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飛び込んできてから

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第一章

                飛び込んできてから
 当麻家の犬である白のスタンダードプードルのゴンが目が見えなくなって一年経つ、飼い主の当麻幾多郎と郁美はその彼を家の中に入れて見つつ話した。
「もう散歩もな」
「難しくなったわね」
「ああ、目がな」
「見えなくなったから」
「白内障になるなんてな」
 夫は妻に家の中に置いた犬用のベッドの上で寝そべっているゴンを見て言った、前から大人しい子であったが失明してからは大人しいのではなくすっかり塞ぎ込んでいる。
「本当にな」
「可哀想ね」
「散歩に連れて行くだろ」
 犬にとってそれは必要である、運動にもなるし用足しもそこでするからだ。彼は一日二回のそれは忘れない。会社に行く前と行く後に絶対にしている。
 だがそれでもとだ、妻に言うのだ。
「やっぱりな」
「見えないとね」
「あちこちにぶつかったりな」
「溝に落ちたりもよね」
「するからな」
 だからだというのだ、二人共中年でどちらも腹が出だしていることを気にしている、夫は眼鏡をかけた四角い顔で妻は黒のショートヘアで垂れ目という外見だ。その二人が寝そべっているゴンを見て話しているのだ。
「可哀想だよ」
「手術したら治るっていうけれど」
「犬に全身麻酔はな」
「命に関わるのよね」
「手術に成功しても死ぬならな」
 それならというのだ。
「やっぱりな」
「どうかってなるわよね」
「それでそのままにしているけれどな」
 ゴンの目、それをだ。
「今もな」
「ええ、けれどね」
「本当にな」
「可哀想よね」
「ああ、世の中は不条理だよな」
 夫はこうも言った。
「ゴンみたいないい子の目が見えなくなるなんてな」
「本当にそうよね」
「去勢する前から大人しくて明るくてな」
 そしてというのだ。
「ちゃんと吠えてくれて」
「人懐っこくて優しくて」
「こんないい子いないのにな」 
 そのゴンがというのだ。
「どうして目が見えなくなるんだろうな」
「世の中本当に不条理よね」 
 妻もこう言った。
「どうも」
「そうだな」
「どうしたものかしらね」
 二人で話してだ、そしてだった。
 この日もゴンを散歩に連れて行きまたご飯もあげた、だがゴンは以前の明るさは消えてずっと塞ぎ込んでいる感じのままだった。
 そのゴンを見て夫婦もどうにかならないのかと考えていた、彼にせめて以前の様に明るくなって欲しかった。 
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