魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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最終章:無限の可能性
第239話「幽世の意地」
前書き
引き続きとこよside。
幽世の意地と言うか、陰陽師たちの意地と言うか、そんな感じです()
「はぁっ!!」
炎が迸る。
全てを焼き尽くさんとする炎は壁となり、とこよ達を守るように展開する。
「何をしてるんだ!?いくらあんたでも、それは……!」
「だとしても!今ここでやらなきゃ負けるだけだよ!!」
「ッ……」
式姫の力とはいえ、神を二柱も降ろす。
それは生半可な負担では済まない。
例え神職であろうと、体が四散する程の負荷がある。
とこよは、それを行使しているのだ。
「……紫陽ちゃん」
「………っ、まったく……本当にあんたは大馬鹿だよ!!」
呆れたように溜息を一つ吐き、紫陽はそう言った。
直後、紫陽から濃密な霊力と、それに混じって神力も放たれる。
「だったら、あたしも限界を超えなきゃねぇ!!」
迸る力によって、神々の弾幕がさらに押し戻される。
そして、同時に紫陽の足元に巨大な陣が形成される。
「な、なんだ……!?」
「あんたら現世の人間には、恐怖の対象だろうが……質で敵わないなら量さ!!」
霊力が大地に叩きつけられる。
陣が発光し、稲妻のように周囲へ散らばっていった。
「開け!幽世の門よ!!人を襲うためではなく、現世を守るため、今その力を開放せよ!!全ての妖達よ!!」
迸る霊力と共に紫陽の言霊が日本中へ浸透していく。
「あれは……」
「あたしや事情が分かる連中がいない土地は大混乱だろうけど……安心しな。今回に限って、あれらは味方だ!」
崩壊した街に、妖が姿を現す。
妖達は、神々を認識した瞬間、そちらへ襲い掛かった。
聡や玲菜、街の人達には一切見向きもしていない。
「味方……?」
「これでもあたしは幽世を管理する神なんだ……!限界以上の権能を行使すれば、有象無象の妖程度、全て従えさせられる……!」
「日本各地の防衛は、しばらくこれで何とかなるはずだよ……!」
どちらも息を切らしている。
だが、戦意は一切衰えていない。
限界を超えた力の行使だからこそ、神々を相手に互角で戦えていた。
「まずは、ここを切り抜ける!」
「っ……!」
執念すら感じさせるその気迫に、聡は息を呑む
直後、空間が弾けた。
「っづ……!?」
「なっ……!?」
とこよが途轍もない速さで肉薄し、“天使”を切り裂く。
次の“天使”を切り裂こうとし、そこで吹き飛びながらも防がれる。
……つまり、“天使”の反応を上回って一気に二人にダメージを与えた。
「ッ、はぁっ!!」
それがトリガーとなり、戦場が一気に乱される。
敵陣を駆けるとこよは、迫りくる攻撃を炎を内包した赤い大剣で斬り払う。
あまりにも速く、ばら撒いた弾幕以外、命中する気配がない。
「ならば!」
「っ!」
そうなれば、当然“性質”による足止めが仕掛けられる。
“拘束”や“罠”、そういった足止めに適した“性質”でとこよに干渉する。
「ぐ、っ……これ、ぐらいっ!!」
「まだ動くか……!」
その上で、とこよは動く。
スピードはほとんど殺された。
足が止まり、攻撃が殺到する。
「っ……もう一柱……!来て、建御雷!!」
「何っ!?」
雷と共に、とこよはその攻撃を躱した。
回避しきれない攻撃は、雷を纏った槍で弾いた。
「既に三柱……相当な負担なはず……。あたしも、負けてられないねぇ……!」
「ちっ……止めろ!!」
一方で、紫陽も限界を超えた霊術の行使をしていた。
紫陽を中心とし、至る所に霊術の陣が出現。
そこから、炎や氷、雷に風、光や闇など、様々な属性の霊力が迸る。
神々にも負けない数の霊術を紫陽は構えていた。
「ハッ!あたしが無防備な訳ないだろう!ここにはこいつらもいるってのにさぁ!」
「な、にっ!?」
阻止しようと動いた神と“天使”に、矢と霊術、そして雷が飛来する。
咄嗟の障壁で防がれたが、その瞬間に背後を取られる。
「私達を忘れてもらっては困ります」
「ここで足掻かなくて、何が式姫ってもんだ!!」
蓮と山茶花が、それぞれの武器を振るう。
「那美!そこの二人は任せるよ!」
「うん、分かった!……久遠!」
「分かってる………ッッ!!」
紫陽が振り向かずに声を掛けると、聡達の後ろから那美と久遠が出てくる。
結界を張りつつ、那美が二人に駆け寄り、久遠が雷を放って牽制した。
「いくら何でも、海鳴の街でこんな大群を相手なんてね……」
「なんだ、怖気づいたのか?」
「そんなの、最初っからよ。……でも、ここで抗わなきゃ、それこそ終わりよ!」
鈴と鞍馬が流れ弾を避けつつ霊術を放つ。
……そう。アースラから地上へ降りてきた陰陽師及び式姫は、八束神社に留まらずにとこよ達の戦場の方へ来ていたのだ。
地力は遠く及ばずとも、気を逸らすぐらいは出来た。
「前の人生では、嘆きの最中死んだ。だから、今度の人生は絶対に後悔したくない。……そのためにも、例え怖くたって立ち向かうわよ」
「なるほどな……!」
そんな話をしながらも、鈴と鞍馬は霊術を放つ。
その霊術に続くように、コロボックルと織姫がそれぞれ矢と霊術を放ち、天探女と猫又が突貫、蓮と山茶花を援護する。
「最低一人は抑えな!数も質もこちらが負けている!あたしの妖で数は補えど、時間稼ぎしか出来ない!」
式姫達の連携が数人に対するものなら、紫陽の開いた幽世の門から繰り出す妖は他の神々と“天使”全てに対する攻撃となる。
一体一体は簡単な攻撃で倒されるが、それ以上の数で襲い掛かる。
「……なんて光景だ……」
「まぁ、見た目も規模も神話みたいなものだからね……」
聡が思わずそう呟き、那美が障壁をいくつも展開しながらその言葉に同意する。
「っ、来た!」
「ッッ……!!」
そこへ、“天使”の一人が突っ切って襲い掛かってくる。
彼らの目的は優輝の友人である聡と玲菜だ。
厳密には優輝と交友がある存在は全て対象だが、無力な二人から狙うのは戦闘における定石なため、優先して狙われていた。
当然、庇う必要があるため、どうしても防戦となる。
先程まではとこよと紫陽だけだったため、どうしても手が足りなかった。
「く、ぅ……!」
二人と那美を庇うように、久遠が受けて立つ。
今の久遠は、子供の姿から大人へと姿を変えている。
普段より強くなれるが燃費の悪い形態だが、“格”の昇華があるためそのデメリットの心配もなく、全力以上を出せていた。
「久遠!」
「ッ、那美、ありがとう……!」
那美の支援霊術が光る。
身体強化や相手の妨害となる霊術を使い、的確に援護する。
「は、ぁあっ!!」
「っつ……獣如きに……!」
大人形態であれば、久遠は五尾の妖狐となる。
霊術や薙刀を扱うようになってからは、その力を十全以上に扱う事が出来る。
薙刀と雷による連撃に加え、霊術を仕掛ける事で“天使”を後退させる。
「なっ!?」
「あたしやとこよが見ていないとでも?」
その瞬間、その“天使”は紫陽の霊術で吹き飛んだ。
さらにとこよによって首を落とされ、他の神々の攻撃の盾にされた。
「やはりあの二人が厄介ですね……!」
別の神が、とこよと紫陽を警戒する。
明らかに主戦力となっているのは二人だ。
そして、その二人に対して、決して邪魔にならないように他のメンバーが的確に戦線を展開して戦況を後押ししていた。
それらを無視して聡と玲菜を狙おうにも、久遠と那美に受け止められる。
一瞬でも受け止められれば、直後にとこよか紫陽、或いはその両方から手痛い反撃を受けると言う事を、神々も理解し始めたのだ。
「……ならば、その上で“圧倒”してみせようか」
「ッ!!」
刹那、辻斬りしつつ戦場を駆けていたとこよが吹き飛ぶ。
攻撃自体は防いだが、今のとこよの強さをして上回られた。
「とこよ!!」
「ごめん!各自補って!!」
陣形が崩れると悟り、紫陽にそう言い放つとこよ。
そのまま攻撃してきた神に向き直る。
「(……強い……!“性質”の影響もあるんだろうけど……)」
「どれほど強くなろうと、私はその上から“圧倒”する。それだけの事です」
「……“圧倒”の言葉に強い力を感じる……という事は、その類の“性質”だね」
「然り。私は“圧倒の性質”を持ちます。……どういったものか、言うまでもないでしょう?幽世の守護者」
「そのまんまだね……でも、だからこそ、強い」
直接的な戦闘をする神であれば、とこよ達も戦いようはある。
だが、それは飽くまでその戦闘において互角以上になれる前提だ。
……“圧倒”であれば、その限りではない。
「ッッ!!」
神速を以って、とこよは神に斬りかかる。
だが、その速度を相手の神は見切り、躱した。
「(速い……なら!)」
降ろした神の力を使い、とこよは炎と雷を繰り出す。
加え、さらに近接戦を仕掛けていく。
「……甘い」
「ッ……!?」
それすら、躱される。
そして、反撃が繰り出された。
回避など無意味だとばかりに、神は空間を殴る。
直後、回避不能の範囲を衝撃波が襲い、とこよは吹き飛ばされた。
「(本当、文字通り“圧倒”してくるなぁ……だったら……!)」
血反吐を吐き、とこよは膝を震わせる。
それでも、とこよは戦意を衰えさせずに神を睨む。
「……来て、素戔嗚!!」
もう一柱、さらに宿す。
三貴子の一柱であり、海神、嵐の神とも呼ばれる素戔嗚を宿す。
武器を式姫の素戔嗚が持っていた斧へと変え、肉薄してきた神を迎え撃つ。
「ぐっ……!はぁっ!」
それでも攻撃が弾かれる。
しかし、身を捻って蹴りを叩き込み、神力でさらに吹き飛ばす。
それによって、戦いの舞台を街から海へと移動する。
海神の力で、海上を駆けられるようにし、改めて敵の神と対峙する。
「(これでも足りない……なら、もう後の事は考えない!!)」
先程の攻撃で、とこよはそれでも足りないと理解する。
……そして、限界の先の、そのまた限界を超える。
「力で敵わないなら……それ以外で圧倒する!!来て!思兼、天照、月読、伊邪那美!!」
一気に四柱を宿し、これで合計八柱も宿した。
負担を抜きに考えても、神を八柱も宿す事など出来るはずがない。
それなのに可能にしたのは、全てかつてはとこよの式姫だったからだ。
……尤も、そのとこよでも、八柱は無茶を通り越しているが。
「っぐ、っ、ぅう……!!」
「負荷に体が追いついていないようですね。哀れな」
「ッ!!」
溢れ出る力を制御しきれず、とこよは膝を付く。
そこへ、容赦なく神が攻撃してくる。
「―――ッ!?」
「……制御するまで、そのまま放てばいいだけの事だよ」
だが、寸前で神は飛び退き、とこよを中心に光の爆発が起きる。
制御しきれない余剰な神力を、そのまま解き放ったのだ。
「何のために、誰もいない海上に来たと思ってるの?」
「周りに被害を出さないためですか……」
素戔嗚が海神なため、本領を発揮する事が出来るという理由もある。
だが、一番の理由は周囲への被害を減らすため。
なぜなら……
「……私自身、ここまで強くなるのは想定外だからね」
「ッ……!」
矢が神の頬を掠める。
式姫の思兼は弓矢を使い、それを降ろしたとこよがその弓矢で攻撃したのだ。
「長くは持たない。悪いけど、こっちこそ圧倒させてもらうよ」
「生意気ですね……ならば、これはどうです!」
直後、とこよの背後から“天使”が一斉に襲い掛かる。
同じ“圧倒の性質”を持つ“天使”達なため、一人一人が強い。
「無駄だよ」
「がぁっ!?」
だが、とこよはそれを上回った。
月読の神力で攻撃を逸らし、伊邪那美の神力で雷の如き光を当て、最後に天照の神力で太陽の如き熱を放出、一気に“天使”達を吹き飛ばす。
「日本の神を……私達陰陽師を、舐めないで!!」
「なっ……!?」
それは、まさに時を止めたかの如き速度だった。
どこからともなく飛んできた刀を掴み、“天使”達を斬りつける。
……海に来たもう一つの理由が、これだ。
刀を弾き飛ばされたあの時、とこよは刀が海の方へ飛んで行ったのを見ていた。
手元に戻す術式を刻んでいたため、こうして海に来ればすぐに回収できる。
降ろした神の武器よりも、やはり馴染みある刀の方が扱いやすいからだ。
「(体が引き裂かれるみたい……でも、倒れる訳にはいかない。私達が負ける訳にはいかない。なんとしてでも……勝つ!!)」
最早、執念に近い意地だった。
幽世の守護者として、一介の陰陽師として、とこよは意地で多重神降しの負荷に耐え、制御し、戦っていた。
「かかってきなよ……!全員いっぺんに相手してあげる……!」
刹那、全員の姿が掻き消える。
火花と衝撃波が迸り、海面がクレーターのように凹む。
「ッッ……!」
吹き飛んだとこよが海面を滑るように着地する。
直後、とこよを追撃しようとした“天使”が背中を斬られる。
とこよが追撃を躱し、同時に斬りつけたのだ。
「はぁっ!!」
さらに、天照の炎と建御雷の雷を合わせた一撃を別の“天使”に叩きつける。
「ふッッ!!」
「……ありえない……!“性質”を以ってしても、戦えるなど……!?」
“圧倒の性質”は未だにとこよに適用されている。
しかし、実際圧倒されていたのは神の方だった。
「シッ……!!」
正面からの攻撃を刀で弾き、そのまま側面からの攻撃を躱しつつ蹴りを決める。
反動で体が浮き上がり、その間に神力を掌に集束。
海面に叩きつけ、炸裂させた衝撃波で“天使”を吹き飛ばす。
「後、二人!!」
間髪入れず、とこよは追撃に出る。
刺突で吹き飛んだ“天使”の喉を貫き、そのまま切り上げで頭を裂く。
直後に神力による雷が“天使”を焦がす。
……たったそれだけで、その“天使”は倒れた。
「ッ!」
反撃に大量の理力による弾幕が降り注ぐ。
しかし、とこよは最低限の弾だけ刀で弾き、他は全て躱していた。
空中での機動もなんのその。霊力を足場にフェイトや奏などを軽々と超える速度で動き回っていく。
「っ、がぁっ!?」
「これで、もう一人!!」
「ッッ!?」
そのままの速度で、“天使”を蹴り飛ばす。
間髪入れずに方向転換し、思兼の矢で神を牽制する。
そして、もう一人の“天使”に狙いを定めた。
「くっ……!」
「……!」
勢いのままの刺突は障壁に止められた。
だが、とこよは止まらない。
八つの神力の雷が障壁を焼き、斬り返しの刀が障壁を切り裂いた。
「微塵に散れ」
―――“秘剣・塵桜”
刹那、“天使”が木端微塵に切り刻まれる。
神力を用いて放たれたその技に、“天使”の“領域”が砕かれた。
「あり得ない!」
「ッ!」
そこへ、神が直接攻撃を仕掛けてくる。
理力による不定形の武器を手に、とこよと同等以上の速度で斬り合う。
「こんな事、あっていいはずがない!!」
「くっ……ッ!!」
さらに、最後の“天使”が襲い掛かってくる。
飛び退き、その攻撃を躱し、追撃に備える。
後退を続けつつ、海面を利用した氷の霊術で牽制する。
同時に弓矢を連射し、容易に近づけないようにした。
「ありえる、はずが……!」
「口調が崩れるなんて、随分焦ってるね?」
「っ……!」
―――“刀奥義・一閃-真髄-”
神が大きく弾かれる。“圧倒の性質”を持つはずの神が。
「(……本来あり得ないはずの事。それが起きているから、ここまで“圧倒”出来る。本当なら、もっと苦戦していたはずなんだけどね)」
とこよにとっても、それは予想外の事だった。
誰も気づいていない事ではあったが、これには訳があった。
第一に、神は飽くまでとこよ本人しか“圧倒”していない。
降ろしている神の事を視野に入れていなかったのだ。
これによって、まず強さで“圧倒”が出来なくなる。
次に、その強さの差によって“天使”が逆に圧倒された。
ここで“圧倒の性質”の弱点が働く。
相手に対し圧倒する事で強さを発揮するこの“性質”だが、逆に自身が圧倒されてしまうと、途端に弱くなってしまうのだ。
それこそ、先程の“天使”達のように、二撃か三撃程致命傷を与えられただけで倒されてしまう程に。
「(だけど、これは好都合!!)」
全てが、とこよの有利に働いていた。
「行ったか……!」
「どうするの!?」
「とこよ抜きで何とかしてみせるさ!!」
一方、とこよが離脱した紫陽達は、とこよが抜けた事に一瞬動揺が走っていた。
「それが出来るとでも!!」
「ッ!」
その時、紫陽目掛けて一人の“天使”が襲い掛かった。
障壁自体は間に合うのだが、紫陽は何も防御をしない。
「出来ます!!……姉さんなら、絶対に……!!」
「……ああ、その通りさ。葉月!!」
紫陽の妹、葉月が槍でその“天使”の攻撃を防いでいたからだ。
「ただ妖を呼び出しただけだと、本当にそう思うかい?」
「なに……?」
「あたしに……いや、あたし達が呼べるのは、妖だけじゃない!葉月!」
「……はい!!」
直後、紫陽と葉月の背後に、幽世の門にも似た瘴気の穴が出現する。
そこから、妖に似た存在……“トバリ”が現れる。
「幽世と現世の境界がなくなった……それはつまり、ここは現世であり、同時に幽世でもある!!それならば、外敵を排除する権能が使えるのも、当然の事!!」
「とこよさんが無茶をしてでも、幽世を……いえ、世界を守ろうとしています。……なら、私達だって、少しは頑張ります!」
瘴気がトバリに纏わりついて行く。
ただ数を増やしただけでなく、瘴気によって質も向上していく。
「かつては式姫の敵対的存在だった妖とトバリ……あんたらが、この世界を蹂躙しようってんなら、この全てを相手するものだと思いなっ!!」
「私達にも、意地があります!絶対に、負けません!!」
前回は、成す術なく敗北した。
しかし、前回と違うのは、今度はこちらの“土俵”だと言う事。
地の利を得た紫陽達は、前回よりも遥かに強い。
「『一人に付き敵一体は抑え……いや、倒しな!!連携でも、どんな手を使ってもいい!!ここが踏ん張りどころだ!意地を見せなぁっ!!』」
紫陽の激励が飛ぶ。
その言葉に、式姫だけでなく、鈴や那美、久遠も奮い立つ。
「はぁっ!!」
妖とトバリの軍勢が神々と衝突する。
妖達のほとんどが吹き飛ばされるが、蓮がその中を駆け抜け、一人の“天使”へと肉薄。防御態勢を取らせる事で牽制する。
「うち滅ぼせ、流れ星!」
―――“星落とし”
紫陽の霊力と瘴気によって形作られた星が落ちる。
それだけで神々を倒せる訳ではないが、他の者が斬り込むきっかけになる。
「ちょっ……!?まだ街には人が!!」
「対策済みさ……!何のために数を揃えたと思ってんだい……!」
「妖とトバリを使って住人は救出済みです。安全地帯はありませんが、着弾地点からは避難していますよ」
聡が紫陽の霊術でクレーターとなった場所を見て思わず叫ぶ。
だが、その辺りで瓦礫に埋もれていた人達は、人型の妖やトバリによって既に助け出されていた。
「さっきも言った通り、この世界は既に現世でありながら幽世なんだ。……幽世の神として、誰がどこにいるかは、大体把握出来る」
そうこうしている内に、鈴や式姫達が“天使”達を倒しにかかる。
妖とトバリは自我がなく、実質的には紫陽による意思を持った霊術だ。
そのため、遠慮なく鈴達も妖を利用し、意識外から攻撃を繰り出していた。
神界の存在と言えど、意識外からの攻撃は共通して弱点なのか、地力の差がありつつも上手く渡り合えていた。
「それに、今この世界は死んでも死なない状態なんだ。……巻き込まれる奴らには悪いけど、容赦なくやれるってものさ!」
妖とトバリだけで抑え込んでいる神々へは、紫陽が追加攻撃を行う。
大規模な霊術が次々と構築され、そして放たれていく。
とこよのような一撃に集中した威力はないが、規模の大きい攻撃で生半可な強さの“天使”達を次々と後退させる。
「っづ……!」
……だが、そこまでやれば紫陽もタダでは済まない。
限界以上の力を行使しているため、負荷が紫陽にのしかかる。
目や口から血が零れ、足も既に踏ん張っている状態だ。
「ね、姉さん……!」
「あたしの心配は無用さね!!葉月!……本当にやらなくちゃいけない事は、見誤るんじゃないよ……!」
葉月が心配するが、紫陽はそれを切って捨てる。
負荷はあれど、死んでも死なない今の状況下なら苦しいだけだ。
決して、反動で死ぬことはない。
「ッ……」
「で、でも貴女、もうギリギリなんじゃ……」
言葉を呑み込んだ葉月の代わりに、玲菜が言う。
だが、紫陽はそれを鼻で笑った。
「ギリギリ?笑わせるんじゃないよ。そんなの、とっくのとうに超えちまってるさ。けどね、それでもあたし達は戦わなくちゃいけない。もう、逃げ場なんてないのさ」
「そんな……!」
「だからこそ!何が何でも、それこそ体が壊れようが、勝たなきゃなんないのさ!意地でも、絶対に、倒れる訳にはいかないんだよ!!」
幽世の神の矜持……なんて、立派なものじゃない。
子供の駄々のような、意地。それで紫陽は立ち続けている。
最も単純で、だからこそ諦めの悪い意地を張り続ける。
「っ……!」
「どうして、そこまで……」
「……あんたにもわかる事さ。……守りたいモノがある。それだけさ」
聡の言葉にそう答え、紫陽は微かに笑う。
そして、先程よりも多い霊術の陣を展開し、放つ。
それによって、押され始めていた戦線を何とか立て直す。
「(……どうあっても押されてしまう。どうやら、あたし達だけじゃ倒しきる事は出来ないようだね……。とこよ、やっぱりあんたがいなけりゃ、あたし達はダメらしい)」
しかし、紫陽の分析では、いずれジリ貧で押し負けると分かってしまった。
出来たとしても、時間を稼ぎ続ける事だけ。
とこよが戻ってくるのを期待するしかなかった。
……だが、それでも、諦める事だけはしなかった。
「ここはあたし達の住まう世界。あたし達の“領域”だ……!余所から侵略しにきた連中に、好き勝手されたくないんでね……!!」
故に、紫陽は立ち続ける事を決してやめなかった。
後書き
“圧倒の性質”…文字通り相手を圧倒する“性質”。強さや数、雰囲気など、あらゆる分野で“圧倒”するが、逆に自分が“圧倒”されるとそのまま負ける。
秘剣・塵桜…塵と散りがかかっている。超高速で文字通り微塵になるほど切り刻む技。多分、いくつかFateの燕返しみたいな事が起きている。イメージはワンパンマンのアトミック斬。
トバリ…“うつしよの帳(サービス終了済み)”にて登場する。実質的には幽世の中に登場する妖のようなもの。瘴気による強化効率が妖よりも良い。
星落とし…文字通りな霊術。一撃で着弾地点とその周辺が更地になるので、場所を選ぶ霊術。なお、本編では容赦なく街中で放った。
実は多重神降し状態のとこよは、一度でも大ダメージを受けると元に戻ってしまいます。まぁ、そうならない程に強くなっているんですけども。
また、葉月がトバリを呼べるのは、紫陽の加護と前世の経験のおかげです。
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