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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第8章:拓かれる可能性
  第238話「足掻け、限界を超えろ」

 
前書き
視点は一旦戻って緋雪達side。
“対策”を使うため、とこよ達は奮戦します。
 

 







「ふっ……ッッ……!!!」

 砂塵を突っ切るように、とこよが“天使”の一人に肉薄する。
 白兵戦において、以前の戦いでもとこよは負けていなかった。
 霊脈を用い、さらに力の上がったのであれば、“天使”すら圧倒する。

「なっ……!?」

「はぁっ!!」

 刀の一線で理力による防御を弾く。
 即座に掌底で吹き飛ばし、弓矢による連射でさらに後退させる。

「ッ……はぁっ!!」

 間髪入れずに斧へと持ち替える。
 そして、霊力を込め衝撃波を前方へ放つ。
 これにより、“天使”の軍勢が後退する。

「紫陽ちゃん!」

「ッ……押し流せ!“蛟之神水(みずちのしんすい)”!!」

 その隙を逃さず、紫陽が超大規模の霊術を発動させる。
 まさに大津波とも言える水の波が神々を呑み込み、一気に押し流す。

「こいつで少しは……!」

「油断は禁物よ!」

 さらに少しの間が出来る。
 すかさず、椿が神力の矢を連続で射る。
 耐えきった神や“天使”を撃ち抜き、反撃を遅らせる。

「司ちゃん!後どれくらいかかる!?」

「っ……まだ、後数分かかるかも!」

「了解!」

 “対策”の一つ。それは先程まででもやろうとしていた“根源”への接続。
 司がむき出しになった霊脈から接続しようとするが、エラトマの箱や神々の攻撃の影響ですんなりとはいかないようだ。

「大群はあたしととこよで止める!打ち漏らしは任せたよ!」

「……うん!」

 押し流した神々を追いかけるように、とこよと紫陽も離脱する。
 紫陽の言葉に頷いたなのははすぐに魔力弾を展開、いつでも動けるように備える。

「フェイトちゃん、はやてちゃん、アリサちゃん、すずかちゃん、アリシアちゃん、奏ちゃん。……当然、行けるよね?」

「愚問よ」

 なのはの言葉に、奏は即答する。

「うん……!」

「当然や……!」

「なんのためにアースラから大気圏突破してきたと思ってるのよ」

「当然、行けるよ」

「まだまだ、諦めるには早いからね!」

 続けるように、フェイト達も魔法及び霊術を構える。
 そして、紫陽の津波、椿の矢を食らってなお踏ん張った神や“天使”へ放つ。

「無駄です!」

 だが、踏ん張ったと言う事はそれだけの強さを持つと言う事。
 一斉攻撃はあっさりと防がれ、イリスが“闇”を繰り出す。

「奏ちゃん!」

「ええ……!」

 そこでなのはと奏が動く。
 全力の砲撃魔法で“闇”を逸らし、全員が散開。
 さらに奏が移動魔法を使ってイリスに肉薄した。
 今まで攻撃の邪魔をしていたソレラは津波に流されていない。
 接近するには絶好のチャンスだった。

「ッ……!?」

「その程度……!」

 振るわれた刃は、“闇”による壁に防がれる。
 それどころか、呑み込むように刃を取り込もうとした。

「シュート!」

「っ、ふっ!」

 そこへ、なのはの魔力弾が着弾する。
 刃に纏わりついた“闇”が祓われ、その隙に奏がもう一つの刃を振るう。
 今度は直接攻撃せずに、斬撃を飛ばし牽制して間合いを離した。

「ただの人如きが邪魔を……!」

「スラッシュ!!」

 さらに、なのはもレイジングハートを小太刀へと変形させ、斬撃を飛ばす。
 先程の砲撃魔法を圧縮した斬撃は、生半可な防御では防げない威力を持つ。
 攻撃が通用する今、まともに食らうのは避けたいのか、イリスは防御行動に出た。

「ただの攻撃で“闇”が祓えるなど……ありえません!」

 反撃が飛んでくる。
 雨霰の如き“闇”のレーザーがなのはと奏を狙う。

「(速く、より滑らかに!)」

「(一挙一動を見逃さず、的確に……!)」

 だが、なのはは空中機動を、奏は移動魔法を駆使して躱しきる。

「ッ……なるほど……!そういう訳ですか……!」

 その時、イリスは見た。
 なのはと奏……否、この場において限界を超える者達の体に、薄っすらと淡い金色の光が纏っているのを。

「これを見越して、貴方は残ったという事なんですね……!」

 その言葉は、優輝に向けられていた。
 それを聞いていた奏は、一瞬どういう事なのかと困惑する。
 どうやら、奏達にはその光は見えていないようだった。
 だが、考える暇はない。

「シッ……!」

 刃を振るう。“闇”で防がれる。
 そこを、なのはが魔力弾と砲撃魔法で打ち破る。
 だが、イリスはそれを身を捻って躱す。
 追撃を奏が仕掛けるが、足元から生えた“闇”の棘に阻まれる。

「まだっ!」

 今度はなのはが肉薄する。
 小太刀二刀による連撃と、魔力弾の連携だ。
 加え、奏が羽型の魔力弾をばらまき、的確に“闇”を祓う。
 “闇”に阻まれ、突破しても躱され続けるが、ようやく刃が届く。

「……あまり、調子に乗らないでください」

 だが、それは錯覚だった。
 攻撃が届く。そう思った瞬間に“闇”が爆発する。
 咄嗟に、なのはは防御魔法を使いつつ飛び退き、奏は移動魔法で躱した。
 防御の上から、または余波で二人はダメージを負う。

「(やっぱり、手を抜いてた……!)」

「(イリスが、あの程度で食らうとは思えない)」

 追撃に“闇”によるレーザーと、予備動作なし出現し呑み込む球体が放たれる。
 レーザーを魔力弾で辛うじて逸らしつつ、二人はそれを躱し続ける。

「はぁっ!」

「ふっ……!」

 気合一閃。レーザーを刃で斬る。
 それによって僅かに手が空いた魔力弾でイリスに牽制する。
 一瞬、予備動作なしの“闇”が繰り出されなくなる。

「そこまでです!」

 だが、次の瞬間、二人は上空からの砲撃と重圧のコンボで地面に墜とされた。
 他の神と同じく、ここに残っていた祈梨の仕業だ。

「それ以上は―――」

「……“邪魔させない”と?」

「それは、こちらのセリフです!」

 しかし、祈梨はすぐになのはと奏に手を出せなくなる。
 なぜなら、サーラとユーリが祈梨に襲い掛かったからだ。

「「ッ!」」

 すぐさま、なのはと奏は起き上がり、飛び退く。
 そのまま体勢を整える間もなく、さらに移動魔法で間合いを離す。

「(ギリギリ……!)」

「(危なかった……!)」

 寸前までいた場所を“闇”が呑み込む。
 ギリギリで躱せた二人だが、その緊張感に焦りが生じる。

「(まだ、時間を稼ぐ……!)」

「(司さんが、根源に繋げるまでは……!)」

 二人共、イリスに敵わないのは理解していた。
 だからこそ、時間稼ぎに集中する。
 否、隙を見つければ少しでも戦力を削ろうと奮闘していた。





「…………させない」

「ッ……!」

 だが、敵はイリスと他の神々、“天使”達だけではない。
 洗脳された優輝も、襲い掛かってくる。

「(皆を抜けてきた……!?)」

 イリスはなのはと奏が、神々の半分以上はとこよと紫陽が受け持っている。
 祈梨もサーラとユーリが抑え、残った神達も緋雪達が止めている。
 だが、優輝はその防衛網を瞬間移動で抜けてきた。
 根源に繋げようとしている司に、振るわれた刃を防ぐ術はない。

「ッッ……!」

「―――あたし達が、見逃すと思った?」

 故に、他の誰かが防げばいい。

「くっ……!」

 “ギィイン”と、刃同士がぶつかる音が響く。
 葵が司を庇うように割り込み、優輝の一撃を受け止めていた。

「貴方の相手は私達よ。優輝!」

 そして、椿が矢を連続で放つ。
 攻撃自体は瞬間移動で躱されたが、これで司から引き離した。

「司、急ぎなさい!」

「うん……!」

「優ちゃんは、あたし達が抑える!」

 椿が追撃の矢を放ち、葵がレイピアを生成しつつ肉薄する。

「(あたし達では、優ちゃんを抑えきれない)」

「(ただ足止めするだけじゃ、必ず突破される)」

「(だから……攻める!!)」

 椿が絶えず矢を放ち、霊術も放つ。
 その合間を縫うように、葵が息もつかぬ連撃を繰り出す。
 既に霊脈を使った術式で限界を超えた強化をしている。
 その上で、全力全開だ。

「ふっ、ッ、ッッ……!!」

 レイピアを振るう、剣先が逸らされ、受け流される。
 即座に引き戻し、その隙を椿の矢が補う。
 再び攻撃、逸らされるのを防ぎ、袈裟斬りを繰り出す。
 しかし、今度は最小限の動きで躱され、カウンターが放たれる。
 葵はそれを予想しており、足元から“呪黒剣”を放つ。

「射貫くッ!」

「ッ!」

 それを躱した所へ、椿が渾身の一矢を放った。
 優輝はそれを刺突で相殺。その際に手に持っていた武器が壊れる。
 直後、大量の武器群が椿と葵目掛けて降り注ぐ。

「この程度!」

 葵がレイピアを生成し、呪黒剣と共に迎え撃つ。
 椿も霊術で相殺しつつ、矢で優輝を狙う。

「(消えた……!)」
 
 だが、その時には既に優輝は瞬間移動で姿を消していた。
 このままでは再び司を狙われるだろう。

「そこよ!」

「ッ!?」

 それでも、椿は即座に優輝の位置を察知。矢を放った。
 矢自体は防がれたが、それでも動きを一瞬止めた。

「はぁあっ!!」

 その一瞬があれば、葵が再び間合いを詰めるのは可能だ。

「……どうしてすぐわかったのか、とでも思ってる?」

「…………」

「今の貴方に、教える義理はないわよ」

 そう言って、椿は再び矢を放つ。
 葵が必死に食らいつき、決して引き離されないように、隙を椿が潰し続ける。

「(着地から僅か数分。私の神力を浸透させ続けた甲斐があったわ……!)」

 優輝の瞬間移動先を察知出来たのは、椿の神としての力だ。
 更地になった八束神社だが、そこへ椿が神力を浸透させていた。
 さらに、霊脈の力を合わせて草を芽吹かせ、それを介して察知したのだ。

「(今、この場は私の“領域”。ならば、全て見通せるはず……!)」

 神としての領域、所謂“神域”と言える場所。
 それを椿は疑似的に再現し、そこを“領域”としていた。

「(優輝の姿を見失えば、ただでは済まない。絶対に、見逃さないんだから……!)」

「こ、のぉおおおおおっ!!」

「ッ……!」

「(葵も、限界を超えて頑張ってる。絶対に、足止めする……!)」

 導王流を考慮した上で動き、創造魔法による攻撃も相殺する。
 その上で、突破されないように立ち回る。
 至難の業だが、椿と葵の連携だからこそ、何とか熟せていた。









「サーラ!」

「分かっています!」

 なのは達や椿達が奮闘する傍らで、サーラとユーリも奮闘していた。
 相手は祈梨。規模の大きい攻撃を連発してきていた。
 ユーリが攻撃を迎撃し、討ち漏らしをサーラがカバーしつつ、攻勢に転じていた。

「(堅い……!)」

「白兵戦はこちらも得意分野ですよ?」

 サーラの渾身の一撃を、祈梨は障壁で軽々と受け止める。
 さらにユーリの魔力弾が追撃で迫るが、それでも破れなかった。

「くっ……!」

「貴女は私が知る中でも相当堅実な強さを持っています。……ですが、それ故にどうしても“想定外の戦法”と言うのが使えません」

「ッ……!」

 槍でサーラの剣と渡り合いながら、祈梨はそう告げる。
 ……そう。それはサーラの強みであり、同時に弱点でもある。
 サーラはユーリのような無限の魔力や、優輝の導王流や創造魔法、緋雪の破壊の瞳と言った、特殊な力というものが存在しない。
 魔力も、それに見合った戦闘技術も相当高い。だが、()()()()だ。
 特殊性を利用した突破方法などは取れず、どうしてもゴリ押しになってしまう。
 言わば、サーラは器用貧乏なのだ。
 万能ではあるが、突出していない。

 ……だからこそ、祈梨の防御を突破出来ない。

「はぁっ!!」

「無駄ですよ」

「『ユーリ!』」

「『はい!』」

 理力の砲撃を一閃によって弾き、再度攻撃を試みる。
 やはりあっさりと受け止められるが、それはサーラも分かっていた。
 間髪入れずに移動魔法で背後に回り込み、入れ替わるようにユーリの砲撃魔法が祈梨の障壁を呑み込む。

「っ……なるほど。同じ魔力であれば、危うかったですね……」

「……撃墜されましたか……」

 ……だが、今度は待機していた理力の塊がユーリの砲撃を相殺していた。
 背後に回ったサーラも障壁で止められ、反撃を躱していた。

「ならば、これはどうです!?」

「させませんよ」

「私は眼中にないとは言わせませんよ……!」

 次の攻撃に移ろうとするユーリを、祈梨は止めようとする。
 それを逆にサーラがバインドで阻止しようとする。

「無駄だと、そう言っているはずですが?」

「……それはどうでしょうか?」

 だが、バインドは弾かれ、追撃も障壁に阻まれる。
 それでも、サーラは不敵な笑みを浮かべた。

「っ、どこに……!」

「確かに私は器用貧乏でしょう。……だが!それ故に何事もそつなくこなすのが私です!私は、ユーリの騎士なのですから……!」

 サーラは遠隔魔法でユーリを転移させていた。
 バインドの魔力が炸裂した事による煙幕でユーリを隠し、その時に転移させた。
 これによって、ユーリの魔法発動までの時間は稼いだ。

「ならば、貴女から……!」

「やれるものなら……!」

 サーラの魔力がアロンダイトに集束する。
 砲撃魔法や魔力弾を封印し、その分の魔力リソースを剣に注いだ。

「工夫次第で、障壁程度は突破できる……!」

「っ……なるほど。ならば……!」

 剣による攻撃のみのサーラに対し、祈梨は槍も弾幕も砲撃も使える。
 白兵戦でも、総合的に見ればサーラより上だ。
 しかし、肉薄すれば話は別。
 剣一つで渡り合う事も出来る。

「っづ……!?これは……!?」

 そして、ついにチャンスを掴んだ。
 槍を上手く逸らし、ほんの僅かな隙を突いてサーラは剣を突きつける。
 その剣から魔力を放出し、空間ごと祈梨を拘束した。

「代償として私も動けませんが……これで止めた!!」

「転移すら、無効に……!?」

 自らも術式によって動けなくなる代わりに、サーラは祈梨を止める。
 同時に、確実に動きを止めるという“意志”により、理力による転移も封じた。
 尤も、理力による行動は時間さえ経てば可能にしてしまうが……

 ……それよりも、手を打てばいい話だ。

「……本来、私の力は破壊にしか使えなかった。後には何も残らない“闇”でしかなかった。……でも、それでも何かを救える事が出来た。希望となれた!ならば、それは今ここでも出来るはず!」

「ッ……上……!?」

「やってください、ユーリ!!」

 転移させられたユーリが術式への魔力充填を完了させる。

「その証を、今ここに示す!!」

   ―――“其は、希望を示す闇(フィンスターニス・デァ・ホッフヌング)

 そして、サーラごと祈梨を極光が呑み込んだ。





「ッッ……くっ……!」

 極光が治まった後の砂塵から、サーラが弾かれたように出てくる。
 あの魔法は、サーラには効いていない。
 味方であり、最高の騎士でもあるサーラを、ユーリは決して傷つけない。
 その想いがそのまま効果へと繋がり、サーラへのダメージを無効化した。
 神界の法則を利用していなければ、こうはならなかっただろう。

「……容易に倒せる訳ではない。……その立ち振る舞いから予想出来ていた事ですが……あれでも倒せませんか」

 だが、そうだというのにサーラはダメージを受けていた。
 その理由は当然、祈梨がまだ倒れていないからだ。

「……なかなかの一撃でした。私も、多少のダメージは受けましたよ」

「っ……なるほど、あの時の優輝さんは、こんな気分でしたか……」

 思い出すのは、まだ自分がU-Dに振り回されていた時。
 足止めしていた優輝に反撃を喰らった時に言った言葉。
 その時と同じような言葉を、今度はユーリが言われていた。

「『通用するなら、何度も叩き込むだけです。そうでしょう?ユーリ』」

「『……はい。その通りです。行けますよね?サーラ』」

「『当然……!』」

 最大火力の一つが通じなかった。
 だというのに、二人は一切戦意を揺らがせなかった。
 否、むしろさらに燃え上がらせる。
 決して負けないと、勝って見せると、さらに決意を固めて。

「『私も、アロンダイトも、ようやく温まって来た所です!』」

「『それでこそサーラです……!ならば、私も……!』」

「……!来ますか……!」

 祈梨が身構える。そこへ、サーラが襲い掛かった。
 ここまでは同じだ。だが、次からは違う。
 サーラの攻撃を防いでいる所、魄翼が襲い掛かった。

「白兵戦モード、起動……!!」

「ユーリをただの後衛だと思わない事ですね……!」

「これは……!?」

 二人掛かりの攻撃に、祈梨の障壁が破られる。
 威力に負けた訳ではない。
 二人分の意志による“領域”への攻撃に耐えられなかったのだ。

「(白兵戦ではこちらが不利……!)」

 その一瞬で祈梨も悟る。
 直接的な戦闘であれば、自身に勝機はないと。

「……ならば、今度はこちらが実力を見せる番でしょう!」

「ッ!(転移……!)」

 即座に祈梨は転移で距離を取った。
 そして、僅かな間を挟み、次の瞬間……

「っ、はぁっ!!」

 殲滅魔法に匹敵する規模の理力による砲撃が放たれた。
 咄嗟にサーラがそれを切り裂くが……

「(二撃目!?早すぎる……!)」

 次の極光が目の前に迫っていた。
 否、それだけじゃない。
 まるで、魔力弾でしかないと言わんばかりに、その極光を連発していた。

「サーラ!!」

 多くの魔力と魄翼を壁にして、ユーリはサーラを助け出す。
 壁にした魄翼もあっさりと砕け、すぐに転移魔法で離脱した。

「これは……なんと……」

「私が撃ち落とします!」

 その先で、上空からの気配にサーラは冷や汗を掻く。
 そこには、巨大な隕石とも思える理力の塊が降ってきていた。
 すぐさまユーリが迎撃に移り、サーラが祈梨と向き合う。

「ここからは近づく事さえ許しません。精々、踊り狂いなさい」

「……規模の大きい攻撃の連発……なるほど。後衛が本領だったのは貴女の方でしたか。これが、真の実力という訳ですね……!」

 防御魔法や砲撃魔法、剣による一撃を使って攻撃を逸らす。
 だが、それが精一杯で祈梨に近づく事すら出来ない状態だった。
 ユーリの方も砲撃魔法を放ち続け、何とか地上に攻撃を落とさないようにしている。
 拮抗させるのが精一杯のようで、手助けは期待できなかった。

「(しかし、この力の行使……どこかで……)」

 圧倒的な殲滅力を持つ祈梨。
 そんな祈梨を見て、サーラはどこか既視感を覚えていた。
 しかし、その感覚について考える暇はない。

「(とにかく、私が突破口を開く……!)」

 他も戦っており、そちらはそちらで手一杯。
 誰かが突破口を開かなければならない。
 だからこそ、サーラは自身を奮い立たせ、祈梨の攻撃に身を躍らせた。











「ッッ……!!」

 一方、とこよと紫陽。
 津波で押し流した先で、襲撃してきた半分以上の神々を相手取っていた。

「ふっ……!はぁっ!!」

 閃光を切り裂き、掻き消える程のスピードで攻撃を躱していく。
 周囲は崩壊した街なため、瓦礫も目晦ましとして使えている。

「墜ちろ……“神雷(じんらい)”!!」

 攪乱目的もあるとこよと違い、紫陽は最小限の防御や回避行動をしながら、大規模な霊術を放ち、“天使”達を墜とす。

「ちっ……!」

「奴から狙え!」

 当然、動きが比較的少なく、後衛である紫陽が優先的に狙われる。

「させない!」

「ぐっ……!」

「遅い!」

 だが、とこよがそれをさせない。
 縦横無尽に敵陣を駆け回り、紫陽を狙う者から吹き飛ばす。

「ッッ……!」

 空中に身を投げ出すように跳び、身を捻る。
 自身を狙う攻撃を躱しつつ、とこよは弓矢で確実に“天使”を墜とす。

「(足りない!このままでは!)」

 だが、もうジリ貧だと察する。
 紫陽を守り切る事が出来ないのは分かっていたが、想定以上にそれが早い。

「くっ……ッ……!?」

 おまけに、崩壊したとはいえ、ここは街中だ。
 “死の概念”が壊れた以上、一般市民はまだそこにいる。

「ぁ……」

 目に入ったのも、その場にいたのも偶然だ。
 瓦礫から這い出て、恋人を助け出した時、そこが戦場と化した。
 そして、それを偶々“天使”の一人が見ただけの事。
 だが、その二人……聡と玲菜にとっては、絶望でしかなかった。
 一般人でしかない二人にとって、最早恐怖の叫びすら出せない状態だった。

「ッ……!」

 優輝の友人である聡と玲菜は、イリスの標的の一つだ。
 故に、視線の合った“天使”が狙いを定めて襲って来た。
 咄嗟に聡は玲菜を庇い……いつまで経っても来ない衝撃に目を開けた。

「……無事?」

「まさか、あんたらを優先して狙うとはね……!」

 そこには、“天使”の攻撃を防ぎ、斬り倒す紫陽ととこよの姿があった。

「イリスは優輝を狙っていた……となれば、友人関係のあんたらも標的の一つって訳さね……!」

「そういう、事っ!!」

 他の神々も聡と玲菜を認識したのか、一斉に襲って来た。

「な、なんで……!」

「生き残りたいのなら、そこでじっとその子を守ってな!あたしらが守る!」

「紫陽ちゃん!障壁お願い!……私が相殺する!」

「了解!」

 即座に紫陽が障壁を張り、とこよが前に出る。
 直後、豪雨も真っ青な弾幕が聡と玲菜を狙って放たれた。

「ッ、ッッ………!!!」

 斬る。斬る。二刀を以て、その弾幕をとこよは斬りまくる。

「くっ……!」

 だが、あまりに量が多い。
 体の所々に被弾し、刀が片方弾き飛ばされる。

「まだっ!」

 槍に即座に持ち替え、さらに弾き続ける。
 ……今度はもう一方の刀を弾き飛ばされた。

「まだっ!」

 斧に持ち替え、槍と斧で迎撃する。
 
「ぐっ……!?」

 そして、槍、斧と順に弾き飛ばされる。
 最後に扇を構え、御札をバラまいて障壁を張る。
 余波は紫陽の障壁で充分だが、とこよの障壁を破られればたちまち聡と玲菜は弾幕の奔流に呑まれてしまうだろう。

「ッ……!(耐えきれない……!)」

 とこよの張った障壁に、罅が入り始める。
 いくら霊脈の力を使っても、耐え続けるのは厳しい。




 ……故に、とこよは次の切り札を切った。

「―――来て!伊邪那岐!!」

 紡がれたのはたったそれだけの言霊。
 しかし、展開された術式はかなり複雑なものだった。

「何……!?」

 弾幕を張り続ける神が、僅かに驚愕する。
 障壁の罅が塞がっただけではない。
 とこよから、放たれるはずのない神力が放たれていた。

「……神降しは、何も優輝君だけの特権じゃないよ……!」

 そう。とこよは神降しを行ったのだ。
 それも、かつて式姫として仲間だった伊邪那岐で。

「は、あっ!!」

 気合一閃。槍を薙ぎ払い、神力の斬撃を飛ばして弾幕に穴を開ける。

「たかがこの世界の神を宿した所で!」

 多勢に無勢だと、神が言う。

「―――誰が、宿す神が一柱なんて言ったのかな?」

「待てとこよ!それは……!」

「ここで限界を超える!来て、火之迦具土(ひのかぐつち)!!」

   ―――“多重神降し”

 とこよから、炎の如き神力が追加で溢れ出す。
 その熱気が、弾幕を押し返した。

「私が紡いで来た全てを、ここで叩きつける!!」

 かつて、数多の式姫と共に幽世の門を閉じて回り、最後は幽世の大門を閉じた人知れない影の英雄。
 ……そんなとこよが、限界を超えたその先へ、一歩踏み出した。













 
 

 
後書き
蛟之神水…水神である蛟の如き水を操る霊術。津波のように放ち、敵を押し流す。

神域…今回の場合は疑似的なものだが、文字通りその神の領域となる。

其は、希望を示す闇(フィンスターニス・デァ・ホッフヌング)…ユーリの最高火力魔法の一つ。なのはのSLBに近い。無限の魔力を集束させて放つため、その気になれば無限に威力を上げられる。ユーリの“希望”を乗せた一撃。光と闇が合わさり最強に(ry

神雷…文字通り、神の雷の如き雷を放つ。

多重神降し…文字通り、その身に複数の神を降ろす。現在二柱だが、さらに増やす事も。当然、負担も大きい。ちなみに、三位一体の神などは多重神降しにはならない。


描写した面子以外は、多分祈梨の攻撃で蜘蛛の子を散らすように動き回っている感じです。……いや、これ八束神社周辺だけじゃ収まらない戦闘規模ですね。
一応、とこよと紫陽だけ他メンバーとかなり距離が離れています。 
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