雲に隠れた月は朧げに聖なる光を放つ
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第五話 最愛との再会
「聖‥‥」
俺は最愛だった人の名を呟く。やがて、彼女も目を開けた。
「コウ‥‥いきなりすぎるよ」
「はは‥‥ごめんよ」
「「「いや待て待て待て」」」
ツッコんできた三人。
「おいコウ!その女の子は誰だよ!」
「俺も知らねえ!てかお前どんだけ女を侍らせるんだよ!」
「彼女いないのにそれはキツイんだが?!」
「いや落ち着けよ。こいつは‥‥俺の幼馴染だ。小六のときに訳有で死んでしまったが、幽霊として俺の側にいたんだよ。そんで、時間を巻き戻して復活させたってわけ」
「よろしくねー」
「うはあ‥‥絶世の美女じゃねえか。凄えなコウ」
「うん、これが人妻じゃなかったら速攻で告白するわ」
「え?拓人彼女いるよね?」
「それとこれは別だ蜂起」
サラッと浮気疑惑が出た拓人をスルーして、聖と向き合う。
「あ、そうだ。ステータスプレートないんだよな‥‥‥俺のに二人分登録できるか?」
「やってみようか」
とりあえずプレートを取りだし、聖の指を針で刺して血を垂らす。すると、プレートの画面(?)が変化を始めた。
「んん?二ページ目‥‥だと?」
そう、ステータスプレートに二ページ目が追加されたのである。早速見てみる。
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雲月聖 15歳 女 レベル:30
天職:天使
筋力:120
体力:140
耐性:250
敏捷:300
魔力:5500
魔耐:3900
技能:幽霊化・槍術・全属性適正・全属性耐性・毒無効・気配遮断・暗歩・霊力変換・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+効率上昇]・魔力高速回復・複合魔法・魔法作成・魂魄魔法・願い事・自動再生・聖なる歌・天使の加護・戦意高揚・言語理解
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‥‥なにやら見慣れない能力が盛りだくさんだ。まず目を見張るのは天職だ。まさかの天使である。そして能力値。魔法に偏りまくってる。が、他の能力も悪いわけではない。敏捷に関してはメルドさんと同レベルということだ。中々の速さで動ける。技能も魔法だらけだ。しかも魂魄魔法というものは、神代魔法と言うらしく、とんでもなく強力なものらしい。この魔法は、魂について操れるとか。さらに元々幽霊だったのもあり、普通に幽霊になれるらしい。他にも詠唱をすることでどんな願いも叶えられる「願い事」や味方の能力値を底上げする「天使の加護」というものまで使えるらしい。
「まあ、後衛型だよなあ。でも槍扱えるから中衛もできる‥‥」
「ある意味一番チートだ」
ハジメが戦慄した表情を見せる。
「とりあえず先に進も?ここ、クリアするんでしょ?」
「お、おう‥‥そうだな」
俺たちは聖に引っ張られるようにして、先を急ぐのだった‥‥‥。
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階層はどんどん下がっていく。俺たちはこの間に、様々な魔物を撃退しては喰らう生活をしていた。ちなみに聖は、イメチェンしたいからということで胃酸強化をつけずに魔物を食べた。当然痛みが襲う‥‥‥はずだったのだが、何故か聖は問題がなかった。そう、見落としていたが、聖には毒無効という技能がついていたのだ。
‥‥まあ痛みはなくても、髪の色は抜け落ちてしまったが。しかしそれを狙っていたらしい。聖は髪の毛以外の外見の変化がなく、見た目は雪のような髪をした女の子だ。これまでの色気に加えて神秘性も上昇したのは言うまでもない。
なんだかんだありながら、俺たちは五十階層まで下りてきた。これまでとは違う不気味さ漂う空間だ。しかし俺は気にせず目の前に現れた扉を開けようとした。すると次の瞬間‥‥
バチバチ!!
「ん?」
俺はタイフーンで電撃を回収しながら今起こったことを少し考える。と、その時。
――オォォオオオオオオ!!
突然、野太い雄叫びが部屋全体に響き渡ったのだ。
俺は変身し、ツェリスカを構える。ハジメもドンナーを抜いた。
目の前に現れたのは、サイクロプスだ。壁と同化してたみたいだ。おそらく侵入者迎撃用だろう。手にはどこから出したのか四メートルはありそうな大剣を持っている。
‥‥まあ、振り回させるつもりはないが。
「時止!」
時間を止める。そしてツェリスカをピタリとサイクロプスの目に合わせた。
ドガアン!
まずは一発。銃弾はサイクロプスの目の前で静止している。
「もう一発」
ドガアン!
もう一体のサイクロプスにも発砲。目の前で銃弾を止めた。
「よし‥‥解除」
再び時は動き出す‥‥と、同時にサイクロプスが脳みそを撒き散らして後ろに倒れた。ついでとばかりに扉も貫通している。やはり恐ろしい威力だ。
「おいおい‥‥やっぱり時止はチートだな」
ハジメが呆れた顔をする。俺は軽く受け流し、扉を蹴倒した。
「あ、拓人。サイクロプスの肉を取っといてくんね?」
「あいよ」
拓人にサイクロプスの肉を取ってもらい、生のままだが食う。すると、サイクロプスだったからか筋肉がより一層発達した。
「とりあえずステータスっと‥‥」
俺はステータスプレートを取り出した。
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緋鷹幸 15歳 男 レベル:8
天職:時の番人
筋力:1850
体力:1000
耐性:770
敏捷:630
魔力:560
魔耐:550
技能:時止[10000秒][+瞬間停止]・巻き戻し[4年][+未来具現化4年]・霊力変換・全属性適正・暴走[+覚醒]・魔力操作・魔力自動回復・護身術・徒手空拳適正・マイナスG耐性・空間制圧能力・身体能力強化・射撃・威圧・言語理解・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚]・風爪・金剛
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やはり筋力や耐久力が上がった。新しく手に入った「金剛」は、簡単に言うと身体を硬くする能力らしい。一時的に鉄と同じぐらいの硬度になるとか。装備の素の耐久力と、金剛を使えばかなりの防御力になるだろう。
俺のプレートを見て、聖以外の三人もサイクロプスを食す。やはりみんな筋力と耐久力が上昇したみたいだ。
「さて、腹も膨れたからこの先に行きますか」
俺は先程蹴倒した扉の奥へと足を進めた。中は、聖教教会の大神殿で見た大理石のように艶やかな石造りで出来ており、幾本もの太い柱が規則正しく奥へ向かって二列に並んでいた。そして部屋の中央付近に巨大な立方体の石が置かれており、部屋に差し込んだ光に反射して、つるりとした光沢を放っている。
「ほへえ‥‥不気味だなあ」
「おい、コウ」
「あん?」
「あの立方体、何か人みたいなのいないか?」
「んん?‥‥ああ、確かにな。もっと近づいてみるか‥‥」
俺は立方体に近づこうとする。するとその時だった。
「……だれ?」
かすれた、弱々しい女の子の声が聴こえたのは。やはり人がいるらしい。俺は急いで立方体の前に近寄った。
「‥‥まさか人が‥‥なあ」
上半身から下と両手を立方体の中に埋めたまま顔だけが出ており、長い金髪が某ホラー映画の女幽霊のように垂れ下がっていた。そして、その髪の隙間から低高度の月を思わせる紅眼の瞳が覗のぞいている。年の頃は十二、三歳くらいだろう。随分やつれているし垂れ下がった髪でわかりづらいが、それでも美しい容姿をしていることがよくわかる。
ハジメたちも俺の近くに来て、女の子を見てほほぅ、となっている。特に聖は、
「可愛い!」
となっている。
「とりあえず聞こう。なんでこんなとこで封印されてる?」
「‥‥裏切られた」
「んん‥‥裏切られた、か。だがそれは、お前が封印された理由になっていない。その話が本当だとして、裏切った奴はどうしてお前をここに封印したんだ?」
ハジメも問う。
「私、先祖返りの吸血鬼……すごい力持ってる……だから国の皆のために頑張った。でも……ある日……家臣の皆……お前はもう必要ないって……おじ様……これからは自分が王だって……私……それでもよかった……でも、私、すごい力あるから危険だって……殺せないから……封印するって……それで、ここに……」
枯れた喉で必死にポツリポツリと語る女の子。
「殺せない‥‥か。不死身だな?」
「……(コクコク)」
「まだ凄い力がありそうだ‥‥他には?」
「魔力、直接操れる……陣もいらない」
「あー‥‥俺たちと同じだな」
「??」
「俺たち全員、魔力を直接操れるんだわ。例えば‥‥ほら」
俺は分かりやすいように詠唱なしで風の上級魔法を放つ。
「な?俺たちも魔力を直接操れるんだ」
女の子はボウッと見てくる。そして、泣きそうな顔で告げた。
「……たすけて……」
「うし、分かった。みんな構えてくれ」
俺の合図で全員が攻撃の準備をする。ハジメはドンナーを、拓人は指揮棒を、蜂起は如意棒を、聖は最上級魔法を、俺はツェリスカを構えた。
「行くぜえ‥‥うちーかたー始めえ!!」
俺の合図で一斉掃射が始まる。
ドガアン!ドガアン!ドガアン!
ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!
「行け!ファンネル!!」
ドゥ!ドゥ!ドゥ!ドゥ!ドゥ!
「狙撃銃変形‥‥ファイヤ!」
ドォォォォォォン‥‥!
「〝破壊の息吹〟」
キュァァァァァァァァァァァ‥‥‥
バリィィイン‥‥‥
立方体が砕け散った。一糸纏わぬ女の子。ペタリと地面に座り込んだ。やせ衰えているものの、それでもどこか神秘性を感じさせるほど美しかった。
俺はハジメから神水を受け取り、女の子に飲ませる。みるみると女の子の血色がよくなった。
「ハジメ、外套」
「おう」
ハジメに外套をもらう。そしてそれを女の子に渡した。
「……ありがとう」
女の子からお礼が来た。色んな意味がありそうだが‥‥。
女の子が抱きついてくる。長い、いや、永い時間を一人で過ごしたのだろう。しかも一番信頼してたであろう人に裏切られて。
「‥‥よく、頑張ったな。これで自由さ」
妹をあやすかのように頭をポンポンと叩く。‥‥まあ、この娘は吸血鬼だから300歳以上だ。ロリババァである。が、言ったら殺されそうなので黙る。
「……名前、なに?」
女の子が囁くような声で聞いてきた。そういえば名前すら名乗ってなかった。
「コウだ。緋鷹コウ。こっちにいるのは、左からハジメ、タクト、ホウギ、ヒジリだ」
「コウ‥‥ハジメ‥‥タクト‥‥ホウギ‥‥ヒジリ‥‥コウ‥‥‥‥」
名前を連呼する女の子。まるで大事な物を体に刻み込むかのように。
「ん‥‥覚えた。もう忘れない」
「そりゃ良かった。ところで君の名前は?」
「……名前、付けて」
「は? 付けるってなんだ。まさか忘れたとか?」
長い間幽閉されていたのならあり得ると聞いてみるが、どうやら違うらしい。その証拠に首をふるふると振る。
「もう、前の名前はいらない。……みんなの付けた名前がいい」
「ええ‥‥?名前かあ‥‥俺には思いつかんぞ。みんな何かないか?」
「あ、それなら俺に良いのがある」
と、ハジメ。
「〝ユエ〟なんてどうだ? ネーミングセンスないから気に入らないなら別のを考えるが……」
「ユエ? ……ユエ……ユエ……」
「ああ、ユエって言うのはな、俺の故郷で〝月〟を表すんだよ。最初、この部屋に入ったとき、お前のその金色の髪とか紅い眼が夜に浮かぶ月みたいに見えたんでな……どうだ?」
思った以上にちゃんとした理由があった。
「いいじゃんか。ユエって」
「ん‥‥ユエ‥‥いい。今日からユエ」
「ま、とりあえずユエ。外套着ろ。裸じゃ色々不味いんだわ」
「‥‥‥‥?!」
「ほれ、早く」
「‥‥コウのエッチ」
「ええ‥‥」
聖に助けを求めようと思ったが止めた。だってニヤニヤしてるんだもん。
「とりあえず‥‥」
俺はツェリスカを真上に向ける。
ドガアン!!
「ギャアア!?」
ドサリ
上から何か落ちてきた。落ちてきたソレは、体長五メートル程、四本の長い腕に巨大なハサミを持ち、八本の足をわしゃわしゃと動かしている。そして二本の尻尾の先端には鋭い針がついていた。一番分かりやすいたとえをするならサソリだろう。二本の尻尾は毒持ちと考えた方が賢明だ。
「とりあえず四人で抑えてくれ。俺はユエを回復させる」
「はいよ」
「よっしゃ」
「任せてとけや」
「コウ、急いでね?」
「分かってる。ユエ、俺の血を吸え」
「‥‥‥‥!?」
「お前、吸血鬼なんだろ?神水でもある程度は回復するとは思うけど、やっぱり血が一番だろ?」
「‥‥‥‥ん‥‥分かった。コウ、怖がらないで‥‥」
そしてユエが俺の首筋にキス‥‥いや、噛み付いた。チクリと痛みが走るが、我慢する。ついでにサソリモドキの様子を見る。
どうやら非常に高い装甲を持ってるようだ。チート四人の攻撃を喰らっても装甲にかすり傷しか見えない。
「とりあえず目くらましも兼ねて‥‥」
俺はツェリスカの弾を鉛玉から榴弾に換装する。榴弾は着弾すると爆発するので、目くらまし兼攻撃として使えるのだ。やるつもりはないが、民家にぶち込めば火事が起こること待ったなしである。
ドガアン!ドガアン!!
発砲。さらに‥‥‥
ボンッ!!
爆発した。火だるまになるサソリモドキ。と、その時。ユエの吸血が終わったらしい。口を離した。どこか熱に浮かされたような表情でペロリと唇を舐める。その仕草と相まって、幼い容姿なのにどこか妖艶さを感じさせる。どういう訳か、先程までのやつれた感じは微塵もなくツヤツヤと張りのある白磁のような白い肌が戻っていた。頬は夢見るようなバラ色だ。紅の瞳は暖かな光を薄らと放っていて、その細く小さな手は、そっと撫でるように俺の頬に置かれている。
(うわお‥‥)
「……ごちそうさま」
そう言うと、ユエは、おもむろに立ち上がりサソリモドキに向けて片手を掲げた。同時に、その華奢な身からは想像もできない莫大な魔力が噴き上がる。聖に匹敵するレベルだ。黄金色の魔力が辺りを照らす。
神秘に彩られたユエは、魔力色と同じ黄金の髪をゆらりゆらゆらとなびかせながら、一言、呟いた。
「〝蒼天〟」
その瞬間、サソリモドキの頭上に直径六、七メートルはありそうな青白い炎の球体が出来上がる。
直撃したわけでもないのに余程熱いのか悲鳴を上げて離脱しようとするサソリモドキ。
だが、奈落の底の吸血姫がそれを許さない。ピンっと伸ばされた綺麗な指がタクトのように優雅に振られる。青白い炎の球体は指揮者の指示を忠実に実行し、逃げるサソリモドキを追いかけ……直撃した。
「グゥギィヤァァァアアア!?」
サソリモドキがかつてない絶叫を上げる。明らかに苦悶の悲鳴だ。着弾と同時に青白い閃光が辺りを満たし何も見えなくなる。
しかしこれは、絶好のチャンスだ。俺は榴弾を六発撃ち切る。もちろん目くらましのためだ。
ドガアンドガアンドガアンドガアンドガアンドガアン!!
連続して爆発音も響くが、スルーして弾を変える。今度は徹甲弾だ。鉛玉よりも硬く、鋭くなっている。貫通能力がとんでもなく、数百体の魔物を一発で貫通する。
そんな徹甲弾を換装し、爆風が晴れるのを待つ。まあ気配感知で位置は分かるのだが、確実性を持たせるためにも待つことにした。
やがて爆風が晴れる。現れたサソリモドキは、背中の外殻を赤熱化させ、表面をドロリと融解させて悶え苦しんでいた。
もちろん絶好の大チャンスを逃すつもりはない。
「あばよ」
ドガアン!!
俺はサソリモドキを正面から狙撃した。一瞬で風穴が開く。徹甲弾はサソリモドキを貫通し、そのまま壁ごと突き破ってどこかに飛んでいった。
ドサリ‥‥
サソリモドキが前のめりに倒れた。完全勝利だ。この勝利は、ユエが大きく貢献している。
「凄えなおい。あんな魔法始めてみたぞ」
ハジメが驚いた顔で駆け寄る。拓人たち三人も駆け寄ってきた。
「ありがとう‥‥でも、聖も凄い」
「ふえ?」
「破壊なら誰でもできる‥‥でも、聖は修復も難なくできる」
「修復‥‥ああ!撃墜されたクロスビットを治したやつね!」
「あれは凄かったぞ。撃墜された瞬間に修復したんだからな。さらに少し強化されてたし‥‥」
「拓人‥‥お前、撃墜されたんか」
「すみませんねえ」
「そういえば蜂起は、近接戦闘での如意棒は初めてだろ?」
「おう、でも関係なかったな。中国拳法の一つで習ってたし」
実際、蜂起は素晴らしい棒術を見せていた。もはや槍なのかレベルで突いてたし。
「それよりさ、一度拠点に戻らね?肉も運びながら」
「おお、そうだな。手分けして運ぶか」
と、いうわけで俺たちは肉を運びながら五十階層に作った拠点を目指す。広さはかなりのものだ。簡易ベッドやトイレなんかはハジメが作ってくれた。また、毛布も毛皮を使って作った。
「帰ったらユエに服を作るか」
ハジメが呟く。
「ついでにコウの装備の強化もしてみたいんだが‥‥」
「ん?俺のか。別にいいが‥‥どんな強化を?」
「時止ではなくても速く動けるように改造する方法を思いついた。まあ今構想してるのは10秒だけだが‥‥」
「ロマンありすぎだろ。ぜひとも頼むわ」
雑談しながら歩いてると、拠点についたので早速装備をハジメに渡す。ハジメが錬成を始めた。それをユエが興味深そうに見る。
俺は甘えてきた聖を膝枕しながら、その様子をほのぼのと見る。
「‥‥コウたち、なんでここにいるの?」
ユエが質問してきた。確かに疑問だろう。ここは奈落の底。正真正銘の魔境だ。魔物以外の生き物がいていい場所ではない。
「こりゃあ‥‥ハジメが話した方がいいかな」
「そうだな‥‥何から話すか‥‥‥」
そうしてハジメは語りだす。錬成は続けたままなのでぽつりぽつりとだが。
ハジメが、仲間と共にこの世界に召喚されたことから始まり、無能と呼ばれていたこと、ベヒモスとの戦いでクラスメイトの誰かに裏切られ奈落に落ちたこと、魔物を喰って変化したこと、爪熊との戦いと願い、ポーション(ハジメ命名の神水)のこと、故郷の兵器にヒントを得て現代兵器モドキの開発を思いついたことをツラツラと話す。
「コウ‥‥聖との関係は?」
「うーん、折角だし話そうか」
俺は話し始めた。聖との別れの出来事を。俺は別に裏切られたわけではない。ただ単純に、俺が弱かったからイジメられた。そう思っている。
壮絶(だと思う)過去を一通り話すと、ユエの方からグスッと鼻を啜るような音が聞こえ出した。
「ファッ!?」
俺はユエの方を見る。ユエは涙を流していた。見れば拓人や蜂起も、そっぽを向きながら涙を流している。
「いきなりどうした?」
「……ぐす……二人共……つらい……私もつらい……」
どうやら俺とハジメのことを思って泣いているらしい。優しい女の子だ。
そのことを敏感に感じ取ったのか、聖が膝枕を止めてユエを抱きしめる。身長差的には姉と妹にしか見えない。
「ユエはいい子。他の人のために涙を流せるなんて」
「‥‥ぐす‥‥そうなの‥‥?」
「誰かのためだけに涙を流せる人は、少ないよ。自分のためだけなら涙を流す人はいくらでもいる。そんな人を私は今まで多く見てきた」
「‥‥‥‥‥」
重みのある言葉に、ユエは押し黙る。一言一言、噛み締めてるのかもしれない。
「そうだな‥‥人のためだけに泣ける人は、ここにいる人以外は見たことない、かな」
ユエの頭を「よしよし」撫でながらそんなことを言う。
「私は一度死んだから、色んな人を観察した。それしか、できなかったから。そこで分かったのは、世の中汚い人がほとんどなこと。でも‥‥‥」
一拍置く。
「コウの周りに集まる人は、いい人ばかり」
今度は俺が泣きそうになってしまった。慌てて横を向き、一言だけ言う。
「‥‥‥聖のおかげさ」
「あら、嬉しいなあ」
「むう‥‥聖、ズルい」
「んん?ユエもコウのことが好きなの?」
顔を紅くするユエ。ドンピシャのようだ。
「コウは競争率高いよ?現時点で二人いるし‥‥」
「それでも‥‥‥」
「特別は、『私』だからね?」
「それは分かってる‥‥‥その次に頑張ってなる」
「おいおい‥‥」
「「羨ましいなあお前」」
「レイプ目しないでください」
「あ、完成したぞ」
ずっと黙って作業していたハジメが声を出す。
「おお‥‥見た目変わらねえな」
「今はな。とりあえずこれつけてくれ」
ハジメにナニかを渡される。腕時計みたいなものだ。ストップウォッチにも見える。
「これは‥‥?」
「とりあえず装備を装着から」
ひとまず装備を装着する。
「んで、ここからどーすんの?」
「その腕時計に魔力を流してみろ」
「魔力‥‥こうか‥‥‥ファ!?」
装備が変化を始めた。胸部のプロテクター(シックスパックみたいになってる)が上に持ち上がり、一つになる。さらに180°回転し、少し上に持ち上がった。肩にプロテクターが乗っかる形になる。
「腕時計に赤いボタンがあるだろ?それを押せば高速移動できる。10秒を超えて高速移動したら自爆するから気をつけろよ?」
「リスクも有り‥‥ロマンの塊だな。サンキュー、ハジメ」
「あ、ボタン押すまでは普通にしか動けないからな。少し防御力も下がるから注意だぞ。あと一度使用したら十分は使えないからな」
「オッケー。試してくるわ」
俺は新しくなった装備を試すため、拠点を後にするのだった‥‥‥。
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