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銀河酔人伝説

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酔っ払い達の明日

 
前書き
かなり駆け足ですが、これで最終話となります。 

 
「宇宙海賊なんてものが野放しなのは、政府与党の怠慢と言われても仕方ないでしょう。辺境の地方惑星ばかり狙われてるのを見て、興味が薄れているのでしょう。すぐに超党派の会合をもって対策を講じさせていただきます。
私はこの件に、使命感を抱いているんです。全力で取り組む所存ですよ!市民の皆様の関心にすぐに応えるのは、政治家として、当たり前の使命でしょう!
内には政治家の不祥事、外には宇宙海賊が野放し。悲しいかな、これが我等が同盟の惨状です。一日も早く立て直さなくては。市民の皆様に、ここでお誓い申しあげます!」

「現在の同盟の人口統計は悪化の一途です。だからこそ我々大人が若い命を育てる使命があるのです!子供が産めないのなら、産める国に変えましょう!子供が産めないのなら、育てる国に変えましょう!
国の力は人の力!わが国の未来は、若き力にかかっているのです!」

「銀河帝国が正義を気取ってやりたい放題など、放置して良い問題ではありません!与党はイゼルローン要塞が奪取された今になって対策を講じるなどといってるが、対策が遅すぎる!
自由共和党は、今の時代に取り残された。もはや時代遅れです!しがらみに縛られ、沈んでしまう船ならばいっそ壊してしまえばいい。
私自らの手で、皆さんの手でこの混乱に終止符を打とうではありませんか!」

「前途ある若者が、未来を見据えられる、そんな社会を実現するために、私グレゴリー・カーメネフは起ち上がりました!
皆様からご意見を頂戴し、それを即、実行する・・・その【当り前】を実現するために、私は邁進してまいります!」



選挙戦は熾烈を極め、候補者達が各地で選挙活動を行っていた。ヤン・ウェンリー中将の官舎がある、ここシルバーブリッジ街でも、連日演説やチラシのポスティング等が行われていた。

「ヤン提督!グレゴリーさんから通信ですよ!」

ヤン提督の実質的保護者であるユリアンは、そう言って寝ているヤンを起こした。

「やれやれ・・・あの人は相変わらず朝から騒がしいようだね。」

ヤンはそう呟きながら端末を起動した。

「おはようヤン!なんだ、まだ寝てたのか?」

「グレゴリーさん・・・私は今日は貴重な休日なんですがね・・・いったい何の用です?」

ヤンがそう言うと、

「そうか、それはちょうどよかった!実は今夜、ハイネセンポリスの中心街で街頭演説会があるんだ!是非ともお前さんにも来てほしい!」

「は?いやグレゴリーさん、私は軍人ですよ。軍の人間が応援に来ちゃまずいですよ。」

「いやいや応援演説をしてくれというわけじゃないんだ!今日私が話す演説を是非とも生で聞いてほしいんだよ!」

「はぁ?なんでわざわざ聞く必要あるんです?」

「まぁいいじゃないか。今日暇なんだろ?それじゃあよろしく頼むわ!」

グレゴリーはそう言って通信を切った。

「はぁ・・・全く・・・仕方がない。行くか。」

そう呟くとヤンはユリアンが用意した朝食を食べ始めた。



その日の夜、ヤンはユリアンを連れて、グレゴリーの言われた通り、ハイネセンポリスの中心街へとやって来た。辺りは聴衆でごった返しており、誰もこの冴えない男が同盟軍の魔術師ヤン・ウェンリー中将であると気づいてなかった。
しばらく時間が経つと、腕章を付けた人間がヤンの下へ駆け寄り、グレゴリーが控えている場所へ案内した。

「おぉっ!よく来てくれたヤン!ユリアン君も来てくれてありがとうな!」

グレゴリーはそう言いながらヤンとユリアンに向かって熱い抱擁を交わした。

「それで?今日はいったい何を話すんです?」

ヤンがそう聞くと、

「グレッグ、まだ始めないのかよ!」

そう聴衆の声が聞こえてきた。

「おっとまさか演説を催促されるとはな。ヤン、今回の演説、是非聞いていってほしい。それじゃあ行ってくるよ。」

グレゴリーはそう言うと、壇上へ上がっていった。

「全く仕方がないな・・・ユリアン、私達も行こうか」

ヤンはそう言い、党職員の案内を受け、演説会場へ移動した。



「お、グレッグの演説が始まるぞ・・・!」

「なんとか間に合った・・・仕事切り上げてきてよかった・・・!」

「私、これ見るために、デート切り上げて来たんだから!」



「大変長らくお待たせいたしました。今回の選挙で進歩党幹事長を拝命しました。グレゴリー・カーメネフです!
さて突然ですが・・・皆さんには【やりたいこと】や【やるべきこと】があるでしょうか?私は十数年前、ある若者に出会いました。彼は、私と違い物静かな青年でリーダーシップをとるような性格ではありませんでした。ですが彼は、他にやりたいことがあったのにもかかわらず、自身の【やるべきこと】を自覚し、数多くの人々を救ってきました。
私は・・・彼のような【英雄】にはなれませんでした。・・・ですが、私は歩みを止めません。いつか、彼とは同じ頂上で出会うはずだから!
彼は【やるべきこと】を必死でやっています。皆さん、やるべきこと、やりたいことを見つけてください。私が支えます!それが、政治家の【やるべきことであり】、私の【やりたいこと】です!」



「いいぞぉ、グレッグ!」

「期待してるわよぉ!」

「「「グレッグっ!グレッグっ!グレッグっ!」」」

会場は溢れんばかりの拍手がなされ、グレッグコールが飛び交った。



「全く・・・私は早く年金暮らしがしたいだけなんだけどなぁ・・・」

ヤンは苦笑いを浮かべながらそう呟くと、

「グレゴリーさんはヤン提督が大好きなんですよ。でもヤン提督もこれで簡単に引退することが出来なくなりましたね。皆ヤン提督には軍にいてほしいと思ってるし、僕も嬉しいです!」

「そのようだね・・・じゃあ市民の権利を行使するために早速期日前投票にでも行こうか。」

ヤンはそう言うと、ユリアンを連れて会場を後にした。




各惑星の選挙区で熾烈な選挙戦が展開された。進歩党執行部の面々も各惑星に精力的に演説を行い、自身の選挙区入りすらままならなかったほどである。そんな長きにわたる選挙戦も終わり、投票日を迎えた。最終投票率は80%近くまで上り、ここ30年間で最高を記録した。そしていよいよ開票結果が速報で発表されようとしていた。

「まもなく速報が流れます・・・開票出ました!

自由共和党 :383議席
進歩党   :1328議席
反戦市民連合:395議席
憂国地球党 :134議席
無所属・諸派:10議席

以上です。圧勝です!各党横並びの激戦との予測を覆し、進歩党が単独過半数を獲得し勝利しました!」

「えーここで見事、宇宙歴796年度同盟議会代議員総選挙に勝利を果たした、進歩党本部より中継がつながっています。」



「「「バンザーイ!バンザーイ!バンザーイ!」」」

「今回の大勝利は、同盟市民の皆々様のお力添えの賜物と、身に染みる想いでございます!
私達進歩党は、同盟議会で単独過半数を獲得いたしました。ですが、この国難と呼ぶべき情勢の中、我々単独では些か心許ないのも、恥ずかしながら事実でございます。よって私達は挙国一致政権の樹立を各政党に呼び掛けていく所存です!」

このヨブ・トリューニヒト進歩党総裁の宣言通り、後日各党との連立交渉が行われ、その結果、帝国に対する捕虜交換の申し出及び交渉の呼びかけと、大規模公共事業の実施を条件に、自由共和党と反戦市民連合が妥協、サンフォード前最高評議会議長の後継者となったコーネリア・ウィンザー自由共和党総裁と、新人ながら反戦市民連合の代表幹事となっていたジェシカ・エドワーズ議員の閣僚入りが決まった。

その数日後、同盟議会の指名選挙により最高評議会議長にヨブ・トリューニヒト進歩党総裁が選出され、進歩党、自由共和党、反戦市民連合の三党による連立政権が発足した。



この政権交代が今後の自由惑星同盟において、どのような影響を及ぼすかはわからない。しかしイゼルローン要塞が奪取されたことによって、これまで永遠に続くかに思われた同盟側国境宙域の戦いが終わりを迎え、同盟も新しい国家戦略が求められる以上、これまでにない新しい風が吹くことになるのだろう・・・それが吉兆なのか、凶兆なのか、それは後世の人間にしかわからない事なのだから・・・



                                         END


 
 

 
後書き
もっと色々書ける話があっただろうと自問自答し続けましたが、これ以上話を広げて収拾できる自信がないので、これで完結となります。
今までありがとうございました。 
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