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戦国異伝供書

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第八十話 鬼若子その十

「西はじゃ」
「気が引けますな」
「四万十川から西に進むことは気が引ける」
「そこからは一条家の領地なので」
「どうしてもな、しかしな」
「その時が来れば」
「その時はな」
 どうしてもというのだ。
「わしが決断する」
「そうされますか」
「わしが決めてじゃ」
 そしてというのだ。
「動かす、だから責はわし一人にある」
「兄上お一人に」
「そう言われますか」
「だからですか」
「我等は、ですか」
「うむ、誰もじゃ」
 それこそというのだ。
「気にすることはない」
「その時は、ですか」
「兄上が決断されますか」
「そうされますか」
「その様に」
「うむ、しかしな」 
 ここで元親はこうも言った。
「土佐の守護は細川様じゃな」
「はい、そのことはです」
「我等もよく承知しています」
「我等も土佐の侍です」
「だからこそ」
「わしの諱にしてもじゃ」
 元親は己のそれの話もした。
「わかるな」
「はい、それもです」
「守護の細川様から頂いております」
「元という字を」
「それを」
「それだけに細川様は立てねばならぬが」
 例え守護の座は最早名目のものだけであってもだ、やはりそのことは如何ともし難いものがあるのだ。
 だが、とだ。元親は弟達に話すのだった。
「しかしな」
「一条様もです」
「細川様は別格にしましても」
「この土佐で強い方です」
「土佐の西を治められているだけでなく」
「元々公卿の方です」
「お家の格があります」 
 細川家と同じくというのだ。
「それが大きいです」
「非常に」
「そのことを思いますと」
「一条様もですな」
「うむ、あの家もな」
 どうしてもというのだ。
「立てねばならぬ」
「土佐の者としては」
「どうしてもですな」
「ましてや当家の恩人ですし」
「尚更ですな」
「恩義を忘れる者は何にもなれぬ」
 元親はこの言葉も出した。
「そうであろう」
「はい、この戦国の世といえど」
「裏切りを繰り返す者の果ては知れています」
「大内家の陶殿にしても」
「あの末路です」
「わしは今都で威を張っている松永殿も先は知れておると思っておる」
 松永久秀、蠍と呼ばれる彼もというのだ。
「あの様に悪の限りを尽くす御仁誰が信じる」
「何時自分が寝首を掻かれるか」
「わかったものではありませぬな」
「あの様な御仁はやがて周りが全て敵になり」
「そしてですな」
「そうじゃ、下剋上といえど」
 その世であってもというのだ。
「信義の欠片もない者なぞな」
「末路は知れたものですな」
「人を裏切る者は自分も裏切られる」
「そうなりますな」
「そしてその末路は」
「首がなくなる」
 そうなるというのだ。 
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