ペルソナ3 アイギス・だいありー
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後編
前書き
ペルソナ3の番外編2次小説も、この「アイギス・だいありー」で5本目になりますが、毎回、短くても必ず戦闘シーンを入れることにこだわっています。
ただゲームのペルソナ3って基本はタルタロスでの戦闘です。だからといってタルタロス内での話ばかり作るのも無理があります。かといって街中で「のらシャドウ」と戦う話にするのも限界があって、結構シチュエーションが難しいんですよね。
ということで後編です。今回は無理矢理ですがロボット戦にしてみました。
「我々が引き上げてしばらくしてから、スピカがアイギスをすぐに呼んで欲しいと言い出したらしい。あり得ないことだと山村さんも困惑していて・・・」
(スピカさんが私を呼んでいる? )
美鶴さんの話を聞いて、私は何か落ち着かないものを感じたであります。
スピカさんとの会話は、いわゆる「社交辞令的」の域を出ないものでした。現状のスペックでは、それ以上の内容を求めることは厳しいことだと推定されるであります。データ交換ではなく、「言葉」のみで意思を伝え合うということは、なんと困難なことなのでしょうか。
しかし、それでも私はスピカさんの言葉の背後に、同族である私と会話することに対する『特別なもの』を感じた気がするのであります。それは、ただの私の願望なのかもしれません。それでも何かが通じ合ったような気がしてならないのであります。
今 こうしてスピカさんが名指しで私を呼んでいることにも、何か特別な意味があるのではないでしょうか。私はどうしてもそれが知りたいという衝動にかられました。
「私がスピカさんとお話ししてみても良いでしょうか?」
「電話でか?」
美鶴さんは少し驚いたようにそう訊き返すと、山村さんに確認した上で「可能だそうだ」と携帯電話を貸してくれたであります。
「アイギスであります。スピカさん、どうかしたでありますか?」
私は電話に向かって問いかけました。
『アイギスさん・・・ですか? 私、アイギスさんにお話ししたいことがあります。』
スピカさんの声がします。先ほどと同じ、落ち着いた口調でしたが、私はそこに何か切羽詰まったものを感じたであります。
『アイギスさ・・・ん・・・ここが危ない・・・と・・・』
その後、急に声が途切れ途切れになってきて
『お・・・かしなこと・・・が・・・アイギス・・さん・・・私のお友達・・・ここにきて・・・たすけて・・・』
そこまで言って突然にプツンと声が途切れてしまいました。
「スピカさん? どうしたでありますか?」
私は重ねて訊きましたが、既に通信は遮断されていたであります。
「切れたであります。」
携帯電話を返しながら、私は何か抑えきれないものがこみ上げるのを感じていました。
スピカさんは、私に何かを伝えようとしているのです。そして助けを求めているのです。それがいったい何なのか。その確認が何よりも急務と思えるのであります。
「美鶴さん。私はこれからスピカさんのところに戻るであります。」
「ちょっとまてアイギス。どうしたというんだ。」
美鶴さんが驚いたように声を上げました。
「スピカさんからの救援要請であります。」
みんなが顔を見合わせました。
「山村さんもそう言っていたが、そんなことが有り得るのか?」
「そうですね。会話ができるって言っても、自我を持っているわけじゃないんですよね。」
風花さんも不思議そうに言いました。
「それについては理解しています。それでも、常識を超えた何かが起きていると推測されるであります。」
話している間にも、(こんなことをしている状況ではない。一刻も早くスピカさんのところに行かなければならない。)という焦燥感が募っていきます。
「危険な状況の可能性があります。至急確認が必要であります。・・・それに・・・」
ついにこらえきれないものに突き動かされて、私は走行中のワゴン車のスライドドアを力まかせにこじ開けました。
隣にいる風花さんが悲鳴をあげ、順平さんが「あぶねえ!」と叫んだであります。車内には警告音が響いています。
「それに、スピカさんは私のお友達であります。」
「まて、アイギス」という美鶴さんの声を背に、私は車内から飛び出しました。数回、路面を蹴ってバランスを取り、車としばらく並走した後、対向車線に移って元来た道をまっしぐらに引き返したのであります。
会場に駆け戻ると、入り口のロックを引きちぎり、私はスピカさんのもとへと走りました。。
建物内のほとんどの人は帰宅したらしく、一部を除いて照明は消えており、私は暗視モードに切り替えました。やがて明かりのついているスピカさんのエリアにたどり着くと、スピカさんのまわりには技師が4人集まっていたであります。
「アイギスです。戻ってきたであります。」
私が声をかけると、みんな驚いた様子で一斉に振り返り、山村さんが「アイギスさん?どうしてここに?」と声を上げました。
近づいてみると、スピカさんの前で和久田さんが床にうずくまり、ガクガクと震えていたであります。
スピカさんは私に気づいた様子もなく、表情は固まったように動かず、ただその口からちいさく「アイギスさん・・・アイギスさん・・・」と繰り返す声が聞こえています。とても正常な状態とは言えません。
しかし・・・そちらも非常に気にはなるのですが、まずは和久田さんの状態の確認が優先であります。
「和久田さんは、どうかしたでありますか? 持病の癪でしょうか?」
私が訊くと、「スピカの異常を調整しようとしているうちに、急にこうなってしまって・・・。」と山村さんが返しました。
「様子がただごとじゃない。救急車を呼んだ方がいい。」と別の男性が言いました。「そうだな。すぐに手配してくれ。」と山村さんはそう指示をして、それから「ところで桐条さんは?」と私に聞いてきました。
それに答えようとしたタイミングで、いきなり全ての照明が消えて真っ暗になりました。同時に、私は周囲の異常な状況変化を認識しました。
山村さんも周りの技師達も、いきなり棺に姿を変えたのであります。これは象徴化という現象・・・影時間の特徴であります。
しかし和久田さんだけは象徴化せず、相変わらずうずくまったまま震えています。むしろ、これこそが異常事態です。
私は対応に躊躇したまま、和久田さんを見守りました。
緊急事態 ! !
唐突に、私は高まる危険を感知しました。
和久田さんがいきなり叫び声を上げ身悶えすると、その体からぬるりとスライム状の黒いものが抜け出したのであります。
黒いスライムはスピカさんのコンピューターに這いよって取りつくと、みるみる一体化しました。するとスピカさんの顔の部分に仮面が浮かび上がってきたでのあります。それから今度はスピカさんの体がガクガクと震えだし、「アイギスさん!」と声を張り上げました。
「シャドウ!」
私はそう応えて身構えると、腕の機銃に実弾を装填しました。
私達がアイギスを追って展示買会場まで戻ると、入口の扉は力まかせにこじ開けられていました。
アイギスの仕業でしょう。ワゴン車のドアといい、常軌を逸しているといっていいほど強引な行動です。いったい何があったというのでしょうか。
「アイちゃん、無茶すんなあ。」と順平君がぼやきます。
「いったいどうしちゃったんでしょう。アイギス、心配ですね。」
私も不安にかられて言いました。
「異常事態としか言えないな。まるで暴走だ。状況次第ではアイギスの緊急停止も必要になるかもしれない。」
桐条先輩も困惑したようにつぶやきました。
「そんな・・・」
「ともかく急ごう。」
『彼』がそう言って中に入ろうとしたとき、不思議な感覚と共に周りの様子が一変しました。
「影時間だ。」
桐条先輩があたりを見回して言いました。いつの間にか0時を回ってしまったのです。
そしてそのタイミングで、私は異常な反応を捉えました。
「待ってください。この感覚・・・間違いないです。シャドウです。」
みんなが「えっ!」と驚きの声を上げました。
「アイギスの暴走は、シャドウの存在を感知してのことだったのか?」と桐条先輩が言います。
「まずいですね。シャドウが出たとなると・・・武器がない。」
『彼』が桐条先輩に向かって真剣な表情で言いました。
それに対して、先輩が首を横にふりました。
「いや、実は、いつ何があるかわからないので、念のため車に召喚器を積んである。すぐ取ってこよう。」
そう答えると、桐条先輩はそのまま車の方に駆け戻りました。
本日はタルタロスでの戦闘の予定がなかった為に、予備の銃弾が有りません。
今、機銃を使用すれば、たちまち弾を撃ち尽くしてしまいます。相手の戦力が不明である以上、戦闘は慎重に進めることが必要であります。
私がじりじりと『スピカさん=シャドウ』の出方を見ていると、シャドウはその体から触手を複数伸ばし、床に這わせて広がっていったのであります。
やがて、背後から何か近づいてくる気配を感じました。もしや皆さんが? と思い振り返ると、そこには3体のロボットが立っていました。
『ATOM』と『8ーMAN』と『ジロー』。
顔が仮面に変わっています。先ほどシャドウが伸ばした触手により、シャドウに同化されたものと思われます。
危険と判断し、即座に距離を取ろうと後退したにもかかわらず、三体は一気に駆け寄ってきて、あっという間に取り囲まれてしまいました。
特に『8-MAN』はスピードが際立っていて、私の行く手に素早く回り込んできました。この動きに互角に対応するには、オルギアモードを使用する必要があると推測されます。しかしオルギアモードは活動可能時間が短く、タイミングを誤ると自滅の危険性があります。
私は選択を保留にしたまま、さらに回避行動を行いました。
『ATOM』の飛び蹴りを左腕で防ぎ、『ジロー』のパンチをかいくぐるも、高速で移動する『8ーMAN』に捉えられ、はじき飛ばされました。
ただ『8-MAN』は高速移動の為に軽量化していることから、スピードは速いものの、その攻撃自体は軽いものであります。私は一回転してすぐに身を起こすと、距離を取るべく再び移動を続けました。
しかし三体のロボットの絶え間ない連携プレイによって、思うように引き離すことができないまま次第に追い詰められていったのであります。
【敵、四体!】
ペルソナ「ルキア」の内部で、私はアイギスとシャドウの戦闘を捉えました。
私はすぐに感知した状況を、みんなに伝えます。
【本体は『スピカ』を乗っ取ったシャドウです。三体のロボットはシャドウに操られ、本来の性能以上の動きを見せています。】
桐条先輩たちが戦場と化しているエリアに向かって駆けていくのが感じられます。
三体のロボットは、高速移動する『8-MAN』が牽制し、身の軽い『ATOM』とパワーのある『ジロー』が波状攻撃を行っています。アイギスは三体の連携攻撃にペルソナを呼び出すスキもなく、防戦一方となっていました。
【アイギス!アイギス!聞こえる?】
私は必死に呼びかけました。
【・・・風花さん・・・】
【あと少し頑張って。今、みんなが行くから・・・】
風花さんからの通信で、皆さんが応援に駆け付けてくれたことを知りました。
しかしこの薄暗くて視界の悪い状況下で、人間が『シャドウ=ロボット』の相手をするのは非常に危険です。
特に、人間である皆さんにとって一番厄介と考えられるのは『8-MAN』の高速攻撃です。攻撃が軽いとはいえ、生身の皆さんにとっては充分に脅威であります。
逆に『8-MAN』さえ封じられれば、仮に私が活動限界を迎えても、後は皆さんで何とかできるかもしれません。
私がすべきことは、皆さんがここにたどり着く前に、まず『8ーMAN』を倒すこと。そして可能ならば、その後1体でも多くの敵を倒しておくこと。
ここにきて、私はオルギアモードの発動を決定しました。
「オルギアモード!」
体内のリミッターが外れ、途端に体が軽くなります。
私は一気に加速し、突進してきた『8-MAN』の攻撃をかわしたであります。そしてそのまま射撃の距離を取るために高速で移動しました。
しかし『8-MAN』はオルギアモードでの私のスピードをさらにわずかに上回っていました。回避されたことによるロスがあったにもかかわらず、遅れずにぴったりとこちらの動きを追って来たであります。
しかも、少しでも有利な位置取りをしようとしているところで、今度は『ATOM』が私の進路に立ちふさがってきました。
とっさに方向転換しようとした時、「ヘルメス!」と声が響きわたり、順平さんのペルソナが飛来して『ATOM』を弾き飛ばしたであります。
「見たか、俺の大活躍!」
順平さんが歓声を上げました。
それに気づいた『8-MAN』が、すかさず順平さんに向けて進路を変えました。私はそこに迷わず機銃を撃ち込んだであります。『8-MAN』の軽量ボディは一瞬で上下二つに分解して倒れました。
「おおっ!」
順平さんが驚きの声を上げます。
【アイギス、後ろ!】
風花さんの警告。
今度は背後から『ジロー』が両手を振り下ろしてきました。私は振り向きざまに、その両手をガシッと受け止めたであります。
すごいパワーであります。パワーだけなら私を上回っています。私は『ジロー』の腕を支えたまま、身動きが取れなくなりました。
【敵の弱点、氷結です!】
風花さんが敵の属性を解析し、弱点を知らせてきました。
美鶴さんの「ペンテシレア!」という叫びとともに、目の前の『ジロー』の体がたちまち真っ白に凍り付いたであります。美鶴さんの氷結攻撃であります。
私は、凍り付いて動けなくなった『ジロー』を押しのけると、そのまま敵本体である『スピカさん=シャドウ』に向かいました。
体が過熱しています。オルギアモードの負荷による限界が迫っています。もう時間が無い。
それまでになんとかシャドウ本体を倒す。
機銃は撃ち尽くしました。後はペルソナによる攻撃しかありません。
しかし敵の目前に飛び出しペルソナを呼び出そうとした途端、私の体はその場で硬直してしまったのであります。
なぜ・・・。
その時、私は理解したのです。先ほど『スピカさん=シャドウ』の前で、弾数を気にして出方を見たこと。あれは弾数を言い訳にしていただけで、実は「友達を機銃攻撃で破壊する」ことをためらっていたのだ、ということを・・・。自分をごまかして合理的な判断を先送りにしていたのだ、ということを・・・。
そして今も・・・。
動きの止まった私に、『スピカさん=シャドウ』が発した火球が連続して飛来してきました。私はそれを避けて横っ飛びし、そこで急に体が力を失い、ガクリと膝をついてしまいました。
オルギアモードの活動限界。
こんなタイミングで時間切れです。私が躊躇したことで、攻撃のチャンスを逸してしまいました。
皆さんが危険だというのに、私はもう動けない・・・。
後はただ『スピカさん=シャドウ』を見つめることしかできないのであります。
『スピカさん=シャドウ』がこちらに向きを変えました。そして再度 火球攻撃を発しようと・・・。
その時、私の大事な『あの人』が、私と『スピカさん=シャドウ』の間に駆け込んできたのであります。
『彼』は召喚器を頭部に向け、「キングフロスト!」と声を上げました。
きらめきとともに雪の精霊の王が召喚され、そして・・・
「技師連中も納得いってはいないようだったが、最終的にロボットの暴走事故ということになった。」
事件の3日後、寮の1Fロビーで美鶴さんがみんなに言いました。
「まあ、他の説明がつかない以上、それで納得してもらうしかないだろう。影時間に起きたことは、事実とは違って認識される。いつものことだ。」
真田さんがそう答えました。
「和久田技師は病院に運ばれた。今は影人間状態だが、シャドウを倒したことだし、じきに回復するだろう。」
美鶴さんはさらにみんなに報告を続けました。
「ロボットについては、『ATOM』の破損は外装部分のみ。『8-MAN』は破損がひどく、上半身と下半身に分解してしまったので手間がかかるが、修理は可能だ。幸いだったのは敵シャドウの弱点属性が氷結だったことだな。『ジロー』と『スピカ 』は取りついたシャドウのみを倒すことができ、ロボット本体のダメージは軽微らしい。」
あの時、私はスピカさんを攻撃することができず、守るべき『あの人』に逆に守られてしまいました。感情に行動が阻害されるということは戦闘兵器としては致命的欠陥と言えるであります。人の心に近づくということが兵器である自分を劣化させるのであれば、それに意味はあるのでしょうか。
しかし「心」を持つことで、ペルソナという力を得ていることも事実。人間である皆さんを見ていても、「心」を持つあの方たちが私より弱いとは思えません。ということは、「心」があるゆえの強さというものがあるのだと推測されます。
もし私がただの兵器であれば、スピカさんを完全に破壊していたでしょう。しかし、結果的にそれをせずに済んだのも、「心」の成し得たことならば、それを求めることは悪いことではないのかもしれません。
何より皆さんの感情のきらめきを見るとき、私はそれを好ましいと感じ、自分もそうありたいと思うようになってきています。それが「生きる」ということであるならば、私も生きてみたいと思うのであります。
「それにしても、結局、どうしてスピカはアイギスを呼んだんですかね。まるで事件が起きるのを知ってたみたいに。」
順平さんが不思議そうに言いました。
「まったく奇妙なことだ。和久田技師はイベント前の調整の為、連日徹夜続きでかなりストレスを抱えていたらしい。それがシャドウを生み出すきっかけになったのだろう。しかし、まるでスピカがそれに気づいて警告してきたかのようだったな。そこまで高度な人工知能とも思えないのだが・・・」
美鶴さんも困惑したように言いました。
「ただの推測ですけど・・・」と風花さんが自信無さげに口を開きました。
「アイギスとスピカは、直接接触することで何か同調していたのではないでしょうか。スピカはアイギスのパピヨンハートの影響を受けて疑似的な心を生じさせて、アイギスはそのスピカが感じ取った危険予知を受けて暴走気味の行動をとった。みんなを守るために、お互いに補完しあって動いた。
まあ、そんな奇跡みたいなこと、本当におきたのかわかりませんけど・・・」
「そうだね。とても不思議な話だ。でももしかすると、いずれスピカがもっと進化したら、本人が説明してくれるかもしれないよ。」
風花さんの話を受けて、『あの人』がそう言いました。
その言葉に、風花さんはうれしそうにうなずき返しました。
「スピカも和久田技師が回復すれば、すぐに復旧作業を始められるそうだ。」と美鶴さんが言い添えました。
「良かったねアイギス。治ったらまたスピカに会いに行こうね。」
風花さんは私の方を見て、微笑みながらそう呼びかけてきました。
その時の私の、飛び跳ねたくなるような浮き立つ感覚。これが「うれしい」という感情でありましょうか。
私は風花さんの笑顔に応えるように、元気よく言いました。
「はい。楽しみであります。」
後書き
最初考えたときは、アイギスが仲間を守るために友達であるスピカを破壊して「悲しい気持ち」を知る話にするつもりでしたが、なんだか後味が悪そうなので、変えてしまいました。どうでしょうか?
ということでこの話はこれで終了です。
これからもペルソナ3の話は、書いていきたいと思っていますのでよろしくお願いします。
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