| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

最終章:無限の可能性
  第237話「剥奪」

 
前書き
帝が優勢に見えますが、攻撃が最大の防御を地で行っているからです。
直接攻撃を食らえば、紙切れのように吹き飛んでしまいます。
白兵戦も、十秒も続ければあっと言う間に押し切られていました。
飽くまで、攻撃において有利を取っていたにすぎません。

事実、帝の物量を突破する数を揃えられれば、帝は確実に負けます。
だからこそ、前回優奈は洗脳された神達も請け負いました(分かりにくい描写ですが)。
 

 












「くそっ!!」

「ぐっ……!?」

 “悪の性質”の悪神が倒れた。
 それを見て、“幽閉の性質”の悪神が帝を拘束する。
 優奈は“負の性質”の悪神と洗脳された神達を相手にしており、帝も相手を倒したばかりで隙があり、いとも容易く結界に囚われてしまう。

「エア!!」

〈はい!!〉

   ―――“カタストロフ・エア”

 だが、それも時間を稼ぐだけに留まった。
 攻撃に“世界を裂く”と言う概念がある以上、閉じ込める結界……否、一つの世界に閉じ込めるという“幽閉”の概念がある結界では、閉じ込められない。

「……次はお前か?」

「っ……!人間風情がぁっ!!」

 激昂した悪神が帝をロックオンする。
 それを見てなお、帝は笑みを深める。

「人間だからこそ、俺は足掻くんだよぉっ!!なめんじゃねぇぞ!!」

 吠える。自らを奮い立たせるために。
 虚勢ではある。見栄でもある。
 それでも、帝は戦う。好きな相手……優奈を守るために。
 帝は前世を含めた今までの人生の中で、最も強い熱意を抱いていた。
 決して譲れないモノだからこそ、その熱意はより燃え続ける。

「ッ……!!」

 先程までの攻防は、神界でなければ、既に帝は死んでいた程の魔力行使だった。
 何より、エミヤ本人でさえも限定条件下且つ劣化版しか投影出来ない約束された勝利の剣(エクスカリバー)を、完全な形で、しかも連続で投影したのだ。
 体への負担は、かなりのもののはずだった。
 ……しかし、帝はそんな様子を見せない。

「ッ、ハハハハハハハ!!防戦一方じゃないか!“幽閉の性質”とか言ったか!?所詮攻撃性の低い“性質”だ!優奈が相手するまでもねぇ!!」

 虚勢を張りつつ、敵を嘲る。
 慢心したような言葉だが、これも帝が自分を奮い立たせるためだ。
 何より、そういった虚勢でも、帝の強さを後押ししていた。

「調子に……乗るなぁっ!!」

「ッ!!」

 だが、敵も無力ではない。
 理力を開放する事で衝撃波を放ち、帝の攻撃を弾き飛ばす。

「っはぁっ!!」

 負けじと帝も武器を射出しつつ、“天の鎖”で拘束を試みる。

「無駄だ!」

 悪神は自らを“幽閉”する事で、外部からの干渉を断つ。
 それによって鎖どころか帝の攻撃全てが防がれる。

「はぁっ!」

「ふっ……!」

 同時に、悪神の“天使”が攻撃を仕掛けてくる。

「その程度!」

 しかし、帝はそれらを王の財宝から盾の宝具を取り出す事で防ぐ。
 同時に大量の武器を飛ばし、すぐに間合いを離した。
 無理矢理近づこうとした“天使”は、ハリネズミのように串刺しにされる。

「切り裂け、エア!」

   ―――“Beginning of the Earth(ビギニング・オブ・ジ・アース)

 それでも“天使”は倒れない。
 故に、帝はトドメの一撃を食らわせた。
 エアを突き刺し、その状態から魔法を発動させる。
 世界を切り裂く一撃を、その刀身から解放する。
 世界……つまり“領域”にダメージを与える一撃を一点に集中させて“天使”に与える事で、完全に倒しきる。

「……次!」

「ぬ、ぅ……!」

 決して倒せる気がしない。
 そんな気迫を放ちながら、帝は次の攻撃対象を見る。
 防御に徹すれば、悪神も負ける事はない。
 しかし、それでも帝の気迫にたじろいでいた。





「ッ……!」

「ふっ……!」

「ッッ……!」

 一方で、優奈もまた戦闘で優位に立っていた。
 数が減ったのもあるが、帝の攻撃がこちらにも飛んでくるのが大きい。
 宝具による弾幕は、概念効果も相まって“天使”達も無視は出来ない。
 “負の性質”の悪神や洗脳された神達を相手取っても互角に戦えていた。

「はっ!!」

 戦法も、基本は先程までと変わらない。
 理力を込めた剣を飛ばし、シューティングゲームのように敵を仕留めていく。
 その過程に、帝が飛ばす武器を足場に跳ぶというのが付け加えられただけだ。

「邪魔よ!」

 そして、もう一つ。
 悪神が再び“負の性質”を使ってベクトルを反転させてきた。
 飛ばしたはずの剣がいくつか返ってくる。
 だが、所詮はベクトルが反転しただけ。
 剣という形を取っている以上、柄から飛んできても大した威力にはならない。
 それどころか、優奈はその柄を掴み取り、肉薄してきた“天使”を切り捨てる。

「はぁっ!!」

 一人、また一人と。
 優奈は確実に洗脳された“天使”を仕留めていく。
 複数の敵による“性質”の干渉も、今なら対抗出来た。

「っつぁっ!!」

「無理矢理突破してくるだと……!?」

 反転しようのない、そのままの理力をぶつける。
 それによって、“性質”を相殺していた。

「貴方達もいい加減……」

「ッ……!」

「沈みなさい!!」

 そして、数十本もの理力を多く込めた剣を創造。
 それらを洗脳された神達に差し向け、貫く。
 さらに、貫いた直後に理力を爆発。確実に“領域”を削り、一気に倒す。

「本当、帝には助かるわ……!」

 直後、優奈は帝が飛ばす武器を足場に跳躍。
 爆発的に加速し、爆破させた神達にトドメを刺す。

「ふ、っ、ぅ……!」

 だが、さすがにここまで理力を爆発させていた事もあり、優奈は息を切らす。
 先程まで劣勢になっていたのもあるため、無理はない。

「後は……貴方達だけよ……!」

 それでも、残ったのは“負の性質”の悪神とその“天使”。
 洗脳された神達は、ついに全員倒した。

「っ……くそ……!」

 ここで、“負の性質”のマイナスの力が働く。
 神自身、“性質”に影響するのは言うまでもないが、神界の戦いにおいて“負の性質”による影響はかなりのものだった。
 
「シッ……!!」

 悪神の腹に優奈の掌底がめり込む。
 “敗北”を連想してしまった“負の性質”の神は、もう勝つ事は出来ない。
 “負の性質”であるが故に、どうしても負の方向へ考えてしまうからだ。

「終わりね」

「人間一人に覆される、とは……!」

 創造魔法による串刺し、導王流による剣の斬撃。
 同じく導王流による体術が、吸い込まれるように悪神に命中する。
 ベクトルの反転も、既に理力によって無効化出来る程弱まっていた。

「人間を、可能性を侮るからこうなるのよ」

 一閃。それがトドメとなった。
 先程まで優奈を苦しめた悪神が、こうしてまた一人倒れた。

「(後は……)」

 残るは、帝が相手をしている悪神だけ。
 そちらも、ほぼ互角に渡り合っている。
 優奈が手を出さなくても負ける事はないが……

「意識外からの攻撃のチャンス。逃す手はないわよね」

「ガッ……!?」

 当然のように優奈は不意を突く。
 帝に集中していた“幽閉の性質”の悪神を、背後から剣で貫く。

「お、前……!?」

「残ったのは貴方だけよ。残念だったわね!!」

 そして、そのまま剣を上に振り抜く。
 上半身を左右に別たれた悪神。だが、それでも倒れはしない。

「帝!」

「ぉおおおおおおっ!!」

   ―――“Beginning of the Earth(ビギニング・オブ・ジ・アース)

 そこへ、帝がトドメを刺す。
 世界を、“領域”を切り裂き、悪神を四散させた。

「……帝、よくやったわ」

「あ、ああ……」

 労わりの言葉を掛けられ、帝は少し戸惑う。
 帝にしても、あそこまでの力が出せたのは予想外だった。
 だが、それを“当然”だと思う事で使いこなしていた。
 それでも、勝った事に実感が湧かず、こうして戸惑った。

「窮地はこれで切り抜けた……と思うんだけどね」

「……違うのか?」

「悪神が“性質”を使って結界を張ったのよ?善神も悪神も、その事に気付かないはずがないわ。……それに、勢力圏で言えばこの辺りは多分悪神寄りのはず」

 “幽閉の性質”によって張られた結界は、まだ残っている。
 しかし、術者を倒した事で徐々に罅が入って割れている。
 あともう少しで、結界は完全に崩壊するだろう。

「立ち止まって戦い続けたから、他の連中が嗅ぎ付けた……のか?」

「そうなるわね」

 閉じ込める結界がしばらく張られていれば、善神悪神問わず気にするだろう。
 それによって、結界外で何かが待ち受けていると優奈は考えた。

「つまり……」

「そう―――」

 それを帝も理解し、答えを口に出そうとする。
 同時に、結界が崩壊した。

「待ち伏せされてるって事よ!!」

 その瞬間、優奈と帝を包囲するように、大量の理力の弾幕が降り注いだ。
 一撃一撃が非常に強力で、予期していなければ確実に競り負けていた。

「ッ、ぉおおおおおおおおっ!!!」

「これぐらい、なら!!」

 だが、寸前とはいえ二人は予期できた。
 帝は先程と同じ弾幕を。優奈もそれに倣って創造魔法で迎撃を図る。

「……えっ?」

 しかし、そこで帝が呆気に取られた声を漏らす。

「ッ!?」

 直後、“ギィイン”という武器同士のぶつかり合う音がいくつも響く。

「武器が、返って来た……?」

 それは、先程の悪神のベクトル反転とはまた違った。
 先程、帝は確かに射出した武器を“奪われた”と感じた。
 その奪われた武器で反撃してきたのだ。

「(だが……!)」

 その上で、帝は武器を射出し続ける。
 まずは目の前に広がる弾幕を何とかしなければいけないからだ。

「帝、少し持ち堪えて!」

「ああ!」

 このままではジリ貧。
 そう判断した優奈は即座に瞬間移動を行使する。
 向かう先は弾幕を繰り出す張本人。 
 転移すると同時に、理力を込めた剣を射出する。

「ハッ!直接来たか!」

「はぁっ!!」

 二回、三回と分けて何度か剣を一斉射出する。
 “可能性”を内包したその一撃は、例え弾幕であろうと突っ切る。

「(途切れた!)」

 その攻撃を対処するため、弾幕が若干薄れた。
 それを見届けた優奈は瞬間移動で帝の元へ戻り、手を掴む。

「ッ!」

 そして、もう一度瞬間移動をする。

「(あれは……)」

 その時、優奈も帝もソレを見た。
 おそらくは、善神とその“天使”だったのだろう。
 あまりにも無惨な状態となって、そこら中に倒れていた。

「っ、もう一度!」

 移動先から、さらに優奈は瞬間移動する。
 先程とは違い、結界に閉じ込められていないため、包囲から逃れられた。
 “負の性質”による能力の低下もなくなっているため、逃げるのは容易だ。

「……あれは、正面からやり合うのは危険ね」

「……そんなにか?」

「ええ。包囲時の弾幕による制圧力は、結界に閉じ込められた時よりも強かったわ。能力の戻った私と、強くなった貴方の二人掛かりでも、明らかに押し負けていた。その上、貴方が飛ばした武器を返されていたもの」

「確かにな……」

 あのままでは、確実に二人は押し切られていた。
 優奈が攻勢に出たのも、一種の賭けだった。

「それに、あの弾幕は多分“性質”の一側面でしかない。本来はもっと……」

「……惨い、か?」

「そうね。あの場には善神らしき神と“天使”が散らばっていた。あの場にいた悪神の仕業なら……それに見合った“性質”がある」

 弾幕ではならないような、あまりにも無惨な死体。
 引きちぎられたり、抉られたりと、とても直視できるような様相ではなかった。
 そんな“残酷さ”に繋がりのある“性質”を持っていると、優奈は推測する。

「っ、追いついてきた……!」

 気配を察知し、悪神達が近くまで来ている事に気付く。
 優奈が振り返り、すぐさまもう一度瞬間移動する。

「くっ、“性質”ね……!」

「はははっ!その通りだ!」

 だが、逃げられない。
 先程の結界とはまた違う、“性質”による効果が働いていた。

「逃げられないという“残酷な現実”だ」

「……なるほどね。あの“幽閉の性質”の悪神に倣ったって訳」

 例えるのなら、逃げてもループして逃げられないと言った状態。
 そんな“残酷な現実”を優奈達に与えているのだ。
 これにより、再び優奈と帝は逃げられない状態に陥った。

「さしずめ、“残酷の性質”と言った所かしら?」

「くっ、ははは!その通り!一言一句間違えずに当てるとはさすがだ!」

 凶悪な笑みを浮かべながら、悪神は笑う。
 先程見た無惨な姿で倒れていた善神も、彼の仕業だ。

「普段は抽象的な部分しか扱ってなかったからなァ……。ああやって直接的な残酷さを示せるのは存外気持ちがいい」

「……どうりで、今の空間を突破出来ないのね」

 この悪神は、直接的なものより抽象的な“残酷さ”に強い。
 そのため、理力や“意志”を以ってしても逃げられなかった。

「ッ、帝!!」

「……!?」

 その時、帝の背後から別の神が襲い掛かる。
 優奈が咄嗟に庇い、その神を蹴り飛ばす。

「次から次へと……!」

 さらに洗脳された神とその“天使”が帝の死角から襲い掛かる。
 優奈は知らないが、性能が落ちているとはいえその神の“性質”は“暗殺”だ。
 死角からの一撃一撃がギリギリフォローが間に合う状態だった。

「このっ……!」

 そこで、帝が投影による剣の弾幕を張る。
 これで少しは牽制になると、そう信じて。









「―――それを待っていた」

「……は……?」

 だが、その考えは一瞬で消え去った。
 背後からの衝撃と目の前で起きた出来事に、帝は呆気に取られるしかなかった。

「所詮は借り物の力と言う事か」

「帝!」

「おっと、邪魔はさせんぞ?」

「ッ……!」

 優奈がフォローしようとするが、“残酷な性質”の悪神に阻まれる。
 さらに他の悪神と洗脳された神々も優奈を包囲する。
 優奈や帝が行った分断を、今度は相手からしてきた。

「こうも容易く“奪える”とはな」

「お、前……何をした……!?」

 帝の前に降り立った神が帝を嘲るように笑う。
 その様子に、帝は怒りに震えながらもその先に踏み込めずにいた。

「文字通り、“奪った”のさ。お前の力を」

「っ、くそが!!」

 そう。帝は先程の一瞬でエミヤの力を全て奪われていた。
 そして、今度は帝がその投影による攻撃を受ける。
 咄嗟に王の財宝で相殺するが……

「それも所詮は借り物だ」

「な、ぁ……!?」

 肉薄され、手刀が帝の体を貫く。
 そして、ギルガメッシュの力すら、奪われてしまった。

「っづ、このっ……!!」

 砲撃魔法を至近距離から放ち、何とか間合いを取る。
 だが、この一瞬で一気に不利になってしまった。

「エア!」

〈っ……奪われました……!何の抵抗も出来ずに……!〉

「くそ……!」

 目の前に広がるのは、先程まで帝が放っていた弾幕。
 違うのは、それを繰り出しているのが目の前の悪神だと言う事だ。

「(奪う……そういった“性質”か……借り物の力でしかない特典だから、あんなあっさりと奪われたのか……!)」

 障壁で防ぎ、破られる前に砲撃魔法の魔法陣をいくつか用意する。
 破られると同時に砲撃魔法を放ち、転移魔法でその場から離脱する。

「(俺だって、ただぶっ放しているだけだと思うなよ……!)」

 エミヤやギルガメッシュの力が無くなったとはいえ、無力になった訳ではない。
 膨大な魔力とエアは健在だ。
 そして、その魔力を十全に扱う技術も既に培っている。
 手軽且つ強力な攻撃を連発出来なくなっただけで、まだやりようはある。

「(……けど……)」

 しかし、懸念は残る。

「(……この魔力も、それこそエアも……)」

 そう。その膨大な魔力とデバイスのエア。
 それらも帝の特典だ。授けられた力でしかない。
 つまり、奪われる可能性が高いと言う事だ。

「っ……だからって、諦められるかよ……!!」

 魔力弾を大量に展開し、帝は歯を食いしばって悪神を睨む。
 帝にとって、もう“勝ち目の有無”は関係ない。
 “譲れないモノ”(優奈)のために、立ち上がり続ける。









「帝……!」

 一方で、優奈も苦戦を強いられていた。
 “残酷の性質”が思った以上に厄介だったのだ。

「人の心配をしている場合か?」

「くっ……!」

 空間どころか、事象そのものに干渉してくる。
 “残酷な現実”というものが、そのまま優奈に押しかかる。

「っづ、ぐぅっ……!」

 体が重く、力も出せない。最早何も出来ない。
 そんな“残酷な現実”を無理矢理優奈に課せられる。
 理力で抵抗して、ようやく優奈は動ける。
 だが、悪神が何もしない訳ではない。
 強い訳ではないが、白兵戦を仕掛けられ、優奈は大きく後退する。

「ほら」

「ッ、こ、のぉ……!!」

 さらに、洗脳された神々も襲い掛かる。
 本来ならば、それも凌ぐ事は可能だが、ここまで連戦続きだ。
 どうしても、出力を出せずにいた。

「(凌ぐので精一杯……!突破口が……見つからない……!)」

 凌ぐ事は出来る。だが、それ以上は踏み込めない。
 突破口を見つけるか、悪神の“性質”に慣れるまで耐え凌ぐという手も、帝が追い詰められている事から、使う事ができない。

「っ……!」

 焦る。このままでは自分ではなく、帝が倒れる事に。
 一筋縄ではいかない事ぐらい、理解はしていた。
 それでも、手の打ちようがなくなっていく事に、焦らざるを得ない。
 そして、それがさらに不利な状況へ持っていく。

「こっ……の!!」

 体を動かす分の理力を集束し、カウンターで“天使”を一人仕留める。

「ッッ……!」

 物理的な攻撃は食らっても無視する。
 ここは神界。物理的ダメージは気にしなければダメージにならない。
 否、最早優奈に余裕はなく、物理的ダメージを意識する事も出来ない。

「っづ、ああっ!!」

 “天使”を掴み、別の“天使”にぶつける。
 その上から、さらに理力をぶつけ、吹き飛ばす。

「ぐ、ぁあっ!?」

 そして、お返しと言わんばかりに、理力をぶつけられる。
 多勢に無勢。このままでは優奈が倒れるのも時間の問題だ。
 帝が倒れるまでに突破口を見つけ、倒すどころではない。

「(帝……!)」

 外的要因による状況の変化がない限り、優奈に勝ち目はない。
 自分が勝つだけなら、まだ可能性は残っている。
 しかし、それでは帝は助からず、おまけに勝ったとしても“その次”は無理だ。
 ……敗北は、着々と目の前に迫っていた。













「(優奈……!)」

 そして、その帝も窮地に陥っていた。
 特典二つを奪われてなお戦えるが、やはり力の差が大きい。
 足掻いてはいるが、攻撃が決して届かない。
 悪神を圧倒していた弾幕が、今度は帝に向けられている事で、劣勢を極めていた。

「っづ、ちぃっ……!!」

 迫りくる剣の群れをエアと魔力弾で逸らし、同時に魔力を集束する。
 直後に集束した魔力で砲撃魔法を放ち、僅かな隙を作る。

「(直接攻撃するのはダメだ!その瞬間、また“奪われる”!)」

 隙を作り、その隙で次の隙を作る準備をする。
 それを繰り返し、ジリ貧になる前に突破口を開く隙を作り出す。

「ここ、だっ!!」

   ―――“カタストロフ・エア”

 ようやく大きな隙を見つけ、強力な砲撃魔法を放つ。
 ギルガメッシュの力は失ったが、エアがいる限り世界を裂く砲撃魔法は使える。
 魔法の特性から、神界の存在にも通用するため、今の帝の手札では最も使いやすく強力な魔法だろう。

「はっ!無駄だ!」

 ……だが、それを正面から物量で潰してしまえるのが、今の相手だ。

「っ……!」

 無数の武器が、帝を襲う。
 その物量に、先程まですら手加減していたのだと帝は悟る。
 今できるあらゆる手段を打ってなお、凌ぐ事すらできずに蹂躙される。

「ぐっ……!」

 吹き飛ばされ、背後の方で刺さっていた武器群に叩きつけられる。
 すぐに体勢を立て直そうとするが、既に悪神が目の前に迫っていた。

〈マスター!〉

「さて、どれだけ“奪えば”絶望するのやら」

「は……?」

 悪神が帝の頭を掴む。
 その瞬間、帝の中から急速に魔力が消えていった。
 ……魔力すらも奪われたのだ。

「て、めぇ……!」

「まだ反抗するか。なら、次だ」

 頭を掴む手を外そうと、それでも足掻く帝。
 だが、今度はその体が変わっていく。
 容姿は自分では見れないため、詳細は分からない帝だったが、それでも自分の体が変わっていく事は分かった。

「今度は何しやがった……!」

「この姿に見覚えはないか?」

 直後、目の前の悪神の容姿が変わる。……先程までの帝の姿に。
 銀髪オッドアイという特徴的な容姿に、帝も何をされたか理解する。

「っ……俺の容姿を……望んだ姿すら奪うか……!」

「借り物だからな」

 今の帝は、年相応の一般的な好青年の姿になっている。
 前世の容姿とは違うが、これが本来普通に転生した場合の容姿だ。

「お前は本当に借り物だらけだな?」

「それが、どうした……!いい加減離せ!!」

〈っ、マスター!〉

 殴りつける。だが、悪神はびくともしない。
 英雄の力も、膨大な魔力も、スペックの高い体も失った。
 それでも足掻こうと、帝は目の前の悪神を睨む。

〈このままでは、私も……!〉

「ッ……!エア……!」

「これも、所詮は“モノ”だ」

〈マスター!マス―――〉

 悪神の手がエアに触れる。
 その瞬間、帝の握る手から、エアの存在が消えた。

「ふん。素のお前など、無力な人間にすぎん。こうして力を奪えば、何も出来ないのだからな」

「っ……!」

 投げられる。散らばる武器群の中へ体が叩きつけられる。

「こ、の……!」

 その武器を手に取り、“それでも”と帝は立ち上がる。

「思い上がるな、人間」

「ッ……!」

 だが、その武器の所有者は今や目の前の悪神だ。
 振るう前に、手の中から消え去る。

「俺の“剥奪の性質”に奪われるモノなぞ、お前の力ではない」

「て、めぇえええええええええええええ!!」

 我武者羅に殴り掛かる。
 だが、拳が届く前に障壁によって阻まれる。

「返せ……!あの二人の力はこの際いい……!あれは借り物だ……!だけど!エアは、エアは借り物じゃない!あいつは……あいつは、ずっと俺を見捨てずにいてくれた、相棒なんだ!!」

「だからなんだ?こうして“剥奪”した以上、お前のモノではない」

「ッッ……!」

 手が斬られる。
 間髪入れずにいくつもの剣に串刺しにされ、後方に吹き飛んだ。

「ぐ……くっ……!」

「お前の相棒は、既に俺のモノだ」

「エア……!」

 悪神の手にエアが握られる。
 抵抗している様子はなく、むしろ粛々と従っている様子だった。

「せめてもの慈悲だ。お前の元相棒で死ぬがいい!」

「っ、ぁ……!」

 エアによって、帝の体が貫かれる。

「切り裂け!エア!」

   ―――“Beginning of the Earth(ビギニング・オブ・ジ・アース)

「がぁあああああああああああああああああああああああああああああ!?」

 さらに、ダメ押しとばかりに世界を裂く一撃が炸裂する。
 帝の体は千切れ飛び、無残な姿で横たわった。

「……エ、ア……」

 手を伸ばす事も、もう出来ない。
 優奈による“格”の昇華は残っているが、それでは“死なないだけ”だ。
 体を再生する事も、もうままならない。

「(優奈……)」

 足掻こうとも、足掻けない。
 譲れないモノのために、立ち上がる事すら出来ない。
 ……それが、帝にとって絶望となった。















 
 

 
後書き
Beginning of the Earth(ビギニング・オブ・ジ・アース)…“天地開闢”の英語を少しもじった魔法。デバイスのエアによる、宝具の乖離剣の効果を使った一撃。刺突、斬撃などの直接攻撃に作用し、敵に世界を切り裂く一撃を凝縮して叩き込む。一点に集中する威力は、カタストロフ・エアを凌ぐ。

“残酷の性質”…今回登場したのは、物理的よりも抽象的な方の力を扱うタイプ。空間や概念、現象として“残酷”を押し付けられる。本編では“残酷な現実”として逃げ場を奪ったり、途轍もない弾幕を展開していた。

“剥奪の性質”…文字通り、相手のモノを奪う。それが、借り物や授けられたもの、外的要因のモノであればある程、奪われやすい。奪われないようにするためには、それが自分のモノだと“性質”として強く主張しなければならない。


帝は基本物理的に、優奈は概念マウントで戦っています。帝も圧倒的物量で結局概念マウントを取っていますが。
現在の帝はそれこそ本当に一般人レベルにまで弱体化しています。
残っているのは、優奈の“格”の昇華だけです。なお、これも悪神にとっては奪える対象という…… 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧