雲に隠れた月は朧げに聖なる光を放つ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第四話 奈落の底
前書き
お待たせしました!事情があって更新できませんでした………
再び奈落の底まで飛び降りると、ハジメは既に目を覚ましていた。どうやら軽い打撲だけで済んだらしい。とりあえず安心する。
(聖、索敵頼む)
(任せて)
俺はついてきていた聖を索敵に出す。結構な階層落ちた感覚だ。大迷宮は百階層までしかないとメルドさんから聞いていたのだが‥‥。
そのことを三人に話すと、
「新の大迷宮じゃね?」
という答えが返ってきた。仮にここが新のオルクス大迷宮だったとすると、ここからさらに百階層ある、ということだ。他にある大迷宮は知らない。下に行くダンジョンではない可能性がある。とりあえずここは二百階層ある、ということだ。
「さて‥‥これからどうする?」
「ひとまずは脱出したいがな‥‥ここをクリアするのが良さそうじゃね?」
「あ、俺も賛成。大迷宮クリアしたら絶対に強い魔法か何かが貰えそうだし」
「僕も‥‥強くなれそうだから賛成かな」
満場一致。俺たちはこの大迷宮を完全制覇することにした。と、そこへ聖が戻ってくる。
(コウ、不気味な兎と狼がいる)
(兎と‥‥狼?)
(血管飛び出た兎と尻尾二本の狼)
(分かった。ありがとう)
何か有事があっては困るので、俺は変身する。先ほどまで貯めていた風は、とりあえず保管しておく。この風は任意でいくらでも引き出せる。まあ貯蓄した風の分しか引き出せないが。
とりあえず先へ進む。低層の四角い通路ではなく岩や壁があちこちからせり出し通路自体も複雑にうねっている。まるで洞窟だ。例えるなら二十階層の最後の部屋のようである。
ただし、大きさは比較にならない。複雑で障害物だらけでも通路の幅は優に二十メートルはある。狭い所でも十メートルはあるのだから相当な大きさだ。歩き難くはあるが、隠れる場所も豊富にある。逆に言えば奇襲される可能性も比較的高いということだ。
どれくらい歩いただろうか。
目の前に分かれ道が現れた。巨大な四辻である。
「さて‥‥どうするべきか」
俺は逡巡する。と、その時。白い毛玉の塊が目の前にピョンピョンと複数現れた。長い耳が生えている。見た目はまんまウサギだった。
ただし、大きさが中型犬くらいあり、後ろ足がやたらと大きく発達している。そして何より赤黒い線がまるで血管のように幾本も体を走り、ドクンドクンと心臓のように脈打っていた。物凄く不気味である。おそらくこいつが、聖の言っていたウサギだ。さらに、唸り声が聴こえる。すぐにその正体が分かった。尻尾が二つある狼だ。ウサギと同じように血管が浮き出ている。
全ての魔物が俺たちを見る。俺はすぐに構えを取る。他の三人もそれぞれ戦う準備だ。ジリジリと距離を詰める魔物たち。
「‥‥Go!」
俺の声を引き金に全員が動き始めた。他の人の様子を確認できるほど余裕はない。俺はウサギと狼を同時に相手する。ウサギは発達した脚で、強烈な蹴りを放ってくる。護身術で上手く受け流しているが、並の人間が喰らったら一発で骨折する威力だ。
「セイッ!」
ドガア!!
ウサギを蹴り飛ばす。そこを見計らっていたかのように狼が突っ込んできた。身体に電撃を纏っているのが確認できた。
(ベルトの風車で吸収‥‥できるか?)
俺はタイフーンで電気を吸収できるか試してみる。すると‥‥。
シュルルルルルルルル‥‥‥
二尾狼の電気が全てベルトに吸収されてしまった。風と同じく蓄えた分だけ引き出せるみたいだ。この分なら火や水でも吸収できそうである。
「便利だな‥‥とりあえずトドメ」
ドパンッ!
二尾狼の頭を撃ち抜く。流石改造エアガン。一発で狼を殺した。一応弾は鉛の弾だ。他にも炸裂弾である榴弾や、拡散弾もある。
ドパンッ!
別の方向から物凄い音が聴こえた。俺以外に銃を持っている人はいなかったはずだ‥‥。
嫌な予感がしてそちらを振り向く。すると、そこには左腕をダランとしているハジメがいた。見ればウサギ二匹と相手している。おそらく連携でヤラれたんだろう。
(不味い‥‥少し無茶させすぎたか)
ドパンッドパンッ!
引き金を引きウサギを絶命させる。見れば拓人と蜂起も殲滅を終えたらしい。とりあえず俺はハジメの腕に巻き戻しをかけようとしたが‥‥。
突如現れた風の刃に邪魔をされた。
「ッ‥‥今度はなんだ!」
唸り声が聴こえる。先程の魔物とは桁違いの威圧感だ。そちらの方を振り向く。そこには‥‥。
その魔物は巨体だった。二メートルはあるだろう巨躯に白い毛皮。例に漏れず赤黒い線が幾本も体を走っている。その姿は、たとえるなら熊だった。ただし、足元まで伸びた太く長い腕に、三十センチはありそうな鋭い爪が三本生えているが。
その爪熊が、いつの間にか接近しており、ハジメを睨みつけてたのだ。その瞳は、完全に獲物を見る目だった‥‥。
「うわぁああーー!!」
意味もなく叫び声を上げながら折れた左腕のことも忘れて必死に立ち上がり爪熊とは反対方向に逃げ出す。
「「「ハジメ!」」」
「くそ、時止を‥‥ってあの距離じゃ届かない!」
轟。と一閃。俺の目には、ハジメの左腕が切り飛ばされるのが見えた。
「ヤバイ‥‥あのままじゃ失血死する!」
俺は咄嗟にハジメへ巻き戻しをかける。が、それを爪熊は許さなかった。傷が半分も塞がらないうちに、追撃をかましてきたからだ。時止と巻き戻しは同時には使えない。俺は咄嗟にエアガンを爪熊に撃つ。
ドパンッ!!
爪熊が一瞬だけ怯んだ。その隙を見たのか、ハジメが壁際まで走る。
「あ、あ、ぐぅうう、れ、〝錬成ぇ〟!」
壁を錬成し、穴を開けた。そこに転がり込むハジメ。爪熊は獲物を逃したことで怒り心頭だ。ハジメが転がり込んだ壁を爪でガリガリと削る。よくよく見ると、風を纏っているように見える。
「蜂起!爪熊の記憶からハジメのことを消せ!」
「よし!〝消去〟!!」
ノータイムでノートに書き込み発動させる蜂起。ノートが眩い光を放つ。爪熊が大人しくなるのを感じる。そのままノシッノシッと立ち去る音も聴こえた。
光が収まると、爪熊の姿は既になかった。ハジメが錬成で作った穴は、爪熊によって封鎖されてしまっている。
「くそっ‥‥ハジメ」
「おい、あまりボケっとしてられないぞ!早く探そう!」
「錬成で作った穴辺りを破壊していけば辿り着くんじゃね?」
蜂起の言葉で俺は閃く。先程まで貯めていた、風力を存分に使おうと思ったのだ。
「いつまでもベルト、じゃかっこ悪いな‥‥。よし、タイフーンにしよう。タイフーン、エネルギー解放!」
俺はベルトにタイフーンという名前をつけ、エネルギーを解放した。
ガシャンッ!!
目が光る。力も溢れてくる。
「行くぞおお!どりゃあ!!」
思いっきり拳を奮う。
バギッ! バラバラ‥‥
壁が粉砕される。俺はこの作業をひたすら続けた。全ては、白崎が悲しまないためにも‥‥。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハジメを探し始めてから十日目。中々ハジメは見つからなかった。壁を壊し、血の跡を探し、三人がぶっ倒れそうになるまで探したが、見つからなかった。それでも‥‥。
「それでもお!」
俺は叫び、再び壁を破壊する。すると、開けた場所に出た。その時‥‥
「ひぃぐがぁぁ!! なんで……なおらなぁ、あがぁぁ!」
「?!!」
何者かの声が聴こえた。声と言うより絶叫だが。
「これだ!急ぐぞ!」
俺はその声がハジメのものだと信じて絶叫に向かって走り出した。
「ハジメ!いるなら返事しろお!ハジメェ!」
叫ぶ。声が枯れるぐらい叫ぶ。すると、答えが返ってきた!
「だ、誰だあ?俺を呼ぶ人は!」
「お、俺?‥‥まあいい、ハジメ!俺だ!緋鷹だ!」
「な、緋鷹?!」
「‥‥‥!いた!!」
俺はようやくその姿を捉えた。俺の知らない人だ。白髪で、筋肉が発達している。が、俺は思った。こいつは、南雲ハジメだと。
「ハジメ‥‥ハジメか?」
「う、嘘だろ‥‥まさか会えるなんてな」
「こっちのセリフだ!ていうかその髪はどうしたんだよ」
「ああ、これか?これはな‥‥」
ハジメから説明を聞く。どうやらハジメは、飢餓感に耐えきれずに魔物を食したらしい。魔物の肉には猛毒があり、一度食べたら最期、死ぬしかないのだが‥‥。
「おい待て。仮に魔物の肉を食べたとしたら、なんで生きてる?」
「ん?それはな、この水のおかげだ。飲むと体力、魔力、肉体の崩壊は防げる。俺がなんだかんだで生き残ったのもこいつのおかげさ」
「そ、そいつは凄まじい‥‥ところで、魔物を食べたなら何かあるんじゃないか?筋肉がエグいし」
「あ、そうだな。えーと、ステータスプレートは‥‥‥っと」
ハジメがステータスプレートを取り出した。
==================================
南雲ハジメ 15歳 男 レベル:8
天職:錬成師
筋力:100
体力:300
耐性:100
敏捷:200
魔力:300
魔耐:300
技能:錬成[+鉱物系鑑定][+高速錬成][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合]魔力操作・胃酸強化・纏雷・言語理解
==================================
「……なんでやねん」
「ファッ!?」
「ゑゑゑ!?」
「なあにこれえ」
それぞれが思い思いの反応をする。そう、ハジメのステータスがとんでもないものになっていたからだ。魔物を食らうだけでここまで強くなれる‥‥俺は舌なめずりをした。
「蜂起。ぶっつけで悪いが、ノートで俺たちに胃酸強化を付与してみてくれ」
「おう、やってみるわ。‥‥付与!」
すると、俺、拓人、蜂起の体がペカーと光る。光が収まるのを待ち、俺は早速ハジメが仕留めたであろう二尾狼の肉を食べた。
十秒……
一分……
十分……
何も起こらない。いや、起こったには起こった。力がさらに上昇した気がしたのだ。身長も伸びている。だいたい175cmぐらいだろうか。
「よし、成功したみたいだな。拓人と蜂起も食いなよ」
「そんじゃ」
「食いますか」
拓人と蜂起も肉に食らいつく。そして三人でステータスを確認した。
===================
============
林拓人 15歳 男 レベル:8
天職:指揮の番人
筋力:300
体力:600
耐性:500
敏捷:200
魔力:1500
魔耐:300
技能:指揮[軍隊指揮][物理指揮][魔法指揮]・魔力操作・複合魔法・魔力自動回復・言語理解・胃酸強化・纏雷
===============================
===================
============
恷蜂起 15歳 男 レベル:8
天職:記憶の番人
筋力:600
体力:450
耐性:500
敏捷:600
魔力:1200
魔耐:600
技能:記憶操作[抹消&書換][植付]・[能力付与]・中国拳法適正・魔力操作・魔力自動回復・先読・言語理解・胃酸強化・纏雷
===============================
===============================
緋鷹幸 15歳 男 レベル:8
天職:時の番人
筋力:1600
体力:850
耐性:500
敏捷:600
魔力:500
魔耐:310
技能:時止[15秒][+瞬間停止]・巻き戻し[10分]・霊力変換・全属性適正・暴走[+覚醒]・魔力操作・魔力自動回復・護身術・徒手空拳適正・マイナスG耐性・空間制圧能力・身体能力強化・射撃・威圧・言語理解・胃酸強化・纏雷
===============================
‥‥やはり能力値が軒並み上昇し、技能も増えた。魔物の肉を食べるとパワーアップできるというのは本当らしい。また、胃酸強化を先に付与してもらったからか、ハジメのように白髪になることもなかった。
「よし、とりあえず当分は能力の強化に勤しみもう。ハジメもかなりの範囲を錬成できるようになったんだろ?」
「ああ。しかもな、鉱物系鑑定っていう便利な能力が手に入ったんだが、こいつで火薬に相当する鉱石を見つけたんだ」
「お、つまり?」
俺は悪そうな笑みを浮かべる。ちなみに仮面は外している。
「流石だな。緋鷹‥‥いや、コウでいいや。俺は、こいつで銃を作ろうと思うんだわ。そこでお前のエアガンを参考にしたくてな」
「それなら構わないぞ」
そう言ってエアガンを渡す。
「ついでに改良するわ。少し待っててくれよ」
「あいよ。その間俺たちはトレーニングだな」
‥‥そんなわけで俺たちはハジメが銃を制作している間、トレーニングに勤しむことになった。ハジメはハジメで、大がかりな作業をするので錬成のトレーニングになっていると言っても過言ではない。
一週間後‥‥
「なあ拓人」
「あん?なんだ?」
「お前のその能力。その辺の岩を操れそうじゃね?」
「あ、確かにな。身近な武器として使えるかも」
拓人が指揮棒を振る。すると、近くにあった岩という岩が宙を舞い始めた。拓人はたまたま近くにいた二尾狼に岩をぶつける。
「うっわあ‥‥中々に外道な技になりそうだな」
「お前が考案したんだろーが。あ、この技で一つ思いついた‥‥」
拓人が悪巧みを成功させたような笑みを浮かべる。何を思ったのか、近くにいたウサギに指揮棒を振った。
「キュウ!?」
すると、ウサギが宙を舞った。
「ああ‥‥(察し)」
俺は何をするのか察した。
「うし‥‥ドラア!!」
拓人は指揮棒を激しく振る。それに合わせてウサギも激しく空中を舞う。その後は壁にゴンッとぶつけたり、重力操作でもしたのかの如く、連続で壁にゴンッ、ゴンッ。そのうちに自分に指揮棒を向け、自分の体を意のままに操り始めた。
「こいつも中々にヤバイ能力やな‥‥」
俺は一人苦笑する。蜂起も蜂起で、ウサギや狼相手に外道な技を試している。一番外道なのは、相手の記憶から「生きる」ことを抹消し、自殺に追い込むというものだ。はっきり言って死神である。
「やれやれ‥‥」
「コウ?」
聖が顔を覗き込んできた。最近は索敵や、相談相手に一役買っている聖。俺はいつか、この能力を使って聖を蘇らせたいなと思っている。そんなことは知らないのか、ニコニコと顔を覗き込むのだから、少し息を呑む羽目になる。幽霊なのに何故か身体が成長してるのもある。しかし、それ以上に色気がとんでもないのだ。以前の比じゃないレベルで。
「‥‥やれやれ。揃いも揃ってチートだな」
「??コウが一番チートじゃん。その装備つけたらステータスの何倍の力を扱えるの?」
「うーん、感覚的には数倍のつもりだけど‥‥他の人には何十倍にも感じるらしいや」
「もし何十倍と倍率がかかってたら筋力は一万超えだね。しかもあの後ウサギも食べたから実際はステータスもっと高いし‥‥」
「ウサギは脚系統の能力だから、装備とも相性が良いな」
「うん、チートはどっちだっていう話だね」
「あ、コウ。いたいた」
そこにハジメがやってきた。両手には二丁の銃を持っている。
「あ、できたのか」
「おうよ。俺のは大型のリボルバー式拳銃だ。全長は約三十五センチ、この辺りでは最高の硬度を持つタウル鉱石を使った六連の回転式弾倉。長方形型のバレル。弾丸もタウル鉱石製で、中には粉末状の燃焼石を圧縮して入れてある。纏雷で電磁加速するから、実質レールガンだな」
「ふーん、強いやんか。で、俺のはどうなった?めちゃくちゃ大型化してるけど」
「ああ、それなんだけどな。このエアガンは自然と電磁加速するから折角だし大型化しようと思ってさ。像撃ち抜き用の銃を参考にした。冗談抜きでこの迷宮の魔物を三体抜きしたぞ」
「やっべえ貫通力だな」
「しかも、まだまだ貫通できそうだったぞ」
「凄えな‥‥あれ?しかも八連の回転弾倉なの?」
「一発ずつじゃ不便だからな。その分全長が約五十五センチと伸びちまった」
「地味に重たそうだな。普通なら扱えなさそう」
「まあリアルではこの拳銃は立って射撃するのは無理らしいからな。お前は普通に行けそうか?」
俺は拳銃を受け取り、構えてみる。俺としては重さをほとんど感じない。普通に片手で構えられる。
「余裕だわ」
「お前もお前でヤバイな‥‥。あ、俺はこの拳銃にドンナーと名前をつけたぞ。お前は何かつけるか?」
「そうだなあ‥‥。ツェリスカだな」
「おお、ドンピシャ。元にした拳銃はプファイファ・ツェリスカという拳銃だ」
「おお‥‥なんたる偶然。よし、これからよろしくな、ツェリスカ」
「あ、そうだ。これを拓人に渡してくれないか?」
「うん?これは‥‥ビット?」
ハジメが手渡してきたものは、十字架の形をした小さなナニカだった。ただし、十字架の中心には穴が開いてるが。
「おう、こいつはクロスビットだ。まあ、ファンネルと言えば分かるな?」
「ああ‥‥なるほどな。拓人なら指揮ができるから、オールレンジ攻撃ができるわけだ」
「そういうことさ。それに軽いから、どこにでも持ち運べるぞ。あ、それとこの棒は蜂起にな」
「まるで孫○空だなおい」
「如意棒みたいなもんさ。まあ、色んなギミックがついてるがな。例えば蜂起が魔力を一定量流せば鉄以上の硬さを誇る棒になるし、狙撃銃にも変形するぞ」
「お前の作る武器は便利すぎな。国宝級すぎて笑えるぜ」
「ま、それはさておき、あいつらに渡しに行くぞ」
「オッケイ。行くか」
俺は拓人にクロスビットを渡しに行った。反応は‥‥俺と似たようなものだった。
「ああ‥‥なるほど、自分が指揮できるからか」
「そういうことみたいだぞ。次は戦車隊でも作ってもらおうぜ」
「戦闘機でもいいな。全体指揮したら‥‥楽しそう」
そんなふうに雑談しながらハジメたちと合流する。
「よし‥‥この装備なら問題ないだろう。この階層の魔物は大方喰い尽くしたから、あとは爪熊だ」
「お、敵討ちだな。それならさっさといこうぜ。神水も持ってな」
‥‥神水とは、ハジメの命を救った魔法の水の名前だ。神結晶という、伝説の鉱石が数百年もの時間をかけて内包する魔力が飽和状態になると、液体となって溢れ出す。それを神水というのである。流石に欠損部位を治すことはできないが、怪我や病なら確実に治せる代物だ。
まあ、仮に神水が尽きたとしても俺の能力や蜂起の能力でなんとかなる。俺は時間の巻き戻しで治すことができる。想像を絶する努力の末、俺は壁を超えることができたのだ。現状のステータスはこんな感じである。
===============================
緋鷹幸 15歳 男 レベル:12
天職:時の番人
筋力:1600
体力:900
耐性:550
敏捷:1200
魔力:600
魔耐:500
技能:時止[10000秒][+瞬間停止]・巻き戻し[4年][+未来具現化4年]・霊力変換・全属性適正・暴走[+覚醒]・魔力操作・魔力自動回復・護身術・徒手空拳適正・マイナスG耐性・空間制圧能力・身体能力強化・射撃・威圧・言語理解・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地]
===============================
新しく追加された技能、天歩は文字通り天を歩く能力である。天を歩くのは空力で、縮地は高速移動のことだ。
この能力は、俺たち四人全員が保持している。とりあえず俺たちは、縮地を使って高速移動をしながら爪熊を探す。
爪熊は案外すぐに見つかった。どうやら食事をしていたらしく、辺りにはウサギの残骸が飛び散っている。
「んじゃ、俺が瀕死まで追い込むからコウはトドメよろしくな」
「はいよ。頑張れよー」
呑気に送り出す。その後、しばらく激闘の音が聴こえた。俺は欠伸をして聴き流す。どのぐらいそうしてただろうか‥‥。
「おーい。トドメ頼むわ」
ハジメから声がした。爪熊の左腕を食べながらトドメを催促している。
「あいよ」
俺は爪熊の頭部に狙いを定める。どうやら纏雷をまともに喰らったらしい。身体が痙攣している。
「ま、俺たちを襲った罰さ。あばよ」
ドガアン!!
俺はツェリスカの引き金を引いた。狙い狂わず弾丸は爪熊の頭部を撃ち抜いた。貫通して壁ごと崩壊してるが。
「うっひゃあ。やっぱり強いや」
俺は死亡した爪熊を咀嚼しながら改めてツェリスカの強さに感心した。
「あ、そうだ‥‥」
俺はおもむろに手を聖にかざす。ハジメたちは怪訝そうな顔をしてるが、スルーだ。
「‥‥巻き戻し!!」
聖が死んでから、今年で4年目。そして、俺の巻き戻しの効力も4年。俺は彼女を生き返らせるべく、力を全力行使した。
聖の身体に時計が現れた。ハジメたちには、虚空に時計があるように見えるはずだ。俺はさらに能力を行使する。すると‥‥。
カチッ‥‥‥カチッ‥‥カチッ‥カチカチカチカチカチカチ‥‥
時計の針が、逆時計回りに動き出した。俺は、既に必要はないが、あえて二度目の詠唱を行う。
「時計の針よ、回れ!回れ!時よ!過去に戻りたまえ!全てを超越し、過去の姿を具現化せよ!今一度、我の前に現したまえ!
‥‥リバースタイム!!」
光が、辺りを包んだ。時計の針はゆっくりと動きを止める‥‥。
‥‥姿が具現化し始めた。俺は別の能力の行使を準備する。
身体が、再構築し終わった。ただし、小学生のままだ。そこで別の能力を行使するというわけだ。
「時計の針よ!回れ!回れ!時よ!未来へ進みたまえ!全てを超越し、未来の姿を具現化せよ!今一度、我の前に現れたまえ!‥‥頼むぞ。フューチャータイム!」
再び時計の針が動き始める。と同時に、聖の姿も変わり始めた。ただし、透けてはいない。はっきりと、身体を残している。
聖を青白い光が包み込む。俺は、体力の限界で膝をついた。
やがて、光が晴れる。そこには‥‥‥。
整った顔、セミロングで少し茶色の髪、モデルのようなスタイル。
そして‥‥全てを優しく包む瞳をゆっくりと開けた。
かつて、最愛だった人
今でも、大切な人
守れなかった人
されど、その身体ここに甦る‥‥。
俺は、彼女の名をそっと呟いた‥‥。
「聖‥‥」
ページ上へ戻る