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雲に隠れた月は朧げに聖なる光を放つ

作者:かびちゃ
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第十一話 番人の特権と戦闘訓練



「ば、番人‥‥‥まさか‥‥‥‥」

狼狽える虎の亜人。それほど特別なものなのだろうか。
まあ番人とくれば特別感はあるが‥‥。

適当に考え事をしていると、虎の亜人のリーダーが膝をついた。見れば他の亜人も皆、膝をついている。

「‥‥ようこそ、番人様。我らが樹海へ」

「??‥‥‥おう」

「要件はなんでしょうか」

「おう、樹海の深部、大樹の下へ行きたいんだけど‥‥」

「大樹の下へ……? 何のためにですか?」

「そこに、本当の大迷宮への入口があるかもしれないからだ。俺たちは七大迷宮の攻略を目指して旅をしている。ハウリアは案内のための助っ人さ」

「本当の迷宮‥‥? 七大迷宮とは、この樹海そのものですよ。一度踏み込んだが最後、亜人以外には決して進むことも帰る事も叶わない天然の迷宮ですが‥‥」

「‥‥それだと、可笑しいんだよね」

「‥‥貴方は?」

「オスカー・オルクス。オルクス大迷宮を作った人間さ」

「オルクス大迷宮を‥‥!?」

「それで、なんで可笑しいかだけどね。ここの魔物は弱すぎるんだ。もちろんコウたちが強いのもある。でも、オルクス大迷宮の魔物は普通じゃ即刻殺されるような化物揃いだよ」

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

「大迷宮というのは、〝解放者〟たちが残した試練なんだ。もしここが大迷宮だとしたら、亜人族は簡単に深部へ行けるでしょ? それじゃあ、試練になってない。だから、樹海自体が大迷宮ってのは可笑しいってことさ」

説得力のある言葉に亜人たちは頷く。

「ところで番人ってなんなんだ?」

俺はとても気になっている一つの疑問をぶつける。メルドさんには特別な装備を与えられた。それほどに珍しい存在ということだが‥‥‥。そして虎の亜人は番人様と呼んだのだ。なにかあるに違いない。

「‥‥はい、番人様というのは‥‥‥」

説明が始まる。どうやら番人というのは、神代の頃存在した六人の番人と一人の天使によって構成されていた人間の集まりらしい。彼らは特別な力‥‥‥というか天職を持っていながら、戦争のためには使わずに平和のためだけに使用していた。
心優しい彼らは、差別されていた亜人族にも対等に接していた。パンすら寄越さないのを見かねて何かご馳走したり、面倒見よく遊んであげたり‥‥‥。そのことから亜人族にとっては英雄みたいな人だったらしい。

「以降、我々亜人族には一つの言い伝えがあるのです。『番人の力を持った人間が現れたら、その仲間共に敵対せずに歓迎せよ』と」

「‥‥‥なるほどなあ。俺、拓人、蜂起、聖、千秋、若芽か‥‥」

ちなみに千秋と若芽の天職は、千秋が運の番人、若芽が食の番人である。

「そうだ、番人たちの最期は?」

「はい‥‥‥番人様たちは、何者かに暗殺されたとされています。ただ一人、時を止める能力を持ったものだけは生き残り、今もどこかでひっそりと暮らしているとか」

「‥‥‥存命してるんだ」

「ひとまず、本国の方まで参りましょう。私一人の考えではお通しできない可能性がありますので」

「了解だ。そんじゃあさっさと行くか」

俺は虎の亜人に出発を促し、歩き始めるのだった‥‥。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「‥‥‥ふむ、それじゃあ君たちが番人の能力を持った者なのか?」

「そうだ」

俺は現在、亜人族の住む街であるフェアベルゲンにて長老たちと話しをしていた。

「証拠は示せるか?」

「プレートでいいかな。俺の能力は示すのが難しいんだわ」

そう言いながらポイッとプレートを投げ渡した。

「ふむ‥‥‥?!これは‥‥‥」

それぞれの長老が驚愕した顔になる。そして‥‥‥。

「‥‥ようこそ、番人様の御子息様よ」

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥おう」

「我々は、敬意を持って貴方様を歓迎させていただきます。お望みも叶えましょう。我々の同胞から遣いを出しますので、そのものにお従いください」

「ん?ハウリアに案内してもらうつもりだったんだが‥‥‥‥」

「ハウリア族に案内してもらえるとは思わないことです。そいつらは罪人。フェアベルゲンの掟に基づいて裁きを与えます。何があって同道していたのか知りませんが、ここでお別れです。忌まわしき魔物の性質を持つ子とそれを匿った罪。フェアベルゲンを危険に晒したも同然なのです。既に長老会議で処刑処分が下っております」

「‥‥俺も魔力を操作できるのに、そいつらは始末するのか」

「貴方様は特別なお方です。お話を聞いたところ、お仲間にも番人様の御子息がいらっしゃるとか‥‥‥」

「ぶっちゃけ言えば俺ら全員魔力を直接操れるんだわ。普通なら俺ら全員処刑するのが筋だろ?」

「何度も言いますが、貴方様とそのお仲間は特別なお方です。それに、言い伝えで歓迎せよともありますので」

「‥‥‥‥一つだけ聞こう。お前たち、差別は嫌いか?」

「??もちろんですが‥‥‥」

「‥‥‥で、お前たちが今してることは、差別って気がついてるか?」

「?!!」

「俺は差別を許さない。かつて差別に近い扱いをされてたからな」

「差別‥‥‥?」

「話そう。俺の過去をな」

そうして俺は語りだす。虐げられ、それでも生きなければならない毎日。数々の暴行。最愛だった者の死。崩壊。暴走。

「‥‥以上だ。俺にとっては、ハウリアも大切な存在だ。それを差別し、さらには殺すと言うのなら‥‥‥俺は多分暴走するな」

しんみりとした空気に容赦なく爆弾を放り込む。

「‥‥‥分かりました。彼らは貴方様の一族と見なし、我々は一切の手出しをしません」

「話を分かってくれてありがとう。俺も君たちには一切の手出しはしないと約束する」

そう言い、ハウリアたちの元へ行く。

「ああ、そうだ。ここって霧が凄かったよな?多分晴れないと樹海の最深部まで行けないと思うんだが‥‥」

「それでしたら、十日後がよろしいかと」

「うし」

必要なことはすべて聞き出せたので、俺は外に待たせていたハウリアの元まで向かう。

「あ、コウ殿‥‥‥。どうでしたか?」

「うん?どうも何も、お前ら処刑されずに済んだわ」

その言葉にシアたちハウリア族は、未だ現実を認識しきれていないのか呆然としている。ついさっきまで死を覚悟していたのに、気がつけば追放で済んでいるという不思議。内心動揺しまくっているのが目に見えて分かった。

「ま、それは良いとして‥‥‥」

「お前矢継ぎ早すぎだよ」

拓人にツッコまれた。

シアが、オロオロしながら尋ねてくる。

「あ、あの、私達……死ななくていいんですか?」

「? さっきの話し聞いてなかったのか?」

「い、いえ、聞いてはいましたが……その、何だかトントン拍子で窮地を脱してしまったので実感が湧かないといいますか……信じられない状況といいますか……」

「わ、私もです‥‥。信じられない‥‥‥どうしたらいいんですか?」

すると、聖がシアとミーナを抱きしめ、静かで透き通るような声で話した。

「……素直に喜べばいいと思うよ」

「聖さん‥‥‥」

「素直に‥‥?」

「……シアちゃんならコウ。ミーナちゃんなら蜂起に救われた。それが事実。受け入れて喜べばいいの」

恐ろしく説得力のある言葉だとシアたちを離し、俺の手を自然と繋いできた聖を見ながら思う。あ、浮気じゃないですよ?最愛は千秋ですから。

「素直に‥‥‥」

「喜ぶ‥‥‥」

その言葉が紡がれた次の瞬間、二人が走り出した。シアは俺の元へ、ミーナは蜂起の元へである。

「コウさ~ん! ありがどうございまずぅ~!」

「蜂起さん‥‥!」

「ウボア」

「おい蜂起‥‥そんな達した目で俺を見るな。あとユエ?ジト目はやめてくれ」 

「‥‥‥後で構って」

「あ、なら私もー」

「コウ‥‥羨ましいわ」

「なんかごめんハジメ」

途端賑やかになる。ハウリア族の皆もようやく命拾いしたことを実感したのか、隣同士で喜びを分かち合っている。

「やっぱり、笑ってるのが一番だよ」

思わずそう零すのだった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「さて、お前等には戦闘訓練を受けてもらおうと思う」

なんとなく居にくいのでフェアルゲンから立ち去り、一先ず大樹の近くに拠点を作って一息ついた時の、ハジメの第一声がこれだった。拠点といっても、拓人がさり気なく盗ん……貰ってきたフェアドレン水晶を使って結界を張っただけのものだ。その中で切り株などに腰掛けながら、ウサミミたちはポカンとした表情を浮かべた。

なぜハジメが取り仕切ってるのかというと、これはハジメがやってみたいからという願いがあったからだ。

「え、えっと……ハジメさん。戦闘訓練というのは……」

困惑する一族を代表してシアが尋ねる。

「そのままの意味だ。どうせ、これから十日間は大樹へはたどり着けないんだろ? ならその間の時間を有効活用して、軟弱で脆弱で負け犬根性が染み付いたお前等を一端の戦闘技能者に育て上げようと思ってな」

「な、なぜ、そのようなことを……」

「めちゃめちゃに言うやんハジメ。まあ、仕方ないことだけどなあ‥‥」

「いいか、俺たちがお前たちと交わした約束は、案内が終わるまで守るというものだ。じゃあ、案内が終わった後はどうするのか、それをお前等は考えているのか?」

ハウリア族たちが互いに顔を見合わせ、ふるふると首を振る。カムも難しい表情だ。漠然と不安は感じていたが、激動に次ぐ激動で頭の隅に追いやられていたようだ。あるいは、考えないようにしていたのか。

俺が言葉を引き継ぐ。

「まあ要するに、俺たちが消えたらどうせ窮地に追い込まれるから、そうならないためにも戦闘訓練をしようということだ。少しでも生きるために努力するためにも、ある程度は戦えたほうがいいし」

「コウさんがそう言うなら‥‥‥私はやります!!」

シアが決然とした表情で立ち上がる。

「いい表情だ。他はどうする?」

その言葉に一人、また一人と立ち上がっていく。そして、男だけでなく、女子供も含めて全てのハウリア族が立ち上がったのを確認するとカムが代表して一歩前へ進み出た。

「コウ殿、ハジメ殿……宜しく頼みます」

言葉は少ない。だが、その短い言葉には確かに意志が宿っていた。襲い来る理不尽と戦う意志が。

「そこまでの決意があるなら十分さ。それじゃあこれから早速初めるぞ。ハジメ、拓人、蜂起はカムたちを。ユエと聖はミーナを。シアは俺とオスカーとだ」

「「「「「「了解!」」」」」」

そう言ってババッと散らばる。俺はそれを見届けて、シアとオスカーを連れ離れた場所まで来た。

「えっと‥‥‥戦闘訓練って何をするんですか?」

「とりあえず魔法適正があるか見極めないとな。オスカーも判断してくれや」

「分かったよ。それじゃあ始めようか」

「はいですぅ!」



そんなこんなで二日後‥‥‥。


「うん、こりゃあ適正なしだなあ‥‥」

「うん‥‥ハジメと同じ感じだ」

ここ二日で、シアの魔法適正を見てみた。が、残念ながら無いに等しかった。

「でも‥‥一つ使える武器は見つかったな」

「身体能力強化でしょ?」

そう、唯一まともに使えた魔法が、身体能力強化だ。掛けられる倍率は現時点で俺の半分といったところだ。

「とりあえずシア。お前には格闘戦を教えるわ。攻撃は俺が、防御はオスカーが鍛えさせてもらう」

「は、はいですぅ!」

「じゃあまずは攻撃な。まず兎人族の特徴として、索敵能力と隠密性はとても高いからそれを使った前提で進めてくぞ」

「えっと‥‥つまり、奇襲攻撃前提ってことですか?」

「そういうこと。で、基本の攻撃は上半身で行うんだ。例えば‥‥‥」

俺はオスカーに作ってもらったサンドバッグ人形の正面に立つ。

「オスカー、動かしてもらってもいいか?」

「オッケ。行くよー」

「例えば相手から近づいてきたとする。そしたら‥‥‥」

俺は近づいてきた人形を軽く腕を使って躱す。

「最初は躱すことから始める。そして二撃目から攻撃するんだ」

「なるほど‥‥‥やってみてもいいですか?」

「あ、俺相手だからな」

そう言って組手を始めた。

「俺がストレートに突っ込んできたら‥‥‥『ヒョイッ』そうだ。そんな感じで避ける。それじゃあ反撃方法を教える。反撃方法の一撃目は、武器がないなら手刀。あるならその武器で軽く弾き飛ばすに留めるんだ」

「なんでですか?」

「いきなり重い一撃をしようとしても躱されたら意味がない。それならば軽く牽制して体力を削った方がいいんだよ」

その後も俺は護身術を教える。

「‥‥‥とまあ、こんな感じだ。それじゃあ次は防御の練習な。オスカー頼むわ」

「うん。それじゃあ行くよ?」

その後、シアの悲鳴が樹海中に響き渡ったとかなんとか。

ーーーーーーーーーーーーーー

訓練を始めてから十日後‥‥‥。

結論から言おう。シアはとても優秀な戦士に育った。本気のシアは、だいたいハジメの六割方の力に匹敵するようになった。

「あ、あの‥‥コウさん。今日で最後ですよね?」

「そうだな。卒業試験と行こうか」

「卒業試験‥‥分かりました。それじゃあ、合格したら‥‥‥」

「うん?ああ、何か見返りが欲しいのね。それじゃあ‥‥‥旅に着いてきても良いというのは?」

「コウさん‥‥‥‥!」

「あくまでも『合格したら』だ。合格条件は、俺の魔法攻撃をくぐり抜けて一撃でも与えたらにしよう」

「分かりました!」

「俺も能力はフルで行使させてもらう。お前なら時止で俺が移動しても場所を突き止められるだけの索敵能力がある。頑張るんだぞ」

「はい!それじゃあ始めましょう!!」

「よし、行くぞぉ!」

魔力全解放。フルパワーでシアと相対する。

「“金剛五十閃”!」

いきなり広範囲に弾幕をばら撒く。かなりの速度で、弾幕がシアに迫る!

「このぐらいなら!」

慣れた様子で弾幕を避けるシア。

「どんどん行くぞ!“疾風剣乱”!!」

今度は無数の刃がシアを襲う。避けてもホーミングミサイルの如くどこまでも追いかける。

「セイヤァ!」

するとシアは、近くにあった大木を蹴り飛ばした。途端に大木は粉砕され、即席の散弾と化する。刃はすべて叩き落とされた。

「“レイジバースト”」

攻撃は更に続く。俺は三つの大きな魔弾を召喚。シアに向けて飛ばした。

「これぐらい!」

「舐めるなぁ!」

その言葉で三つの魔弾が破裂。先程のシアのように散弾となって辺りに降り注いだ。しかしシアは、優れた索敵能力を使って全てを躱す。

「“氷牙”」

今度は辺り一面が凍りつく。

「わわ‥‥おっとっと‥‥‥」

滑ってバランスを崩したのを見逃さない。さらなる追撃だ。

「“乱れ五月雨”」

極光がシアに迫る。

「ひゃあっ!?危なかったですぅ‥‥‥」

間一髪躱すシア。だがそれも大きな隙だ!

「“剣風豪雨”」

剣が雨のように降り注ぐ。それをやはり優れた索敵能力で回避するシア。

「“風刃”」

今度は突風だ。すると‥‥‥。

「む?どこに行った‥‥‥」

シアは風に紛れて気配を消した。磨きのかかった彼女の気配遮断は、俺でも中々捉えることができない。

「やるな‥‥‥“散弾爆雷”」

褒めながらも広範囲に爆雷を散布する。

「‥‥‥爆破!」

ドバババババババババババババ‥‥‥‥

周囲の空気が破裂したかのような感覚に陥る。少し爆雷が多すぎたかもしれない。

「これで炙り出せるか‥‥‥?」

「もらいましたぁ!」

すると、すぐ近くから声がした。俺は腰を落として格闘戦の用意をする。

「シャオラァ!!」

シアが真後ろから突っ込んで来た!

「来いやぁ!」

バシッ! ドガァ! ベギッ!


シアの拳と俺の拳が激突する。

「ッ!時止!!」

一発危ない一撃が来たので、時止で後ろに回る。

「オリャア!!」

するとシアは迷わず後ろ回し蹴りを行使してきた。流石である。俺は後ろ回し蹴りを弾きながら感心する。

「オラァ!まだまだだぞ!!」

「こっちもまだまだですぅ!!」

再びシアが詰め寄る。今度は足技も使ってきた。訓練後も練習したのか、バリエーションが豊富なっている。俺はダメージになりそうな攻撃だけを弾き、後は後ろに回避を続けた。

「“閃光迅雷”!」

ちょっとだけイレギュラーな攻撃を後退しながら行使する。俺の詠唱によって辺りが光に包まれ、シアには電撃が走った。

「アバババババババババ!?」

「隙有り!!」

バックステップから踏み出し、シアに突貫する。すると、ニヤリとシアが笑った。

「待ってました!ですぅ!!」

突貫した俺に向かって、シアは手刀を繰り出して来た。

「チッ!」

俺は手刀を弾く。その次の瞬間‥‥‥。


ドガア!!


やけに音が響いた。見ればシアの拳が俺の腹に刺さっている。

「‥‥‥“報復氷結”」

「ふぇ! ちょっ、まっ!」

問答無用。シアは手から凍りついていった。そのまま全身を氷が包み、やがて頭だけ残してシアを氷漬けにした。

「づ、づめたいぃ~、早く解いてくださいよぉ~、コウさ~ん」

「はは、悪いな。だが、いい一撃だったぞ」

「ほ、褒めるのはいいですから魔法解いてくださいよぉ〜。さっきから寒くて寒くて……あれっ、何か眠くなってきたような……」

鼻水を垂らしながら、うつらうつらとし始めるシア。寝たら死ぬぞ!の状態になりつつある。とりあえず魔法を解いてあげる。

「ぴくちっ! ぴくちぃ! あうぅ、寒かったですぅ。危うく帰らぬウサギになるところでした」

可愛らしいくしゃみをし、近くの葉っぱでチーン! と鼻をかむシア。

「いやゴメンて。でもお前、合格だわ」

「ふぇ?本当ですか?」

「後はユエと聖次第だが‥‥俺は構わない」

「ホントですか!? やっぱり、や~めたぁとかなしですよぉ! ちゃんと援護して下さいよ!」

「分かってるよ」

思わず苦笑しながらそう告げる。

「僕も着いてくるのは構わないよ」

「オスカーさん‥‥ありがとうございます!」

オスカーにも感謝をするシア。

そろそろ時間的にはハウリア族への訓練も終わる頃だ。俺は二人を連れて拠点まで戻った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

俺たちがハジメのもとへ到着したとき、ハジメは腕を組んで近くの樹にもたれたまま瞑目しているところだった。

気配に気が付いたのか、ハジメはゆっくり目を開けると俺たちの姿を視界に収めた。
ハジメは片手を上げて声をかけてきた。

「よっ、お疲れ様」

「おう」

「ハジメさん! ハジメさん! 聞いて下さい! 私、遂にコウさんに勝ちましたよ! 大勝利ですよ! いや~、ハジメさんにもお見せしたかったですよぉ~、私の華麗な戦いぶりを!」

「はあ?勝ったって‥‥‥」

「なんだかんだで未強化時のお前の六割ぐらいの力だぞ?少し油断したらいいの一発もらった。一撃与えたらこいつの勝ちだったからさ」

「マジか……てか六割だと?最大値だよな?」

「そうだな。鍛錬次第ではもっと強くなりそうだ」

「おぉう。そいつは化物レベルだ」

「んで、こいつと約束したんだよ。卒業試験に合格したら旅に連れてくってさ」

「ああ‥‥‥それでこんなにはしゃいでるんか」

「ハジメは構わないか?」

「ああ。一般的に見たらとんでもなく強いってことだからなあ。異論はない」

「!?ハジメさん!!」

「最大の関門はユエだが‥‥‥コウが了承してるんなら大丈夫だろ」

すると、ユエ、聖、ミーナ、拓人、蜂起も戻ってきた。

「おう、お帰り」

「コウ‥‥‥」

トテテテテテテ‥‥‥ ポフッ

ユエが抱きついてきた。突然の甘えモードである。

「んで?ミーナはどんな感じよ」

「そうだね。魔法適正抜群だよ。ユエほどではないけど‥‥‥」

聖が答える。

「‥‥‥比較すると?」

「私の八割ぐらいかな」

「いや化物」

十二分に化物である。

「それと、魔法弾で攻撃するんじゃなくて魔法でなにかを召喚する戦い方の方があってるみたい。後は書換を使って自分と相手の位置を入れ替えるとか‥‥‥」

「めちゃめちゃ強いやん」

「ミーナちゃんも旅についてきたいみたいだけど‥‥‥」

「‥‥ユエは?」

「私は構わない‥‥‥」

「他のみんなも了承してるん?」

「してるよー」

「なら俺も構わない。それとシアもついてきたいみたいなんだけど‥‥」

「私は良いよ。ユエは‥‥‥」

「‥‥‥‥‥‥‥‥コウがいいなら」

「だってよ、シア」

「‥‥‥コウ争奪戦」

「('ω')ファッ」

「あはは‥‥コウ、頑張ってね」

「むう‥‥‥余裕‥‥‥」

「特別は私だもん。最愛は千秋ちゃんでしょ?」

「む‥‥‥」

「私も頑張りますよぉ」

「え?お前も?」

‥‥‥なんというか、前途多難な旅になりそうである。
そう、予感するのだった‥‥。


 
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