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山地乳

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第二章

「まだまだやりたいことがあるんだよ」
「そうだよな、弥次さんも」
「だからな」
 それでというのだ。
「まだまだ生きたいぜ」
「そうだよな、お互いに」
「だからな、今晩はな」
「いつもどっちか片方が起きてるか」
「そうしてその山地乳ってのが出て来てな」
「寝てる方の息を吸うのを見るってんだな」
「そうしたら長生き出来るじゃねえか」 
 吸われた方はというのだ。
「そうしたらいいじゃねえか」
「そうだよな、けれどな」
「おう、逆にだな」
「もう片方も寝たらな」
 その時のことも話すのだった。
「吸われた方は次の朝お陀仏だぜ」
「そうなるな」
「片方は絶対に起きてねえとな」
「そうしないと駄目だな」
 二人でこのことを話した、そして。
 喜多八は弥次郎兵衛に言った。
「弥次さん俺が寝てる時起きてくれよ」
「それは俺の言葉だよ」
 弥次郎兵衛はその喜多八に返した。
「喜多さん俺が寝てる時に起きてくれよ」
「わかってるさ」
 二人で必死に言い合う、そうして湯を楽しんでからだった。
 二人は箱根の酒と食いものを楽しんでから床に入った、そこでまずは誰が先に寝るかという話になったが。
 ここでだ、弥次郎兵衛は自分の隣に寝る喜多八に尋ねた。
「喜多さん起きてるかい?」
「弥次さんそれは寝言じゃねえよな」
「寝言で他人が起きてるかどうか聞かねえだろ」
「それもそうだよな」
「それで喜多さん起きてるのかよ」
「起きてるからこの返事だよ」
 こう返す喜多八だった。
「それはわかるだろ」
「それもそうだよな」
「ああ、それでな」
「どっちが先に寝るか」
「それが問題だよな」
「本当にな」
「弥次さん先に寝なよ」
 喜多八はこう弥次郎兵衛に言った。
「俺が見てるからな」
「山地乳が出てもか」
「ああ、ちゃんと見てるからな」
「そうか、じゃあ寝るな」
「おう、そうしな」
 喜多八に言った、そしてだった。
 半刻程経ってから喜多八は弥次郎兵衛に問うた。
「弥次さん寝たかい?」
「起きてるぜ」
「そうか、起きてるのか」
「妖怪が来ると思ったら寝らねえ」 
 どうにもという返事だった。
「これが」
「妖怪に口を付けられると思うとか」
「それでな、お姉ちゃんならともかくな」
「じゃあ俺が付けるか」
「今はそんな気分じゃねえな」
「それを言うと俺もだな」
 かく言う喜多八もだった。 
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