ペルソナ3 ケン と マコト
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中編
前書き
中編では、いよいよ強盗と直接接触することになります。
毎回、短編漫画1本分くらいのつもりで話を考えているのですが、主人公二人に交互に語らせているせいで少し長めになってしまいました。
天田は大人びた子供というキャラですが、たぶん真も小学生のころから大人びていたと思われます。そういう意味では落ち着いたコンビですね。
「どうして、あいつのことに気づいたの?」
男の子が訊いてきた。
私の後を追ってきたのには驚いたけど、どうも私のことを心配してくれたらしい。真面目でやさしい性格なのだろう。
彼に尾行の仕方について指摘を受けたおかげ少し頭が冷えてきた。手配犯を見つけたことで、頭に血が上って冷静さを失くしていたようだ。
「私のお父さん、警察官なの。市民の平和な暮らしを守るんだって一生懸命頑張ってるわ。私はそんなお父さんが大好きだし、尊敬しているの。
そのお父さんが、あの連続強盗犯に対しては、すごく怒っていた。弱いお年寄りを狙って食い物にする最低の奴だって。だから私、手配書の顔写真を見て顔を覚えちゃったのよ。これがその最低な奴の顔なのかって。」
「そうか・・・それで、その男を見つけたんだね。」
「偶然ね。」
私はうなずく。
「たまたま、お姉ちゃんと一緒にポロニアンモールに来てて、喫茶店で休憩して入ったの。お姉ちゃんが用事でて席をはずしている間に、近くにいた男がサングラスをはずして、おしぼりで顔を拭いたのよ。その素顔を見てすぐに気づいたわ。大高だって。
でも、その後すぐにあの男は席を立って店を出てしまった。だから、見失わないように1人で追ってきたのよ。」
「それで駅の近くで僕を見つけて声をかけてきたのか。」
私はうなずいて、話を続けた。
「警察に知らせたいんだけど、相手が動き続けてるとなかなかそれも難しくて・・・。」
「確かに、事情を説明している間に見失っちゃうからね。僕が携帯を落とさなきゃ、話が早かったのに・・・」
男の子が悔しそうに言った。
携帯電話を落としてしまったのは残念だったが、私ですらやっと間に合ったモノレールに後から追いついてきたのだ。きっとすごい勢いで階段を駆け上ってきたのだろう。
それを思うと、携帯を無くさせてしまって申し訳ないと思いこそすれ、彼を責める気にはなれなかった。
「ポートアイランド駅にいたことまではお姉ちゃんに言ったから、きっと警察にも伝わるはずよ。問題はその後ね。・・・こうしましょう。あいつが駅で降りたら、あなたは駅員に事情を説明して警察に連絡してもらって。私は尾行を続けるわ。」
「それじゃ、君が危険だよ。その役割は逆にしよう。」
「私が始めたことだもの。巻き込んでおいて、私が引くわけにはいかないわ。」
「男として、女の子に危険な方をさせられないよ。」
話は平行線になってしまった。
結局、しばらくは二人で尾行してチャンスを待つことにした。
「でも本当にいいの? 私、あなたを巻き込んでしまって・・・」
「僕らが頑張れば、犯人を逮捕できるかもしれない。そうすれば次の被害も防げるんだ。見逃せないだろ。」
男の子が眼を光らせて力強くいう。
改めてよく見るとなかなかの二枚目だった。正義感が強いし、頭もいい。
正直言うと、彼の存在は心強かった。一人で尾行していて、不安でなかったと言えば嘘になる。
それに二人ならいざというときの選択肢も増えるかもしれない。本職の刑事だって必ずコンビで行動するものだ。
私は彼の力を借りることに決めた。
「じゃあ取引しましょう。私をサポートしてくれたら、あなたには劇場版フェザーマンの招待券をあげるわ。」
「えっ!・・・な・・なんでそんな・・・」
私の申し出に、男の子は動揺したように顔を赤らめた。
「警察が撮影に協力したとかで、お父さんが招待券もらってきたのよ。でも私は興味ないし、どうしようかと思っていたの。あなた好きなんでしょ。さっき一生懸命見てたじゃないの。」
「い・・いや、その、あれは・・・最近の特撮技術の進歩を確認してただけで・・・別に好きってほどのことは・・・」
「はいはい、劇場の大画面でじっくりと技術の進歩を確認してね。」
必死に取り繕う様が可笑しかった。こんな状況なのに思わず口元が緩む。なんだか可愛い。弟がいたらこんな感じかな。
「ということで、取引成立ね。私はニイジマ マコト。・・・マコトって呼んで。」
「あ、じゃあ・・・ぼ、僕はケンだ。・・・アマダ ケン。」
ケンが虚勢を張るように答えた。
意見がまとまったところで、モノレールは巌戸台駅に滑り込んだ。
男が席を立ち、そしてドアから出る。
後を追うために席を立つと、「ここ・・・僕が住んでいるとこだ・・・」とケンがぽつりと言った。
驚いたことに、その駅は僕が住んでいる『巌戸台』だった。
やつらはここに潜伏しているのか?こんな近所にそんな凶悪犯が隠れていたなんて・・・
でもこの辺なら地理的にも詳しいし、知り合いもいる。もしかしたらこれはチャンスなのかもしれない。
マコトのことが心配だったのはもちろんだが、それにも増してお年寄りを次々狙う卑劣な強盗犯が許せなかった。
僕のお母さんも、突然に理不尽な襲撃に合って殺された。何も悪いことをしていなかったのに・・・
弱い者に危害を加える奴は僕の敵だ。
だから別に映画の招待券が欲しくて協力するわけじゃない。
まあ、もらえたらそれはそれで、うれしいかも・・・だけど・・・。でもそれが目的じゃない。
大高は、また携帯電話で誰かと話しながら、人家の少ない方に歩いていく。僕はマコトと少年チャンプを広げたまま、尾行を続けた。
そろそろ日が傾いてくる。できればあまり暗くなる前に隠れ家に着いて欲しい。暗くなってからでは子供は目出つ。
大高は人気の少ない通りに入っていった。ここだと後をつけているのがばれるかもしれない。
そう思って通りに足を踏み入れず、手前から覗いてみると、大高がとある建物の前で立ち止まった。
2階建てのコンクリート造。道路に面して数台分の駐車場がある。
道路との境にはチェーンが渡してあって立ち入りを禁じているが、大高はそれを乗り越えて敷地内に入っていった。
少し時間をおいてから二人で前まで行ってみる。大高はこの事務所っぽい建物の中に入り込んだようで見当たらない。
建物は看板が外されており、正面には「貸事務所」という不動産屋の表示が貼られているのが見えた。今は無人になっているらしい。奴らはここを隠れ家にしているのだろうか?
「僕が見張っているから、マコトは警察に通報を・・・」
建物の様子をうかがいながら僕がそう言いかけたとき、
「警察だと?」と背後から野太い声がした。
驚いて振り向くと、いつの間にか僕らの後ろにツナギの作業着を着た大男が立ちはだかっていた。
こちらが声を上げる間もなく、いきなり後ろからマコトを羽交い絞めに押さえこむ。
しかも、その背後からさらにもう一人、派手なシャツの金髪の男が現れて僕に向かって来た。
僕は反射的にチェーンを乗り越えると、建物の壁際まで素早く後退した。そして、そこに置きっぱなしになっていたデッキブラシを拾い上げて構える。
その時、何があったのか、マコトにつかみかかっていた男がいきなりもんどりうって転倒した。
信じられないことだが、まるでマコトが大男を投げ飛ばしたみたいに見えた。
僕に向かってきていた金髪男が、一瞬そちらに気を取られる。その隙をついて、僕はデッキブラシを回転させて男の向う脛を打ち、さらに続けて痛みでうずくまった男の肩に打ち下ろした。
「痛え!」
男が悲鳴をあげて転がる。
一方で、転倒していた大男が起き上がろうと顔を起こす。マコトはその顔面に真正面からパンチを繰り出した。
「ぐあっ!」
「なんだこいつら、喧嘩慣れしてるぞ。」金髪が叫ぶ。
「マコト、逃げろ!」
僕は金髪男のわきをすり抜けてマコトに駆け寄ろうとした。
しかし、背中にいきなり衝撃があり前につんのめってしまう。
さらにそのよろけた足に、金髪男がしがみついてくる。僕はバランスを崩して倒れこんだ。
「ケン!」
それに気づいたマコトがこっちに駆け寄ろうとする。
「馬鹿、早く逃げろ!」僕は叫んだ。
そのマコトにさらにもう一人、僕らが尾行していた大高が駆け寄りつかみかかるった。
先ほどの背中の衝撃は、建物から出てきたこの男に蹴り飛ばされたためらしい。
大男も起き上がってきてマコトは挟み撃ちになった。
マコトは素早く身をかわそうとしたが大人二人がかりが相手ではなすすべもなく、力任せに抑え込まれた上に、大高が持ってきた袋のようなものを頭からかぶせられてしまう。腰まであるような大きな袋だ。大男がその上からローブで縛り上げていく。
僕は金髪男にのしかかられて振りほどけず、ただひたすらもがいた。
「離せ、ちきしょう。」
「大人しくしやがれ。」
何とか金髪を振りほどこうとしているところに、いきなり頭から袋をかぶせられ、マコトと同じように3人がかりで縛り上げられてしまった。
身動きのできないまま転がった僕は、「このやろ」という声とともに2回蹴りを入れられた。
「うぐっ!」その痛みに声も出せずに悶えた。
僕を蹴ったのはたぶん金髪男だろう。悔しさに涙が出た。
「やめろ。誰かに見られる前に車に乗せるんだ。」
大高と思われる声がする。そして抱え上げられた挙句、車の中に放り込まれた。
広さの感じから、ワゴン車の後ろの荷台部分のようだ。隣にマコトが同じように転がされている気配がある。
「大声出したら殺すからな。大人しくしてろ。」
そう声がかけられ、すぐに音を立てて後部ハッチが閉められた。そして男たちが乗り込むと、車が走り出した。
僕らの尾行はどこかで気づかれていたらしい。大高が歩きながら電話していたのは、仲間を呼んでいたのだ。後悔しても後の祭りだ。僕らはまんまと周囲に人のいないないところに連れ出されてしまったわけだ。
これがシャドウ相手なら、僕の直接攻撃は大きなダメージを与えることができる。それがペルソナ使いの力だ。
しかし人間相手ではそうはいかない。棒を振り回してもしょせんただの小学生だ。三人がかりで抑え込まれたら、どうしようもない。
自分の非力さが辛かった。
仲間のことを忘れていたのはうかつだった。
あの金髪の顔には覚えがある。手配されていた大高の仲間の土屋に違いない。
しかし二人組と聞いていたのに、実行犯以外にもう一人いたとは・・・。
私が無謀だった為に、ケンまで巻き込むことになってしまった。悔んでも悔みきれない。
しかし後悔するのは後回しだ。ともかく今は冷静になるべき時だ。
お姉ちゃんはどうしているだろう。ポートアイランド駅にいることは伝えた。子供が二人モノレールに駆け込んだのを誰かから聞いているかもしれない。警察なら巌戸台で降りたのを突き止められるかも。駅なら監視カメラとかの映像にも残っているはずだ。その後は・・・
「マコト、聞こえる?」
袋をかぶせられてるので周りは見えないが、隣に寝かされているらしいケンが小声で話しかけてきた。
「ええ。ケンは大丈夫?ケガしてない?」
「何回か蹴られて痛かったけど、今は大丈夫。マコトは?」
「私は押さえつけられただけ。ケガはないわ。」
「そう、なら良かった。」
良かった・・・と言える状態ではない。この後どうされるのか。口封じに殺される可能性だってある。
チャンスを見つけて逃げ出さないと・・・最悪、せめてケンだけでも・・・。
「もしかして、さっきあの大男を投げた?」
考え事をしているとケンがまた話しかけてきた。
「ええ、私、護身用に合気道を習ってるの。」
後ろから羽交い絞めにされかけたところで、相手の足の甲を思いっきり踏みつけ、腕を逆につかんで相手のバランスを崩して引き倒した。
そこまでは自然に体が動いた。
「でも、あの顔面パンチは合気道じゃないよね。」
「あれは・・・その・・・鉄拳制裁よ。」
ケンが小さく笑い声を立てた。
「そういうあなたも棒の振り回し方が堂に入ってたわ。何かやってるの?」
「ちょっと槍を練習してるから・・・。でもただのデッキブラシじゃ抑え込まれたらどうにもならないや。」
なんで槍? と思ったが、今はその話をしている時ではない。
「どうにか逃げ出すチャンスを見つけないとね。」
「強いね。女の子なら泣きだしてもおかしくないのに?」
「・・・本音をいうとかなり不安だわ。一人なら本当に泣いてしまったかも・・・。でもあなたがいてくれるから、頑張らないとと思えるの。」
「僕もそうだよ。マコトを助けないとと思うから、くじけないでいられるんだ。とにかくあきらめたらおしまいだ。僕ら二人のどちらでもいい、チャンスがあったら逃げ出して助けを呼ぼう。」
私は先ほどケンが引き倒されたとき、思わず駆け寄ってしまったことを思い出した。
あの時、一目散に逃げだしていたら、状況は変わっていたかもしれない。
「そうしましょう。今度こそチャンスは逃せないわ。」
やがて車がどこかに着いたようだ。
後書き
最初は二人とも自分の方が大人だと、マウントを取り合う展開にしたかったのですが、事態が緊迫し過ぎててそこまでいきませんでした。
男の後をつけて二人が珈琲店に入り、真がジュースを注文。天田が大人ぶってコーヒーを頼もうとしたところ、種類が多すぎてわからず、真に「分からなければブレンドにしておきなさい」と言われてしまうという展開も考えたのですが・・・そんな暇があったら通報するよなあ、と思って諦めました。
さて、このあと後編ではちゃんと逆転しますので、引き続きよろしくお願いします。
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