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戦国異伝供書

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第八十六話 紫から緑へその三

「そして毛利に姓をあらためたのが」
「毛利家ですな」
「左様です」
「そう考えますと長いですな」
「ですがそこからの話は」
「今はですな」
「しませぬので」
 このことは断るのだった。
「ご安心下され」
「ははは、それでは」
「話はそれがしの子供の頃からです」
「そこからですか」
「まあ六十年は前ですか」
 それ位の頃のことだというのだ。
「思えば」
「六十年となると」
 長政も言ってきた。
「それはまた」
「昔ですか」
「それがしなぞ影も形もありませぬ」
「我等も」
 ここで島津義久が言ってきた。
「誰一人として」
「父上もですな」
「左様ですな」
「まだ生まれておられませぬ」
 義弘、歳久、家久も言うことだった。
「実にですな」
「昔ですな」
「実に」
「そう思うとわしも歳を取りました」
 今度はこう言う元就だった。
「ではその毛利家の話を」
「これよりですな」
「してくれますな」
「今より」
「そうさせて頂きます」
 こう言ってだった、元就は自分のそして毛利家のこれまでのことを話した、話は彼が言う通りに彼が子供の頃からはじまった。
 幼名は松壽丸といった、彼はその時神社に詣でていた家臣達に問うた。
「何を願っておったのか」
「当家のことです」
「当家が山陽と山陰の覇者にする」
「その様にお願いしてきました」
「そうしました」
「何っ、山陽と山陰だけか」
 それはとだ、松壽丸はどうかという顔で家臣達に言った。
「よくないのう」
「といいますと」
「それはですか」
「どうかですか」
「山陽と山陰を一つにすると願ってな」
 そうしてというのだ。
「安芸一国を精々じゃ」
「そうなのですか」
「そうなりますか」
「それが出来る位ですか」
「だから天下をと願うべきであった」
 こう言うのだった。
「お主達はな」
「何と、天下ですか」
「我が毛利が天下を」
「そう願うべきでしたか」
「そこまで大きなものを」
「大きなものを望み」
 そしてというのだ。
「必死にことを進めてもな」
「小さいですか」
「実際に出来ることは」
「そうなのですか」
「左様、しかし願ったものは仕方がない」
 松壽丸は家臣達にこうも言った。
「だから次じゃ」
「次に願う時にですか」
「その時にですか」
「天下を望む」
「そうすればいいですか」
「その様にな」
 こう言ってだった、松壽丸は家臣達と話した後で自身の城に戻った。そこで彼を育ててくれている義母にこのことを話した。 
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