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其の参 鏡の世界
第二十一話 ハジメテ
「え?」と思わず元宮は聞き返す。
『禁忌』というものの存在があること、そして何よりこの規則だけは守りそうな四番目が禁忌を犯したということ。
それが不思議で仕方なかった。
「……ほ、本当に君は関係ないから……安心してくれ」
「でも鬼神様、僕の前で腕を隠してますよね。それ、嘘ですよね?」
四番目はスーッと元宮から目を逸らす。その仕草で、簡単に嘘をついているのだと理解する。
嘘をついているのだとわかる理由としては、他にも謎に冷や汗をかいていたり、少し体が震えていたりすることからわかる。
「嘘なんですね。僕がシオンさんを助けたいって言った時くらい、ですよね。その時からずっと腕を後ろに組んでましたから」
「……ほ、本当に違うから‼︎」
「鬼神様‼︎」
声を荒げた元宮に、四番目はびくりと肩を震わせて反応する。
普段なら絶対にそんな反応を見せないあたり、今の四番目は異常だ。
元宮は四番目を抱き締めると、耳元で問うた。
「お願いします、話してください……ちゃんと話してくれないと、わからないんです」
真摯な姿勢が効いたのか、強張っていた四番目の体から力が抜ける。ようやく元宮を認めて、話す気になったようだ。
元宮がその様子にホッとして大きく息を吐くと、四番目は小さく、小さく言った。
「……そ、その……君が初めて、だから……優しく、して……ください」
その台詞を聞いて我に返ったのか、元宮は四番目を引き剥がす。そして咄嗟に壁にぶつかるくらい後ろと下がった。
「き、鬼神様⁉︎ 何を言ってるんですか、えっ⁉︎ ご、ごめんなさい‼︎」
「わ、私は殿方に……そ、その抱き締められたり、とか……顔を近付けられたり、したこと……ないから……優しく、って」
「そ、それはごめんなさい‼︎ こんなのが初めてを奪っちゃって、本当にすみませんでした‼︎‼︎」
「別にいいから! だって、いつかは……そーいう関係になるんでしょ?」
今度は元宮が顔を真っ赤にさせる。
先程まで優勢だったのに、一言で押し負けてしまっている。
だが、それでいい。それがいつもの四番目だ。
そして、照れながらも「馬鹿にしないでください」と言おうとしたその瞬間。
———ぐらりと外の方に四番目の体が傾いた。
「……危ないっ‼︎」
手を伸ばしながら元宮が窓へ駆ける。
だが、窓の外へと引っ張られるように出た四番目の体に手を伸ばすが、伸ばした指先は空をきる。
そこで元宮も外へ飛び出し、四番目の体を引き戻そうと腕を伸ばす。
反射的に四番目も手を伸ばし、二人は手を握るが———
「……え?」
元宮は足に纏わりつく違和感に気付き、嫌な予感を感じながらも足を見る。
そこにはドス黒い血の色をした何かの手が、離さないと言わんばかりにしっかりと掴んでいて。
しかもその手は下から、つまり地面の方から伸びているときた。
ここは校舎の三階。地面までは、頭から落ちれば確実に死ぬ高さがある。
そこから、足を吊すように掴まれながら落下させられているので、四番目と共に頭からのフルダイブ。
脳裏に浮かぶのは、“死”のみ。
「「———う、うわぁぁああああああああああ‼︎‼︎」」
綺麗な“満月”の下、二人は地面へ向けて落下していた。
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