。だからこうして、目を光らせながら学園を回っているんじゃないデスか」

目を泳がせながら誤魔化そうとする切歌。
しかし、調は眼光鋭く切歌にジト目を向け続ける。

「そうかな? 切ちゃんの目の輝きは、屋台に向けられているように見えたけど……」
「そ、そ、そんなことないデス。ちゃんとあいつらを探してるデスよ~」
「……本当に?」
「それにデスよ。あいつらと戦う前に美味しい物をたくさん食べておけば、それだけ成功確率も上がるデス。腹が減ってはなんとやらデスッ!」

本当はただ切歌がお腹を空かせ、食い意地を張っているだけなのであるが……そうと分かっていても、やはり調も切歌と同じ食べ盛りの女の子。
それに加え、今は丁度お昼時。丁度いい時間帯なのかもしれない。

そう判断した調は、切歌の提案に乗ることに決めた。

「……わかったよ、切ちゃん。それじゃ引き続き周囲を見て回ろう」






「……と思ったけど、そんなにわたしたちお金持ってなかったね」

しばらくして、財布の中身が思っていた以上に心許なかったことに気が付いた二人は、がっくりと肩を落としていた。

「巡回、あっけなく終了……」
「デェェェェェスッ! これじゃあ、うまいもんマップは完成できないし、あいつらからペンダントもーッ! それに、お腹も四分目くらいだから、成功確率も怪しいデス……」
「マップは仕方ないよ。ただペンダントは別の方法で……」

物惜し気にうまいもんマップを見ながら項垂れる切歌。その肩に手を置く調。

先程までの陽気は何処へやら、見る見るうちに落ち込んでいく二人。

――そこへ向かってくる、二つの足音があった。

「あれ? 君達、もしかして……」
「さっきの子達……だよね?」
「……え?」
「あーッ!? 今朝のお兄さんたちデスか!?」

足音の主は、紫髪で双子の少年達……大野兄弟であった。

「さっきは逃がしてくれてありがとう」
「兄さん、二人が無事だったかすごく気にしてたんだよ」
「そ、それはどうもデース。あはは……」

あの後、集まってきたノイズは全てギアで切り刻んでしまったのだが、それを話すわけにはいかない。
二課に嗅ぎ付けられる前に全て片付けられただけでも僥倖だ。

「あの人、無事に送り届けられましたか?」
「うん。君たちのおかげでね。二人は僕らの命の恩人だよ」
「え、えへへ……そんな照れるデスよ」

切歌が照れ臭そうにはにかみ、調の口元が少し緩む。
すると、飛鳥がふと思いついたように手を叩いた。

「そうだッ! お礼と言うには足りないかもしれないが、この券、よかったら使ってくれて構わないぞ」

そう言って飛鳥は懐から、なにやら文字が印刷された画用紙の束を取り出した。

「……これは?」
「この学園祭の無料券だ」
「デ、デスッ!? 無料ッ!?」
「屋台の食べ物も、催し物もぜーんぶ使えるお得な券だよ」
「えッ……でも……」
「はい、僕からも。お昼はもう食べちゃったし、使われないままだと勿体ないから」

流星も、自分の無料券を取り出し、二人に渡す。
二人が券を受け取ると、兄弟は踵を返した。

「それじゃ、僕らはこの辺で」
「……そうだ。君、名前は?」

流星は思い出したように振り返ると、調の方をまっすぐ見つめながらそう言った。

「月読調です」
「調ちゃん……か。いい名前だね」

調の名前を聞き、流星は何処か満足そうに笑う。

「僕は流星、大野流星」
「流星……さん?」
「そう。……覚えてくれると、嬉しいな」
「流星……? どうしたんだ、急に」

飛鳥が首を傾げるが、流星は答えない。
そのまま二人に手を振りながら歩き出した。

「学園祭、楽しんでいってね。じゃあ、また」
「おッ、おい……本当にありがとう。二人とも、元気でね。……流星! どういうことだ! おーい!」

立ち去る流星を追いかけて、飛鳥もその場から離れていく。
二人の手には、無料券の束だけが残されていた。

「…………行っちゃったね」
「す、すごいデスッ! これだけあれば……マップ完成も夢じゃないデスッ!」
「切ちゃん、嬉しそう……」
「そういう調だって、ちょっと笑ってるデスよ」
「わたしは……切ちゃんの笑顔につられたの」

本当は自分だって嬉しいのに、しっかり者であろうとして素直にならない。

そんな調の心境を察しつつ、切歌は笑う。

「そういう事にしておいてあげるデス。じゃあ、せっかくだし……?」
「屋台を回ろうか」
「デェェースッ!」

そして二人は、再び屋台巡りに戻っていった。

「そういや、あの流星って人……どうして調の名前を聞いてきたんデスかね?」
「わからない。でも……初めて会った気がしなかった」
「デス?」

切歌が不思議そうに首を傾げる。

「そう……まるで……」



「流星、どうしてあの子に名前を?」
「あの時、あの子の顔を見た時から思ったんだ」
「何を?」

不思議なことを言う流星に、またいつもの天然か?と飛鳥も首を傾げる。

「あの子……調ちゃんとは、確か……」



調と流星。互いに離れながらも、二人は同じ瞬間にこう呟いていた。
まるで、運命に手繰り寄せられたかのように、一言一句同じ言葉で。



「「夢の中で逢った、ような……」」 
 

 
後書き
前半のツェルマリとセレナに一切触れない前書きは何なんだって?
やだなぁ、最初にそれを言ったらインパクトが薄れるじゃないですか(確信犯)

ツェルトという一人の少年の存在によって、セレナの運命は少しだけ変わりました。
ですが、悲劇を完全に回避することは適わず……。

この辺りの拘りは、自分の性格なのかもしれません。
世界線は固定されてるけど、原作世界には存在しない不確定要素が存在する分、多少の揺らぎが生まれる……みたいな。
オリキャラ多めだからとて、大きな改変入れない構成してるのはそういう拘りがあるからなのかも。

え?ウェル博士が珍しくまともっぽいって?
まあ、狂ってても天才としての矜持はありますからね~。
むしろ『英雄』目指してるからこそ、その肩書に嘘は吐かないし、その知識で直接人を殺めるような三流ムーブは出来ない。それが自分から見たウェル博士です。
稀血に毒混ぜて渡したどっかのクソ爺とはえらい違いだ()

そしてここでまた一組フラグが建ちました。
カップル乱立させるために原作を再構成してまで手間暇かけていく錬糖術師とは私ですw
調の家系的に運命の人が夢の中に現れるくらいはありそうだよね。某隕石降ってきた村の巫女JKだって二年後の運命の人と夢を通して逢ってたんだもの。

さて、次回はいよいよ『電光刑事バン』と『教室モノクローム』のお時間です。
クリス推し、三人娘推しは音源を用意しつつ、覚悟の準備をしておいてくださいッ!
お楽しみに!

純「遂に始まったリディアン・アイオニアン合同カラオケ大会。眩く照らされるステージに、十人十色の歌声が響き渡る。それぞれの思いを乗せた歌に導かれ、今、雪の音の少女がそのステージに立とうとしていた。背中を押されて飛び出したのは、知らない素振りを続けた世界。どこまでも澄んだ高い空に、はじめての笑顔は隠せない。次回『あたしの帰る場所』。モノクロームな教室に、君は何を思うのか……聴かせてほしいな、クリスちゃん」 
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