ドラゴンクエストⅤ〜イレギュラーな冒険譚〜
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第六十六話 エルヘブン
前書き
大変長らくお待たせしてしまい申し訳ありません。
今回から雑魚戦とかの描写できるだけ省こうかなと思います。
一々書いててもテンポ悪くなるだけですし。
長い旅を終え、私達はついにエルヘブンへの一歩を踏み出した。
辺りには木々が広がり、鬱蒼としている。今のところ魔物の気配などはないが、敵襲に備えるべく武器の用意はしていた。
「エルヘブンっておばあちゃんがいたところなんだって。 どんな場所なんだろう?」
「不思議な力を持つ人々の集落だとは聞きましたが、どんな人達がいるんでしょうね。私、とても楽しみです」
「エルヘブンについて詳しいことはわからないけれど、でもきっと良いところだと思うよ。何しろ母さんが育ったところだからね」
レックスとタバサがそれぞれエルヘブンについての期待を語り、アベルがそれに答える。何気ない親子のやりとりだがその光景を見ると微笑ましさと同時にどこか泣きたくなるような思いに駆られた。
8年の溝は少しずつ埋まってきているが、『家族』にはそれでもやはり決定的に足りないものがある。
ビアンカ。一刻も早く私は彼女を助け、失われた家族の形をあるべき姿に戻さなければならない。それが仲間としての私の務めだから。
その為の手がかり、足がかりになるようなものが何かエルヘブンで見つかればいい。そう強く思った。
「先生!」
タバサの声で私は気がついた。辺りの木々が不自然に揺れている事に。
風は特に吹いてはいない。つまり考えられる可能性はただ一つ。
「敵襲! 各自戦闘に備えて!」
敵が姿を表すのと同時に私は鞭での一撃を容赦無く叩き込み、戦闘の主導権を握る。体勢を整える暇など与えない。更に魔法で追い打ちをかけ、即座に殲滅する。
「お疲れ様でした。問題なく戦えました、先生」
「あなたもお疲れ。いつもありがとう、タバサ」
タバサには父譲りの魔物や動物と心を通わせる能力があるが、それに加えて勇者の血筋としての力か邪悪な気配に対しては敏感に察知できる。
つまりタバサは対魔物戦において、ずば抜けた探知・索敵能力を誇っているのだ。
周囲の敵しか存在を把握できないという弱点はあるが、それでも視認するよりも早く敵の存在を察知できる事が戦闘ではかなりのアドバンテージであることは明白。
これまでの数々の戦いでもこの能力に随分と助けられた。
「先生、僕もがんばったよ!」
「そうね。よくがんばったわねレックス」
教育方針は褒めて伸ばすスタイルなので、褒める時はちゃんと褒める。自己肯定感は早めに育んであげる事が大事だ。
「そろそろエルヘブンが見えてきた」
アベルが指す方を見ると、教会や民家といった建造物の姿が薄霧の中に見えた。もうエルヘブンまでの距離は残り僅かだ。
薄霧を抜けると、その全貌がはっきりとわかった。
「うわぁ…………。すごい…………」
思わず感嘆の声が漏れてしまった。
山脈に作られた集落という点ではチゾットという前例を知っているが、チゾットのはそれとは完全に別物だった。
全体的な外観としては集落というより『岩山のような城』と言ってしまった方が適切だ。岩山の外壁に沿うように民家などが並んでいるものの、各所にある階段や柱が大理石で出来ているからか神殿のような清浄な雰囲気を感じさせ、集落にいるという感覚をさせなかった。
「あら、旅の方とは珍しい。遠路はるばるよくいらっしゃいました」
私達に気づいた、エルヘブンの里人の女性が朗らかに話しかけてきた。
「僕達はグランバニアから来た者です。このエルヘブンの里の長老にお目にかかりたいのですが」
アベルの返答を聴きながら、私は内心警戒していた。
この里の出身であるマーサさんが、パパスさんと駆け落ちした事でグランバニアへの心象は悪いであろう事は察せられる。つまり、グランバニアから来た私達が長老に謁見させてもらえる可能性は低いのでは、そうでなくとも良い顔はしてもらえないだろうと考えていた。
しかし、私のそんな考えは杞憂に終わる事となった。
「わかりました。長老様はあちらの頂の聖堂にいらっしゃいます。階段を登っていけば聖堂にはたどり着けますよ」
特にグランバニアという言葉には反応せず、女性は笑顔のままそう答えた。
女性に礼を言って、私達は聖堂に向かう。
「不思議ね。グランバニアはエルヘブンから嫌われているとばかり思ってた」
「それについては僕も不思議に思った。実際はグランバニアへの反感はないのか、もしくはあの女性が単にグランバニアとエルヘブンの関係を知らないだけなのか」
「全ては長老に謁見すればわかる事、ね」
そんな事を話している内に聖堂に辿り着いた。
扉を開けると、中の空間は広く灯火が各所にあり、床には大きく魔法陣が描かれている。そして魔法陣を取り囲むように4人の法衣姿の妙齢の女性が佇んでいた。
おそらく彼女らが長老だろう。
「ようこそ、いらっしゃいました。グランバニアの者達よ」
「私達がこのエルヘブンを束ねる者です」
「あなた達はマーサの縁の者ですね?」
「よくぞはるばるいらっしゃいました。さて、何をお尋ねかな?」
私達の存在を認識すると、4人の長老は順番に語り始めた。
「歓迎ありがとうございます、エルヘブンの長老方。僕はアベル。マーサの息子にしてグランバニアの王です」
「マーサの息子……。そうですか、あの子が出て行ってから、それほどの時間が経ったのですね……」
長老達は笑みを浮かべた。
やはりそこにはグランバニアに対しての反感などは感じられない。
「グランバニアは僕の父の行いにより、エルヘブンの民からは敵視されているとばかり思っていました」
「確かに、一時はパパス殿とマーサの行いには怒りを感じていた事は確かな事実です。グランバニアの方達がそう思うのも無理はないでしょう。しかし私達は知ったのです」
「魔界の王が復活しようとしている事、マーサが魔の者の手に拐かされ、未だに囚われている事。パパス殿がマーサを助けようと尽力していた事」
「マーサを真摯に愛し続けた者やその国の民に対して怒ることなど、どうしてできましょうか」
「我らに出来る事は些細な事。この世界に立ち込める暗雲を振り払う事など叶いませんが、せめてその助けは惜しみなく行いましょう」
「ありがとうございます。まず尋ねたいのは母の力が魔族に狙われる事になったのは何故でしょうか?」
「それを語るにはまずこのエルヘブンの成り立ちから説明しなくてはなりません。……と、その前に」
長老が手を叩くと、奥から従者の女性が現れた。女性の手にした盆には人数分のお茶が用意されており、私達全員にそれを配ってくれた。
「長くなりますので、どうぞお茶でも飲みながらお聞きください」
さて。このエルヘブンの成り立ちですが、太古の昔神がこの世界を3つに分けました。1つは神やその眷属の住まう天空界、今の私達が暮らしている人間界、そして魔の者を封じ込めた暗黒世界。
私達エルヘブンの民はこの3界の門を管理する定めを神から任されました。その門を自在に開ける力はかつてのエルヘブンの民にありましたが今ではその力は僅かにしか残っておりません。唯1人を除いて。
そう、マーサの事です。
あの子はエルヘブンの祖と同等なほど桁外れな力を持っておりました。世界間の門を自在に開くだけではなく魔物に理性をもたらすことすら可能とし、魔法の力も卓越したものを持っていました。
それ故にあの子は魔族に狙われたのです。
魔族の王は、かつて神の怒りを買い、魔界の奥深くに封じ込められました。そしてその封印を破る方法の1つとしてマーサの力に目をつけました。
今も彼女は抵抗を続けているのでしょう。しかしそれも長くは持たないでしょう……。
「何故母が狙われたのかはわかりました。次に魔界にはどうすれば行けますか?」
「貴方達も通った海の洞窟にある神殿。あの神殿に3つの指輪を捧げなさい。1つは水の力を宿した指輪。1つは炎の力を宿した指輪。1つは命の力を宿した指輪。それらを捧げれば魔界への門は開かれます」
「指輪の内2つは既にあなた達が持っています。残る1つはマーサがかつて持っていたのですが、どこにあるかは……」
「光の教団の本拠地に行けば指輪の手がかりが何か掴めるでしょう」
「貴方達にこれを…………」
長老の1人がアベルにあるものを手渡した。それは長い絨毯のように見えた。
「それは魔法の絨毯。低い高度なら空を飛ぶ事ができます」
「また見た目とは別に、載せられる物の重さや数などに制限はないので旅の人数が増えても問題なく使うことができます」
「ありがとうございます。情報だけではなく、こんな便利なものまで」
「いえいえ、礼には及びません。どうか貴方達の旅に祝福があるように……」
このエルヘブンの地で私達の旅に光明が見えた。
それと同時に、私達の旅路には多くの人の想いが込められている。そう強く感じた。
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