星々の世界に生まれて~銀河英雄伝説異伝~
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揺籃編
第二話 卒業
宇宙暦788年3月27日 ハイネセン、ハイネセンポリス、自由惑星同盟軍下士官術科学校
「ヤマト、とうとうこの日が来ちまったな」
「ああ、そうだな。オットー」
「そういえば、マイクはどうした」
「講堂で彼女と話してたぞ」
確かに、とうとうこの日がやって来た。修業式、下士官術科学校とオサラバする日がやって来たのだ。
来賓祝辞は宇宙艦隊司令長官の代理ということでグリーンヒル少将が祝辞を読み上げてくれた。
今日は士官学校の卒業式も行われている。トリューニヒト国防委員やロボス中将などはそちらへ。こっちにはグリーンヒル少将と代議員のネグロポンティ氏が来賓として来ている。グリーンヒル少将はともかく、よりによってネグロポンティ氏とは…。
「……なのだ。士官、指揮官だけでは戦争は遂行出来ない。君達こそが軍の要でなのである。その事を肝に銘じて、これからの任務に邁進してもらいたい。改めて、修業おめでとう。これを以て祝辞とする」
『気ヲ付ケ!』
修業生が一斉に起立する。音楽隊の演奏が始まり、国歌が演奏され始めた…。
「…いいなあ。マイクのやつ、何人目の彼女だ?俺なんか一人も出来なかったのに」
「三…四人目か?…まあ、ヤマトならこれから何人でも彼女が出来るさ」
俺を慰めてくれているのはオットー・バルクマン。今ここには居ないが、マイクと呼ばれているマイケル・ダグラス。三年間で出来た、同期の中でも親友と呼べる二人だ。
卒業して最初の任地は、星系単位、基地単位にはなるが希望の場所が選べる事になっている。
同盟軍は大きい組織だ。修業したが最後、同期生一万五千八百十四名が一期一会ということも充分有り得るのだ。
ペア、グループを組んでもよし、個人でもよし、好きな任地を選ぶ事が出来る。
俺達は当然三人でグループを組んだ。個人なら本人が、グループなら代表者を決めて希望任地名を提出することになっている。が、重複多数の希望地は抽選になる。抽選に漏れたら、改めて第二希望、第三希望を提出するのだ。
「でもなあ…よりによって最初の任地がエル・ファシルとはね。狙った女は確実に落とすのに、クジ運は全くゼロだなマイケルは」
オットーはベレー帽をクシャクシャにしながら天を仰いだ。
「そうだね、第二希望も第三希望も外すなんて中々出来る事じゃないな」
確かに、天を仰ぐしかない。
銀英伝本編でも度々出てくるエル・ファシル…帝国側に進めば、そこはもうイゼルローン回廊だ。
うーん、死亡フラグが立っているな。ヤン・ウェンリーやらアーサー・リンチやら、そういう有名どころと絡まなくても、最前線だから戦死する確率はかなり高い。
そういえば、リンチやヤンはもうエル・ファシルにいるんだろうか?学校の宿舎は明後日まで使っていいことになっているし、それは学校の施設も同様だ。ちょっと調べてみようか。
「待たせたな!」
マイケルが走ってこちらにやってくる。このあとは打ち上げだ。
3月27日21:00 ハイネセン、ハイネセンポリス3番街、大長征(ザ・ロンゲスト・マーチ)、
マイケル・ダグラス
ヤマトは酔いつぶれてテーブルにつっ伏している。まあ…いつもの事だな。
ここは俺たちがよく通っているバーだ。本当かどうか知らないが、自由惑星同盟開闢以来の店なんだそうだ。同じ分隊の奴等との打ち上げが終わって、今は三人で二次会だ。
「エル・ファシルって、どんな所なんだろうな」
オットーが呟く。
「田舎…ではないな。でもハイネセンに比べたら…まあ田舎だな」
「お前、行ったことがあるのか?マイク」
「ああ。一年の時、付き合ってた彼女の出身がエル・ファシルだったんだ。休暇で一緒に行ってきたんだよ」
「一年の時?…お前、あれって伯父が危篤で休暇を延長したんじゃなかったのか?」
「あ。…そういえば、そうだったな」
「よくバレなかったな」
「実際に伯父は危篤だったんだよ。伯父は商用でエル・ファシルに行ってたんだが、痔が悪化してさ。動けないんだぜ?危篤には違いないだろ?」
「…そりゃ危篤だな…」
そう言ってオットーはマッカランを一気に煽った。
「まあ、口裏は合わせてもらったし、バレるわけないよ」
合わせるように俺もグラスを空ける。オットーのやつ、酒強いんだよな。なんでモテないんだろう?
「そんなことはどうでもいいんだよ。…エル・ファシル星系警備隊。艦艇二千隻、基地隊三万五千か…」
「お前とヤマトは戦艦に乗るんだったよな」
「ああ。マイクはどうだったっけか」
「俺はまだ分からんのよ。陸戦隊には変わりないけど、艦隊付か基地隊付か」
「一緒にしてもらおうぜ。どうせなら艦隊の方がいいだろう?乗組手当もつくし」
「え?俺は根拠地付の方がいいんだが…」
俺がそう言うと、オットーが睨んできた。
「どうせ、女を口説く為だろ?」
「あれ、分かっちゃった?ハハハ…ていうか、ヤマトの奴、大丈夫か?全然起きないけど」
ヤマトを揺すって起こそうとしたとき、入口のドアが開いた。
「おお、此処に居たのか。いやいや、探した探した」
そう言って声をかけて来たのは航法科教官室のフィールズ中尉だ。
「中尉殿、何かありましたか?」
「そう畏まるなよ、お前等はもう修業したんだからな。学校じゃないんだ、殿はいらんよ」
「はあ。…では中尉、何かご用でも?」
フィールズ中尉はニヤニヤしている。
「ダグラス兵曹、お前じゃないんだ、ウィンチェスター兵曹に用事がある。おい、居たぞ、入ってこい」
中尉は開いたままのドアの外に向かって声をかけた。
3月28日01:00 ハイネセン、ハイネセンポリス、自由惑星同盟軍下士官術科学校 第五兵舎402号室
ヤマト・ウィンチェスター
ふわっ!?
真っ暗だ、ここはどこだ?…あれ、これは俺のベッドじゃないか。
酔っぱらってまた寝ちまったのか…まったく、彼奴らと飲むといつもこうなるんだよなあ。部屋まで運んでくれるだけ有難いけど。
まあいい、今日はこのまま寝よう…って、あれ、ソファーで寝てるのは誰だ?
「おい、オットーか?マイクか?」
部屋の灯りを点けると、ソファーには一人の女性が毛布にくるまっている。…誰!?
「あ…ああっ!すみません!私寝ちゃってました!」
女性は飛び起きて平謝りしている…。
「いや、寝てるのは構わないけどさ、何方です?」
「失礼しました!一年のエリカ・キンスキー兵長であります!」
エリカ・キンスキー…ああ、見たことあるな。マイクが口説いたら泣き出した子だ。そうだ、ハンカチ貸してたのを思い出した。返しに来たのかな?…それはないか。
「キンスキー兵長、それで、こんな夜更けに何か用かい?」
「そ、それはっ…」
キンスキー兵長は赤くなって俯いて黙ってしまった。
「あのっ、修業おめでとうございますっ!それで、その…その、ウィンチェスター兵曹の事が大好きです!」
「…ありがとう。嬉しいよ。でも、俺、エル・ファシルに赴任するんだけど…」
「いいんです!私、待ってます!それで…その」
キンスキー兵長はこれまで以上に真っ赤になってしまった。ここから先を女の子に言わせるのは男じゃないよな。
「…いいのかい?俺今すごく酒くさいけど」
「は、はい!構いませんっ!…でもあの、優しくお願いします、ね」
後書き
宇宙暦-1568年3月22日
原作の方々の階級がおかしかったので、修正しました。
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