痩せていたのが

　　　　　　　　　　　　　　　痩せていたのが
　清水美咲は夫の啓太郎と共に今は保健所にいた、そこで夫は元々細いその目を鋭くさせることによってさらに細くさせて妻に話した。
「やっぱりな」
「ワンちゃんはよね」
「保健所でどうなるかわからない子をな」
　黒のポニーテールで自分程ではないが細い目の妻に話した。二人共背は高くしっかりした感じである。夫婦共に警官である。県警勤務である。家を買ったので二人共前から犬を飼いたいと思っていたので今ここにいるのだ。
「引き取ってな」
「育てる方がいいわね」
「俺としてはな」
「それが命を救うことにもなるし」
「救える命は救わないとな」
　夫は真剣な顔で言った。
「救えるならな」
「救えるだけね」
「だからな」
「ここにいるワンちゃんをね」
「一匹でもな」
　救えるなら救えるだけというのだ。
「そうしような」
「それじゃあね」
　妻も頷いた、そしてだった。
　二人で犬を見て回った、その中で。
　妻は一匹の大型犬を見た、その犬は。
　背中や首のところが黒いダークグレーの長い毛を持つ犬だった、目がその毛で隠れ気味で口も髭に覆われている様だ。妻はその犬を見て言った。
「この子は」
「はい、このグレートピレニースの子ですね」
　横にいた職員の人が答えてきた。
「この子ですね」
「随分大きいですけれど」
「どうしたんですか、この子」
　夫もその妻を見て言う、見れば。
　非常に痩せていてしかも夫婦を見て怯えきっていてガタガタと震えていた。その犬を見て言うのだった。
「凄く痩せていて怖がっていますが」
「前の飼い主が酷くて」
「虐待ですか」
「はい、かなり酷い目に遭っていたらしくて」
　それでというのだ。
「挙句にこっちに来てです」
「保健所にですか」
「邪魔だからそっちで何とかしろとです」
「それは酷いですね」
「世の中色々な人がいますね」
「はい」
　夫は顔を顰めさせて答えた、警官という仕事柄悪い意味でそうした輩をよく見てきているからだ。