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提督はBarにいる。

作者:ごません
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艦娘とスイーツと提督と・47

      ~神通:各種団子盛り合わせ~

「それで?どうだ、新入り連中は」

「そうですね……まだ演習がメインですから何とも」

 今日のスイーツチケット当選者は神通。リクエストは色々な団子を、との事だったので俺も張り切って準備した。

「ですが、アトランタさんは流石ですね。1隻で加賀さんの艦載機をほぼ撃墜してみせました」

「流石は防空に特化させた巡洋艦、ってトコか。正に恐るべきは米帝ってか?」

「確かに、あそこまでの性能差を見せつけられると気合いや根性等の精神論を掲げていた前の大戦が馬鹿らしく思えてきます。それに、加賀さんが久しぶりに歯応えのある新人が来たと嗤ってました」

 
「相変わらずウチの一航戦はウォーモンガーで頼りになるこって。ま、精神論が全てイカンとは俺も思わんがな」

 休憩時間のハズなんだが、『ただオヤツとお茶を楽しむのも時間の無駄なので新人達の訓練評価をしましょう』という神通本人からの希望で、半ばオヤツを食べながらのミーティングと化してしまった。

「アトランタ以外はどうだ?」

「良好ですね。若干ヒューストンさんが弛い気がしますが、演習等を見る限りアレは地の様なので」

「あぁ、愛宕とか阿賀野に近い感じなのか」

「そうですね……提督はあまり会話をされていないのですか?」

「店に来ねぇんだよな。サラとかアイオワが誘ってるらしいんだが……」

「訓練中の提督が恐ろしくて避けられているのでは?」

「オイ」

「ふふっ、冗談ですよ」

「あながち冗談でもねぇんだよなぁ……」

 実際、廊下とかですれ違うと未だにこの間の訓練に参加した連中は一瞬固まるし、『ヒッ』って小さく悲鳴上げられてるから冗談になってねぇんだが。

「司令官たる提督に対して無礼ですね、もう少し精神面を鍛え直した方が良いでしょうか……?」

「止めとけ、そういうトコだぞ?お前から鬼教官イメージが抜けねぇの」

 あと目からハイライトさんが逃げ出してるから、俺も見ててコワイ。




「しかし、アレだな。神通も大概ワーカホリックだよな」

 休憩時間が無駄だと言って、ミーティングにしてしまう辺り筋金入りだと思うんだが。

「……提督には言われたくないと思いますが」

「そうか?」

「そうですよ。提督としての業務が定時で終わっても、その後お店を朝6時までやってるんですから実働18時間位なんですよ?」

「まぁ、店は半分趣味だからなぁ。止めろと言われても止めんぞ?」

「止めても無駄だと理解しているから止めないのであって……その、提督の、つ、つ、妻としては!働き過ぎは心配なのですよ!?」

 顔を真っ赤にして口ごもりながらも俺の体調を気遣ってくれる神通とか……可愛すぎて逆にムラムラしてくるんだが。

「あ~、まぁ昔からの癖というか。俺ストレス溜まって来ると無性に料理とかしたくなっちまうんだよな」

「そうなんですか?」

「あぁ、絡まれたくもねぇ奴等に絡まれて、そんでもって降りかかる火の粉を払う為に無駄に疲れて余計にムシャクシャしてな」

 よくヤンキーだのチンピラの中には人を殴ってストレス解消!なんてクズがいるが、俺にとっちゃあ疲れるだけで面倒な事だ。だがストレスの捌け口に料理とか洗い物とか、家事をすると落ち着くんだよな、何故か。

「だからよ、店やってるのも普段のやりたくもねぇ書類仕事のストレスを晴らす為にやってんだ。止めろと言われたら多分俺パンクするぜ?」

「そうですか……なら、やめさせられませんね」

 半分呆れたように溜め息を漏らす神通。

「それを言ったら、お前だって働き過ぎだぞ?神通」

「そ、そうでしょうか……?」

「休憩時間すら無駄な時間だって、こうしてミーティングしてるのがいい証拠だ」

 完全にワーカホリックだ。

「そんなんだから姉と妹に余計な心配かけさせんだよ」

「……でも、不安なんですよ。幾ら自分や仲間を鍛えても」

「不安?何が」

「それは……」

 そこで言い澱む神通。これも悪い癖だな、こいつの。

「溜め込むな、神通。俺ぁ現場で一緒に戦ってやる事は出来んが、こうして悩みを聞いてやる位は出来る……っつーか、させてくれ。悩みや不安だって、打ち明けりゃあ少しは楽になるかもしれんぜ?」

「ーー提督は、艦であった頃の私が沈んだ海戦の事を知っておられますか?」

「当然だろ。コロンバンガラ島沖海戦……『神通』の名前を世界に知らしめた海戦だ」





 昭和18年7月12日夜、敵艦隊を発見した神通は探照灯を照射しつつ射撃。当然ながら敵艦隊から見れば格好の的であり、神通は軽巡3隻から2,600発余りの砲撃を受けて大破。しかし大破炎上しながらも魚雷7本を含めて反撃。後続の駆逐艦による雷撃も含めて敵軽巡3隻及び駆逐艦2隻を大破、駆逐艦1隻を撃沈するという凄まじい戦いをみせた。大破炎上の後に大爆発を起こし、船体が真っ二つになってからも生き残った砲で敵艦に砲撃を加えていたというのだから、『神通』もその乗組員も、勝利に賭ける執念はスゲェと思わず感心したもんだ。

「あの海戦の結果だけを見れば、確かに大勝利でしょう。ですが……結局私はその海戦で沈み、乗組員も運命を共にしました」

「艦娘になって、自分がこうして『生命』を持って初めてその尊さや温かさを知ったと同時に……怖くなったんです」

「神通、お前」

「自分の命も、仲間の命も、全て尊くて、大切で……喪うのが怖いんです。今も」

 優しすぎるんだな、お前は。自分や仲間の命を守りたくて、その為には自分も仲間も強くなるしかないと考えて。そうして自分が嫌われてでもいいから仲間を強くして……何より自分が更に強くなって。

「……情けないですよね、こんな臆病な娘」

「バーカ、お前は自分を卑下し過ぎなんだっつの」

「……え?」

「考えてもみろ。お前がただ厳しいだけのクソみてぇな上司なら、誰も付いて来ねぇよ。お前の下に付いてる連中は、いつも『神通さん神通さん』ってすり寄って来てるじゃねぇか」

 そう。神通の周りにはいつも駆逐艦や軽巡だけでなく、彼女を慕う者達の笑顔が溢れていた。それは神通の厳しさが、自分達を思いやって敢えての厳しさであると理解しているからだ。ただただ厳しいだけの上司や指導者は、いつか必ず孤立する。

「胸を張れよ、神通。お前さんの厳しい訓練は、皆の血肉になってあいつらを守ってる」

「はい……はい………!」

「だから、もう泣き止め。俺ぁ女の涙に弱いんだ」

 さっきからボロボロ泣いてんだよ、神通。普段溜め込んでた物を吐き出したから、ダムが決壊したんだろうが。




「提督はイケない人ですね……女の子をこんなに泣かせて」

「泣いてた本人がそれ言うのかよ……だが、女を泣かせる様な男は嫌いか?」

「いえ、これは嬉し涙ですから……寧ろ、惚れ直しました」

「言うようになったな、こいつめ」

 うっすらと潤んだ瞳で笑いかけられて、ちょっとドキッとしたのは内緒だ。

「あ~……それとな?神通」

「はい、なんでしょう?」

「実は……お前の下に付いてる連中から陳情が来ててな」

「陳情……ですか?」

「少しでいいから訓練の量を減らしてくれって、な?」

 その瞬間、先程までの儚げな美少女は消え去った。

「成る程、解りました。では訓練時間『は』減らしましょう」

「いや、あの、神通?時間減らしても中身を濃くしたら意味がーー」

「そんな軟弱な事を考える余裕があるという事は、まだ扱きが足りないと言う事ですね……ふふふ、楽しみです」

 そのうっとりとした恍惚の笑みは、どうみてもバーサーカーのそれだった。俺は心の中で合掌して、訓練に巻き込まれる連中の冥福を祈った。 
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