魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第8章:拓かれる可能性
第236話「振るえ、英雄の力」
前書き
優奈が優輝より足掻けていないのは、前回でも言っていた通り背水の陣ではない事と、帝を無事に帰さないといけない焦りからです。
優輝は、一人だからこそあそこまで足掻けました。
追記:長くなるので章を分けました。
「……ぁ……ああ……」
自身を守るように展開された結界の中で、帝は目の前の光景に絶望の声を漏らす。
「ゆ、優奈……」
悪神によって拘束され、その上から集中攻撃を受ける優奈。
どんどんボロボロになっていく彼女に、しかし帝は何も出来ない。
「……マスター」
「………」
否、何度も何とかしようとした。
優奈の張った結界は、飽くまで外敵から身を守るためのものだ。
内側から出るだけなら、素通り出来る代物だった。
しかし、出ようとする帝を、エアが羽交い絞めにして止めたのだ。
「……わかってる。俺じゃあ、何も助けになれないのは」
そう。今の帝では助けになれない。
だからこそエアは止め、帝も何とか理性で抑え込んでいた。
……だが、何もしなければ事態も変わる事はない。
「っ、ぁあああああっ!!」
「抜けた……!」
怒涛の攻撃に晒されながらも、ついに優奈は結界を破れる威力の理力を放った。
……が、その攻撃は無理したものだったため、直後に隙を晒した。
「っづ……!?」
「ぁ………」
“天使”の一人と相討ちする形で、優奈は再び集中砲火を食らった。
撃ち落とされたように落下し、膝を付くように着地する。
「(ダメだ……このままだと……)」
「う、ぁっ……!?」
優奈の体が吹き飛び、帝の前まで転がってくる。
「優奈!」
「っ……大丈夫。まだ……ッ!?」
立ち上がり、理力の障壁を張る優奈。
だが、数瞬もしない内に割られ、“天使”が襲い掛かってくる。
バインドでそれを食い止めるがそれもすぐにちぎられる。
「ッ、ぁあああああっ!!」
雄叫びと共に優奈と帝の周囲に巨大な剣がいくつも生える。
創造魔法によって攻撃と防壁を兼ねた剣山を創り出した。
「防げると思ったか?」
「ガッ……!?」
だが、その上から巨大な理力の砲撃によって叩き潰された。
咄嗟に障壁を張ったため、戦闘不能は避けたが、既にボロボロだ。
「っ……!」
結界で守られた帝にも衝撃は届き、たたらを踏む。
今までの攻撃ではびくともしなかっただけに、帝の動揺は大きかった。
「っづ……!こ、の……!!」
鎖や剣が帝を守るように展開される。
同時に、優奈はその場から消えるように瞬間移動。
何度も理力の砲撃に当たりながらも、“天使”達を攻撃する。
「ぐっ……!?」
そして、大規模な攻撃が帝を守る結界と優奈に直撃する度に帝に衝撃が走る。
「くそ……くそっ……!」
せっかく助けに来てくれたというのに、こんな事態になった事を悔やむ帝。
自分では助けになれないからこそ、その悔しさは強かった。
「(何か……何かなにのか!?俺に出来る事……助けに、なれる事は……!)」
手札は多い。だが、そのどれもが通じないイメージに繋がる。
考えても考えても、自分では足手纏いになってしまうと、帝は思ってしまう。
「くそっ……優奈……!」
まだ戦っている優奈だが、既に追い詰められてきている。
倒れるのも時間の問題だ。
「(俺には、何も出来ないのか……!何も……!)」
悔しさに涙が滲む程だった。
今すぐにでも、帝は優奈の助けに入りたい。
だが、決定的力量差という現実が、帝の足を進ませない。
……前に踏み出す勇気が、振り絞れなかった。
「ッ……!」
見ている事しか出来ず、帝は項垂れる。
「何をしている。道化」
……その時、誰かに話しかけられた。
「ぇ……?」
見れば、景色がいつの間にか真っ白な空間になっていた。
振り返れば、そこには見覚えのある金色の鎧に身を包んだ金髪赤目の男がいた。
「よもや、我の力を持ちながら、“何も出来ぬ”と言うつもりか?」
「っ……ぁ……」
帝は声が出せない。
その男のただならぬ雰囲気もあるが、この場においているはずのない存在だからというのもあった。
「……英雄王、ギルガメッシュ……?」
そう。帝の持つ特典の一つ、王の財宝。
それの本来の持ち主である、ギルガメッシュがそこにいた。
ギルガメッシュは見下ろすように帝を見ていた。
「再度問おう。我の力を持ちながら、“何も出来ぬ”と言うつもりか?」
「っ……でも、いくら何でもあいつらを……」
「戯け!」
「ッッ……!」
頬を掠めるように、剣が飛んでくる。
悲鳴を上げる間もなく、帝は息を呑む。
「奴ら如き、我の財を持つならば倒す事など容易いわ!にも関わらず、倒せないというのならば、それは貴様が弱いだけの事!」
「…………ぃ」
「如何に法則が違おうと、それは奴らの都合でしかあるまい。自らの“領域”に引き込めるならば、負ける道理はない!」
言わば、帝は相手の法則で戦っているようなもの。
実際は、それに従う必要はない。
自分のルールで戦えば負ける道理がないのは当然だ。
……それを為す“意志”が必要なのは確かだが。
「……る……ぃ」
「ましてや、あのような蛮神に慢心もなしに負けるなど、我が赦さん!」
「うるさい!!」
自分は強くない。
優輝や優奈のような意志の強さも、緋雪や司のような特殊な力もない。
借り物の力だけで、特別なものなど持っていなかった。
そんな弱さが悔しくて、だからこそギルガメッシュの言葉に言い返してしまった。
「ああそうさ!俺は弱い!弱いんだよ!!借り物の力しかなくて、物語の主人公に憧れていただけの男でしかない!……あんな奴らに勝てる精神性なんて、持ち合わせてないんだよ!お前のような、英雄とは違うんだ!!」
「……そうか」
「ッ……!」
そして、失言に気付く。
ギルガメッシュの帝を見る目が鋭く、そして冷たくなる。
「ならばせめてもの情けだ。この我手ずからここで引導を渡してやろう。雑種」
「あ……」
剣が飛んでくる。
今度は、頬を掠めるのではなく、真正面から眉間を狙っていた。
帝は反応する事が出来ず、そのまま剣が命中―――
「……それでもなお、守ると言うか。贋作者」
「ああ。守るとも」
―――する前に、割り込んだ赤い影によって弾かれた。
「……エミヤ……?」
「彼は英雄のような気質でも、かつての私のような異常者ではない。だが、まだ彼自身自覚していない“絶対に譲れないモノ”はある。それを自覚してからでも遅くないかね?」
帝の方を振り返る事なく、割り込んだ男……エミヤはギルガメッシュに言う。
「ハッ、その程度、我も気づいている。だが、今ここでそれを自覚しないのであれば、現状は変えられん。我は我なりの発破をかけただけだ」
「……まったく。英雄王、貴様はやはり過激だな」
「ならば貴様がやれ、贋作者。それでもそこの道化が渋るのであれば、今度こそ引導を渡す」
「いいだろう。……さて」
短い問答の後、エミヤは改めて帝に向き直った。
「一応、名乗っておこうか。私はエミヤ。君の知る通り、あの衛宮士郎の成れの果てであり、抑止の守護者でもある」
「………」
「あの英雄王含め、“なぜここにいるのか?”と言いたげだな。君には私の力と英雄王の力、その双方が宿っている」
思考を読んだようにエミヤは言う。
帝は、黙ってそれを聞いていた。
「だが、いくら力があっても、中身がなければ意味がない。特に、私の投影は剣の構造を知る必要がある。君が私の力を授かってから見た剣ならまだしも、それ以外の剣は投影できないはずだ」
「……それは……」
「だからこそ、君という存在のどこかに、私と英雄王は存在していた。故に、投影も滞りなく可能となり、王の財宝もきちんと使えたのだ」
納得のいく話だった。
エミヤが言った通り投影はそうなのだが、王の財宝も同じだ。
あれは、簡潔に言えば宝物庫そのものが宝具なのだ。
つまり、その中身は本人の“財”に依存する。
ギルガメッシュでなければあるはずのない中身を、帝も使えたのはそれが理由だ。
「前置きはこれでいいだろう。では本題だ」
「っ……」
エミヤが言おうとしている事を、帝は察する。
色々とあるだろうが、要は“戦うか戦わないか”だ。
“勝てない”と思ってしまう帝は、思わず息を呑む。
「……あれ程強大な力を持つ敵だ。君が恐れるのも無理はない。ましてや、我々が知るどの神話体系にも属さない領域外の神だ。その力は計り知れない」
「………」
「だが、それは今までの感覚のまま戦った場合だ。相手の法則に則れば、こちらにも勝ち目はある」
「……だからって、俺が勝てる訳じゃないだろ……」
力なく、帝はエミヤの言葉にそう呟く。
「ふむ。では尋ねよう。……君は、何のために力を求めた?何のために力を振るう?」
「なんの、ため……?」
「私であれば、正義の味方であろうと力を求めたし、振るった。誰かのためでも、自分のためでもいい。力を求めるのも、それを振るうのにも、理由はつきものだ」
言われて、帝は考える。
自分が、なぜ彼らの力を求めたのか。
何のために戦い、力を振るっているのか。
最初に思い浮かんだのは、“踏み台”だった頃の思いだ。
「……主人公に、憧れていたから……」
「ああ、そうだ。君は物語の主人公……正しくは、主役や力ある存在としてありたいと憧れ、力を求めた。少年心に格好良さを求め、私達の力を望んだ」
「でも、それは……」
「……人の気持ちを考えない傍若無人な振る舞いへと繋がった……か?そうだな。確かにそうなった。……しかし、憧れは変わっていないのではないか?」
「………!」
“確かに”、と帝は思った。
帝は現実を知り、自分が主人公だとか、そんな器ではないと自覚した。
だが、憧れはそのままだ。
「……何より、それは戦う理由に、力を振るう理由になっていない」
「……え……?」
そして、続けられたエミヤの言葉に、帝は再度困惑する。
「かつてはそうだったのかもしれないだろう。……だが、今はどうだ?」
「今、は……」
考えて、答えが思い浮かばなかった。
何のために戦い、力を振るうのか。
……それが、ちっともわからなかった。
「……俺は、何のために……」
「……やれやれ。まだ自覚しないか。思い起こせ、根底にその理由があるはずだ」
「………」
それでも答えを出せない帝に、エミヤは一つ溜息を吐く。
「君が変わったきっかけはなんだ?理想に溺れていた所から、現実へと引き上げれくれた、そのきっかけはなんだ?」
「きっかけ……ぁ……」
そこまで言われて、帝はハッとする。
同時に、脳裏に優奈の姿が浮かんだ。
「……優奈……!」
「そうだ。彼女の正体が何であれ、君は彼女によって現実を見た」
「俺は……そうだ。俺は……!」
「……ようやく、自覚したみたいだな」
ふと、帝が顔を上げれば、そこには未だに戦う優奈の姿が見えた。
「ッ……!」
「さて、どうしたい?」
「……優奈を、助けたい」
「そのためには?」
「……戦う」
「そうだ。ここで立ち止まっている暇などない」
エミヤの言葉に答える帝だが、体を動かそうとも動かせない。
まだ、恐怖が意志を上回っているのだ。
「では、追加の質問だ。……このまま、彼女が負けるのを黙って見ているのか?」
「それ、は……!」
「嫌なのだろう?それだけは、譲れないのだろう?ならば、立ち上がれ!」
「ッ……!!」
自身を奮い立たせる。
優奈を助けるために、恐怖を意志が上回る。
なぜ、優奈のためにそこまでやろうとするのか?
……簡単な事だ。
「好きな相手だから助けたい……理由はそれだけで十分だ……!!」
好きな人のために頑張りたい。
それが、帝の戦う理由だった。
それは今もなお変わらない。
優奈を助けるためならば、どんな相手にだって立ち向かう。
「そうだ。人一人を助けるのに、大層な理由なぞいらん。誰か一人にとっての正義の味方になるのは、簡単な事だ」
柔らかな笑みを浮かべ、エミヤは一本の剣を投影し、帝の目の前に突き刺す。
「剣を取れ、王牙帝」
「ッッ!」
剣を手に取り、一息に引き抜く。
同時に、真っ白な空間から元の神界の景色に戻る。
振り向けば、エミヤとギルガメッシュの体は透けていた。
「ようやくか。待ちくたびれたぞ。道化」
「………」
「今一度、同じ問いを投げかけよう。我の力を持ちながら、“何も出来ぬ”と宣うか?それとも……」
「関係ない」
「……ほう?」
「俺は、好きになった女を守る。そのために戦うだけだ!」
勝てる勝てないの応答ではない。
だが、その答えにこそ、ギルガメッシュは満足したように不敵に笑った。
「よく言ったわ戯け者!ならば、我と小癪だがそこの贋作者の力を存分に振るえ!神という立場に驕る連中に、目にモノを見せてやるがいい!」
「質では勝てぬとも、量ではこちらも負けてはいない。上手く活用するといい」
「……ああ!」
見送るような激励の言葉を受け、帝は戦意をさらに高ぶらせる。
「……最後に、一つアドバイスだ。あの未熟者にも送った言葉だが……“イメージするのは常に最強の自分”だ」
「ッ……!ああ!!」
そして、幻覚とも思えた二人は跡形もなく消え去る。
一瞬、本当に幻覚を見ていたのかと、帝は思ったが……
〈ようやく、戻ってきましたか。マスター〉
「……エア。今のは、もしかして……」
〈私はこれでもマスターに合わせて生まれた存在です。内に存在するかの二人の意識を呼び起こす事ぐらい、訳ありません〉
「……助かったぞ、エア」
問答も感謝も短く済ませ、帝は敵を見据える。
その姿は、最早先程まで打ちひしがれていた帝とは大違いだ。
「っづ……!」
ちょうど、そこへ優奈が吹き飛んでくる。
そして、その優奈を追撃しようと“天使”が迫り……
「させるかよ!!」
帝による大量の剣群が突き刺さった。
「ぇ……?」
「これ以上、そいつに手を出させねぇ!!
「帝!?」
帝の叫びと共に、怒涛の武器群が射出される。
その様子に最も驚いたのは優奈だ。
「今まで怯えていた男が、何を今更……!」
「うるせぇ!!」
「なっ……!?」
王の財宝による砲門が最大数展開される。
だが、装填された武器はそれだけじゃない。
その展開した武器を投影し、二倍……否、無数に複製していく。
「無駄だ!」
「っ、それがどうした!!」
量ではどうにもならない質。
そのような理力がぶつけられ、武器群は叩き落とされる。
しかし、帝はそれでも武器を飛ばす。
無数に、際限なく、絶対に譲れないモノのために。
「優奈ぁっ!!」
「っ……まったく、これだから“人”っていうのは……!」
さらに王の財宝から“天の鎖”を繰り出し、“天使”達を拘束する。
“神性が強ければ強い程拘束力を増す”という効果は、神界でも通用する。
今この場で神性がないのは帝と優奈だけだ。
神界の存在であれば、須らくその効果を発揮する。
「この……!」
「だから、信じるのを止められないんだよね……!」
拘束のおかげで、優奈は防戦一方な状態から抜け出す。
それだけでなく、鎖を足場に立体的機動を行い、一気に“天使”を斬っていく。
「ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
帝は止まらない。
白兵戦で勝てないのであれば、無理矢理量で勝つ。
ギルガメッシュとエミヤの力であれば、決して量で負ける事はない。
そして、質も低い訳ではなかった。
「この……!鬱陶しい!」
「おっ、らぁっ!!」
巨大な剣の宝具が振るわれる。
無数の武器群を落としながらもそれを理力で“天使”は防ぐ。
「隙あり」
「ぐぅっ……!?」
そこへ、優奈が追撃し、確実に倒す。
「ッ……!ッ……!」
絶え間なく続く帝の攻撃により、帝と優奈を覆う敵の“領域”を押しのけていく。
あまりの多くの武器が飛び交っているため、そこが帝の“領域”となっていた。
「調子に……乗るな!!」
「ッ、エア!!」
〈はい!!〉
―――“カタストロフ・エア”
それを丸ごと叩き潰す理力の砲撃が放たれる。
帝はそれに正面から立ち向かい、全力の砲撃魔法を放つ。
世界を切り裂く一撃を模した魔法で、見事攻撃を相殺する。
威力で見れば明らかに押し負けていたが、“意志”を以ってそれを覆した。
「なに……!?」
「“負の性質”とは、即ち“正”と対の存在に位置する。強い“意志”と共に放たれた“正”のエネルギーとぶつかれば、相殺ぐらい出来るよ」
「くっ……!」
砲撃を放った“負の性質”の悪神が慄く。
その隙を逃さず、優奈が二撃叩き込んだ。
「今の帝は“正”の力に溢れている!お前達にとって、ただ理力を扱うだけの私よりも、何倍も手強いわよ!」
“正”のエネルギーは、優奈では意図して出せない。
否、そういった“性質”でない限り、理力でそれを出す事は出来ない。
帝が出せるのは、理力を扱えない事と、“人”だからだ。
「同じ神界の者ならいざ知らず、ただの人如きに―――!」
「いっけぇえええええええええ!!」
360度、全方向に弾幕のように武器群を放ち続ける。
全てを吐き出すように放ち続けるため、敵も上手く近づけない。
例え瞬間移動で近づいても、帝自身が何もしない訳ではない。
エアを振るい、ばら撒くように剣を射出する。
さらに優奈が“天使”を吹き飛ばし、“負の性質”の悪神に肉薄した。
「させん!」
「こっちのセリフだ……!!」
そこへ、“悪の性質”を持つ悪神が妨害の砲撃を放ってくる。
だが、帝が優奈を庇うように割り込み、同じく砲撃で相殺した。
「邪魔だ!」
「ぐっ……!」
“負の性質”を持つ悪神が優奈に切り裂かれる。
同時に、“悪の性質”を持つ悪神及び“天使”によって今度は帝が狙われる。
一撃目は何とか防いだが、追撃を防ぎきれずに吹き飛ぶ。
「っらぁっ!!」
「何……!?」
すぐに体勢を整え、地面に着地。
攻撃を迎撃し、大量の武器群を射出して追撃を阻止する。
「厄介な……!」
「させないわ!」
“幽閉の性質”を持つ悪神が帝の動きを封じ込めようとする。
優奈がそれに気づき、即座に牽制の一撃を飛ばす。
「まだまだぁっ!!」
「くそっ……!」
完全に帝の気合に押されていた。
攻撃自体は一切通じていないが、帝の弾幕によって相手の攻撃も通らない。
弾幕の範囲がそのまま“領域”となり、強い防御力を発揮していた。
「優奈ぁっ!!」
「任せな、さい!」
そして、その弾幕を足場に、優奈が跳ぶ。
瞬間移動を織り交ぜた変則的な立体機動に加え、武器を足場にする事で武器の軌道を変え、さらに弾幕による防御力が増す。
「これで……最後!!」
「っ、ぁ……!?」
雨のような武器群を足場に加速した優奈が、“負の性質”の“天使”を切り裂く。
“負の性質”による動きの遅延も、最早ないも同然だ。
そして、ついに“負の性質”を持つ“天使”は全滅する。
「くそ……!」
「そこだぁっ!!」
―――“カタストロフ・エア”
間髪入れず、悪神本人に帝の砲撃魔法が直撃する。
障壁によって防がれはしたが、それでもダメージは通っていた。
「『帝!“悪の性質”の悪神は任せたわ!私は、他を!』」
「『ああ!』」
数は減らした。
これにより、さらに帝の物量による“領域”は強くなる。
そこで、優奈は確実に“負の性質”の悪神を仕留めに掛かった。
“幽閉の性質”の悪神達もいるが、そちらは結界に囚われないように回避や牽制をするだけで充分なため、そこまで脅威ではない。
「シッ!」
「ッ……!くそっ……!」
現に、理力を込めた剣を飛ばし、妨害をしようとした悪神を阻止した。
優奈の一撃一撃は確実にダメージが入る。
そのため、牽制も容易だ。
「ッ……!ッ……!」
「くっ……!行け!」
「っ、甘い!」
帝の方も、攻勢に出れないとはいえ互角に渡り合っていた。
圧倒的物量によって牽制し、掻い潜って来た相手も上手くあしらう。
ギルガメッシュとエミヤのスペックを存分に生かし、やられないように立ち回る。
「なぜだ……なぜ、人間如きに……!」
〈……“悪”という事は、相手を貶め、討ち滅ぼす他に打倒される概念も内包されています。“正義により打倒される悪”……そんな人間の間で育まれた概念が、貴方を追い詰めているのですよ……!〉
なぜ帝に抑え込まれるのかと、悪神は狼狽える。
そこへ、エアが優奈の説明を元に分析した事を説明する。
そう。様々な物語において存在する“悪を打倒する正義”。
古今東西に存在するそんなジンクスや概念が、今帝を後押ししている。
打倒される側でしかない悪神では、どうしても不利になる。
「悪に支配される事もあれば、決して悪に負けない正義もある。……俺は正義の味方なんかじゃねぇが……好きな奴を守るくらいはできらぁ!!」
〈何より……今のマスターはたった一つの譲れないモノのために戦っています。その覚悟は、イリスに便乗した貴方達の比ではありません!!〉
「ぐっ……がぁっ!?」
徐々に攻撃の勢いが増し、ついに“天使”を貫く。
一撃だけでは終わらない。ここには無数の弾幕が飛び交っている。
“天の鎖”が体を捕らえ、いくつもの武器が体を貫いた。
一人、また一人と“天使”が墜ちていく。
「天地を裂け……かの王が持つ乖離剣よ!俺に、力を貸してくれ!!」
さらに、帝はここで一手踏み込む。
王の財宝から一つの宝具を取り出し、振りかぶる。
「“天地乖離す開闢の星”!!」
世界を切り裂く一撃が繰り出された。
それは、“天使”や悪神の防御の上から、彼らを呑み込む。
世界をも切り裂く概念が、容赦なく悪神達を切り裂いていく。
「っ、ぁ、はぁっ、はぁっ……!」
「爆ぜろ、“壊れた幻想”」
膝を付き、息を切らす悪神。
“天使”は倒れ、悪神も確実にダメージを負っていた。
だが、帝は油断も容赦もしない。
剣を投影し、それを矢として打ち出し、さらに爆発させた。
「ぉおおおおおおおおおおおおおお!!!」
それも、何度も。
投影する剣も、ただの宝具ではない。
約束された勝利の剣……本来、エミヤの力では投影出来ないソレを、神界ならではの無理を通して何度も投影していた。
「ッ………どうだ……!!」
何度も撃ち込み、爆発による煙が晴れた所には、悪神が倒れていた。
あれ程優奈が苦戦していた悪神を、帝は倒しきったのだ。
「これが……これが英雄の……“人”の力だ……!思い知ったか……!!」
帝にとって、それは自分の力ではない。
飽くまで借り物の力だ。
それでも、“人”の力を思い知らせた。
後書き
ギルガメッシュが甘く見えるのは、ギルガメッシュにとっても神界の相手は慢心出来ない相手だからです。飽くまで、戦うのは帝なため、戦えるように多少甘くしています。ちなみに、あの場でエミヤが庇わなくとも帝は死にません(神界及び精神世界にいるので)。
敵を弱くしている訳ではないのに、描写的に弱く見えるという……
一応、理屈としては現在の帝の攻撃は“悪の性質”に特効が入るので、優奈の通常攻撃の数倍の効果を持っています。
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