ペルソナ3 ゆかりっちのパニックデート
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前編
前書き
ゆかり は、ペルソナシリーズの女子の中でも1番好きなんですが、世間的人気はイマイチのようです。ペルソナ3の時点では、一応メインヒロインなんですけどね。気が強すぎるところがダメなのかなあ。
ゆかり は「主人公の彼女キャラ」というより、むしろ「主人公キャラ」なのだと思っています。
特別課外活動部に入る経緯と桐条グループとの因縁。時に暴走もするけどまっすぐな性格。美鶴をひっぱたいて口説き落とすパワー。まさに主人公のキャラじゃないですか。
そんな ゆかり が主役になる話が見たくて、書いてみました。コメディ調ですが・・・
何を着ていこうか・・・。
もう既にかなりの時間、手持ちの服とにらみ合っている。
(あんまり気合を入れすぎるのもちょっとアレだし、かといって普段着ているような服っていうのも気を使わな過ぎな感じだし・・・)
理想を言えば、彼の前で着たことが無くて、過度に派手ではないものの目を引くところがあり、上品で かつ彼に新鮮な印象を与える服。
そんな服・・・あるわけがない。
いっそのこと新たに買いに行きたいくらいだけど、そんな時間も金銭的ゆとりもない。
もっとも彼はデート相手のファッションなど「どうでもいい」と言いかねない性格をしてはいるのだが、これはこちらの気持ちの問題だ。自分で納得できる服を身につけていれば、自信もつくし言動だって変わってくる。これはデートの成否に関わることだ。初デートに着る服は、女子にとっては戦闘服なのだ。
(あーあ、まいったなあ。これって少女漫画の「初デートあるある」そのまんまじゃない。)
ゆかり は改めてベットの上に並べられた服を眺めてため息をついた。
彼とは同じ寮に住んでいて、同じ学校に通っている。
当然、通学が一緒になる機会も無いわけではない。しかし、ゆかり は部活の朝練に出る関係で登校時間が早くて、普段は彼となかなか時間が合わない。試験期間中のように部活が無くて同じ時間帯に出るときは、風花も一緒になることが多いので、やはり二人だけになることはめずらしい。(順平はいつも遅刻ギリギリなので、大概見かけない。)
しかし、その日の朝は偶然にも彼と二人っきりになった。なんだかんだ言ってこれはレアな出来事なのだ。ゆかり の心は、このちょっとした幸運に浮き立った。
モノレールの窓から、朝日にきらめく海をいっしょに見つめていると、並んで立っているだけで胸が高鳴ってくる。毎朝見ている光景とはいえ、その朝は格別に美しい気さえした。
(まあ、車内は超満員だし、吊革につかまりながらというところもムードがないけどね。)
ゆかり は浮ついた気持ちを抑えて、彼に語りかけた。
「なんだか君を初めて月光館に案内したときのことを思い出すよね。」
彼は寡黙で決して目立つ性格をしているわけではない。それでも、ゆかり にはいつも強烈な印象を残す。
そもそも最初の出会いからしてインパクトが有り過ぎた。
「影時間」・・・深夜0時から1時間だけ存在する、特別な人間にしか体感することができない隠された時間。その影時間の中、彼は平然と寮に現れた。
整った無表情な顔、言葉数も少なく、影時間ということもあって妖しい雰囲気すら醸し出していた。
一方その時、ゆかり はレッグホルスターに銃型の召喚器を差した格好であった。事情を知らない人が見れば、「何こいつ、女ガンマン? それとも峰不二子?」といった珍妙なスタイルである。
彼は、それについてはまったくの無反応だった。それでも ゆかり は、彼を割り当てられた部屋に案内した後、(絶対に変な女だと思われた・・・)と一人で悶え苦しんだものだ。
実はその時点で、ゆかり はまだこの召喚器を使用したことが無かった。
銃型の召喚器を自分の頭に向けて引き金を引くと、脳に衝撃を与え、死をイメージさせることで、己の分身であるペルソナを呼び出すことができる。
説明を聞いてはいたが、いざという時までは恐ろしくて試してみることができなかった。そんな彼女の召喚器を先に使ったのも彼だった。
最初の大型シャドウに襲撃されたとき、ゆかり と彼は寮の屋上に追い詰められてしまった。そこで彼を守ろうとして召喚器を抜いたのだが、引き金を引くことに躊躇したことで、敵の攻撃受けて取り落としてしまった。
その時、それを拾った彼は、迷いなく自分の頭に向けて引き金を引いた。
そして、なんと大型シャドウを単身で撃破して見せたのだ。
しかも複数のペルソナを使うというチートなことまでやって見せて・・・。
それが負荷となったのか、その後しばらく彼は昏睡状態に陥り、病院に入院することとなった。
ゆかり は、守るはずの彼に逆に守られてしまったという申し訳なさと、自分に対する不甲斐なさから、責任を感じて毎日病院を訪れた。
理事長から「彼が10年前の事故で両親を亡くしている」という話も聞いた。自分も大好きだった父を10年前の事故で亡くしており、似たような身の上だ。
同情と共感。
申し訳ない気持ち、と感謝の気持ち。
あっさり召喚器を使いこなしたことに対する羨望と、自分も負けたくないという対抗心。
病室でその端正な寝顔を見守りながらも、心の中ではいろいろな感情が複雑に渦巻いて混とんとしていた。
思えばこのときから、彼のことを強烈に意識し始めていたのだ。
降りた駅の壁に、大きな映画のポスターが貼りだしてあった。
SF特撮パニックの超大作映画。何週間だったか連続で興行成績トップを続けている、今 話題の映画だ。
「あの映画、随分人気みたいね。風花が森山さんと観てきたって言ってた。すごく感動したんだって・・・。風花って、あんなに癒し系で可愛い感じの女の子なのに、こういう趣味は意外と男っぽいのよねえ。」
舞い上がっている為か、彼が無口な分、ついつい言葉数が多くなってしまう。自分があまり興味を持っていない映画の話まで口に出してしまった。
それを感じ取ったのか、
「岳羽はあっちの映画の方がいいんじゃないの?」
と、彼は興行成績を競い合っているCGアニメ映画のポスターを指さした。
「まあ、どっちもそれなりに面白そうだとは思うけど、テレビでやったときにでも観ればいいって感じかなあ。・・・実はそれよりも、他に気になっている映画があるんだよね。」
それは雑誌で紹介されていた恋愛サスペンス映画だった。
主人公の女性が、父親の事故死に疑問を持ち、真実を知るために父のいた勤め先に潜入する、といったストーリーらしい。なんだか自分の境遇と似ているところが興味を引いた。恋愛サスペンスというのも面白そうだ。評論家のつけていた評価点も悪くなかった。
しかし話題性に欠けたのか、メジャー映画と公開が重なったこともあって、目立たずにひっそりと上映されている。
「観てみたいんだけど上映館が少なくって、東京でも3、4箇所でしかやってないんだって。もう始まって何週間か経つし、そろそろ終わっちゃうんじゃないかな。ざーんねん。」
「まだやっているなら観てくればいいのに。」
話のネタくらいのつもりで言ってみただけっだったのだが、意外に彼の気を引いたようだ。
「うーん、そうだなあ。・・・一番近くても新宿かなあ。でも、わざわざ一人で映画だけ観に行くのもなんだかねー。」
「そう? じゃあその映画、つきあおうか?」
(えっ!?)
あっさり言った彼の言葉に ゆかり は固まった。
(何? えっ? 二人で新宿まで出て映画???・・・・ それってひょっとしてデートなんじゃないの?)
いきなり心拍数がはね上がる。
「あ、で・・・でも、興味ない映画に付き合ってもらうのも悪いような・・・。」
「興味はあるよ。岳羽が大ヒット映画より観たいってい言うんだから、なんだかそれも面白そうだ。」
「あっ、そ、そう? まあ、もうそろそろ終わりだと思うと、確かに観に行きたくなるよね~。たぶんマイナーな作品だからテレビとかでもやらないと思うし~。き、君がつきあってくれるっていうなら、足を延ばしてみてもいい・・・かな。」
焦って思わず早口になってしまった。。
(やばっ。汗が出ちゃう。赤面してないよね。)
「それじゃあ、次の土曜日だね。上映スケジュールを調べてみよう。タイトルを教えてくれる?」
ゆかり の気も知らず、彼は涼しい顔でそう言った。
こうして唐突に彼との初デートが決まったのだ。
ゆかり の父、岳羽詠一朗は桐条グループの研究所に勤めていた。優秀な研究員だったらしい。しかし10年前に研究所で起きた謎の爆発事故で、父は帰らぬ人となった。
父を失ってから母は変わってしまった。お嬢様育ちの母にとって、父の死は辛過ぎたのだろう。寂しさを紛らわせるために男をとっかえひっかえするようになってしまったのだ。
そんな母とうまくいくはずもなく、ゆかり は家を出て学校の寮に入った。温かい家庭は父の死とともに失われたのだ。
月光館学園を選んだのは、ここが桐条グループの運営する学校だからだった。父の死について何か知ることができるかもしれない、という淡い期待があった。
そんな彼女に転機が訪れる。
理事長の幾月から、特別課外活動部にスカウトされたのだ。
影時間、タルタロス、ペルソナ、シャドウ ・・・etc、突拍子もない話ばかりであったが、それは桐条の秘密に触れる大きなチャンスに思えた。父の事件は必ずこの秘密と関係がある、そんな予感がした。それは ゆかり にとって、人間の敵であるシャドウよりも重要なことだった。
メンバーの中心は、桐条家の一人娘である美鶴だった。桐条グループの秘密に近づくには格好の人物だ。しかし美鶴が厳格でスキの無い性格だったことに加えて、こちらに下心があることが引け目となり、二人の仲はなかなかしっくりいかず距離は縮まらなかった。
そんな時期に入ってきた新メンバーが彼だった。
初戦でその力を見せつけた彼は、理事長や先輩達の信頼も勝ち取り、いきなりリーダーとして抜擢された。順平は嫉妬してわめいたし、ゆかり も自分自身の力の無さが悔しかった。
それでも彼には、否と言わさないだけの実力があった。
第二の大型シャドウとの闘いをリードして、モノレール衝突事故を防いだ手際の良さ。
風花の救出作戦においては、第三・第四の大型シャドウとの戦いで ゆかり と美鶴がピンチに陥ったのだが、彼が駆けつけて助けてくれた。(まあ、真田さんと順平もいたけど・・・)
いつも「どうでもいい」なんて、やる気のないこと言ってるくせに、おいしいところは全部持って行ってしまう。
(大体、学期末のテストも学年トップだったし、完璧超人かっ・・・つーの。)
悔しい。悔しいけど、認めざるを得ない。
彼は凄い!
さて、調べてみると映画はまだ上映中だったのだが、3週目に入って1日1回のレイトショーのみとなっていた。
やはり新宿が最寄の上映館となる。
「どうする?」
彼の問いに「もし良かったらそれでも行きたい。」と答える。
こうなったら、このせっかくのチャンスを逃せるものか。
すかさず頭の中でデートスケジュールを組み立てる。
(上映は夜8時からだから、早めに劇場に行って、まずチケットを買い席を確保。それからどこか雰囲気のいい店で夕食を一緒に食べる。時間に余裕があれば、食事の前にショッピングとかもしたりして・・・。一緒に服を選んでもらうとか・・・。いろいろ試着してみせて、「これ似合うかな~」とか聞いてみたりして・・・)
(うーん、楽しそう!!!)
(あー・・・でも、もう今月はお財布がさみしい。やっぱり映画と夕食で打ち止めだー。)
(映画が終わるのは夜10時過ぎ・・・さすがに高校生だから、その後どこかに行くという可能性も無いか・・・。)
そういえば・・・と、彼と一緒にラブホテルに入った時の事を思い出す。
と言っても、二人っきりではなくてメンバー全員で、しかも大型シャドウ殲滅が目的だったのだが・・・。それでも初めてそういう雰囲気のホテルに足を踏み入れて、どうにも落ち着かない気分だった。
しかもその時は、シャドウの幻惑攻撃のせいで正気を失い、いつしか彼と個室で二人きりになってしまった。ゆかり はすっかりその気でシャワーを浴び、そしてバスタオル一枚の姿で彼の前に立ったのだ。本当にあわやというところで正気に返り、驚いて反射的に彼の顔を思いっきりぴっぱたいてしまった。
ほんっっっとーに、危ないところだった。
あの時、もしあそこで正気に戻らなかったら・・・いったいどうなってしまっていたんだろう・・・。
考えるだけで体が熱くなってくる。
いつか自分の意思で同じことをする日が来るのだろうか。
(それにしても、彼と出会ってからたかだか数カ月の間にイベントが多すぎでしょ。これって何フラグなの?)
イベントと言えば、何と言っても極めつけは屋久島旅行だ。
そこで美鶴の父、桐条グループ当主の桐条武治 氏から10年前の研究所爆発の映像を見せられた。
(そこには、お父さんが映っていた。自分の過ちでこの事態を引き起こしたと話していた。信じていたのに、全てはお父さんの責任だった。ずっと、ずっと信じていたのに・・・。)
ゆかり は抑えきれずに感情を爆発させ、やつあたりで美鶴をののしり、やけになって外に飛び出した。もう特別課外活動部には戻れないと思った。
しかし、そこに彼が追いかけてきて、彼女のどうしようもない感情を全て受け止めてくれたのだ。彼は「それでも信じないと駄目だ。」と言ってくれた。「信じる」・・・それはこれまでも ゆかり の唯一の心の支えだった。それが間違いではない、と彼は肯定してくれたのだ。
「あんな映像はそれこそどうでもいい。事実の一部分だけを切り取ったものでは、本当のことは何もわからないよ。だから、岳羽がお父さんを信じてあげなくてどうする。」
絶望の淵 ギリギリのところで彼の言葉救われた。あの時、心が折れてしまわずにいられたのは彼のおかげだ。
そして、ゆかり はもう彼から目が離せなくなってしまった。
いよいよ、デート当日。
一緒に出かけるところを誰かに見られたら気まずいので、時間をずらして寮を出て、巌戸台駅で待ち合わせることにした。
ゆかり はさんざん迷った挙句、最近あまり着ていなかった品のいいワンピースを身に着けた。少し大人しめだが清楚な印象があり、デート服としてはまずまずだろう。
朝から部屋で落ち着かない時間を過ごしていたが、ようやく出発の時刻となった。
「よーし、勝負だ!」
声に出して気合を入れ、勢いよく立ち上がる。
階段を1階に降りていくと、ロビーでアイギスがコロマルと何かを話していた。
最近は見慣れてきてしまったのだが、犬と会話するロボットって考えてみるとやっぱりシュールだ。
ゆかり に気づいたアイギスは、何が気になったのか、近づいてくる彼女の姿をじっと見つめている。そして目の前まで歩いてきたところで、「ゆかり さん、お出かけでありますか?」と尋ねてきた。
「うん、ちょっと出かけてくる。少し遅くなるかも・・・。」
さりげなくごまかすように言った ゆかり の言葉に、アイギスが小首をかしげる。そして真剣な表情で口を開いた。
「普段より鼓動が早いようです。表情も硬く、ただならぬ緊張感が見られます。コロマルさんも、大型シャドウとの決戦前のような雰囲気だと言っているであります。」
「ええっ!?」
ゆかり は仰天して声を上げた。
「決闘ならば、及ばずながら助太刀いたす、であります。」
「ななな、何を言ってるのカナ?あんたワ。」
思わず声が裏返る。さらに心拍数が上がり、顔が火照った。
「け、決闘なわけないでしょ。時代劇の見すぎなんじゃないの?」
しかし、アイギスは一向に表情を変えずに ゆかり の全身を見回している。
「ちょっと、アイギス? 」
「動きやすい服装ではないようであります。ヒールの高いサンダルはバランスも悪くなります。ジャージに運動靴がお勧めであります。武器を携帯されていないようですが、召喚器を取ってきましょうか?」
(ジャージと運動靴で、武器持ってデートって、どういうキャラなのよ、あたしは!!!)
ゆかり は心の中で思いっきりツッコミを入れた。
(・・・いやいや、ここでアイギスにとやかく言ってもしょうがないし・・・ともかく今はデートが最優先。)
一度深呼吸して頭を冷やしてから、びしっとアイギスを指さすと、
「今日は映画を観てくるだけ! 戦ったりしないの!! 余計な事はしないで留守番してなさいっ!!!」
と決めつけた。
それからくるりとアイギスに背を向け、憤然としてドアを開けた。
「また ゆかり さんに怒られてしまったであります。それにしてもあの緊張感、映画とは過酷なものなのでありますね。」
後ろでコロマルに話しかけるアイギスの声がする。
(つ、疲れた。なんかもう出かける前に疲れた・・・。)
思わず大きなため息が出た。
それでも、ともかく気を取り直し駅に向かう。
そわそわしながら改札近くで待っていると、10分ほど遅れて彼がやって来た。
「ごめん、待たせたね。」
「ううん、大丈夫。それより、1階にアイギスがいたでしょ。なんか言われなかった?」
ゆかり の問いに、彼は苦笑しながら「召喚器を持たされちゃった。」と答えた。
「ええーっ! 持ってきたの?」
「まあ、さすがに影時間までには戻れると思うけど、心配してくれてるみたいだったからね。」
(まったくもう! 余計な事をするなって言ったのに・・・。結局、武器持ってデートになっちゃったじゃない。)
ゆかり は頭を抱えて小さく唸った。
(なんだかスタートからつまずいた感じだけど、せっかくの初デートだし、ともかく切り替えて楽しまなきゃね。)
待望のデートは今まさに始まったのだ。つまらないことにとらわれている場合ではない。
新宿までは電車で30分程度。話をしていればあっという間だ。
車内はさほど混んではいなかったが、席は全て埋まっていた。
ドア近くに並んで立って「そういえばね・・・」と明るく話しかけたところで、「おう、坊主じゃねえか。」と低音でドスの利いた声がした。
ギョッとして目を向けると、異様に迫力のある強面のスキンヘッドがこちらに顔を向けて座っている。まるでギャングの親分のような面構えではあるが、よく見れば身に着けているのは黒い僧衣だった。
(え・・・まさか、お坊さん?)
理解に苦しんで彼に目をやると「こんなところで珍しいですね、無達さん。」と彼が声を返した。
「ちょっくら檀家さんにお呼ばれってわけよ。お前こそなんだ。デートかい?」
「ええ、まあ。新宿に映画でも観に行こうかと。」
呆気に取られる ゆかり を置いて、二人はしばし「高校生が来てはいけない夜のお店」だの「綺麗なお姉ちゃんにモテる」だのという理解不能の会話を続けた。もっとも、ほとんど一方的に謎の僧侶が話をしていて、彼は相槌を打っているだけであったのだが・・・。
二人の会話を「目が点」の状態で聞いていると、ふいに僧侶が ゆかり の方を見て
「しかしまあ、安心したよ、お前さんもちゃんと年相応の彼女がいるってわけだ。」と屈託なく笑った。
「いえ、別にそういうんじゃ・・・」
ゆかり は赤面して口をはさみかけたが、無達はおかまいなく「それで映画・・・どこで観るんだい?」と聞いてきた。
彼が映画館の名を告げる。
「あそこか・・・まあ、新宿じゃ一番大きなハコだし、洒落ててデートにはうってつけだな。」
それからごそごそと財布を取りだすと、中から1枚、何かのチケットのような紙切れを抜き出した。
「食事のサービス券だ。あそこのビルに入ってるイタめし屋も対象店舗になってるはずだ。良かったら使いな。」
「いいんですか。」
彼は受け取って券の裏表を確認した。
「どうせ貰いもんだ。無理に使わなくてもいいが、貧乏学生のデートの足しくらいにはなるなるだろ。」
「ありがとうございます。」
彼が頭を下げると無達はにやりと笑って立ち上がり、「それじゃな。遅くなっても悪さするんじゃねーぞ。」と言ってちょうど止まった駅で降りて行った。
ふたりは無言でそれを見送る。
ドアが閉まり、はっと気づけばもう次は新宿駅だった。
後書き
前半、終了です。
前書きの通り、ゆかりは主人公キャラだと思うので、P3をゆかりの立場から語ったら、また違った面白さがあると思うんですよね。そんな気持ちもあって前半はこれまでの背景・経緯にかなり割いてます。
後半はいよいよデート本番です。
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