剣を舞う男の娘
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5話
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三人称サイド
ヘルトは師匠の家にルビアたちと来て、その豪華さに目を疑ったり、警備と徘徊してるゴーレムたちにビックリしたり、内装の設備の良さに目を疑ったりと異常なことを体感して、驚きっぱなしだった4人。
学期末試験を終えて、魔法使いでもあるヘルト、ルビア、ヴェンデリンはお抱え魔法使いであるブランタークに夏休みの間、教えてもらうことになる。
なるのだが、王都にいる五男のエーリッヒから結婚式の招待を受けられた。ヘルトに至ってはヴェンデリンがヘルトの生存を教えて、ならば、是非といった感じで招待された。
なので、現在、ヘルトたちはヴェルたちと一緒に『魔導飛行船』に乗ってる。1人頭の運賃費用は金貨1枚という破格の金額。
一冒険者見習いじゃあ払えない額である。
金貨1枚。日本円で言うところの100万円に相当する額だ。なので、ルビアたちはヘルトが、イーナたちヴェルが立て替える形で乗ることにした。
この魔導飛行船は、過去に滅んだ古代魔法文明の遺産なのだそうだ。奇跡的にほぼ無傷で遺跡から発掘され、それを現代の魔法技術で運営をしている。
あと、何故か、ブランタークも保護者兼引率者として来ることになった。
目的は辺境伯の代理らしい。
とまあ、そんな感じである。
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ヘルトサイド
俺は今、ルビアたちと離れて、飛行船内をうろうろしてる。
うろうろしてる最中、不意になにかを感じとった。
(なんだ、身の毛がよだつ。禍々しい魔力は・・・)
ちょうど、飛行船内の廊下にいたヴェル兄がいたので話しかける。
「ヴェル兄! 今のって・・・」
「お前も感じたのか」
「うん」
俺はヴェル兄の質問に応えてると、
「おい、坊主共!!」
「ブランタークさん」
「やはり、お前たちも感じたか」
「ええ、禍々しい魔力の気配が・・・」
ヴェル兄が言ってる最中、俺はあの女神から授かった全てを見通せる眼を使って、飛行船の外に眼を向ける。
眼を向けたことで、おっかないものを視てしまった。
(なんだ、あの骨みたいな竜は・・・)
内心、驚いてる中、ヴェル兄は
「しかも、この大きさ人間の大きさじゃないですね」
「こいつぁ、人間でも野生動物でもない。ましてや普通の魔物でもないぞ。第一、この航路は、魔物の領域からは離れているんだからな」
「じゃあ、いったいなにが・・・」
「まさかとは思うけどよ・・・」
ブランタークさんはある可能性を口にしてると、急に魔導飛行船は急にその進路を変え、更にスピードを上げて逃走を開始していたからだ。
魔導飛行船は、内臓された巨大な魔晶石に込められた魔力をエネルギーに、見た目が蒸気機関のような機械と普通の船のように帆を用いた風力によって動いている。
この反応にブランタークさんは
「こりゃ、予感的中かもな」
言葉を漏らしたあと、
「坊主共! 俺についてこい」
「「はい!」」
俺とヴェル兄はブランタークさんについて行く。普段は関係者以外立ち入り禁止のブリッジの入り口に到着すれば、十数名の貴族や大商人らしき人達が入り口を警備する船員に抗議の声をあげていた。
「だから、どうして急に航路を変えた!」
「何があったのか説明しろ!」
「こんな、魔導機関の燃費を無視した速度! 何かが無いとおかしいじゃないか!」
「私の口からは、何も言えないんです・・・」
「では、船長を出せ!」
「説明くらいして当然じゃないか!」
業を煮やしてブリッジに押し入ろうとする彼らと、ブリッジの中から応援が出て来て数名でそれを阻止しようとする船員たち。これを視るに
「見事に有象無象だな」(-。-) ボソッ
「コラ、ヘルト!」
つまらないことをぼやいてると船員の1人がブランタークさんの姿を眼に入ると声をかけてくる。
「ブライヒレーダー辺境伯家の筆頭お抱え魔法使いでいらっしゃる、ブランターク・リングスタット様ですよね?」
「そうだが、それが?」
「船長から、相談したい件があると」
「わかった。事態が把握できないで不安なのはわかりますが、ここは私が代表して船長からお話を聞くという事で」
流石だな。俺は思った。この時は――。
「まあ、このままじゃ何もわからないしな」
「ブランターク殿に任せるとしよう」
高名な魔法使いは社会的にも地位が高いんだなと改めて知る。
「この子らは、俺の弟子だ。構わんな?」
「はい」
といった感じで、俺たちもブリッジに入った。ヴェル兄は何故といった顔をしてたけどな。
ブリッジに来たら、船長らしき人がブランタークさんを見て、
「わざわざすみません。船長のコムゾ・フルガです」
「副長のレオポルド・ベギムです」
「早速ですが、お呼び立てしたのは訳がありまして、実は・・・」
訳を話そうとした船長だが、俺たちは透明の半球ドーム越しのアレを見て、状況を無理矢理にでも理解させられる。
「――いや、言われなくても視りゃわかる」
「こ、これは・・・」
「・・・いったい」
俺たちが目にしてるのは、巨大な竜。しかも、骨だけの竜だ。
ブランタークさんも同じことを言う。
「ただの竜じゃないな。この船の幅とさして大きさが違わないじゃないか・・・」
更に性質の悪い事に、この竜にはもう一つの特徴が存在していた。それは、既にこの竜には皮膚や血肉の類が一切存在しておらず、つまり骨だけで動いている竜であったという事だ。
「『骨の竜』・・・」
「・・・厄介だな」
(さて、どうすれば良いか)
こんなときこそ、冷静に立ち返る俺。見たところ、アンデッド・・・つまり、死霊系の竜。だとすれば、聖属性の魔法でやらないといけないなと推察する。
俺もヴェル兄も聖属性の魔法は扱えるが、何しろ、タイプが違う。
ヴェル兄は典型的な遠距離型の魔法使いだが、俺は剣を用いた魔法剣士だし。離れた距離も中距離が限界だ。しかも、放出がちょっと難しいタイプだ。魔力消費に関しては前世の所為か。比較的にできる方だ。
船長とブランタークさんの話でブランタークさんは勝てないと言ってきた。流石に無策で突っ込むよりは勝てないと言った方がマシだ。
だけど、逃げ続けるのも無理だ。魔晶石の魔力にも限界があるし。補充する魔法使いがいないといずれは、墜落する。ジリ貧だな。
ここで、ブランタークさんが
「手が無いわけでもない」
「おおっ! それは、どんな手で?」
藁にも縋る気持ちで、船長たちはブランタークさんの回答を待つ。
「あの竜はアンデッドだ。ならば、『聖』の属性魔法で成仏させるのが良いだろう」
「なるほど。リングスタット様が、聖の魔法で成仏させるんですね」
「いや、俺は聖の魔法は使えん」
嫌な予感。
クルリと俺とヴェル兄を視るブランタークさん。それにつられて、船長さんたちも俺たちを視てくる。ジィ~ッと――。
ヴェル兄は今になって、
「お・・・ッ、俺ですか!?」
「やっぱり・・・」
「坊主たちしかいないだろうが」
ブランタークさん。当たり前のように言わないでください。ヴェル兄が反対してる中、俺はヴェル兄の肩を掴んで
「ヴェル兄。諦めよう」
「ヘルト!?」
「考えてみろ。このまま、王都に行くとしよう。あの竜もこの飛行船を追って付いてくる。王都で暴れられたら、エーリッヒ兄さんの結婚式がメチャクチャになる。下手したら、死人が出る。身内が亡くなってしまうなら、ここは腹をくくらないといけない気がする」
「ウグッ・・・それは・・・」
ヴェル兄も状況を理解して、ハアと溜息をついた。
「あと、一応、考えがあるから」
俺が告げ口で進言した。
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三人称サイド
船内では、船長からこの船が竜に追われているという事実が知らされたが、それに続けてこの船にはブランターク・リングスタット氏とその優秀な弟子たちが乗船してるということで船内は大きなパニックにならずにすんだ。
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ヘルトサイド
俺とヴェル兄が竜退治に向かう際、ルビアたちから励まされて、瓦全とやる気が出てきた。
そこで、俺はヴェル兄に俺が考えた策を伝える。
「ヴェル兄は『飛翔』して飛び出し、高密度の聖属性の魔法を放つ。俺はこの船の防御だ」
「へぇ~、そのわけは?」
「俺の魔法は剣や槍を纏う形でしか魔法を扱えない。遠くに放出はできても中距離まで。ヴェル兄は典型的な遠距離型で放出も俺とは段違い。だったら、俺が防御に回った方がヴェル兄の負担も減らせる」
「なるほど」
ブランタークさんはほぅ~ッと感心の息を吐き
「ヘルトもそうだが、アーヴリルも頭の回転が良かったよな」
口をぼかす。
ヴェル兄は俺の策に
「それって作戦って言えるのか?」
「細かいことは気にしない。それに考えてる暇がない」
「正しい認識だね。俺は、物凄く不幸ですけど・・・」
「まあ、生きて、一緒にエーリッヒ兄さんを祝おうよ」
「そうだな」
といった感じで竜退治が始まった。
ヴェル兄がアンデッドの竜と対峙してる中、俺は飛行船に『聖障壁』を展開した。しかも、飛行船を包み込むほどの障壁だ。
「へぇ~、この船を包むほどの『聖障壁』か・・・研鑽は怠っていないんだな」
「はい。普段は『魔法障壁』を張って、お昼をしていますから。それにしても、あのブレスをひとたまりもないな」
「そうだな。坊主も坊主で魔力を圧縮するのにちょっとばかし、時間がかかってるな」
「ここは、仕方ない」
とっておきの魔法を使うか。この魔法は慣れないうちは結構、繊細に扱わないといけないからな。
「『八ツ首防壁』」(-。-) ボソッ
「ん?」
俺がボソボソと呟いた魔法名。此奴は無詠唱でもできるが口にした方がイメージしやすいからだ。
俺が魔法名を詠唱した途端、『聖障壁』の一部を八体の蛇に変形し、操作する攻撃型の魔法だ。
障壁を蛇に変形し操作させるんだからな。それだけの相当なコントロールが必要になる。
だけど、そのおかげか・・・骨竜の意識が此方に向かれた。
「今だ、ヴェル兄」
俺は勝利を告げる言葉を飛ばす。
その後、ヴェル兄から放たれる聖属性の光。時間的に言えば、短いが、それでも、相当な魔力であることは確かだ。俺はヴェル兄が終えるまで『聖障壁』を消さなかったし。『八ツ首防壁』を維持しておいといた。
骨竜の活動が停止し、聖属性の光が収まってから数秒後、上空で竜の骨格図通りの形を保っていた骨であったが、次第にパーツ毎にバラけて地面へと落下し始める。
アンデッドとしての活動を停止した骨は、ただの無機物でしかない。重力に引かれて落ちるのは、当然の結末と言える結末だった。
「おーーーい、坊主! 骨を回収しろ! 勿体無いじゃねえか!」
ブランタークさんは、空中に浮いているヴェル兄に、バラけて地面へと落下しつつある骨を拾うようにと叫んでいた。
いくら伝説の古代竜の骨とはいえ、アンデッドの骨を素材として使うのはどうかと思ったのだが、俺が無事に聖の魔法で浄化したので問題は無いのであろう。
むしろ、使い道があるのかと思ってしまうぐらいにだ。
まあ、でも、ヴェル兄は素早く、地面に落ちる前に全ての骨の回収に成功する。こういう時には、やはり魔法の袋は便利だな。
あと、魔石か? 骨竜の魔石も回収して、戻ってきたヴェル兄。
ヴェル兄のパーティーメンバーから賞賛の声が飛び交う。俺も俺でヴェル兄とハイタッチする。
あと、ルビアたちも俺に抱きついてくるのは何故だ?
まあ、いいや。ブランタークさんも俺とヴェル兄の頭を髪をかき回しながら
「やっぱ、オメエらはアルとアーヴの弟子だな」
褒められたのだった。
その後、飛行船の一室でヴェル兄は魔石を取り出すと俺を含めて、歓声を上げた。
「凄くデカいな」
「でも、これが・・・竜の魔石」
様々な声が上がってる中、ブランタークさんは
「あの竜は、大きさからしても、伝説級の『古代竜』と視て間違いないな」
「竜でも、師匠のようにアンデッドするんですね」
「ああ、ただし、数万年の寿命を持つ古代竜に限ってはそうそうアンデッドにはならんもんだが・・・」
「――ってことは・・・」
「超々レアケースじゃん」
ルイーゼとシャオが言ったことに
「加えて、レアといえば、普通の竜なら魔物の領域から出ることはないが、古代竜クラスは出ちまうことがあるらしい」
ブランタークさんはそう言うも俺からしたら、
「悪運が良いのか悪いのか・・・だな、ヴェル兄」
「・・・だな。チビりそうになったよ」
「言えてる」
俺とヴェル兄は互いに苦笑じみた笑いを飛ばした。
飛行船が移動してる最中、魔石のことを評価してくれる人が知らないうちにいて、
「――ふむ。そうだねぇ・・・これだけ大きい魔石となるとかなりの価値になるよ」
呟いてるとブランタークさんはその人の名前を言う。
「アルテリオ。やはり、これが欲しいのか?」
この人はアルテリオさん。何でも、大商人で、ブランタークさんの知己らしい。
「私なら白金貨1200枚からスタートだな!」
「「「「「「「「そんなに!?」」」」」」」」
は、白金貨1200枚って日本円で言うところの1200億円!?
なんていう価格だ。
「やっぱり、そうか」
ブランタークさん。なに、ケロッとしてるんですか!?
1200億円ですよ。そんな大金、持ったときのことを想像して、背筋が凍ります。前世でもそれだけの金を持ったことがありません!!
「大体、この魔導飛行船は前に7000年の寿命を誇ったシナプス火山を住処とした老火竜の魔石を材料に作られている。大きさはこれの4分の1だったが、ロストテクノロジーである魔導飛行船を動かせるかどうかの瀬戸際だ。魔石はオークションにかけられ、王国の依頼を受けた政商が競り落としたのさ。その金額は、白金貨275枚だった」
白金貨275枚・・・日本円で言うところの275億円・・・ひぇえええええ――――ッ!?
あと、老火竜を討伐したのがブランタークさんとアルテリオさんとは驚いた。
ん? 待てよ、つまり、俺とヴェル兄は古代竜クラスの骨竜を討伐したことになるな。
だけど、ブランタークさんとアルテリオさんの話を聞くかぎり、オークションは行われないと言っていたな。
まさか!?
俺はブランタークさんとアルテリオさんのところに駆け寄り、答え合わせのために質問する。
「ブランタークさん」(-。-) ボソッ
「どうした、坊主?」(-。-) ボソッ
「これって、もしかして・・・国賓級ですか?」(-。-) ボソッ
ボソボソとだが、俺は2人が言ってる応えを言った。言ったら、アルテリオさんはアハハハッと苦笑を漏らした。これで応えになった。
俺はハアと息を吐き、頭を悩ませる。
(此奴は俺がしっかりしないといけないな)
という結論に至った。俺の心情を察してくれたのかアルテリオさんは苦笑いを浮かべていた。
それから、俺たちは殿様待遇で1日半過ごした。
王都に着いたら、ブランタークさんはキョロキョロと辺りを見渡してから
「じゃっ、俺はこれで。急ぎの用があるので」
先に船着場から出て行ってしまう。俺から視ても――
(逃げやがった)
本音を漏らしたくなる。
残された俺達が、エーリッヒ兄さんからの手紙に添付されていた地図を参考に彼の家への経路を話し合っていると、そこに煌びやかな鎧姿の騎士が従者と共に現れる。
見た感じ、相当な高位な人物だと理解できる。
「ヴェンデリン・フォン・ベンノ・バウマイスター殿――、ヘルト・シュバルツ・フォン・シェルマイス殿――」
「え?」
俺も? ヴェル兄だけじゃないの?
「陛下よりの言付けにございます。今回の古代竜退治の儀、ご苦労であったと。ついては、今より王城にて謁見を行うと――」
俺はヴェル兄に近寄り、
「ヴェル兄・・・」
「ヘルト・・・」
((なんで、俺たちは災難なんだ!!))
心の中で叫んだ。
そして、俺とヴェル兄は王家が用意した馬車に乗って、王宮へと向かった。
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後書き
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