| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

リュカ伝の外伝

作者:あちゃ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

また父が変な事をしている

 
前書き
ティミー君には不評でした 

 
(グランバニア城:調理室)
ティミーSIDE

また父が変な事をしている……
国内の農家から大量に大豆を仕入れ、同時に藁も大量に手に入れ、何かを始めた。
“大豆”と言う事で、多分料理だと思われる。

父さんはこれまでに多数の新たな料理を世に広めていった。
今では国外の人々も知っている『寿司』や『ラーメン』に加え、まだ国内でしか有名になってない『とんかつ』や『肉じゃが』に『カレーライス』もあり、更には城下の人々しか知らない『うどん』と『そば』という料理も父さんが開発し広めたモノだ。

何日か前から準備をしており、噂を聞きつけた城内のシェフや元城内シェフで独立して城下で飲食店を営んでいる者等も集まってきた。
それを見た父さんが、

「お? 見学するのは良いけど、完成まで2.3日かかるよ。大丈夫?」
と時間がかかる事を説明。
正直『2.3日かかるんじゃ……ちょっと』と思うも、これまでの傾向から間違いなく美味しい物が出来上がるに違いないので、その過程も見逃せない雰囲気。

皆の無言を了承と捉えたのか、早速作業に取りかかる。
前日から水に浸しておいた大量の大豆を蒸し器にかけ、藁の方も大鍋で煮込んだ。
藁って食べれるのか?

暫くすると煮込んでた藁を取り出し、一掴みして藁を一束にすると、燃えさかる火に近付ける。藁なんて燃えやすいだろうと思っていたが、熱闘で煮ていた為に濡れてて燃えない。
それどころか濡れてた藁が乾燥していく。

乾燥したところで藁の一束を半分に折り、折り揃えた両端を麻糸で縛り、折られた方を器用に空洞にして藁の一束をテーブルに置く。
如何(どう)やら藁は器の様だ。食べる為に煮たのでは無く、煮沸消毒だったらしい。

ある程度藁の器を準備すると、蒸してる大豆を確認する。
因みに藁は煮沸消毒してない分が、まだ大量に存在する。
大豆を確認した父さんは、

「よし、こんなもんだろ!」
と言って大豆を蒸し器から外し、手早く藁の器に大豆を詰めた。
ある程度の量を藁の器に入れると、蓋をする様に藁を閉じ大豆入りの藁筒を完成させる。

全ての大豆を藁筒に詰め終わると、調理場に隣接する倉庫へと運んだ。
この倉庫は常温で保管する食料や日持ちする食料を備蓄する場所で、腐りやすい物を置く事は無い。
そんな倉庫の隅に用意しておいた麻布を敷き、その上にまだ余ってる藁を敷いて、その上に先程作った藁筒を置いていく。

そしてその上に藁を敷き詰めて、更に全体を覆う様に麻布を被せて、
「よし! 取り敢えず今日はここまでだね」
と本日終了を宣言。

「この布をかけた藁の中は約40度に保たなきゃならない。その管理は僕がやるから完成が気になる者は3日後に来て」
そう言って僕らに解散する様ジェスチャーで指示。

王様にそう言われちゃ従わざるを得ないシェフ等は渋々解散。
その殆どがこれまでの行程をメモしており、近くの人のをチラ見したら『ここで72時間放置!!』と書かれて締めくくられていた。

ここには20人ほどのシェフ等が集まったが、その半数以上は独立シェフだ。
店の経営もあるし、本心で言えば今日中に完成して欲しかったのだろうなぁ。





3日後……まさに丁度72時間が経過する時間。
3日前より多い人数が城内の調理場に集まった。
勿論その殆どがシェフで、城の内外で料理を振る舞っている。

前回とは違い見学者として目立ってるのがメイド等が数人集まってる事だ。
今日だけ来ていると言う事は、作る過程は興味なく完成した料理に興味があると言う事だろう。

そして最も完成品しか興味の無い人物が僕の隣に立っている。
その人の名はリュリュ。
僕の腹違いの妹で、現在僕の部下でもある。そして極度のファザコンだ。

さて……
大勢から期待の眼差しを向けられてる我が父は、何時もと変わらない雰囲気で料理の準備をしている。
如何(どう)やら3日前に仕込んだ食材は白米と合わせる様で、相当量の米を炊いていた。

その米が炊き上がったのを確認した父さんは、積み上がっている藁の中に手を突っ込み、藁包みの1つを取り出した。
そして蒸し大豆が詰まっている箇所を両手で広げ割る。

その瞬間……もの凄い悪臭が室内に蔓延した!
「うわ……何だこの臭いは!?」
慌てて鼻を押さえ、思わず呟く。

悪臭の元凶は勿論、父さんが持っている藁包みだ。正確には藁包みの中の蒸し大豆だ。
如何(どう)やら3日間も放置してた為、大豆が腐ってしまった様だ。
流石の父さんも失敗する事があるらしい。

父さんは悪臭の元凶の一番傍に居るのに、眉一つ歪めず腐った大豆を眺めている……
しかし徐に腐った大豆を一粒つまみ藁包みから取り出した。
腐った大豆はネバッとした糸を引き、その悪臭を拡散する。

次の瞬間、父さんは糸を引いた腐った大豆を口に入れた!?
「ちょ……と、父さん! そんな物を口にしちゃ……」
「うん。成功だ」

……は?
成功??
腐ってるのに!?

「父さん……珍しく失敗したからって強がr「今度は何作ったのー?」
父さんに今回の失敗を自覚させようと話しかけてると学校帰りのマリーが割り込んできて父さんに話しかける。タイミングが悪い。

「今回は納豆だ」
「うわっ、凄い臭い。おと……陛下、今回は失敗ですか?」
「陛下でも失敗する事があるんですね」

父さんがマリーの質問に答えてると、一緒に帰宅したリューラが『お父さん』と言おうとして慌てて『陛下』と言い直し僕の言いたい事を言ってくれた。
なお、同じく一緒に帰宅したリューノも今回が失敗だと悟る。

「うわぁ、ご飯も炊けてるじゃん! 一杯ちょうだい!」
「おう!」
「「「え!?」」」

僕らの驚きを他所に父さんは手早く腐った大豆を器に移すと醤油とカラシを足して掻き混ぜる。
そして混ぜ終わった腐った大豆を白米の上に乗せ、満面の笑みのマリーに渡した。
僕らが唖然としてると、マリーは何の躊躇も無く白米と一緒に腐った大豆を口に運ぶ。

「美味しー!!」
こんな悪臭を放ってる物を食べて、それを美味しいと言う。
僕だけでは無く、この場に居るほぼ全員が信じられないで居る。

すると父さんは更にもう一杯の腐った大豆ご飯を作成し、何時もの優しい笑顔でリュリュに向けて話しかける。
「臭いは凄いけど、本当に美味しいよ。父さんの事が信じられないのなら仕方ないけど、欺されたと思って食べてみる?」

彼女相手にこの男が笑顔でそう言えば、逆らう事が出来るはずも無く恐る恐る腐った大豆ご飯を受け取って、自らの手元を見つめる我が妹(リュリュ)
僕は小声で「無理はしない方がいい」と言ったのだが……

僕の一言で意を決したのか、眼を強く閉じ勢いを付けて腐った大豆ご飯を掻き込むリュリュ。
そして自暴自棄な様子で咀嚼をする……と、突然目を見開いて、
「うわぁ美味しい、何これー?」

「ご飯の上に納豆を乗せたから『納豆ご飯』だ。臭いもあるし好き嫌いは分かれるだろうけど、美味しいんだよ」
そう言いながら父さんは更に納豆ご飯なる料理を作成する。

そして目でリューラとリューノに納豆ご飯を勧めると、リュリュ同様逆らえない彼女らはその料理を口にする。
「え、本当だ。美味しい!?」
「確かにこれは美味しいな」

リュリュに続いて2人の妹が陥落すると、リューラにベタ惚れのアローも鼻をつまみながら父さんの作る納豆ご飯を受け取り食す。
そして箸が止まらなくなる。

それを遠巻きに見ていたメイド等が興味を掻き立てられた様で、父さんに納豆ご飯を強請(ねだ)る。
そして更にシェフ等も納豆ご飯を要求し始めた。
この場で食してないのは僕だけだ。

食のプロであるシェフ等も口々に『美味しい』と褒めているが、中には『臭いさえ無ければもっと美味く感じるのに』と言う意見もチラホラ……
父さんも『好き嫌いが分かれる』と言っていたから、万人受けする料理ではなさそうだ。

「ほらティミーも……」
僕だけ二の足を踏んでいると父さんが納豆ご飯を勧めてくる。
本当に食べても大丈夫なのか……腐ってるんじゃないのか?

「食べても大丈夫なのは、この場に居る皆を見れば判るだろ。食せない物であれば、今頃腹痛を訴える者が何人も出ている。好き嫌いが分かれる食べ物ではあるが、食べもせずに嫌わないでもらいたいな。一口でも食べてから嫌いになるのなら、僕もこれ以上お前にコレを勧めないよ」

そう言うと父さんは、リュリュの食べかけと箸を取り上げ僕に勧めてくる。
リュリュとの間接キスなら僕が食いつくと思ったのだろう。
だがこの臭いはリュリュの魅力も打ち消す。

「返してよお父さん。ティミー君はもう私との間接キスじゃ動きません。アミーちゃんの唾液でも混ぜないと食べないと思いますよ」
「つくづく変態だなお前は(笑)」

「僕を変態扱いするのは止めて下さい! 食べますよ……試してみますよ! 少量で良いので僕にも作って下さい、その納豆ご飯とやらを」
僕の言葉を聞くと父さんは器に半分の納豆ご飯を作り僕に手渡した。コレでも多く感じる。

鼻呼吸を止め意を決し納豆ご飯を口の中へ掻き込む。
ネバッとした食感が僕の嫌悪感を増幅させる。
だが咀嚼を続けると、納豆の味が口の中に広がり思っていたより食べられる事を実感する。

「どうだ、食べてみた感想は?」
「はい……思っていたより美味しい事は認めます。ですが僕には合いません……食べて美味しいと感じるまでの臭いと食感が僕は苦手です」

「そっか……仕方ないね。また何か新しい食べ物が出来た時に、また試そう」
そう言うと父さんは僕から空の器を受け取り、用意してあった水の張った桶に箸と一緒に沈めた。
「私はお父さんが発明した料理の中で一番好きだけどなぁ……お寿司やラーメンより美味しい♥」

「僕は寿司が一番だ」
リュリュの嗅覚と味覚を疑いながら遠巻きに納豆ご飯を貪る者達を眺める。
「ねぇ、おと……陛下。私、久しぶりに餃子を食べたいわ」

ギョウザ?
マリーが父さんに新しい料理のリクエストをする。
僕には納豆より期待できるかもしれない。

「餃子かぁ……中身は如何(どう)とでもなるけど、皮って如何(どう)やって作るの?」
「私ぃ……歌姫(アイドル)だから解んな~い」
相変わらず勝手な娘だ。

「丸投げかよ! どうせ中の餡も作り方を知らないんだろ」
「私ぃ……美少女だから解んな~い」

ティミーSIDE END



 
 

 
後書き
書いている最中に納豆を食べたくなって
深夜のコンビニに駆け込みました。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧