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戦国異伝供書

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第八十話 鬼若子その十三

「本山家の者達、兵の者達もな」
「皆ですな」
「無闇に殺さない」
「そうされますな」
「あの家は確かに我等にとっては因縁ある相手じゃ」
 このことは元親自身もよくわかっている、祖父の代のことを思えばまさに何度皆殺しにしても飽き足らない。そうした相手だ。
 だがそれでもだ、彼は言うのだ。
「しかしじゃ」
「無闇な殺生はせぬ」
「そうしますな」
「断じて」
「それはしませんな」
「そうじゃ、さもないとじゃ」
 元親の言葉は澄んでいた、その澄んだ声で言うのだった。
「以後誰が当家に降る」
「相手を皆殺しにする様な家は」
「相手も降りませぬな」
「降っても皆殺しになるなら」
「最後まで戦いますな」
「項王を見るのじゃ」
 項羽、異朝において漢の高祖劉邦と覇を競った相手である。
「敵は降っても許さず常に滅ぼしておったな」
「徹底的に」
「そうしていましたな」
「それが為に誰も降らず最後はどうなったか」
「敗れ去りましたな」
「圧倒的な武を持っていながら」
「そうなりましたな」
「だからじゃ」
 それでというのだ。
「本山家もじゃ」
「決してですな」
「皆殺しにはせぬ」
「そうされますか」
「そうじゃ、そうしていく」
 こう言ってだった、元親は兵を集めて本山家の領地に出陣した、その彼を見て留守を守る兵達も民達も口々に言った。
「いや、何と立派なお姿か」
「何と頼もしいことか」
「負ける気がせぬわ」
「全くじゃ」
「鬼若子様じゃ」
 元親を見て言うのだった。
「あの方ならばな」
「負けることはない」
「決してな」
「この度も勝ちて帰られる」
「間違いなくな」
 誰もがそう思った、もう元親の姿を見て頼りなく思う者は領地では誰もいなかった。


第八十話   完


                    2020・1・1 
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