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ハイスクールD×D イッセーと小猫のグルメサバイバル

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第65話 生きるか死ぬかの選択!祐斗と朱乃、地獄の苦しみを乗り越えろ!

 
前書き
 節乃が『ワープキッチン』を使う描写がありますがこれはオリジナルです。美食神アカシアやフローゼの知り合いである彼女なら使えてもおかしくないかなと思ってそうしましたのでお願いします。 

 
side:小猫


 節乃さんのおしおきが終わり血まみれになった与作さんが私達に自己紹介をしてくれています。


 因みにサニーさんと初対面のゼノヴィアさんとイリナさんはおしおきをされている間にお互いの紹介を終えていました。ゼノヴィアさんは『ゼノ』、イリナさんは『イリィ』とあだ名を付けられていました。


 それとルフェイさんとは既に出会っていたらしく『ルー』と呼んでいました。


「がっはっは!よく来たなお前ら!俺は与作、再生屋をしている。イッセー、こうして会うのは初めてだな。一龍会長は元気にしているか?」
「与作さん、親父の事を知っているのか?」


 与作さんの口から一龍さんの名前が出たのでイッセー先輩はちょっと驚いた表情を浮かべました。どうやら一龍さんの知り合いのようですね、与作さんもかなりの有名人ですし出会う機会も多いのかもしれません。


「というか血まみれですけど大丈夫なんですか?」
「か、回復した方が良いんじゃ……」
「なに、気にするな!滅茶苦茶痛いが死ぬことはない!」


 み、見た目通り豪快な人ですね……私やアーシアさんが心配してそう声をかけましたが大声で笑っているんですよ、どう見ても重症にしか見えないのに全然平気そうです。


「ゲホォ……!ヤベッ、これ結構ダメージが大きいぞ……!?」
「セツ婆、キレたら本当に容赦ないですね……ジジイも貴方だけは怒らせるなって言ってた意味が分かりましたよ……」
「死ぬような傷は負わせとらんよ。祐斗君達を助けられなくなってしまうような真似はせんわい」


 あはは……どうやらただのやせ我慢みたいでした。


「とにかくここじゃなんだ、俺の再生所に向かうぞ。話は道中で聞こう」


 私達は与作さんの案内で彼の再生所に向かう事になりました。その道中で私達はここに来た目的を与作さんに話しました。


「なぁ~るほどのぅ、豪水を飲んだのか。通りでそっちの坊主と嬢ちゃんが死にかけている訳だ」
「与作さん、俺は節乃お婆ちゃんはアンタならどうにかできると聞いてここに来たんだ。本当に二人を助けられるのか?」
「それはその二人次第だろう」
「それってどういう……」
「ここだ」


 与作さんが話を中断して指を刺しました、その方角を見てみると大きな大樹がありました。どうやら内部に入れるみたいですね。


「大樹の中に入れるのか」
「ここはライフのシンボル、療樹『マザーウッド』の内部だ。別名『食の宿屋』とも呼ばれる場所で多くの再生屋が宿を構える癒しの場所さ」


 マザーウッドの内部には沢山の人がいてそれぞれが色々な作業をしていました。見たこともない猛獣や食材を多く抱えていて中にはイッセー先輩より下くらいだけど私達より強いと感じられる人も何人かいました。


「あの人たちは全員が再生屋さんなんですか?」
「みたいだな。けっこう有名な奴もチラホラいるぞ」
「彼らに弟子入りしようと新入りの再生屋も集まるんだ、今では世界中から食材の再生依頼が来るほど有名になったんだ」


 アーシアさんの質問にイッセー先輩と鉄平さんが答えました、ここにいる殆どの方たちが再生屋なんですね。この人達が美食屋と同じこのグルメ時代を支えるもう一つの要……何だか神聖な場所に来た気分になってきました。


「よし、着いたぞ。ここが俺の再生所さ」


 『与作』と作られた木のパネルが目立つ場所に来ました、ここが与作さんの作業場みたいな場所なんですか。


「こ、これは……!」
「血だらけじゃないか……!」


 与作さんの再生所に入った私達は部屋中に飛び散った血しぶきに驚きを隠せませんでした。なにせ血で赤くないところを探す方が難しいくらいですから。


「なにここ!?私達、殺人現場に来ちゃったわけ!?」
「昔討伐したカルト教団のアジトみたいな光景だな……」
「ああ、あれはトラウマになりかけたわね……」


 部長が驚きゼノヴィアさんとイリナさんは何やら苦い表情を浮かべていました。エクソシストの任務で嫌な事があったみたいですね。


「おい、イッセー!アレ見ろよ!スゲェもんがあるし!」
「あれは……『チャコ鳥』に『モーニングローズ』!?まさかこんな所でお目にかかれるとは思わなかったな!」
「どっちも絶滅危惧種の超レアな食材じゃない!まさか生モノを見られるなんて美味しさてんこ盛りの光景だわ!撮影できないのが本当に悔しい……!」


 食材に詳しいイッセー先輩やサニーさん、そしてティナさんがかなり興奮した様子で騒いでいました。


「先輩、あの食材たちはとても珍しいモノなのですか?」
「ああ、ここにある食材の全てが今絶滅が危ぶまれている物ばかりだ。どれもこれも再生させるのが難しく再生に成功したのは数人しかいないと言われていたが与作さんはその一人みたいだな」


 おおっ……!そんな凄い食材を再生させられるなんて与作さんは想像以上に凄い人なんですね。これなら祐斗先輩と朱乃先輩を絶対に助けてくれるはずです。


「でもどうしてこんなにも血しぶき塗れなんですか?」
「それは失敗の跡さ」
「えっ……?」


 ルフェイさんの質問に与作さんは失敗の跡と答えて部長が間の抜けた表情を浮かべます。失敗ってこの血しぶき全てがですか……?ど、どうしよう、さっきまでの安心が消えて不安になってきました……


「取り合えずまずは今にも死にそうなこの二人から治療するか。失敗したらゴメンな」


 与作さんはそう言うと祐斗先輩と朱乃先輩を乗せた担架を蹴りあげて二人を宙に浮かせました。


「な、何をしているのよ!」
「気付けショック!」


 部長は思わず二人に駆け寄ろうとしますが与作さんは素早い動きで二人に衝撃を与えました。すると……

「さっさと起きな、もう朝だぜ」
「……っ!はあっ!!」
「げほっ……!!」


 なんと意識不明だった二人が息を吹き返したんです!信じられません、何をしても起こせなかった二人をこうも簡単に目覚めさせてしまうなんて凄すぎです!


「さて、次は傷を回復させな」


 与作さんは祐斗先輩と朱乃先輩を大きなチューリップに向かって投げ飛ばします。すると花が閉じて二人を包み込んでしまいました。


「きゃあ!二人が花に食べられちゃったわ!?」
「大丈夫だ。あれは『セラピーチューリップ』といって人や動物の傷を食べてくれる食傷植物だ」
「傷を食べちゃうんですか!?」


 部長が悲鳴を上げましたが鉄平さんは傷を食べる植物だと説明してくれました、それを聞いたアーシアさんが驚きの声を上げますが無理はありませんよ。だってそんな植物初めて知りましたから。


「一分もあれば大概の傷は完治してしまう。まあ気絶していたり傷が無いと逆に食べられてしまうから扱いには注意がいるんだけどな」
「へぇ、扱いさえ気を付ければすごく便利な植物なんですね」
「でもどうしてセラピーチューリップに二人を入れたんだ?アーシアの回復で傷は完治していただろう?」


 ルフェイさんはセラピーチューリップに強い関心を持っていましたが、イッセー先輩の言う通りアーシアさんの神器の力で回復していたんですからセラピーチューリップに入れる必要はないんじゃないのでしょうか?


「ん?あの二人は鉄平が治療したんじゃないのか?」
「いや俺じゃなくてこのアーシアという子が治療しました。なんでも人間や動物の傷をいやすことが出来るみたいです」
「ほう、そりゃ面白い!詳しく教えてくれ!」
「え、えっと……」


 与作さんは祐斗先輩と朱乃先輩を治療したのは鉄平さんだと思っていたそうです。でもそれがアーシアさんの力だと分かると強い関心を持ったのかアーシアさんに説明をお願いしていました。アーシアさんは驚きながらも神器について説明を始めました。


「良いんですか、先輩?神器の事を教えても」
「ある程度は誤魔化して話しているし親父の知り合いなら問題は無いだろう。どの道ここにいる全員は神器については知っているからな」
「それもそうですね」


 マッチさん達には神器の事はグルメ細胞みたいな不思議な力と話しています。無茶苦茶な理由に聞こえますが意外とすんなりと納得してもらえるんですよね、コレ。まあそれ以上に凄まじい人たちが沢山いるからなんでしょうけど……


「ほう、それは実に興味深い力だな!是非とも詳しく話を聞きたいものだ!」
「師匠、今はそれどころじゃないでしょう」
「おっと、そうだったな!がっはっは!」
「それで結局セラピーチューリップに入れた理由は何なんだ?このままだと二人とも食われてしまうんじゃないか?」
「ん?ああ、単純に傷が回復しきれていなかっただけだ。これからする治療は出来るだけ万全の状態で挑みたいからな」
「あっ、確かに細かい傷があるわね。気が付かなかったわ」


 マッチさんの質問に与作さんが傷が残っていたからだと答えました。私もイリナさんのように自分の腕とかを見てみると細かい傷が残っていました。


「でもどうして傷が完治していなかったんでしょうか?いつもなら完全に治っていますよね?」
「恐らくアイスヘルの過酷な環境でアーシアの精神が参っていたんだろうな、神器は使用者の精神に影響されるからそれで完治しなかったんだろう」


 イッセー先輩の答えに私も納得しました。それはそうですよね、アーシアさんはグルメ細胞を持った超人や悪魔でもない普通の人間の女の子なんですから。いくら補助をバリバリにかけていても疲れるのは当然の事です。


「ごめんなさい、私がしっかりと完治させれなかったせいで……」
「そんなことはありませんよ。アーシアさんがいてくれなかったら死んでいた人が必ずいたはずですから」
「そうだぜ、あんまり自分を追い込むなよ。お前の事を役立たずなんて思う奴はここにはいねえよ」
「滝丸さん、マッチさん……ありがとうございます」


 落ち込むアーシアさんでしたが滝丸さんとマッチさんの言葉に励まされて顔を上げてくれました。彼らの言う通りアーシアさんを役立たずなんて思う人はいませんよ。私もアーシアさんがいてくれて凄く安心できるんですから。


「イッセー。お前の手の指も一つ取れかかっているぞ。どれ貸してみろ……かーっぺっ!」
「うわっ!唾かけられた!?クッサ!?しかも痰じゃねえか!?」
「がっはっは!『ペーストスピトル』だ、直ぐにくっつくからジッとしてな!」


 与作さんはイッセー先輩の指につばをかけて指をくっつけていました。絵面的には嫌ですね……


「そろそろだな」


 するとセラピーチューリップが開いて祐斗先輩と朱乃先輩を吐き出しました。


「あれ、ここは……」
「わたくし達は一体……」
「祐斗!朱乃!」


 唖然とする二人に部長が駆け寄って抱きしめました。私達もお二人のそばに駆け寄っていきます。


「良かった……二人が無事に生き返って本当に良かった……」
「リアス?これは一体どういう状況なの?」
「バカ、朱乃のバカバカ!祐斗も大馬鹿よ!私達が一体どれだけ心配したことか……」
「部長……すみませんでした……」
「絶対に許さないわ……許してほしかったらもう二度とあんなことしないで……家族を失うなんてまっぴらごめんよ……」
「リアス……」
「部長……」


 リアス部長は大きな涙を流しながらお二人を抱きしめていました。その光景に女性陣は涙を流して男性陣も暖かな眼差しを送っていました。


 でも本当によかったです、これでオカルト研究部の全員が生還できたんですね……


「あ~……感動の場面の最中に悪いがまだ何も解決していないぞ」


 ……えっ?


「どういう事だよ、与作さん?」
「俺はそいつらを起こしただけだ、根本的な解決はしていない。さっき言っただろう?これからする治療は出来るだけ万全の体勢で挑みたいってな」


 そういえばそんなことを言っていましたね。


「俺がそいつらを起こしたのは決めてもらうためさ。治療を受けるか、それともこのまま残り少ない寿命で余生を過ごすかな」
「な、何を言ってるのよ!二人を治療してもらうためにここに来たのよ!?どうしてそんなことをする必要があるの!」
「リアスさん、落ち着いてください……与作さん、話を続けてくれ」


 部長が声を荒げますがイッセー先輩が落ち着かせました。


「勘違いしないでくれ、俺は治療をしないとは言っていない。唯これから行う治療は相当な……それこそ地獄の業火ですら生ぬるいと感じるほどの苦痛を受けてもらう事になる。故に再生屋として本人の承諾がないのにこの治療をすることはできん」


 地獄の業火ですら生ぬるいって一体どんな治療をするんですか……?


「ハッキリ言うと正攻法でこの二人を助ける方法はない。細胞に寿命があるのは知っているだろうがこの二人はそれが後数日しかないんだ、どんな治療をしようとも間違いなく先にくたばっちまうだろうな。実際とっくに死んでいてもおかしくないんだよ」
「そんな……節乃さんはグルメ細胞を使えば救えるって言っていたわ!」


 部長の言う通り節乃さんはグルメ細胞を使えばどうにかなると言っていました。


「それが普通の重傷とかなら間違っていないな、だが豪水を飲んだという場合は無理だ。グルメ細胞はまず本人に適合させなければ意味がないんだが適合する際に相当な体力を消耗するんだ、大体の奴はそれに耐え切れずに死ぬんだがこの二人は豪水の影響でもう細胞からしてボロボロでまず耐え切れないだろう。正直セラピーチューリップに入れたのも気休めでしかない」
「じゃあお二人を助ける事は出来ないんですか……?」


 私の言葉に全員の表情が暗くなりましたが与作さんはニヤリと笑って首を横に振りました。


「早まるな。方法がない訳じゃない、従来の方法が駄目なら裏技を使えばいい」
「裏技?」
「そうだ。適合するのに元の細胞がボロボロで駄目ならもういっそのこと適合中に細胞を進化させるしかない。つまり適合と進化を同時に行うんだ」
「適合と進化を同時に……!?」


 与作さんの言葉にイッセー先輩とサニーさんが驚きの声を上げました。


「おいおい無茶だろう!俺だって正直死にかけたんだぜ?ココもあのゼブラですら相当なリスクを背負って適合したんだ。なあイッセー?」
「サニー兄の言う通りだ。適合させるだけでも30%しか生き残らない、更に完全に適合するのは10%しかないんだぞ?それに進化を加えるなんて聞いたことがないぞ!」
「だから裏技だって言っているだろう?方法としてはグルメ細胞を注入した後に直ぐ液状化させた食材を注入して細胞を活性化させる。幸いお前らが持ってきたのはセンチュリースープだ、体内に注入させるのはたやすい」
「食材は食べさせちゃ駄目なのか?」
「適合していないのに食べさせても意味はない、無理やり食材と合わせるしかないんだ」


 普通にグルメ細胞と適合する可能性が30%、そして先輩達みたいに完全に適合するのは10%何ですか。確か完全に適合しないと体に異常が起こるみたいですし相当低い確率ですね……


「そして細胞が適合しつつ進化するように俺達がサポートする、しかも運の良いことに回復を使えるお嬢ちゃんがいる。これでほんの少しだが成功する可能性は上がるだろう」
「わ、私ですか!?」
「ああ、そうだ。無理強いはしないが君が手伝ってくれたら俺達もサポートに集中できるんだ。できればプキンがいてくれたらよかったんだがアイツは今私用でライフを離れているからな……」
「分かりました!私でお役に立てるのならなんでもします!」


 アーシアさんは力強くそう答えました。


「後は本人たちの体力が持つかどうかだが……こればかりは俺からは何とも言えん。仮に持ったとしてもほぼ間違いなく精神が壊れてしまう」
「精神が……?」
「グルメ細胞は浸食率がとても強く元あった細胞を喰らって適合していくんだ。それだけでも相当な体力を持っていかれるのにそこに進化まで加えるんだ、体にかかる負担は尋常じゃない。更に適合しつつ進化させるっていうのは自分の体を中から弄られまくるようなもんだ、例えるならむき出しの神経になった体全身に針を刺されまくったり麻酔無しで歯を引っこ抜いてそこに酸を流し込むような痛みなど様々な苦痛に襲われ続ける……仮に肉体が復活しても精神が壊れて廃人になるのがオチだ」


 与作さんの話を聞いて私は口を押えてしまいました。だってそんな苦痛を受けるなんて余りにも非人道的すぎて……だから与作さんは患者である祐斗先輩と朱乃先輩を起こしたんですね、二人に治療を受けるかどうか聞くために。


「ここまで言えば分かっただろう、俺がどうして二人を起こしたのか……これはグルメ八法でも禁止されている行為だ。今まで何人もの人間がこの行為を試したことがあるが全員が苦しみぬいて死んだか廃人になったかしかない、成功する確率は普通に適合するよりも低いぞ」
「……」


 与作さんの話を聞き終わって部長は黙り込んでしまいました。いくら治せるかもしれないとはいえ精神が壊れてしまえば肉体が復活してもそれは唯の器でしかありません。『木場祐斗』と『姫島朱乃』という人間は消えてしまいます。


「二人をそんな目に合わせるなんて私には出来ないわ……今から違う方法を考えるのは……」
「そんな方法はない」
「そ、そんな……」


 部長は違う方法はないのか聞こうとしましたが与作さんにキッパリと無いと言われて落ち込んでしまいました。


「部長、僕はその方法を試したいです!」
「祐斗!?」


 場の空気が重くなってきたその時でした、祐斗先輩が手術を受けたいと言ったのです。


「祐斗、話を聞いていたの?成功する確率なんて殆ど無いのよ?」
「でもそれを受けなければ死んでしまいます。なら僕は例え成功する確率がほぼ無くても手術を受けたいです」
「祐斗……朱乃はどうなの?」
「わたくしも祐斗君と同意見ですわ」


 祐斗先輩の意志は固く部長は考え込むように目を閉じると次に朱乃先輩に声をかけました、そして朱乃先輩も祐斗先輩と同じく即答で手術を受けると言いました。


「助かる可能性が0.1%でもあるならそれにかけてみたいんですの。リアス、どうか受けさせてください」
「朱乃……」


 お二人には一切の迷いはなく恐怖を微塵も感じさせない強い意志のこもった目で部長にお願いしました。


「……分かったわ、二人がそう言っているのに私が止めるのは駄目よね。でも一つ約束しなさい、必ず元気な状態で戻ってくると……いいわね?」
「はい!」
「勿論ですわ」


 部長の言葉にお二人は当たり前だと言わんばかりに頷きました。


「与作さん、二人の手術をお願いします」
「……いいんだな?治る確率はほぼ無いし苦しむだけ苦しんで死ぬか廃人になるだけかもしれんのだぞ?」
「それでもお願いします。僕は皆と一緒にまだまだ冒険がしたいんです。それができるのならどんな苦しみにだって耐えて見せます。可能性の壁なんて知った事ではありません、乗り越えて見せます!」
「わたくしもここで死ぬわけにはいきませんの。まだお父様とも話せていないしやりたいこともたくさんあります。絶対に治してみせますわ!」
「……よく言った!」


 部長は与作さんに治療をお願いしますが、与作さんは最後の忠告を祐斗先輩と朱乃先輩に言います。ですがお二人はそれでもブレずに治療を受けたいと言うと与作さんは驚いた表情を浮かべた後に嬉しそうに笑って地面を思い切り踏みつけました。


「うわっ!?」
「きゃっ!?」


 すると祐斗先輩と朱乃先輩の体が浮かびあがってしまいました。与作さんはお二人を抱きしめると背中をバンバンと叩きました。


「不可能?無理?そんなことを誰が決めた?そんなくだらんルールは打ち破れ!そうしなきゃ見えない明日がある!見えない未来がある!!その未来の足跡が新しいルールだ!!」
「与作さん……」
「金は要らん!お前らの心意気で十分だ!俺に見せてくれよ、お前らのルールをな!鉄平、治療の準備をしろっ!!」


 与作さんはそう言って治療の準備に入りました。


「……無理というルールを破れか、良い言葉だな」
「そうですね、先輩の『思い立ったら吉日、それ以外は全て凶日』という言葉みたいです」


 私達は与作という人物の信念を垣間見た気がしました。


 それから暫くしてお二人の治療が開始されました。与作さんと鉄平さん、そしてアーシアさん以外は再生所の外で待つことになりました。本当は側にいたいんですがとても繊細な作業に入るため邪魔になったら本末転倒なので仕方ありません。


「お二人は大丈夫でしょうか……?」
「祈るしかないな、俺達にはそれしかできない」
「……そうですね、お二人を信じましょう」


 ルフェイさんは祐斗先輩と朱乃先輩の心配をしますがマッチさんの言う通り私達には信じるしかできません。分かってはいますがそれでももどかしいです……


 8時間ほどが経過しましたが未だに治療は終わりません。もう夜も深いので迷惑にならないように遮音の魔法をルフェイさんがかけてくれたので声は聞こえませんがきっと苦しい思いをされていらっしゃるんだと思います。


「そういえばサニー殿もグルメ細胞と適合していたんだったな、適合するにはどれほどの時間がかかるんだ?」
「まあ個人差はあるけど大体一日くらいじゃね?まー俺は余裕で適合したけど」
「えっ?さっき死にかけたって言っていなかった?」
「るせー!揚げ足取るんじゃねえよ、イリィ!」


 ゼノヴィアさんの質問にサニーさんが答えましたがイリナさんに突っ込まれていました。しかし一日ほどですか……まだまだ時間がかかりそうですね。


「イッセー先輩もそのくらいだったんですか?」
「俺は……覚えていないんだ」
「覚えていない?」


 先輩の言葉に私は首を傾げます。どういう事でしょうか?


「俺は美食屋になるために修行をしていたんだが実は最初の頃は中々成果を出せなくて焦っていたころがあったんだ」
「先輩が焦っていたんですか?」
「どういう訳か親父は俺にグルメ細胞を適合させる手術を受けさせるのを反対していたんだ。その頃はドライグとも仲が悪かったから赤龍帝の籠手を使いこなすことが出来なくて余計に焦った」


 先輩も昔は沢山苦労していたんですね……


「その時は手柄を立てて親父に認めてもらえばグルメ細胞を貰えると思っていたんだ。何とか手柄を立てたかった俺は親父に入るなと言われていた森林地帯に足を踏み入れた」
「えっ……大丈夫だったんですか?」
「結果はお察しの通りさ。俺はそこに生息していた猛獣は当時の俺よりも遥かに強くボロボロにされて死にかけた。そして死の一歩手前に追い込まれた瞬間、俺の意識が途絶えたんだ。気が付いたらIGOの治療施設にいて親父が心配そうに俺を見下ろしていた。親父に説教されて鏡を見せられたら髪の色が青くなっていて俺は自分がグルメ細胞と適合したことを知ったんだ、親父の話では俺を治療するためにグルメ細胞と適合させたらしい」
「成程、その時に先輩はグルメ細胞を手に入れたんですね」
「ただ……」


 おや、どうやらまだ話に続きがあるみたいですね。 


「グルメ細胞と適合する際に体力を消耗するって聞いたよな?その時の俺はボロボロで死にかけていた、そんな状態で適合させようとしたらリスクが高すぎるだろ?そもそも親父は今まで渋っていたのでどうしてその時になって適合させようとしたのか気になってな……」
「それはよっぽどイッセー先輩の傷が酷かったんじゃないですか?」
「そうかな?確かに酷い重傷だったみたいだけど祐斗達みたいなそれをしなきゃ死ぬって状態でもなかったらしいんだ。IGOには医療機関も充実しているし無理にグルメ細胞と適合させるよりもそれらを使った方がリスクはない、なのに親父はグルメ細胞を適合させたと言ったんだ」


 ふむ、確かにそれはおかしいですね。どうも一龍さんは先輩にグルメ細胞を適合させるのは反対していたみたいです、それなのに死ぬかもしれないリスクを背負わせてまでグルメ細胞を適合させようとする理由とは一体何なんでしょうか?


「その時はグルメ細胞と適合できた喜びで深く考えなかったんだが、ここ最近小猫ちゃんに起きた現象や与作さん達の話を聞いて改めて疑問に思うようになったんだ」
「私にグルメ細胞が眠っていたって事ですね」
「ああ、もしかしたら俺もそのパターンなのかもしれないな。でもそれなら親父も教えてくれればいいのにどうして嘘なんかついたんだろうって思ってな……俺、知らない間にとんでもない事をしたのかなって……」


 先輩はそう言うとちょっと落ち込んでしまいました。ここは私が何とかしないと!


「先輩、理由は分かりませんが一龍さんは先輩に悪意を持って隠し事をするような人じゃないですよ。それは先輩が一番よく知っているじゃないですか」
「それは……そうだな」
「今回の件が終わったら一龍さんに聞いてみてはどうでしょうか?義理とはいえお父さんなんですから……」
「……そうだな、今回の件が終わったら話をしてみるよ。ありがとうな、小猫ちゃん」
「力になれたのなら幸いです」


 イッセー先輩も過酷な環境や大きな戦い、体の一部を欠損して仲間も死ぬかけているという状況に精神的に参ってしまっていたんでしょうね。いつもならこんな弱音は言わないですから。


 でも私に弱音を言ってくれるのは頼ってもらえているみたいで嬉しいです。これからも私にドンドン弱音を言ってくださいね、強い先輩も好きですが頼ってくれる先輩も大好きですから。


「大変だ!イッセー!」


 そこに鉄平さんが慌てた様子で向かってきました。


「どうした、鉄平」
「朱乃君の容体が悪化してきた、グルメ細胞の力が暴走し始めたんだ!」
「何だって!?」


 そんな……朱乃先輩が危険な状態なんですか!?


「今は師匠とアーシアちゃんが抑えているがマズイ状態だ、更に祐斗君もいずれ同じような状態になるだろう。容体を落ち着かせるには二人に適合する食材を食べさせるしかない」
「二人に適合する食材って……そんなことを今言われても分かるわけがないぞ!?」


 そうですよね、そんなことをいきなり言われても分かるわけがありません。こんな時に頼れる人と言えば……


「ココさんがいればもしかしたら……」
「僕を呼んだかい?小猫君?」
「ふえっ……?」


 声がした方を見るとなんとそこにはココさんがいました!


「ココ兄!?なんでここに!?」
「占いで祐斗君と朱乃君が危機的状況になっていると出てね、キッスに乗って急いでここまで来たんだ」
「流石ココ兄だ!頼りになるぜ!」
「ココさん、流石ね!本当に頼りになるわ!」


 ココさんの登場にイッセー先輩とリアス部長は嬉しそうに駆け寄りました。


「初めて見る子達もいるね。僕はココ、イッセーも義兄で四天王の一人さ」
「ココ兄、それよりも……」
「分かっている、祐斗君に適合する食材の事だろう?既に用意してある」
「ヤバイ!頼りになり過ぎて俺もう泣きそうだぜ、ココ兄!!」
「心に決めた人がいなかったら間違いなくココさんに惚れていたわ、私!本当に最高!!」


 ココさん、最高です!こんなにも頼りになる人が味方なんて運が良すぎですよ!


(ヤバッ!?美しすぎるし!?前回のリーガル島でもそうだけどなんでコイツこういう最高のタイミングで現れるワケ!?それって俺の役目じゃね?俺の立つ瀬無くね?)
「サニー殿はどうかしたのか?深刻そうな表情をしているが……」
「きっと照れ隠しよ。祐斗君達が助かりそうな展開が来たから嬉しいけど隠そうとしているんだわ!」
「ほう、ジャパニーズ『ツンデレ』という奴か」


 サニーさんは何やらコロコロ表情を変えてソレを見ていたゼノヴィアさんとイリナさんはよく分からないことを言っていました。


 ココさんに案内されてマザーウッドの外に向かうとキッスとその側に黄金色の大きな鳥が横たわっていました。


「こいつは『ライトニングフェニックス』じゃないか!?捕獲レベル75を誇る雷雲に住むと言われる伝説の鳥……ココ兄が捕まえたのか!?」
「そいつはまだ子供さ、幸い大人じゃなくても大丈夫と占いで分かっていたからね。まあ子供でも捕獲レベルは48はあるから苦労はしたけど何とか捕獲出来たよ」
「ライトニングフェニックスは強さもだけど見つけるのも相当苦労する鳥にゃ!それをアッサリ見つけちゃうなんてチートだにゃん!?」


 黒歌姉さまがココさんの占いの制度に驚いていますが私達もその気持ちは良くわかります、味方だと恐ろしいほど頼もしいですよね。


「兎に角食材があるのなら調理は任せるにゃ、私が最高の料理にして見せるにゃ!」
「黒歌、あたしゃもいこう。アレを使えば短時間で調理が可能じゃろう」
「えっ?アレって『裏の世界』……『ワープキッチン』の事?確か昔美食神に『ペア』や『アナザ』、そして『ニュース』の欠片を食べさせてもらって少しの間だけ使えるようになったんだよね。実際に見るのは初めてにゃん」


 姉さまと節乃さんが何かを話しているみたいですが声が小さくて聞こえませんね、一体何を話しているのでしょうか?


「でも大丈夫?話を聞く限りじゃ『アース』は食べてないし滅茶苦茶エネルギーを消費するんでしょ?その頃より節乃さんだいぶ年取ってるし使うのは危ないんじゃ……」
「まだまだ半人前のオヌシに心配される程老いぼれてはおらんじょ、少し使うくらいなら大丈夫じゃよ」
「うにゃ~……流石節乃さん、『食没』も凄まじいにゃ」


 二人は会話を終えると姉さまがライトニングフェニックスを担ぎ上げて節乃さんと一緒にリムジンクラゲの方に向かっていきました。


「それでココ兄、朱乃さんに適合する食材は?」
「それが……済まない。具体的にソレが何かまでは分からなかったんだ」
「そんな……」
「ただその食材はこの世界でもまだ4人しか味わったことが無く、そして朱乃君の最も身近に存在する物らしいんだ」


 このグルメ時代と呼ばれる食文化の窮まった世界で4人しか味わった事の無い食材?全然分かりませんね。


「イッセー、心当たりはないか?」
「この世界で4人しか味わったことがない上に朱乃さんの身近にある物……駄目だ、想像もできない」


 ココさんはイッセー先輩に心当たりがないか聞きますが、先輩にも心当たりはなさそうです。そんな凄まじいレアな食材が身近にあるなんて普通はあり得ないですよね。


「他にヒントはないのか?」
「うーん……どうもその4人は全員女性みたいなんだ。その内の一人は間違いなく朱乃君だと思うが……」
「それじゃオカルト研究部の女性メンバーって事か?アーシアも入れれば丁度数も四人だし」
「ええっ!?私達がですか!?」
「あり得ないわよ、イッセーでさえ食べた事の無いレアな食材を私達が食べた事あるわけないじゃない。貴方と常に一緒に行動しているんだから猶更だわ」


 部長の言う通り私達は常にイッセー先輩と行動を共にしています、だから先輩も食べていなければおかしいです。


「じゃあゼノヴィアさんやイリナさん、ルフェイさんやティナさん達の可能性もあるんですか?」
「ティナ殿はともかく私達は最近知り合ったばかりだぞ?一緒に行動していた君たちの方が可能性が高いと思うが……」
「……あっ!私分かっちゃったかも!」


 全員が頭を悩ませているとき、イリナさんが突然叫びました。


「イリナ、朱乃さんの適合食材が分かったのか?」
「うん、バッチリ分かったよ!その適合する食材っていうのは……」
「……というのは?」
「ズバリ、イッセー君だよ!」
「えっ?」


 イリナさんの言葉にイッセー先輩を除く全員が確信を得たという表情を浮かべました。そういう事でしたか……


「イリナ、お前何を言っているんだ?」
「だってそうじゃない!イッセー君は朱乃さんと一緒に暮らしているんでしょ?身近にいるって条件に合ってるじゃない。それに4人の女の子には彼女と小猫ちゃん、アーシアさんに私が当てはまるよ、だってこの4人しかイッセー君とディープキスしてない、つまりイッセー君の唾液=体液を食べたことがあるのは私達だけ!」
「なるほどな、自然界からすりゃ俺ら人間も立派な食材って事か」
「一理あるね。僕達人間は共食いを禁忌しているが自然界では普通にあること、ツバメの巣がツバメの唾液で出来ているようにイッセーの唾液が朱乃君にとって最も適合する食材の可能性だってあるはずだ」
「言われてみたらそんな気がしてきたぞ……」


 サニーさんとココさんの言葉に先輩も渋々ながら納得したようです。言われてみれば私達も猛獣からすれば『食材』なんですよね。


「見事な推理だな、イリナ!しかしよくソレに気が付いたな」
「朱乃さんの気持ちを考えてみただけだよ。きっと私がグルメ細胞と適合したら絶対にイッセー君の体液が適合する食材の一つのはずだもん!」
「お、おう……そうか……(愛が重いよ、イリナ……)」


 ゼノヴィアさんの絶賛する声にイリナさんはドヤ顔で答えました。悔しいですが彼女の推理は完璧ですね。私も絶対にイッセー先輩の体液でレベルアップできる自信があります。


 ただそのイッセー先輩は少々疲れたような表情になっていますが大丈夫でしょうか……?


「よ、よし!だったら話は早い!朱乃さんの為だ、皆の前だろうとキスして見せるぜ!」
「いや唾液だけ貰えればいいぞ、センチュリースープのように注射器で体内に入れるから」
「あっ、そう……」


 勢いよくそう言ったイッセー先輩でしたが真顔の鉄平さんにそう言われて顔を赤くしていました。その後イッセー先輩の唾液を水で薄めた液体を朱乃先輩に使った結果、見事に安定しました。


「マジで俺の唾液が適合する食材とはな……」
「これで朱乃君は今のところは大丈夫だな……」
「良かったわ……」


 鉄平さんの言葉に部長は安堵した様子を見せます、私達も安心しました。


 それからまた6時間ほどが経過すると今度は祐斗先輩の容体が悪化したと報告が入りました。


「黒歌と節乃さんはまだなの?」
「ふむ、祐斗は今固形物は食べられないし、そもそもまだ完全に適合していないから直接細胞に食材を注入しないといけないからスープを作っているのかもしれませんね。でもそれだと……」
「皆ー!お待たせにゃー!」


 先輩と部長が話していると黒歌さんと節乃さんがはしてきました。ただルフェイさんは先程よりも疲れた様子ですがどうしたのでしょうか?


「黒歌特製!『ライトニングフェニックスのコンソメ野菜スープ』を盛ってきたにゃー!」
「おおっ、これは旨そうだ!」


 姉さまが持ってきたのは黄金色に輝くスープでした。キラキラと輝いて実に美味しそうです。


「さあ早く祐斗君に食べさせる……じゃなくて注入するにゃ!」
「ああ、分かった!」


 そして鉄平さんがスープを持っていき、暫くすると祐斗先輩の容体が良くなったと聞いて私達は安堵しました。


「まだまだ油断はできないけど取り合えずは安心ね……」
「皆、お腹空いていない?こっちにスープの残りがあるから食べるといいにゃん♪」


 姉さまの提案を聞くと私やイッセー先輩のお腹が鳴ってしまいました。それを聞かれて皆に笑われてしまったので少し恥ずかしいです……


「あら、こっちは具が入っているのね」
「あむ……ん~!このお肉ジューシーで美味しいわ!」
「だがそれ以上に美味いのはこのスープだ。節乃さんのお店で食べたセンチュリースープも美味しかったがこれも凄く美味しいぞ」
「これほどまでに濃厚なスープを臭みもなく短時間で作れるなんて凄い腕だな」
「『白雪キャベツ』に『ゴールド人参』、『栗オニオン』といったお野菜が多いのも嬉しいですね」


 上から部長、ティナさん、ゼノヴィアさん、シンさん、ルフェイさんの感想です。皆の言う通りこの短時間でこんなにも美味しいスープを作った姉さまは凄すぎです!


「にゃはは、褒めてくれてありがとうね、皆。流石に節乃さんのセンチュリースープに比べたら味は大きく落ちると思うけど……」
「そんなことないですよ、このスープも負けないくらい美味しいです。ねっ、先輩?」
「ああ、見事なものだぜ。でもよくこんな短時間でスープを作れたな?ライトニングフェニックスでダシを取るには最低でも1週間は煮込む必要があるはずだが……」
「えっ?そうなんですか?」
「にゃはは、ごめんね。今は企業秘密としか言えないにゃん」


 うむむ、私達には想像もつかない調理法があるのかもしれませんね。


 そしてさらに時間が過ぎると与作さんが再生所から出てきました。


「与作さん、二人の様子は?」
「あと少しで完全に適合するがもう俺達にできることはない。ここからは本人たちの体力にかけるしかないな」


 私達は与作さんに案内されて再生所の中に入りました。その中には手足を拘束されてマスクを付けたお二人がゼリーのようなモノに体をどっぷり付けている光景がありました。


「なんだ?あのゼリーは?」
「あれは師匠が作った『治癒ゼリー』だ。ああやって体を浸からせる事によって自然治癒力を大幅に高めることが出来る。更にアーシアちゃんの回復と合わせる事によって大きな効果を発揮しているんだ」
「そんなものがあったのか……凄いな、与作さんは」


 鉄平さんの説明にイッセー先輩は改めて与作さんが凄い人物だと感心していました。


「イッセーさん……」
「アーシア!?」


 そこにアーシアさんが姿を見せましたがフラフラの状態で凄く消耗した様子でした。


「大丈夫か、アーシア?凄い疲れているみたいだが……」
「えへへ……少し無茶しちゃいました……」


 アーシアさんを抱きとめたイッセー先輩が彼女を心配しましたが、アーシアさんは笑みを浮かべてそう返しました。でもそれが無理をしているというのは一目瞭然でした。


「嬢ちゃんはぶっ通しで回復の力を使い続けたんだ」
「なに!?アーシア、何でそんな無茶なことをしたんだ!アーシアだって消耗していたはずだろうに……」


 神器は精神を消耗させます、唯でさえ疲れていたアーシアさんには大きな負担がかかったはずです。


「私もお二人に治ってほしかったので……つい頑張り過ぎちゃいました……」
「アーシア……」
「ごめんなさい……少し休ませてください……」
「ああ、ゆっくり休んでくれ。アーシア……」


 アーシアさんはそう言うと先輩の腕の中で寝息を立て始めました。お疲れ様です、アーシアさん……


「さて、ここからは本人たちの体力が勝負のカギを握る。気休めにしかならないが声をかけたり手を握ってあげてくれ」
「あっ、だから私達を中に入れてくれたんですね」
「なら私達は祐斗と朱乃を支えましょう!二人が無事に帰ってこられるように!」
『応ッ!』


 そして私達は祐斗先輩と朱乃先輩に声をかけたり手を握ったりできる限りの事をしました。


「祐斗君、帰ってきて……」
「祐斗、根性を見せるんだ!」
「お前はこんなところでくたばるようなヤワな男じゃねえだろうが」
「そうだ、頑張れ祐斗!」
「俺達はまだお前に礼を言ってねえんだぞ!」
「マッチさんを助けてもらったんだ、礼を言わせないで死ぬなんて許さねえからな!」


 ティナさんが心配そうにそう呟きゼノヴィアさんが励ましの声をかけます。そしてマッチさんとシンさん達がお礼を言わせろと発破をかけました。


「朱乃さん、もう少しですよ。だから踏ん張ってください!」
「僕達がついています。必ず戻ってきてください」
「貴方がいなくなったらイッセー君が悲しむわ。勿論私も他の皆だって……イッセー君を想う者同士、ライバルがいなくなっちゃうなんて嫌よ、だから帰ってきて!」


 ルフェイさんと滝丸さんが声をかけてイリナさんは同じ男を想う者として朱乃さんを励まします。


 黒歌姉さまや節乃さんや与作さん、鉄平さんはただ黙って成り行きを見つめています。ウォールペンギンの子供は静かに私のそばに寄り添っています。


「祐斗、朱乃……お願い、無事に帰ってきて……」
「俺は皆でGODを食いたいんだ、二人がいなきゃ意味がねぇ。だから戻って来い!祐斗!朱乃!」
「……祐斗先輩!朱乃先輩!」


 部長と先輩が二人の手を握ってそう声をかけました。私もお二人に声をかけ続けました。


「……うっ」
「!?」


 その時でした、祐斗先輩が私達の声に反応するように声を上げたんです。


「……」
「朱乃……?」


 それと同時に朱乃さんもゆっくりと目を開けました。部長は恐る恐る声をかけましたがお二人は……


「……木場祐斗、ただいま帰還しました……」
「……同じく姫島朱乃、帰還しましたわ……心配をかけましたわね、リアス……」
「あ……ああッ……!……朱乃……!祐斗……!」


 部長は涙を流しながらお二人に抱き着きました。


「祐斗!朱乃!お前らやったんだな……!!マジで……マジでやり遂げたんだな……!」
「イッセー君……うん、何とか帰ってこれたよ」
「本当に……本当に良かった!こんなに嬉しいことはないぜ……!!」
「ああん……起きてから直ぐにイッセー君に抱きしめてもらえるなんて幸せですわ……」
「朱乃ったら……もう……もう!」


 イッセー先輩も今まで見せた事の無いような涙の量で泣きながらお二人を抱きしめました。私達も全員がお二人の帰還を喜び駆け寄りました。


「ふふッ……見事にルールを破りやがったな!」
「まさか本当に精神を壊すことなく適合してしまうとは……いやはやイッセーも滅茶苦茶な奴だと思ってたけどその仲間も同じだったか」
「イッセーとこれからも旅をしていくのならこれくらいは出来て当然だじょ」
「にゃはは、節乃さんがそんなに褒めるなんてあの子達の事を凄く信頼しているんだね」


 与作さん達は私達の様子を見てそれぞれ異なる反応を見せてくれました。


 それからお二人は体力を回復させる為に眠りにつきました、


「与作さん、祐斗と朱乃を助けてくれて本当にありがとう!貴方にはどれだけ感謝しても絶対に足りないほどの恩が出来たわ」
「俺は手を差し伸べただけだ。死ぬと言うルールを破ったのはあの二人さ」


 部長は与作さんにお礼を言いますが彼は何てことはないと言う反応でした。本当に器が大きい人ですよ、与作さんは。私、与作さんの事が大好きになりました。


「ふわぁ~……おはようございます……」


 おや、アーシアさんが目を覚ましましたね?もう大丈夫なんでしょうか?


「アーシア!貴方にもお礼を言いたかったの!貴方の回復の神器の力のお蔭で二人は無事に目を覚ましたわ!」
「本当ですか!本当によかったです!」


 アーシアさんはお二人の無事を知って喜んでいました。


「しかしお嬢ちゃんのその力、まさに再生屋になるために持って生まれてきた力としか思えないくらいの逸材だ!お嬢ちゃん、鉄平の弟子にならないか?そろそろコイツにも弟子を付けさせた方が良いんじゃないかって思っていたんだが丁度いい!」
「えっ、でも私は……」
「師匠、無理強いは駄目ですよ。まあ彼女の力は確かに素晴らしいものです、もし気が変わったら教えてくれないか?俺は歓迎するぜ」
「わ、分かりました。少し前向きに考えてみます……」


 アーシアさんが再生屋として勧誘されていますね。意外と前向きなのがちょっと意外ですが……


「イッセー先輩、アーシアさんが勧誘されていますが止めなくていいんですか?」
「あの子は今自分で考えて道を選ぼうとしている、相談に乗ったりはするが余計な事は言わないことにするよ。このままだと俺に依存しかねないからな」
「なるほど……」
「それに再生屋は美食屋と違い守ることを重点としている、誰かを傷つけたいと思わないアーシアには合っているんじゃないかと前から思っていたんだ」
「確かにアーシアさんの神器の力といい再生屋には向いているかもしれませんね」


 これはアーシアさんにとって良い機会かもしれません。


 アーシアさんは前々から自分は皆の役に立っているのかと悩んでいました、私達からすれば感謝すれど役に立たないなんて思えないくらい貢献してもらっていますが本人は納得できていないみたいでした。ここでレベルアップできる道が出来たというのは大きいと思います。


(……道ですか)


 私にも見つかるでしょうか?そういう道が……


「イッセー!次はお前の腕だったな!」
「お、応!そうだ、俺の腕は治せるのか?」
「お前次第だがな」


 祐斗先輩と朱乃先輩が治ったので次はイッセー先輩の指を再生する番ですね!


「それでどれぐらいで治るんですか?」
「そうだな~その程度だったら5年くらいで治るんじゃないか」
「ごっ……5年だと~~~ッ!?」


 5、5年もかかってしまうんですか!?それじゃGODが現れてもイッセー先輩はソレの捕獲に向かえないじゃないですか!?


 その衝撃的な発言に私達は驚きを隠せませんでした。イッセー先輩の指は本当に治せるのでしょうか……

 
 

 
後書き
 リアスよ。祐斗と朱乃が無事に戻ってきてくれて本当に良かったわ。


 でもまさかイッセーの傷を再生させるのに5年もかかっちゃうなんて……それだとGODが現れるまでには間に合わないじゃない。


 流石のイッセーも即決は出来なくて悩んでいるみたいね、何とか彼の力になれないかしら……


 次回第66話『イッセーよ、決断せよ!小猫の愛とグルメ細胞の力!』で会いましょうね。 
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