雲に隠れた月は朧げに聖なる光を放つ
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第十二話 予定変更とブルックの町
俺たちは現在、ライセン大渓谷をJu-00とエアライドマシンで飛行している。なぜ大樹ではなくライセン大渓谷にいるのかというと、大樹には封印が施されており今の俺たちでは解くことができなかったからだ。仕方がないので、オスカーの言うミレディ・ライセンの大迷宮を目指すことにした
のだ。
‥‥‥その行程の間に熊の亜人が襲ってきたりハウリア族が豹変していて厨二病化したりと色々あったが。かなり凄い訓練をしたのだけはよく分かった。
とりあえず今日は近くにあるという町に立ち寄り、食料と調味料関係の調達と素材の換金をしようと思った。
そんなわけで俺は後部座席に聖を乗せながら飛行しているのである。
「コウ?」
「ん?」
「以前特別は私で、最愛は千秋ちゃんって言ってたけど、『特別』ってホントはどういう意味なの?」
「前にも言った気がするが、お互いに依存し合う関係だと思ってるんだわ。千秋とは別の意味で大切な人なんだよ。消えたら多分死ぬ」
「そ、そんなにぃ。でも嬉しいなあ」
「一緒にいた時間も長いからな。必然と大事にしたくなるんだよ」
「あはは‥‥嬉しい。あ、敵」
ズバババババババババババババババ!!!
後部機銃が発射された。俺は後ろを振り向く。どうやら聖は、遥か彼方にいる敵を狙撃したらしい。とんでもない射撃センスである。
「Oh‥‥‥」
少しだけ戦慄した。これで聖がいなければ、思わず英語で色々と喋ってしまうところだった。
「やれやれ‥‥‥あ、町が見えてきた」
そんなこんなしてるうちに町が小さく見えてきたので、俺は着陸態勢をとる。いきなり町のど真ん中に降りるわけにもいかないからだ。
ギャッ! キュキュキュ!!
「うし、百点満点」
自分の着陸に勝手に得点をつけ、地面に降り立つ。後からエアライドマシンともう一機のJu-00が着陸してきた。
「ん?シアとミーナの首に首輪が?」
そう。シアとミーナには奴隷につけるような首輪がついてたのだ。まあみすぼらしくはない。むしろ綺麗だとは思う。
「お、先にいたのか」
「おう拓人。あの首輪は?」
「蜂起が取り付けた。町に行くのに奴隷じゃない兎人とか可笑しいとのことだ」
「ああ‥‥」
もうあいつらのこと任せよーかな、と思った。駄目だけど。
「まあいいや。全員揃ったし行くか」
そう言って先頭を歩く。すると程なくして、門番がいる場所まで辿り着いた。
門番の格好は、革鎧に長剣を腰に身につけているだけで、兵士というより冒険者に見える。その冒険者風の男が呼び止めた。
「止まってくれ。ステータスプレートを。あと、町に来た目的は?」
規定通りの質問なのだろう。どことなくやる気なさげである。
「食料の補給がメインだ。旅の途中でな」
ふ~んと気のない声で相槌を打ちながら門番の男が俺のステータスプレートを確認する。そして、目を瞬かせた。ちょっと遠くにかざしてみたり、自分の目を揉みほぐしたりしている。その門番の様子をみて「あっ、ヤベ、隠蔽すんの忘れてた」と内心冷や汗を流した。
ステータスプレートには、ステータスの数値と技能欄を隠蔽する機能があるのだ。冒険者や傭兵においては、戦闘能力の情報漏洩は致命傷になりかねないからである。
咄嗟に嘘八百を並べた。
「ちょっと前に、魔物に襲われてな、その時に壊れたみたいなんだよ」
「こ、壊れた? いや、しかし……」
「壊れてなきゃ、そんな表示おかしいだろ? まるで俺が化物みたいじゃないか。門番さん、俺がそんな指先一つで町を滅ぼせるような化物に見えるか?」
おどけた仕草で両手を広げる。それに門番は苦笑いをした。
「はは、いや、見えないよ。表示がバグるなんて聞いたことがないが、まぁ、何事も初めてというのはあるしな……そっちの八人は……」
「なくした。以上。兎人は分かるだろ?」
「なるほどなあ‥‥。それにしても随分な綺麗どころを手に入れたな。白髪の兎人族と蒼眼の兎人族なんて相当レアなんじゃないか? あんたって意外に金持ち?」
「さあな」
適当にとぼける。
「まぁいい。通っていいぞ」
「ああ、どうも。おっと、そうだ。素材の換金場所って何処にある?」
「あん? それなら、中央の道を真っ直ぐ行けば冒険者ギルドがある。店に直接持ち込むなら、ギルドで場所を聞け。簡単な町の地図をくれるから」
「おぉ、そいつは親切だな。ありがとよ」
門番から情報を得て、俺たちは門をくぐり町へと入っていく。門のところで確認したがこの町の名前はブルックというらしい。町中は、それなりに活気があった。露店も結構出ており、呼び込みの声や、白熱した値切り交渉の喧騒が聞こえてくる。
が、その喧騒も少しだけ収まった。無理もないだろう。スラッとした白髪のお姉さん、金髪のロリ、白髪ウサミミ、蒼眼のウサミミが勢揃いしてるのである。傍から見たら絶世の美女勢揃いしてるのだ。見惚れても別に不思議ではない。
すると、血気盛んな男たちがワラワラと群がってきた。
「白髪のお姉さん!俺の彼女になってくれ!」
「金髪の幼女!ご奉仕願います!!」
「「そこのウサミミ!俺の奴隷に!!」」
欲望塗れの言葉が行き交う。当然聖たち含めて女性から痛い視線が男共に突き刺さる。
「蜂起」
「抹消!」
「からの“金剛五十閃”」
容赦なく弾幕を発射。一応威力は最小に抑えてあるが、男共はどこかに吹っ飛んだ。
「やれやれ‥‥行くぞ」
溜息を一つつき、門番に教えてもらったギルド支部を目指す。すると、一本の大剣が描かれた看板を発見した。どうやらここらしい。俺は重厚そうな扉を開き中に踏み込んだ。
中は清潔さが保たれた場所だった。入口正面にカウンターがあり、左手は飲食店になっているようだ。何人かの冒険者らしい者達が食事を取ったり雑談したりしている。
「へえ‥‥‥」
少し感心する。カウンターには大変魅力的な……笑顔を浮かべたオバチャンがいた。優しそうな人なので、すぐにカウンターへ向かった。
「おや、両手に花だねえ。いや、両手背中に花かい?」
「さあな。それよりここはギルド支部であってるかい?」
「ああ。ここは冒険者ギルド、ブルック支部だよ。ようこそ。ご用件は何かしら?」
「素材の買取を頼みたい」
「素材の買取だね。じゃあ、まずステータスプレートを出してくれるかい?」
「おう」
そして俺は、隠蔽したステータスプレートを渡す。
「それじゃあ登録には千ルタかかるけど‥‥‥あんた持ち合わせなさそうな顔してるね」
「それ含めて素材の買取だよ。買取金額から差っ引くってことにしてくれないか? もちろん、最初の買取額はそのままでいい」
「可愛い子四人もいるのに文無しなんて何やってんだい。ちゃんと上乗せしといてあげるから、不自由させんじゃないよ?」
オバチャンがかっこいい。思わず苦笑してしまった。
戻ってきたステータスプレートには、新たな情報が表記されていた。天職欄の横に職業欄が出来ており、そこに〝冒険者〟と表記され、更にその横に青色の点が付いている。
青色の点は、冒険者ランクだ。上昇するにつれ赤、黄、紫、緑、白、黒、銀、金と変化する。ちなみにこの世界の通貨である『ルタ』も、青、赤、黄、紫、緑、白、黒、銀、金の種類があり、左から一、五、十、五十、百、五百、千、五千、一万ルタとなる。
……お気づきだろうか。そう、冒険者ランクは通貨の価値を示す色と同じなのである。つまり、青色の冒険者とは「お前は一ルタ程度の価値しかねぇんだよ、ぺっ」と言われているのと一緒ということだ。切ない。きっと、この制度を作った初代ギルドマスターの性格は捻じ曲がっているに違いない。
ちなみに、戦闘系天職を持たない者で上がれる限界は黒だ。辛うじてではあるが四桁に入れるので、天職なしで黒に上がった者は拍手喝采を受けるらしい。天職ありで金に上がった者より称賛を受けるというのであるから、いかに冒険者達が色を気にしているかがわかるだろう。
「男なら頑張って黒を目指しなよ? お嬢さんたちにカッコ悪ところ見せないようにね」
「もちろんだ。それで、買取はここでいいのか?」
「構わないよ。あたしは査定資格も持ってるから見せてちょうだい」
俺は魔物の毛皮や爪、牙、そして魔石を取り出す。ついでにオスカーがいらないと言った素材も出した。
オバチャンが驚愕の表情をした。
「とんでもないものを持ってきたね。これは…………樹海の魔物だね?」
「ああ、そうだよ」
「樹海の素材は良質なものが多いからね、売ってもらえるのは助かるよ。ところであんたたち、何者だい?」
「そこは秘密さ。女には秘密が付き物らしいが、男にも秘密はあるんだよ」
「へえ‥‥良いこと言うじゃないか。文才あるね」
それからオバチャンは、全ての素材を査定し金額を提示した。買取額は四十八万七千ルタ。結構な額だ。
「これでいいかい? 中央ならもう少し高くなるだろうけどね」
「いやいや。これでいいよ。ところで、門番の彼に、この町の簡易な地図を貰えると聞いたんだが……」
「ああ、ちょっと待っといで……ほら、これだよ。おすすめの宿や店も書いてあるから参考にしなさいな」
「おぉう。中々に素晴らしい出来なんだが‥‥‥金とんなくていいのか?」
「構わないよ、あたしが趣味で書いてるだけだからね。書士の天職を持ってるから、それくらい落書きみたいなもんだよ」
「この上なく優秀な人だな」
「褒め言葉として受け取っておくよ。それより、金はあるんだから、少しはいいところに泊りなよ。治安が悪いわけじゃあないけど、その二人ならそんなの関係なく暴走する男連中が出そうだからね」
「既に承知済みさ」
「承知済み‥‥ああ、さっきの騒ぎはそういうことかい。あんたの正体がますます気になるよ」
「はは、まあそのうち分かるさ。それじゃあ色々ありがとうな」
そう言ってギルドを立ち去った。ユエは背中に、聖は右に、シアは左の布陣のままだが。更に蜂起とミーナが仲良く手を繋ぎながら続き、拓人、オスカー、ハジメが後方につく。俺はオバチャンにもらった地図‥‥‥というかガイドブックを見て、今日泊まる宿を探す。すると、〝マサカの宿〟という宿屋を見つけた。紹介文によれば、料理が美味く防犯もしっかりしており、何より風呂に入れるという。最後が決め手だ。
というわけで俺たちはマサカの宿に向かった。
宿の中は一階が食堂になっているようで複数の人間が食事をとっていた。俺たちが足を踏み入れると、当然のように美女四人に視線が集まる。いや、よく観察すればハジメやオスカーにも視線が集まっている。まあ、ハジメは別にブスじゃない。むしろイケメンの部類だ。オスカーも同じである。まあ二人共本命がいるらしいが‥‥。
視線を全て無視して、カウンターらしき場所に行くと、十五歳くらい女の子が元気よく挨拶しながら現れた。
「いらっしゃいませー、ようこそ〝マサカの宿〟へ! 本日はお泊りですか? それともお食事だけですか?」
「宿泊だ。このガイドブック見て来たんだが、記載されている通りでいいか?」
「ああ、キャサリンさんの紹介ですね。はい、書いてある通りですよ。何泊のご予定ですか?」
女の子がテキパキと宿泊手続きを進める。
「一泊だ。食事付きで、あと風呂も頼む」
「はい。お風呂は十五分百ルタです。今のところ、この時間帯が空いてますが」
女の子が時間帯表を見せる。とりあえず二時間とった。「えっ、二時間も!?」と驚かれたが、俺はゆっくり入りたいし女子は風呂が長いと聞いているので譲りはしない。まあ時間分けてもどうせ混浴になるんだろうが。
「え、え~と、それでお部屋はどうされますか? 二人部屋と三人部屋が空いてますが……」
「うーん。蜂起とミーナは確定だよな。後は‥‥どうしよう。とりあえず三人部屋一つと二人部屋三つで」
「‥‥‥組み合わせは?」
ユエが背中から聞く。
「オスカーとハジメ。俺と聖と誰か。後は拓人と誰かやな」
「俺は誰でもええで」
「ユエとシアで決めろ。ただし『静かに』だぞ?」
「‥‥‥‥‥ん」
「はぁい」
そう言ってチェックインを済ませ、俺は部屋に向かった。そしてそのままベッドダイブ。聖が膝枕するのを感じながら、俺は眠りにつくのだった‥‥‥。
数時間ほど眠ったのか、夕食の時間になったようで聖に起こされた俺は、下の階へ向かった。何故か、チェックインの時にいた客が全員まだ其処にいた。
それをスルーし、俺は食事を頼んだ。
「そういやユエとシア、どっちが俺たちの部屋に来るの?」
「あ、私ですよ〜」
「シアか。ユエ、どうしたんだよ」
「‥‥拓人にコウのこと聞きたいから」
「なるほどなあ。拓人、頼むわ」
「頑張って理性効かす」
「おう、頑張れ‥‥‥これ美味いなあ」
久しぶりのマトモな料理に舌が喜ぶ。みんな満足のようだ。食事の後は風呂なので、俺たち男が先に入る。
カポーーン‥‥‥
「ふぁぁあ‥‥‥やっぱり風呂はいいな」
「せやな」
「あれ?ハジメ、オスカー。何作ってんの?」
「おう蜂起。小さい軍艦だ。戦艦、重巡、軽巡、駆逐艦、潜水艦があるぞ」
「またすげえモンを‥‥‥」
「ちなみに普通に砲弾発射や魚雷発射、爆雷投射、カタパルト発進できるからな」
「細かいなおい」
思わずツッコんだ。
「操作はラジコンと同じだ。少し試してみるか?」
「‥‥思った。砲弾や魚雷の威力どのぐらい?」
「普通に艦隊撃滅できる」
「‥‥‥自動再生付きだな?」
「もちろん」
「ならやるぞ」
俺は潜水艦を受け取った。先進型と名高い伊400型だ。現代の潜水艦の礎とも言える。理由は、潜水艦のくせに爆撃機を発艦させることができることにある。
「シャオラァ。いくぞぉ」
結果‥‥‥
「「「「コウ強すぎだろ」」」」
四人にツッコまれた。俺は男のロマンである戦艦で挑んできた四人を数分のうちに撃沈してしまったのだ。
「いや戦艦で潜水艦は死」
「なら駆逐艦で」
第二戦目‥‥
「はあ?」
「どこだよ」
「見えねえ」
「狙撃?」
「‥‥‥発射」
ズォォォォォォォォォォォォォ‥‥‥
バシャーン! バシャーン!
バシャーン! バシャーン!
「はい、撃沈」
「「「「‥‥‥‥」」」」
「ん?何でジト目?」
「‥‥‥どこにいた?」
「底の方」
「どうやって撃沈した」
「真下から魚雷を散布した」
「「「「‥‥‥‥‥」」」」
「そろそろ出ないと女子来るが‥‥」
「「「出ますよ」」」
身体はとっくに洗ったのでそそくさと拓人、ハジメ、オスカーが風呂場から出る。
「‥‥腰にタオル巻くか」
「せやな」
その後、女子が入ってきて『色々と』大変だったのは言うまでもない。
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