怖がりの猫
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第一章
怖がりの猫
長い黒髪に黒目がちの大きな目を持つ少女矢追美香はこの時家の中で一匹の白い子猫を見ていた、そのうえで母の美樹に尋ねた。
「お母さん、この猫」
「野良猫なの、お昼に猫を保護しているボランティアの人から貰ったのよ」
「そうなの」
「親兄弟も皆保護されてね」
母は小学五年の娘にさらに話した。
「この子はうちで引き取ったから」
「飼うのよね」
「勿論よ」
あっさりとした返事だった、大きな黒目がちの目は娘と同じもので黒髪も同じだ。だが顔には少し皺があり黒髪は短くしている。背も娘より高い。
「これからはね」
「そうなのね」
「ええ、お父さんにもお話したから」
「もうしたの」
「さっき携帯でね、いいって言ってたわ」
「また急に決めたのね」
「さっきボランティアの人と会ってね」
そしてとだ、母は娘にさらに話した。
「その場で決めたから」
「そうしたの」
「美香ちゃんもいいでしょ」
「うん、私猫好きだし」
むしろ大好きだと言っていい、だから大歓迎だ。
だがそれでもだ、思うところがあり言うのだった。
「だったらね」
「それじゃあいいわね」
「それならね、ただね」
「ただ?」
「男の子?女の子?」
「女の子よ」
母は娘の今の問いに答えた。
「性別はね」
「そうなのね」
「それで凄い怖がりなのよ」
「そういえば今もガタガタ震えてるわね」
部屋の隅でそうしている、自分や母を見てそうなっていることは真理にもすぐにわかることであった。
「怖がりみたいね、かなり」
「ビクビクしてるでしょ」
「ええ」
「びびっている感じだからね」
それでというのだ。
「名前はビビにしたから」
「そうなのね」
「これから宜しくね、もう予防接種とか不妊手術はボランティアの人がしてくれたから」
「そっちはいいのね」
「そうよ。あとご飯とかご飯入れるお皿も買ったから」
そちらのこともしたからだというのだ。
「心配しないでね」
「一緒にいていいのね」
「可愛がってあげてね」
「わかったわ」
美香は母の言葉に頷いた、そうしてだった。
家族でビビと一緒に暮らすことになった、ビビはとにかく怖がりで少しの物音でもビクッ、とする程だった。
しかもかなりの寂しがり屋で絶対に家族の傍にいる、父の賢作は仕事から帰ってリビングでくつろいでいる時に自分の膝にいるビビを見て言った。
「家に帰るとな」
「そうでしょ」
「ビビは離れないな」
「もうね」
妻は夫に笑って話した。
「私がお家にいる時もそうよ」
「いつもなんだな」
「離れないのよ」
傍にいてというのだ。
「本当にね」
「そうなんだな」
「そう、それでね」
妻は夫に笑顔のままさらに話した。
「甘えて仕方ないのよ」
「こうして膝の上にも乗ってだな」
「ええ、本当にね」
「寝る時もそうよね」
美香も笑顔で言ってきた。
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