頑張って産んで
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第三章
「するとです」
「獣医さんのお母さんがですか」
「引き取ると」
「父と二人で暮らしていますが」
「お二人で、ですか」
「引き取られると」
「そして飼うとです」
その様にというのだ。
「言ってくれました。実家でこのことを話したら」
「するとですか」
「お母さんがですか」
「そう言ってくれました、灯台下暗しですね」
獣医は笑ってこうも言った。
「本当に」
「そうですね、じゃあ」
「キジちゃんは」
「はい、ですから」
それでというのだ。
「よかったと思っています。折角です」
「僕達が助けたから」
「だからですか」
「そうです、それに足が動けないのに」
後ろの二本の足がというのだ。
「子供達を頑張って産んだんです」
「そのこともあって」
「それで、ですか」
「是非幸せになってもらわないと」
是非にというのだ。
「そう思いまして」
「そのこともあって」
「それで、ですか」
「はい、幸せになるべきです」
こう二人に言うのだった。
「ですから」
「頑張って子供達を産んだ」
「それなら」
「幸せになるだけのことをしました」
そうしたというのだ。
「そしてです」
「そして?」
「そしてといいますと」
「誰もが幸せになる権利があります」
こうもだ、獣医は二人に話した。
「ですから。父も母も猫好きで好人物ですから」
「キジちゃんも幸せになる」
「そうなりますか」
「はい、今日両親が来ます」
この病院にとだ、獣医は語った。
「それでこの娘を渡します」
「ニャア」
キジは丁度獣医の傍にいた、猫用の車椅子を付けられていてその力で普通に動いていて彼の足元で鳴いた。
その声を聞いてだ、獣医は目を細めさせて言った。
「そうしますので」
「そうしてですね」
「キジちゃんは幸せになりますね」
「そうなります、是非です」
こう言ってだ、獣医は屈んでキジの頭を撫でた。そのうえで二人に話した。
「足が動かなくなった不幸、子供達を産んだ頑張りの後は」
「幸せですね」
「それが待っていますね」
「そうです、この娘はこれからそうなります」
幸せにとだ、こう言ってだった。
彼はキジを抱きあげた、そうして撫でるとキジは喉を鳴らした。それは今から幸せになることを楽しみにしているかの様だった。
頑張って産んで 完
2020・3・25
ページ上へ戻る