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ゴミ箱の中から

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第二章

「ゴミ箱の中にいるのかしら」
「そこに間違って入ってか」
「閉じ込められたんじゃ」
「だとしたら」
「ええ、開けてね」 
 そのゴミ箱をというのだ。
「調べましょう」
「それじゃあな」
 久信は妻のその言葉に頷いた、そうしてだった。
 大きな、ゴミ袋がそれこそかなりの数が入るその中を一つ一つ調べた。幸い今朝ゴミの回収日なのでゴミ箱はなかった。それでだった。
 二人で手分けして猫を探すとだった。妻がその猫を見付けた。口から首、腹に至るまでが白い茶とこげ茶の子猫のトラ猫だ。その場に倒れ込んで弱々しい声で鳴いている。二人はその猫を見付けるとすぐにだった。
 手を取った、それで久信が妻に言った。
「かなり弱っている、だからな」
「すぐに病院に連れて行きましょう」
「これは危ないからな」
「一刻を争うな」
 二人でこう話して車を出して近所の動物病院に言った、すると獣医は二人に言った。
「脱水症所でしかもかなり弱っていて」
「助かりませんか」
「わかりません、後はこの子の体力次第です」
「そうですか」
「残念ですが」 
 獣医は久信に暗い顔で答えた。
「それ次第です」
「そうですか」
「はい、手は尽くしますので」
 獣医は暗いながらも誠実さが出た顔で久信そして妻に話した。
「何とか」
「お願いします」
「この子を助けて下さい」
 二人は獣医に頼み込んだ、そして猫が心配で毎日病院に通った。保護してから十日後にようやくだった。
 猫は目を開きそうして立ち上がる様になった、ミルクを飲む彼を見て獣医は夫婦に笑顔でこう言った。
「もう大丈夫です」
「助かりますか、この子は」
「そうですか」
「ここまでくれば。この子は勝ちました」 
 獣医は喜ぶ二人にこうも話した。
「生きるか死ぬかでしたが」
「よかったです」
「本当に有り難うございます」
「ずっとゴミ箱の中にいたんですよね」
 獣医は二人に猫を見付けた時のことを尋ねた。
「そうだったんですよね」
「そうでした」
「夜に見付けました」
「この季節でそれは余計に辛かった筈です」
 季節は夏だ、それで獣医はこうも言うのだった。
「ですがこの子は頑張りました、後はです」
「生きれますか」
「これからも」
「そうしてくれます」 
 獣医は二人に笑顔で答えた、そして猫が退院すると。
 二人はその猫を引き取った、雄猫だったのでミライと名付けた。そうして先に家にいた二匹の猫グレーの毛の雌猫のランと雌の黒猫ミニーに紹介したが。
 ミニーを見てだ、ランは最初仰天する顔になった。そうしてミニーも彼のところに行ってじゃれ合った。その二匹を見てだった。
 久信は紀にまさかという顔で言った。
「若しかしてミライは」
「ミニーの息子かしら」
「そうかもな」
「ミニーは車に挽かれて倒れていたのを拾ったけれど」
「あの時は助かって何よりだったな」
「そういえば顔立ちが似てるわ」
 紀はミライとミニーの顔を見比べて言った。 
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