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戦国異伝供書

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第八十話 鬼若子その一

               第八十話  鬼若子
 元親が率いる五十ばかりの兵達は戸惑っている敵の軍勢に対してさらに攻める、それでさらにだった。
 元親自身も槍を振るう、そして。
 すぐに敵を一人倒した、これを見た長曾我部家の兵達はまさかとなった。
「若殿のあの槍捌き」
「実にお見事じゃ」
「速いぞ」
「しかも強い」
「敵は眉間を貫かれ一撃じゃ」
「一撃で倒されたぞ」
「馬術もお見事じゃ」 
 その乗り方もというのだ。
「実に巧みじゃ」
「槍だけでない」
「若殿はあそこまでお強かったか」
「まさに鬼ではないか」
「誰が姫若子と言ったのじゃ」
「とんでもない間違いじゃ」 
 こう言うのだった、そしてだった。
 元親はもう一人倒した、その彼の強さと采配を受けて本山家の軍勢は成す術もなくやられ逃げるしかなかった。
 それを見てだ、元親は言った。
「ではな」
「では?」
「ではといいますと」
「今より潮江城に向かう」
 先に話した通りそうするというのだ。
「今あの城は人がおらぬ」
「あの城は本山家の城ですが」
「人はいませぬか」
「左様ですか」
「今本山家は軍を全て出陣させておる」
 そうしているというのだ。
「だからあの数じゃ、しかもじゃ」
「しかも?」
「しかもといいますと」
「城の方を見よ」
 その潮江の方をというのだ。
「鳥が多く静かに集まっておるな」
「そういえば」
「鳥達はそうですな」
「至って静かです」
「我等は戦の最中だというのに」
「何処も騒がしいというのに」
「左様、戦は騒がしい」 
 元親もこのことを指摘した。
「だから獣も鳥も我等がおるとな」
「そこには来ぬ」
「別の場所にいてですか」
「そうして静かにしていますか」
「民達と同じじゃ」 
 元親は笑ってこうも言った。
「戦が起これば民達が集まるな」
「はい、戦見物に」
「近くの街や村から来ます」
「それも弁当を持って」
「戦見物を楽しみます」
「そうするな、戦が及ばぬところで」
 見ればこの戦でもそうであった、よく見れば山や外れに民百姓がいて家族連れて弁当を食べつつ戦を見ている、中にはよい働きをした武者に喝采を送る者もいる。
「民達は」
「そして獣や鳥もですか」
「兵達のおるところにはおらず」
「静かにしておりますか」
「そして戦も見ておるが」 
 それが為にというのだ。
「潮江の方もそうじゃ」
「それはあの城に兵がおらぬ」
「今は空となっているからですか」
「鳥達もおり」
「そこで静かにしておりますか」
「ならじゃ」
 それならというのだ。 
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