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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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無印編
  第30話:三つ巴の争奪戦・その2

 
前書き
どうも、黒井です。

今回はデュランダル争奪戦第2話。何も知らぬヒュドラに、弦十郎の旦那が牙を剥きます(笑) 

 
 二課とジェネシスの戦いは、苛烈を極めていた。

 二課側は、颯人と奏を中核としてメイジとノイズに対処し、この場で最も脆い了子を守るべく奮闘していたのだ。

 颯人が振るうソードモードのウィザーソードガンによる一撃を、メデューサがライドスクレイパーで受け止め反撃の横薙ぎを放つ。それを跳んで躱しつつ、左手を峰に添えて狙いを定め不安定な態勢ながら刺突をお見舞いした。

「貰った!」
「くっ!?」

 相手の攻撃の直後の隙を突いて放たれた一撃だったが、流石に幹部として名を連ねるだけあって一筋縄ではいかずギリギリのところで防がれてしまった。それだけに留まらず、メデューサは魔法の矢を放ち反撃してきた。

〈アロー、ナーウ〉
「喰らえっ!」

 自身に向けて飛んでくる無数の矢に、颯人は舌打ちしつつガンモードのウィザーソードガンで矢を打ち落とす。全ての矢を迎撃し終えると、再びソードモードのウィザーソードガンでメデューサに斬りかかる。メデューサはそれに合わせる様に身構え、防御の構えを見せた。
 またしても受け止められる颯人の一撃だったが、彼も同じことばかり繰り返すような間抜けではない。
 受け止められた瞬間、軸をズラして防御をすり抜けメデューサの懐に入り込んだ。

 結果的に密着する颯人とメデューサ。超至近距離で互いに相手を睨みつけながら、颯人はメデューサに問い掛けた。

「お前ら、何だってデュランダルを奪おうとする!?」
「あれは我らにこそ相応しい。我らによる新たなる世界創造に役立てるのさ! 聖遺物にとっても光栄だろうさ!」
「長風呂が過ぎてるぜッ!!」

 問答の最中、僅かな隙を見て颯人からメデューサは距離を取る。一瞬の睨み合いの後、両者は再びぶつかり合った。

 その時、不意に彼の目に響とメイジの戦闘が映った。

「ハァッ!!」
「うわっ!? く、ま、待ってくださいッ!?」
「問答無用ッ!!」
「ぐっ?!」

 響は誰が見ても苦戦している様子だった。それも、たった1人のメイジ相手に対して、である。だがそれも無理はないだろう。例えデュランダルのケースと了子が居なかったとしても、響は間違いなく苦戦どころか手も足も出なかった筈だ。他者との争いを好まぬ、心優しい少女である彼女に本気の命の取り合いである対人戦など土台無理な話だったのだ。

「ヤベッ!?」

 彼女の苦戦を見て、颯人はメデューサの相手をしている場合ではないと一度距離を離し、使い魔の最後の一体を召喚した。

〈ユニコーン、プリーズ〉
「ちょっと持たせといて!」
「待て貴様ッ!? えぇい、邪魔だ!?」

 メデューサの相手を使い魔達に任せ、響の救援に向かう颯人。メデューサは小さく素早い使い魔達に翻弄され、一時的にだがその場に釘付けにされていた。

 その間に響の下に駆け付けた颯人は、彼女が相手をしていたメイジを即行で片付けた。

「邪魔だお前ッ!?」
〈スラッシュストライク! ヒーヒーヒー!〉
「ぐあぁぁぁぁっ?!」
「ッ!? 颯人さんッ!?」
「よぉ、響ちゃん。大丈夫だったかい?」

 メイジに必殺の一撃を叩き込み戦闘不能に追いやる颯人。先程までとは違い大技の一撃を喰らったメイジは、変身を維持できなくなったのか倒れた状態で元の姿に戻ってしまっていた。その事を心配する響だったが、颯人はそれに構わず彼女に語り掛けた。

「響ちゃん、戦い辛いなら無理せずそのケースと了子さん連れてこの場を離れてな」
「それは……でもッ!?」

 颯人の言葉が、響には言外に戦力外通告しているような気がして思わず反発した。それを予想していた颯人は優しく、だが厳しく彼女を諭した。

「言いたいことは分かる。だがな、響ちゃん? ここは敢えて厳しく言わせてもらう。今の君は足手纏いだ」
「ッ!?!?」

 言外どころかドストレートに戦力外通告をされて、響の表情が固まる。自分が役立たずだと言われて、響の心が悲鳴を上げたのだ。
 それに気付いている颯人は内心で顔を顰めつつ、響に伝えるべきことを伝えた。

「俺が今めちゃんこ厳しい事を言ってることは俺自身が理解してる。だが聞いてほしい。今この場においては、君は下がるべきだ。だがそれは響ちゃんが役立たずだって言ってる訳じゃない」
「でも、足手纏い……」
「出来もしないことを無理矢理やろうとするのはそりゃ足手纏いだろうさ。いいかい響ちゃん? 俺は別に君を役立たずだと言ってる訳じゃない。ただ誰にだって出来る事と出来ないことがあるって言いたいだけだ」

 適材適所と言う言葉がある。どんな人、どんな物にもそれに見合った活躍の場と言うものがあるのだ。響は確かにシンフォギアを扱え、ノイズとも戦える力を持っている。だがそれは、このような場において発揮されるような力ではない。特に彼女の気質を考えれば尚更だ。
 響は守る戦いでこそ力を発揮できるが、最悪なことに彼女にとって無理矢理戦わされているメイジ達もまた守るべき…………否、助けるべき人であった。だからこそ、彼女はメイジ相手に全力を出す事が出来ないのだ。

 しかし彼女のそんな思いは洗脳されているメイジ達には関係ない。いや寧ろ、そうして出来た隙を連中は容赦無く突いてくる。響の心身の安全を考えたら、そして任務の事を考えたら響にはケースと了子を守ってもらう方が適任だった。

「俺はあいつらと戦える。だがケースと了子さんまでは手が回る自信がない。メデューサを相手にしなきゃならないからな。だから、俺に出来ないことを響ちゃんがやってくれ」

 颯人の説明に、響も一応の理解は示してくれたのか表情は暗いながらも頷いた。
 気落ちした様子の彼女の頭を、颯人は少し乱暴に撫でた。

「わわっ!?」
「すまねぇな、響ちゃん。了子さんとケースは頼んだぜ。ま、どうしてもきつくなったらケースの方は捨てちまいな。どうせ大した価値なんて無いんだから」
「そ、そんなの駄目ですよ!?」

 颯人の言葉に逆に必死にケースを抱きしめる響に、彼は軽く苦笑する。

 そして彼は、奏も同様に対人戦では全力を発揮できないだろうと、あまり無理はしないように言おうとそちらを見た。

「奏! お前も――――」

 声を掛けようと、颯人が奏の方を見た。

 その彼の視線の先では――――――

「ハァッ!!」
「ガッ?!」
「らぁっ!!」
「ぐあぁっ?!」

 目の前に立ち塞がっていたメイジ2人を、アームドギアを振るいあっという間に叩きのめす奏。

 その彼女の背後に2人のメイジを倒して隙が出来た所を狙った別のメイジが迫る。颯人がまずいと彼女を援護しようとすると、それより早くに奏のアームドギアの石突がメイジの顔面を直撃した。

「ごっ?!」

 予想外の一撃にメイジがふらつく。その隙を突いて振り返りざまに振るったアームドギアで、背後から迫っていたメイジも倒してしまった。

 あっという間にメイジ3人を叩き伏せた奏に響は勿論、颯人も唖然となってしまう。

 そんな2人に気付いた奏は、特に颯人に向けて得意げな笑みを向けた。

「ん? 何だって?」
「…………何でもねぇよ!? 余計なお世話だった!」

 心配など不要なほど全力を出してメイジと戦い叩きのめす奏に、颯人は半ば不貞腐れる様にそっぽを向く。その彼に、メデューサの相手をさせていた使い魔三体が飛ばされてきた。
 飛ばされてきた使い魔三体の内、颯人がクラーケンとユニコーンを、響がガルーダを受け止める。

「おっと」
「わわっ!?」

 2人が受け止めた使い魔達は、メデューサとの戦いで魔力を使い切ったのかそのまま2人の手の中で指輪に戻ってしまう。颯人は指輪に戻った使い魔三体を懐に入れ、ウィザーソードガンを構えてメデューサと対峙する。

「小癪な真似をしてくれたな――――!?」
「よぉ、メデューサ。幹部のくせして高々使い魔程度に随分と時間食われたじゃねぇか? 普段の戦いを部下に任せっきりで腕落ちたんじゃねぇか?」

 小馬鹿にしたような颯人の言葉。仮面を被っているのでメデューサの顔は見えなかったが、それでもメデューサの額に青筋が浮かんだのを響は幻視した。それほどに、今のメデューサからは怒気を感じていた。意識せず、響はケースを両腕でギュッと抱き締める。

 その響の手を引く者がいた。了子だ。何時の間にか響の近くに来ていた彼女は、響の手を引きこの場から引き離そうとしていたのだ。

「ここを離れるわよ、響ちゃん」
「りょ、了子さん!?」
「ここに居たら颯人君が全力で戦えないわ。ね?」
「は、はい! あの、颯人さん、気を付けてください!」
「おぅ、任せな!」

 メデューサと対峙する颯人に一声かけ、了子と共にその場を離れる響。それと入れ替わるように奏が彼の隣に並び立つ。

「幹部相手は1人じゃきついんじゃないかい? 手を貸すよ、颯人」
「あれ? 他のメイジは?」

 奏が加勢してきた事に、内心で嬉しく思う反面他のメイジはどうしたのかと疑問を抱く。問い掛けながら彼が周囲を見渡していると、奏がアームドギアで肩を叩きながら答えた。

「他の連中はノイズとクリスってのの相手で忙しいらしくてね。こっちには目もくれなかったよ」

 なるほど、言われてみればノイズもクリスも一向にこちらに来る気配がない。それは周囲に散らばったメイジ達が派手に暴れて引き付けてくれているからだった。皮肉なことに颯人達二課を圧倒しようと数を揃えたことが、結果的に彼らを手助けする事となったのだ。

 思わぬ事態に、メデューサが周囲のメイジ達を見渡しながら苛立った声を上げた。

「えぇい、役立たず共めッ!?」

 機嫌を悪くするメデューサに、颯人は僅かながら状況を楽観視し始めた。敵となる二つの勢力が勝手に潰し合い、消耗しあっている。
 となれば、あとは目の前にいるメデューサと何処かに居るクリスを何とかしてしまえば勝機はあった。

 そう思った矢先、突如上空で何かが爆発する音が響いた。何事かと全員が上を見上げると、そこでは今正に爆発したと思しき弦十郎が乗り込んでいたヘリの残骸が降り注いでいるところだった。




***




 時間は数分ほど遡り、上空を飛ぶヘリの内部では弦十郎とヒュドラの激しい戦いが繰り広げられていた。

「オラァッ!!」

 狭い機内であろうと、容赦なく全力で剣を振り回すヒュドラ。対する弦十郎は素手で相対している。受ければ大怪我か致命傷、避ければヘリに致命的な被害が出る可能性があると、普通に考えればこの時点で弦十郎に勝ち目はない。絶体絶命だ。

 だがヒュドラは、彼らは知らなかった。弦十郎と言う男の規格外さを。シンフォギア装者とウィザードにばかり警戒を向けて、ノイズとも戦えず魔法も使えない弦十郎を脅威にはならないと高を括っていたのだ。
 そのツケはこれ以上ないほどのしっぺ返しとなってヒュドラに返ってきた。

「ヌンッ!!」
「なぁっ!?」

 魔法使いに変身し、強化された腕力で振るわれた剣による一撃。それを弦十郎は、あろうことか片手で受け止めてしまったのだ。
 そう、片手で、である。あまりにも常識外れなその光景に、ヒュドラは一瞬思考が停止してしまった。

 その隙を見逃すような弦十郎ではない。
 彼は狭い機内と言う場にあって見事な体捌きでヒュドラの懐に入り込むと、剣を持つ手に手刀を振り下ろした。その一撃はヒュドラの手から剣を容易に手放させ、奪い取った剣はそのまま機外に放り捨ててしまった。

「て、テメェッ!? くっ!?」
「遅いッ!!」

 まさかの展開に、距離を詰められたままは不味いと判断し弦十郎から離れようとするヒュドラだが、弦十郎が更に踏み込むほうが早かった。踏み込みと同時に背中で放つ体当たり『鉄山靠』を仕掛けると、喰らったヒュドラは凄まじい衝撃を受け機内の壁に叩き付けられた。

「ごはっ?!」

 ヒュドラが機内の壁に叩き付けられた衝撃と、弦十郎が踏み込んだ際の力でヘリが大きく揺れた。だが弦十郎は微塵もバランスを崩す様子は無く、しかしそれでいてヘリのパイロットには機体を安定させるよう苦言を口にした。

「おい、東野村(とのむら)! もうちょっと静かに飛ばせないのか?」
「無茶言わんでください!? 空に居るノイズにだって気を付けなきゃいけないのに、おわっ!?」

 言いながらも突撃してきたフライトノイズをギリギリのところで回避したパイロットの東野村 裕司(ゆうじ)。尚も激しく機動を続けるヘリに弦十郎が肩を竦めている前で、ヒュドラは困惑しながら体勢を立て直した。

 言うまでもない事だが、変身している魔法使いは並大抵の攻撃ではビクともしない。通常兵器で言えばライフル程度なら余裕で耐えられるだけの防御力を誇っていた。
 にも拘らず、弦十郎の一撃は体の芯まで響く威力を持っている。その事実にヒュドラは体勢を立て直しながら、信じられないと言った目を向けた。

「お前、一体何者だッ!?」
「事前に調べておかなかったのか? 俺は特異災害対策機動部二課の司令官、風鳴 弦十郎だ!」
「そう言う事じゃねぇッ!? クソッ!」

 ふざけているとしか思えない弦十郎の様子に、半ばヤケクソになりながら突撃するヒュドラを弦十郎は油断なく見据える。

「オラオラオラッ!!」

 剣を失った事で左手のスクラッチネイルを主体とした格闘戦で対抗するヒュドラだったが、その攻撃は悉くが弦十郎に受け止められ、受け流され、挙句の果てには反撃を喰らい自分がダメージを受けていた。

「ぐ、おぉ――?!」
「おぉぉぉぉぉぉっ!!」
「うっ!?」

 予想していた以上のダメージに、思わず動きを止めるヒュドラに弦十郎の正拳突きが放たれる。
 喰らったら絶対ヤバいと回避したかったヒュドラだが、狭いヘリの内部ではそれも叶わず止む無く防ごうとした。

 果たして、弦十郎の一撃はヒュドラの防御をぶち抜いて彼にダメージを負わせた。

「はぁぁっ!!」
「が、っはぁぁっ?!」

 弦十郎の一撃を諸に喰らい、再び機内の壁に叩き付けられるヒュドラ。今度の一撃は弦十郎もかなりの力を入れていたのか、衝撃でヘリが大きく軋んだ。

「ちょちょちょっ!? 司令、手加減してくださいッ!? あんまり本気出されたらヘリが持ちませんッ!!」
「安心しろ。ちゃんと加減はしている」

 裕司からの抗議を軽く流しながら、弦十郎は壁に凭れ掛かるヒュドラを見据えていた。
 対するヒュドラは、曲がりなりにも幹部として名を連ねる自分がたった1人の生身の男に圧倒されている現実に戦慄していた。

「お前、本当に人間か?」
「何を当たり前のことを。さぁ、大人しくお縄についてもらおうか!」

 あわよくばここで敵対組織の幹部の1人を拘束しようと目論む弦十郎だったが、そうは問屋が卸さない。この程度の状況を打開する手段は、彼らジェネシスの魔法使いにはいくらでもあるのだ。

「付き合ってられるか――!!」
〈イエス! ファイアー! アンダスタンドゥ?〉
「むっ!? いかんっ!!」

 一瞬の隙を見て右手の指輪を交換し、ヒュドラは魔法を発動させた。彼の右手に灼熱の炎が集束されていくのを見た弦十郎は、即座にそれを危険と判断。止めるか逃げるかで迷ったがもう止めようがない事を直感的に悟ると裕司を座席毎引き剥がしてそのままヘリから飛び降りた。

「へ、ちょ、うわぁぁぁぁぁっ!?」
「口を閉じてろッ!!」

 弦十郎は悲鳴を上げる裕司を宥めながら、空中で体勢を整えつつ自分達が先程まで乗っていたヘリを振り返った。彼が視線の先に見たのは、コンマ数秒の差でヒュドラから放たれた灼熱の業火により運転席が吹き飛ばされたヘリが爆発する様子であった。 
 

 
後書き
と言う訳で第30話でした。

今回は終盤が全てを持って行った気がする。でも問答無用で相手を分解できない以上、こうなるのは仕方ないよね。

執筆の糧となりますので、感想その他評価やお気に入りなどお待ちしてます。

次回の更新もお楽しみに。それでは。 
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